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インフィニティ・ギア  作者: 雨乃時雨
第三部
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第104話 椿に蝶は止まる

ゼフィルスのギアが春斗によって抜き取られる。

やがて、春斗の右腕から大量の赫蝶が飛び出し、赫蝶が埋め込まれたギアを中心に形を成していく。

足、腰、胴、手、腕…そして頭と。

かつて犠牲になり、蝶となってしまった少女が人としての身体を取り戻し…返り咲こうとしていた。


「…引っ張り上げて、正解だったな」


右腕から赤い閃光が完全に消えた事を確認した春斗は座り込みながら、上を見上げて少女の帰りを待った。

白いワンピースのようなものを着て、血が廻ったつややかな綺麗な肌色、黒いロングヘアーに毛先が赤いメッシュの少女が…今。


――目覚めた。


「――おはようございます、春斗」


春斗の返事は既に決まっていた。


「あぁ、おはよう。それと二つの意味でお帰り、椿」


椿の笑顔に対して小さく春斗は微笑み、椿が蝶から人に戻ったことと消えていたがもう一度、会えたことという二つの意味で帰還を歓迎した。


「ここは?」

「IGD学園の地下区画、赫蝶が俺をここに導いたんだよ。そしたらゼフィルスがいて、中にあった赫蝶が埋め込まれたギアに触れたら…ってことだ」

「まさか、本当に人に戻れるなんて…」

「奇跡だな」

「…いいえ、これは奇跡じゃありませんよ」


そういいながら椿は座り込み、春斗の右手を握った。


「春斗のお陰です、本当に…ありがとうございます」

「あぁ。だが、今はそんなお礼を言えるような状況じゃないんだよな」

「何が起きたんですか?あ…」


椿は春斗の右腕を見た。

いや、見てしまった。


「これってハイエンドの…しかも春斗の目元にヒビ?本当に何が…?」

「ちょっと時間がないからかなり大雑把に話すぞ」


そうして春斗は椿に事の経緯を大雑把に話した。

蘇生されたこと、ハイエンドの仲間になったこと、元凶がやはり青葉ではなかったという事。

そして、今の作戦状況を話した。


「そ、そんなことが!?」

「多分、青葉は失敗すると思う。だから椿に行ってほしいんだ」

「勿論、助けに行く気満々ですけど…春斗?」

「うん?」

「何故ヒビが?」

「あー…」


春斗は答えづらそうな顔をしたが椿の少し悲しそうな顔を見て言った。


「先に行っておくけど椿のせいじゃないからな、俺の…何だ?賭けというか」

「賭けですか?」

「そう、賭け。まぁ死ぬ可能性はあったけど生きてるし」

「春斗はまた無茶を…!」


何かを察した椿は春斗に対してほんの少しだけ怒りの感情を露わにする。

春斗と共に戦場に赴き、彼の無茶に一番付き合った者だからこそ、察することが出来たのだろう。

また春斗は自分を犠牲に何かをしたと。


「な、何故怒る!?」

「もう少し自分に優しくしてもいいと思いますが?」

「め、滅相もございません…」


椿からの圧力を感じ、しゅんとなる春斗。


「…理由を」

「悪いがそれは言えない。それと本当に時間がないんだ」

「はぐらかされた気がしますが、分かりました」

「とにかく今は青葉の方を…って武装もなければ抵抗できる手段もないか」

「ありますよ」


そういいながら椿は停止しているゼフィルスに手を伸ばす。

すると…ゼフィルスは粒子化して椿の右手に集まり、黒と赤色のブレスレットになった。


「え、えぇ!?」

「ゼフィルスは私の専用機になりました」

「ど、どういう原理で…!?」

「ゼフィルスのギアを用いて私を戻したからだと思いますよ?」

「…絶妙に納得できるけど、なんか腑に落ちねぇ」


ゼフィルスのギアを用いた蘇生だから、椿はゼフィルスも使える…と春斗は考えたが妙に腑に落ちない表情をしていた。


「ではゼフィルス…いえAG『ブラッド・ティターニア』起動」


椿の周りを粒子が包み込み、足先から上の方へと装甲を展開させていく。

色褪せたベージュ色の装甲は黒色と赤色の装甲へと様変わりし、背中に付けられていた蝶の羽のようなジェット機構はより大きくなり、羽の中に10連のビットが収納されていた。

そして…椿自身の手にはあの日、敵として春斗を貫いた『ディザスター』と、大型化された赫蝶の魔剣『レヴァンティン』が握られていた。


「ブラッド…ティターニア」


一見、禍々しく見えるが春斗は少し嬉しい気持ちになっていた。


(青葉のアジダハーカと似ている。姉妹だからか?だが、カッコいいし何より赫蝶を知っているからこそのイメージっていうのもあるな)


姉妹らしさを少し感じつつ、椿の握る魔剣を見る。

今まで春斗が握っていた魔剣とほぼ同じだが、巻きついていた鎖がなく、椿の華と彼岸花が魔剣のいたるところで咲いている。

これが本来の魔剣であると春斗は理解しつつ、これが本当の魔剣の姿なんだなとしみじみに感じた。


「では春斗、私と一緒にここを出ましょう。そして青葉を」

「…悪いがここで置いていってくれ」


椿が春斗を連れてこの区画から出ようとしたが、春斗は置いて行けと言い放った。


「何故…ですか?」

「俺が避難区画に向かうわけにはいかない、というより行けないんだ」

「どういう事ですか?」


すると春斗はビジョンシステムでタイマーを見せた。

画面には『0』と表示されている。


「俺が…自由に動ける時間が終わった。ここから先は俺は自由に動けない」

「自由に?」

「俺とmotherの約束、というより作戦か」


時は遡る。

IGD学園襲撃作戦及び元凶の暗殺計画の作戦を練っているときに話されたこと。


『春斗、よろしいですか?』

「うん?」

『この襲撃作戦、何が何でも春斗には自由に動いて貰わないといけないのですが、元凶からアンノウンにも発信装置などを付けろと』

「…マジか、そうなると」

『そこで私のファイアウォールを元にしたプログラムをインストールします。よろしいですね?』

「勿論いいぞ」


一定時間元凶への通知を全てシャットアウトすることが出来るプログラムがアンノウンの中にインストールされた。

一定時間は10分間。その10分間の間だけは元凶に代わりの音声と代わりの位置情報が送られる。その間だけは春斗は自由に動くことが出来る。

だが…地下区画に入った辺りで10分過ぎてしまい、アンノウンを装着し続けてしまうと元凶にアンノウンが地下区画にいるとバレてしまうので待機状態にして生身のまま向かったという。


「なら…生身で」

「流石に今の俺の身体じゃ太刀打ちできないし、確実に足を引っ張る事になる。なら置いていった方が都合がいい」

「でも…」


椿は下がらない。


「椿」

「…はい」

「自分の手で青葉を救え。俺じゃ成し遂げられなかった約束を自分で叶えに行け」

「…うん…!」

「ま、まぁ…約束を守れなかった俺が悪いんだがな」

「そこは言わなくていいのでは…?」

「いや実際に約束を叶えられなかったわけだしな」


やや苦笑いする春斗。

すると


「――いえ、春斗は私との約束を叶えてくれました」


椿はAGに乗り込みながら膝をついて春斗の目線に合わせて言う。


「へ?これ以上約束をした覚えはないが…?」

「赫蝶という存在は完全に消えました、もう赫蝶という『兵器』は二度と創られませんから」

「存在って…でも椿は」

「はい、未だ赫蝶の力は使えます。ですが春斗、気が付いてますか?」

「何をだ?」

「私が宿主無しで単独で行動できるようになったという意味を」

「…?」

「分かっていないようなので1つ、ヒントを…赫蝶はもうこの世界に『一匹も存在しません』、完全に私が帰ってきましたから」

「あっ!?」


そこで春斗は気が付いた。

椿が単独で行動できるようになったお陰で生まれた意味を。

もう赫蝶はこの世に一匹も居ないので『兵器』にはならない。

『兵器』としての赫蝶は存在しない。

つまり…春斗と同じような状態だが人間に近しい存在となった。

何より椿を初めて受け入れたときは赫蝶は兵器である自分に対して涙を流した。

兵器では無くなった赫蝶は泣く必要はない。

兵器として運用されることもない。

何せ、赫蝶は椿となり蘇ったのだから。

そして春斗と同じように自分の意思で行動できるようになった、まるで『人』のように。


「そうか…!あれ?でも俺は椿とそんな約束をした覚えがないんだが…」

「春斗が覚えてないのは当たり前です。ですがこれは私にとっては大切な約束ですから、私を受け入れた心優しき青年との繋がり…ある意味契約のようなものですけど」

「…もう椿が赫蝶として兵器運用されなくなるのはいいことだな」

「私もそう思います」

「…ってこんな話をしてる場合じゃないぞ?」

「そうですね…!」


椿とブラッド・ティターニアは立ち上がり、足と羽に付けられたジェットに出力をチャージする。


「では春斗、行ってきます。青葉を助けてまた迎えに来ますね?」

「あぁ。てかAGの操縦は大丈夫なのか?」

「それは私がどれくらいの期間、春斗と一緒に居たのかを分かっている上での発言ですか?」

「…それもそうだな、俺の相棒だし出来て当然か」

「春斗」

「うん?」


――本当に、ありがとう。


「礼には及ばない。行ってこい!椿ッ!!」

「はい!」


椿とティターニアは飛ぶ。

愛する妹の為、かつて守れなかった妹の為。

そして、相棒を迎えに来るために。


「―――」


見送った青年は自分の右腕を見る。

そこには赤い模様と脈動はなく、ただのヒビの模様があった。

全ての赫蝶は椿に戻ったのだと春斗は感じる。


「ふぅ…」


床に大の字で仰向けに倒れる。


「赫蝶はもう俺の中には一匹も居ない」


今度は左腕を見る。

緑色の閃光、黒い装甲の義手があった。


「…」


両の腕を見た後、春斗は天井を見上げる。

そこには淡い光で光る電気があった。


「…迎えに来る頃には、俺はもう消えてるかもな」


◇◇◇


まだわからない、なんて言ってやりたいが。


「流石にこれは無理だな」


消えゆく意識、徐々に肉体が消えていく感覚が全身へ巡っていく。

結局…ダメだった。

俺はbutterflyを飲んだ。子供たちの成れの果てと悲壮を飲み込んだ。

全ては元凶に返すために。

だが…俺は負けてしまった。

因果や運命に負け、子供たちと同じ末路をたどる。

灰燼に、帰す。


「ははっ…はぁ…」


もう乾いた笑いしか出てこねぇよ。

嘘を付き、無茶をし、挙句の果てには約束も守れない。

俺は何になりたかったんだよ。

昔の俺は何を学んだんだ?

勝ち方か?命の落とし方か?命を落とせば、ハイエンドを救えると思ったのか?

…馬鹿かよ。


「守れずじまいじゃねぇか…!!」


力なく右の拳を地面にたたきつける。


「そんな奴だから失望するんだよ…」


天井に吊るされる淡い光が徐々に見えなくなってきている。

守る護ると言って結局守れず、一人で死ぬ。

まだ人に近かったキャッスルの時の俺は自分なりに皆を守って死んだが、一人ではなかった。

化け物になった俺は青葉を救い出そうとしても救えず、この空間で一人で死ぬ。

…何も学ばなかったのは俺の方だ。


「すまねぇ…青葉、椿、みんな」


視界はほぼ真っ暗になり、淡い光も見えなくなった。


(一人…だ)


俺は…一人で暗黒の中へ落ちていった。

誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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