第103話 冬を越え、春と共に
「はぁっ…はぁっ…!」
アンノウンを待機状態にし、薄暗い通路を俺は息を切らしながら壁に寄りかかりながら歩み続ける。
「何でこんなもん…作って…世に放ったんだよ…!」
元凶を恨みながら進む。
元は…いや元はというより椿と青葉は元凶の実の娘なんだろ?
実の娘すら兵器運用するとか、何考えてんだ。
しかも…椿は泣いたんだぞ?記憶がなくても兵器である自分が嫌で。
何故butterflyを作った!何故それで実験した!それで数多の犠牲を生んでもなお、何故進み続ける!?
…人の命は、運命は、人生はその人の物なんだ。誰かが自由勝手に干渉していい物じゃない。
それを奪っておいて…未来の為だと?
「ふざけるのも大概にしろよ…ッ!」
俺はあの時、motherに聞かされた元凶の計画の内容を思い出す。
『完全な人類…?』
『はい。変革の終着点、それは選ばれし完全な人類たちのみで新しい世界を作り出し、その世界の科学者として世界を導くと』
『可能…なのか?』
『何も言えません』
『…じゃあ、何なんだ?元凶は何のためにこんなことを…』
『新しい未来の為だと。AGやギアに頼り切ったこんな世の中は必要ない、だから新しい人類を作り出し、完全な世界を作る――というわけです、理解出来ましたか?』
あまりにも無茶苦茶すぎる変革だ。
変革の説明を受けたときはbutterflyという代物の危険性と完全な人類を作り出す手法を知らなかったからこそ理解できなかったが、今なら理解できる。
俺の反応は正しかった、と。
椿や青葉だけじゃない、俺が生まれる前からずっと…犠牲者は増え続けていた。
それでもなお、生まれた答えに近いモノは『適合者』が居るというだけ。
しかも100%に近いというわけではなく、やっと半分を越えただけだ。
…何故そんなくだらないことに命を湯水のように使われなきゃならないんだ。
椿が、青葉が、子供たちが、犠牲者が何をしたッ!!
俺の中に宿るbutterflyになってしまった子供たちの感情を汲み取ると…どこもかしこも悲しい感情しかない。
逃げられない痛み、会えない家族や友人、逃げ場のない空間で一人っきり。
…理不尽にもほどがあるだろう!
「がはっ…チッ…!」
咳を口で抑える。
手のひらには、血が付いていた。
急げ俺…!
(…)
元凶たちの夢物語に付き合う気はない…!
叶えられる夢なら叶えればいい、叶えたい夢なら叶えればいい。
だが、人を巻き込む夢なんぞロクなモノじゃねぇ…巻き込まれた人が不憫すぎる。
…元凶には俺の親を見て、学んでほしい。
俺の親は…世界を思ってインフィニティ・ギアを作り出し、世界を守るためにアーマー・ギアを作り出した。
それに…血のつながった子を実験のモルモットにする、なんて奇行には走らなかった。
犠牲の無い完璧な発明のおかげで今の世界が保たれているんだ。
平和な世界が遠くても…見えていたんだ。
なのに…!なぜ邪魔をする!平和でいいじゃないか!
完全な人類になったところで何を望む!?
不老不死か!?何でも叶えられる力か!?己の欲望を満たす為か!?
そんな世界の結末なんぞ分かり切っている。
人間だから…いや、元人間だから分かる。起きるのは…『衝突』だ。
今の世界には『掟』が存在する。『掟』が存在するから、ある程度は悪事を抑えられているんだ。
その枷を外せば、確かに自由になれるのかもしれない。
だが…自由の元、人と人との衝突は何を生むかわかり切ってるだろう。
――『戦争』だ。
平和なんてものが霞むくらいの戦争が起きるに決まってる!
それに…選ばれなかったから死ね、なんてあまりにも酷だ。
「…はぁ…は…ぁ」
選ばれなくとも…生きる価値はあるんだ。
それを…その価値を奪っていい権利もない。
だから…!
「その…価値を奪い返すんだ…!俺が…代わりに…ッ!!」
赫蝶が目指していた区画に何とかたどり着いた。
そこに鎮座していたのは。
「ゼフィルス…?」
破られた壁の近くでゼフィルスは座り込んだまま、そこにいた。
俺が初めて戦ったときと何一つ変わらない。
…何故、赫蝶はここを目指したんだ?
俺は…ゼフィルスには乗れない。今は何も乗っていないが、元は試験用のAIのパイロットが乗せられていた。
そのAIパイロットは俺たちとの戦いで完全に破壊されたが…何故ここに?
「…ん?」
今、気が付いた。
俺が貫いた部位、その辺りは記憶がないが…心臓部に大きな穴が開いており、そこには赫蝶が入ったギアがあった。
「御影先生の言っていたギアはこれか…」
多分、赫蝶はこのギアの中にいる仲間を何とかして欲しいと思って俺を導いたのか。
…何をすればいいんだ。
ギアを破壊して中から赫蝶を取り出す位の力は俺の中に残ってない。
打つ手がないぞ。
「赫蝶の仕組みで…何か出来ることはあったか?」
途切れかけつつある意識を何とか繋ぎとめて、ゼフィルスに身体を預けながら記憶を掘り返す。
赫蝶は無限の吸収量を持つ。
俺だけなのかもしれないが赫蝶を使った武装の複製、身体の治療、そして黒龍…いや俺の肉体に赫蝶を纏わせる事も出来た。
…赫蝶の機能としてはこれくらいか。
だが、複製は自分の意思というより椿のお陰でもあった。
俺の記憶の中の武装を複製してもらっていたからな。
椿がいない今はそんなことはできない。つまり武装での破壊は不可能というわけだ。
「…無理か」
薄暗い光を見つめる。
何もできない。せめてもう少し身体が回復しきっていたらな。
まぁ…この身体じゃ無理か。
このまま塵となるかもしれない。適合できているかどうかすらもわからないままだ。
俺の身体が…うん?
「身体…!」
ふと、思いだした。
…motherはbutterflyの適合者の人体を蝶にしたり、蝶から人体に戻したりすることが出来ると。
そして…今の俺の身体の中には8000を越える赫蝶が確実にいる。
もしかしたら人体を維持できる9000に届いている可能性も十分にある。
「椿…」
右腕を見る。
今もなお、赤く脈動している椿との繋がり。
拳を握り、その拳を額に当てる。
「…聞こえているか分からないが、聞いてくれ」
椿がこの話を聞いていると信じて俺は語りだす。
「青葉を助けるという約束を椿に預けたい。自分勝手だし、約束をしたのにその約束を人に預けるっていうのもどうなのかもしれないが…俺はこんな身体だ、もたないと見ていい」
元は椿の約束を守るために動いていたが、もう無理だ。
弱音も吐きたくなるくらい限界が近い。
「…」
椿の過去も青葉の過去も知っている。
二人ともお互いを救えなかったと言っていた。
なら…払拭の手伝いを俺にさせてくれ。
本来なら俺も一緒に戦いたかったけどな。
「力がなければ救えるものも救えない、なんて自分自身に言いたいよ」
力なく乾いた笑いが口から洩れる。
「だから、力がないやつなりに…!」
俺は全身に何度目かの最後の力をふり絞り、立ち上がる。
「力がないやつなりの…行動を見せてやる…!」
右手を開き、ゼフィルスの心臓部にあるコアを右手で握りしめる。
「帰ってこい…椿ッ!!」
そうつぶやいた瞬間、俺の脈動していた右腕から赤い閃光が漏れ始めて周囲を包み込む。
「くっ…!?」
ーーー
赤い閃光が消えていき眼を開けていく。
そこは…。
「花畑…!!」
赤い彼岸花の花畑。
俺が…椿と一緒に居た場所だ。だがいつもと様子が違う。
赫蝶は一匹も居らず、膝辺りまで水が張り巡らされていた。
「椿!何処だ!」
水に浸された赤い彼岸花をかき分け、周囲を見渡す。
居る…!何処かに椿がいるはずなんだ!
俺の中の本能が、椿とのつながりがここにいると叫んでいる。
絶対に居るはずなんだ!
「ッ!!」
かき分けながら前へ前へ進んでいると、湖のような場所のひと際深い水中に椿が目を閉じたまま、漂っていた。
俺はためらわず、水の中に飛び込む。
(椿…!!)
救い出すために必死に腕と足を動かし、下へ下へと潜る。
すると
(!!)
深く潜っていく度に俺の身体にヒビが入り始める。
椿に近づくたびに左手の指先から肩、胸部、足、全身へとヒビが張り巡らされていく。
(…右手は生きてる!)
完全にヒビが入り切っていない右腕を全力で伸ばす。
俺の手で、椿とのつながりを持つこの右腕で…。
(椿を救い出せ!!)
俺は限界まで右手を伸ばした。
――ガシッ!!
俺が伸ばした手は椿の右手首を完全に掴んだ。
(来た…!)
水中で掴み、そのまま俺の右肩に乗せて上へと昇る。
右腕以外顔をゆがめるほどの激痛が走るが知ったことか。
それ以上の苦しみを…椿は味わってんだよ。
相棒が、こんなところで止まる分けねぇだろうがぁぁぁぁぁ!!
「――ッぷはぁッ!!」
◆◆◆
漂う。
ただ一人で空虚な水の中を。
(…春斗)
私を受け入れてくれた、私の相棒。
そしていつの間にか、目で追ってしまうようになってしまった青年の名前。
…もう一度会うために、もう一度力になるために赫蝶を使い身体や意識を取り戻そうとしたが、結局完全に戻り切らなかった。
生成できるエネルギーには限界があったから。
(…一人)
もう目も開ける必要もない。
この景色にはもう飽きてしまった。
…ずっとこのままなのかもしれない。
(春斗は…青葉を救ってくれたでしょうか)
春斗は何が何でも約束を守るくらい人情に長けている。
わざとやっているのか分からないくらい春斗は人の心の中をかき乱してくる。
一度だけ救えなかった過去を持ちながら、二度と失わない為に春斗は立ち上がる。
(私の為にも頑張ってくれましたよね…)
それに…自分自身が弱かったからだと言い私に謝り、死んでしまった。
(…もし天国で会えたら、色々な話をしてみましょうか)
なんて楽観していた。
すると
『――!――!!』
「…?」
凄く遠くから声が聞こえてきた。
ずっとこの空虚の湖に居たから来るって来たのかもしれない。
『――き…!』
断片的な声が聞こえてきた。
…本当に私はおかしくなってしまったのかも。
『――ばき…!』
…春斗の声?
いや、聞こえないはず。
春斗は私と一緒に…。
(待って、思えば何故私は赫蝶で意識を取り戻そうと…?)
今思えば赫蝶だけの力で私の意識を取り戻すことは難しい。
でも、春斗と繋がっていた時はできていた。
繋がっているときしか…出来ないはずなのに、何で途中まで出来ていたの?
『――つばき…!!』
幻聴…じゃない!?
『椿!!』
その声と共に右手首を握られる。
手首を握るこの手を…私は知っている。
私を受け入れる時に握ってくれた手。
間違えない、間違えるはずもない…。
ずっと、心のどこかで待ってた青年の名を。
「春斗…!」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




