第101話 最後の蛹
赫蝶について行き、着いたのは…よく分からない部屋だ。
ドアは開けっ放しで、他の部屋とは違って壁の色やら何やら違う所がある。
「こんなところに一体何が」
そう言っているのもつかの間。
奥の方からゴウンゴウンと音が聞こえてくる。
まさか俺はエンジンシステム区画に来たのかと思ったがmotherがさっき大穴が空いたとも言ってたしマップを見る限りエンジンシステム区画の近くでもない、何なら反対側だ。
「じゃあここは…?」
マップ…書かれてない?
いや、そもそもこの区画だけマップに表示されていない。
不明のエリア?
…何かきな臭くなってきたな。
赫蝶はまだ奥へと飛んでいっている、やっぱり奥に何かあるんだ。
真っ暗な部屋を進み続ける。
すると。
(…淡い光が見える)
その淡い光が強くなっていくにつれて先程の音が徐々に大きくなっていた。
となればあの光と音は関係があるかもな。
…まぁ十中百区、ロクなものではないだろう。だってキャッスル内にあるし。
「…ん?」
何か今人がいた気が…?
「いや…これは!?」
俺の目に映ったもの。
それは…大量のカプセルとその中に入っている子供たちの遺体だった。
「何だこれ…!?」
近くのカプセルに近寄る。
中には…水で埋め尽くされていて子供の遺体は大の字で拘束され、口元には呼吸器のような物が付けられていた。
…惨いことを。
「元凶…ッ!!」
怒りに脳を支配されつつ、このカプセルを拳でぶち破りそうになるが…止める。
赫蝶は俺の横を通り過ぎていき、カプセルの列の中央にある意味深な巨大なポンプを通り過ぎて小さな籠に止まった。
「何だこれ…ポンプ?」
籠よりも先に気になったのはこの大きなポンプ。
何が入ってるんだこれは、しかも徐々に透明な液体が増えて行っている…?
ポンプの周囲を見るとこのポンプを中心に様々な方向へ管が伸びて行っていた。丁度足元にあった管を眼で追う。
やがてその管は周囲にあるカプセルに繋がっていると理解した。
「…まさか!?」
嫌な予感を感じ取った俺は先程確認したカプセルの中にいる子供の元へ駆け出し、中の様子を確認した。
もう、その子供は半分以上が塵となっていて、元々浸されていた液体に混ぜられるかのように消えていき…子供は姿を消し、その容器の中には何も残っていなかった。
…理解した。いや理解せざる負えない。
これは…この大量の透明の液体はbutterflyだ。
しかもたった今butterflyにされた子供たちの。
「こんな…ことって」
俺はこの惨状を理解できず、その場に座り込んでしまった。
こんな…軽々しく、子供たちの命を…ゴミのような液体に変えてしまうのか?
何を考えてんだ…ッ!!
子供たちの将来を、夢を、幸せを奪っておいて…こんな仕打ちは無いだろうッ!!
「…ん?」
ふと気になった。
ポンプの中にあるのはbutterflyなのはわかった。
でも気になるのはそこじゃない、赫蝶が着地したのはこのポンプではなくこの籠。
ポンプ横にあるってことはこれはエネルギー源なのか?と思い、鍵がかかっていたが関係なしにこじ開ける。
「他の赫蝶!こんなところにいたのか」
その籠の中には赫蝶が大量に敷き詰められていた。
蓋が開いた事を感じ取った赫蝶達は一斉に外に出て俺の中に入っていった。
「ぐっ…ふぅ…」
中に浸透していく…。
これで赫蝶も殆ど回収できた気がする。
だが…よく分からないが俺の頭はIGD学園の地下に行きたいと考え始めてきた。
…赫蝶の影響かもな、行く価値はある。
それよりも、だ。
「何故キャッスル内にこんなものが」
大体の見当はつく。
俺やmotherが回収した子供たちの遺体はこのカプセルに入れられてbutterflyに変えられた。
つまり、motherはこれを知ってるはず。となれば…motherは青葉を裏切っている。
だが、本来の目的とは別の目的を持っているとmotherは言っていた。
これも本人曰く『バグ』という形で。
もし、motherが裏切り者なら研究者の殺害はしないはず。それに研究所以外の医師の殺害もするはずだ、でもしなかった。
しかも青葉の命である『キャッスルを破棄する』と言うことに何一つ否定を言わなかった。
となれば…このbutterflyは。
――『破棄する予定の物』だったから肯定したという事か?
キャッスルを落とせば中にある物もただではすまない。そのついでにbutterflyを破棄できるという可能性にmotherは賭けたかもしれない。
…まだmotherが裏切り者の線もあるがある意味これはチャンスだ。
motherを元凶に対する裏切り者として定着させられるはず。
裏切らせるチャンスを作り出し、motherの中にある『バグ』を本来の機能に出来るかもしれない。
だが…キャッスルを落としてbutterflyを破棄させるのは色々と問題がある。
一滴でも存在すればbutterflyはまた返り咲く。
なら…。
「やることは1つだろ…!」
そうして俺はその場に座り込み、ポンプを見ながら言った。
「子供たちよ」
――お前たちの力を俺に貸してくれ。
――輝かしい未来の為に、この世界の為に。
――君たちと同じ子供をこれ以上生み出さないために。
◆◆◆
IGD学園城壁上。
『初弾命中しました!』
「キャッスルの状況は!」
『推進力低下!徐々に下に降りてきています!』
「よし!AG迎撃部隊、構えろ!」
AGの修繕に力を入れていたIGD学園。
幸いなことに、しばらくの間ハイエンドやアンノウンの襲撃もなかった。
そのおかげで今日という日に戦うことが出来る。
『フレヤ!スターゲイザーやスプライトの状態は?』
『完璧ですわ。むしろ今まで以上の性能を引き出せます。水津さんの手腕のお陰ですわ』
『そ、そんなことない…』
『さて、お姉さんも水津ちゃんの事を褒めたいけど…来たわよ』
空を見上げると上空からアジダハーカを纏った青葉とハイエンドたちが降りてきていた。
どうやら直接、IGD学園に降下するというわけでは無いようだ。
『…キャッスルを落とすとは』
青葉からの通信が私を含めた専用機持ちと御影先生、柊木先生は戦闘態勢に入る。
「九条の情報のお陰でな。それで…お前たちは何をしに来た?」
『キャッスルを落としておいてその質問ですか?』
隣にいる御影先生が槍先を青葉に向けたまま問いかける。
最初の作戦は失敗し、二回目も失敗に終わった。
だが…三度目の正直で取り返そう。
私は村雨と白露を抜刀する。
『…貴方たちを倒しに来ました』
青葉も臨戦態勢を取った。
『ですが貴方たちの相手は私ではありません』
「なんだと?」
『…春斗、先程の通りに』
『――あぁ、任せろ』
――ドォォォォォン!!!
上からアンノウン…いやアンノウンに身を包んだ春斗が降ってきて着地した。
「九条…!」
『御影先生、柊木先生、フレヤ、葵、レベッカ、アナスタシア、水津、アイヴィー、雪華さん…悪いがお前たちの相手は俺だ』
春斗は爪を展開して、私たちと対峙する。
『では行きましょうか、春斗』
『あぁ、それと』
『…?』
『必ず成し遂げてこい、もし届かなければ俺が追撃に行く』
『…はい!』
二人の会話が聞こえてくる。
必ず成し遂げてこい…?
『来ます!』
水津の声が聞こえたと同時に春斗を先頭に青葉が突っ込んでくる。
「止める…!!」
飛脚の足をチャージし、インパクトブーストで春斗を受け止める。
――ドゴーンァ!!
「くっ…!」
「…この短期間で飛脚が治るなんてな」
「どうして治ったのか…お前は分かるだろう!?」
「水津か…本当、流石だよ」
刀と爪をぶつけ合う。
「青葉、飛べ!時間がないし、最悪正面突破でもいい」
『はい!』
私たちを無視して、青葉はIGD学園の城壁の正面入り口から突入しようとする。
『させないよ!』
『はぁっ!!』
レベッカとアナスタシアが間に入り、青葉を止めようとするが…。
「させねぇよ!!」
「ッ!?いつの間に…!」
いつの間にか私の前から消えた春斗が既にレベッカとアナスタシアの攻撃を受け止めていた。
『春斗…退いて!』
「悪いが無理だ…!」
『何故そいつらの味方をする!』
「…お前たちが俺を捨てたからだろうがッ!!」
『きゃあっ!?』
『くっ!?』
二人の攻撃を一方的に弾き飛ばし、シトリンとレオンのレッグを握りしめて私と御影先生に投げてきた。
「ッ…アナスタシア、大丈夫か!?」
『あぁ…大丈夫だ、だが』
何とかアナスタシアを受け止めたが春斗と青葉は止まらない。
私たちの陣を無視しながら城壁正門をくぐろうとする。
『行かせませんわ!』
『水津ちゃん!』
『うん!!』
今度はフレヤのビットを交えた射撃と水津と雪華さんの水の波と氷の障壁が二人に襲いかかるが。
「甘いって言ってんだよ!!」
なんと春斗は波と障壁を拳で一撃で粉砕し、粉砕した際に生まれた氷の塊を水津と雪華さんを目掛けて蹴り飛ばした。
『一撃で…!?きゃっ!?』
『水津ちゃん!がつがつ行く春斗君も好きだけど…今の春斗君は好きになれないかな!』
「チィッ!!」
蹴り飛ばされた氷塊を躱した雪華さんが春斗目掛けてメイスを振り下ろすが、春斗は右手で受け止めた。
『ね、ねぇ…お姉さんや皆は春斗君を捨てたわけじゃないの…まだ…戻ってこれるのよ?』
「ッ…そんな言葉で俺が揺らぐと?」
『春斗さん!止まってくださいまし!』
雪華さんと春斗がぶつかり合う所へ、フレヤのアクセラレータが放たれるが、そのレーザーすらも左手で防御する春斗。
左手でレーザーを握りつぶし、完全に手のひらで消し去った。
『えっ!?』
「止まらねぇよ…!」
『なんて…力…!』
右手だけで受け止めたメイスと雪華さん、フロストクイーン諸共城壁へ押していく春斗。
そこへ。
『なら無理やりにでも止まらせます!!はぁぁぁぁっ!!』
「くっ…アイヴィー…!!」
アイヴィーの聖剣が春斗の胴を捉えた。
アンノウンの装甲が斜めに切られる。
「はぁっ!!」
「ふん!」
「…ッ!!」
それに続き、私と水津で各々の武具を春斗に振り下ろす。
「クソ…青葉!行けるか!?」
『行けますが…』
「先行ってろ!お前の役目はここじゃないはずだ!」
『わかりました…先に行きます!』
『逃がしませんッ!!』
IGD学園の中へ入ろうとした青葉を目掛けて柊木先生と御影先生が迫撃砲と蒼い炎を放つが。
「ぐっ!!?」
『九条君…!』
私と水津を弾き飛ばし、胴に斜めの斬撃が入っていてもなお、春斗は空へ飛んでアンノウンの装甲で二人の攻撃を防いだ。
「カァァァ…先生ィ…!」
「何て顔をして…私たちを見て居るんだ」
先程の攻撃の影響か春斗の付けるフェイスガードの左目の部分のみ露出し、緑色の鋭い目線が私たちに向けられる。
『春斗!』
「良いから先に行け!」
『ッ…任せました』
青葉がIGD学園の中に入っていった。
だが、中には多くの兵が居る。まだ止められるかもしれない。
「…ッ!!」
「春斗…!」
城壁の正門前にて動きが止まった春斗を私たちは見る。
その顔は…。
「―――フフッ」
笑っていた。
「春斗、何故笑っている?」
「いや…ここからが俺の仕事だからな」
「仕事…?」
「俺は露払いと防衛を頼まれている」
「…」
「mother…青葉は任せたぞ」
『了解です。ではここからは春斗に任せます、10分間自由にやってください』
「あぁ…!!」
すると春斗は立ち上がり、装甲の中から何かトランシーバーのようなものを取り出した。
そして、それに付けられたスイッチを押した。
「九条、何をした?」
「…何でしょうか。それよりも…皆」
「?」
「橋の中央くらいは開けたほうがいい、少なくとも30くらいの救急車が来るからな」
「救急車…だと?」
――…ォォ。
今、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえたような…?
『み、御影先生!橋の向こうから救急車が向かってきています!』
「何だと!?」
柊木先生が焦りながら御影先生に報告した。
「九条、貴様…救急車を使って何をする気だ!」
「御影先生」
「…!」
「いや皆もか、何もするなよ?ここからは…俺の仕事だッ!!」
「!?」
すると春斗は私たちを無視して救急車の元へ飛んでいき、救急車に襲いかかろうとしたハイエンドを…。
――捻りつぶした。
「えっ…!?」
「春斗さんがハイエンドを…?」
獣が如く春斗は暴れまわり、救急車に寄り付こうとするハイエンドどもを一網打尽にしていく。
『おい、傷薬は持ってきているんだろうな!…そうか、風邪薬なども持ってきていたのか、助かる…エンジンはフルスロットルで頼む、障害は俺が排除する!!』
先頭の救急車の窓に張り付き、中の医師と会話している声が聞こえてきた。
どうやらあの救急車には傷薬や風邪薬などを積んでいるらしい。
「春斗…何のために?」
「…何もするなって言ってたけどどういうつもりなんだろう」
さっき言われた通り私たちは何もせず、春斗の様子を見て居ただけだった。
現状は変わらず、春斗はハイエンドたちを倒し、捻じ伏せ、貫き救急車に指一本も近づけさせていない。
ただ今起きている光景に…私は。
「…!」
立ち上がりたかった。
今の春斗は敵、でも前に春斗の行動は嘘である可能性があるという事があった。
現に今、春斗は敵の本拠地に救急車を連れて負傷者の手当てをさせるためにハイエンドと戦っている。
助けに行きたい…!
「葵…」
「レベッカ?」
「多分、僕も…いやこの場にいる全員が同じことを思ってると思うな」
「…」
「春斗を手助けしたいんだよね?」
「あぁ」
「――行こうよ、私たちで」
レベッカの『行こうよ』という声に各々が全員武器を構えて立ち上がる。
「そうですわね、敵同士とはいえこのまま見殺しにするのは気が引けますもの」
「例え敵でも困ってるなら尚更じゃないかな?」
「うむ、軍人でも相手を考える気持ちくらい訓練しているぞ」
「こういう展開…嫌いじゃない」
「まぁ、旧友だもんね?」
「行きましょう、皆さん」
「あぁ…!」
「はぁ…正気か?小娘ども」
私たちの行動に御影先生が問いかけるが…答えは決まっている。
「…止めるだけ野暮か、ならここは任せる。私たちは青葉の方を対処しよう」
「ありがとうございます」
「それと、出来れば聞けることを聞き出せ。いいな?」
「はい!」
許諾は得た。
なら…私たちがやることは決まっている。
「今行くぞ…!」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




