第99話 嘘
「…これが今の春斗だ」
IGD学園の会議室の中に集められた専用機持ち全員と現在戦場に行ける状況の教員たちが集められ、モニターにはある書類と映像が流れていた。
そこにはアンノウンに身を包んだ九条春斗が病院やショッピングモールなどを襲っている映像が流れていた。
『グうっ…ガァァァァ!!!』
一心不乱に病院の壁を破壊し、中に侵入する。
そして聞こえてくるのは…断末魔。
中の状況は見るまでもないだろう。
「ハイエンドは確実に私たちを殺す気だろう。医療施設がやられれば私たちを治すものも、避難する者を手当てをする人も薬もなくなる」
「春斗…」
「無理もない…」
教員や専用機持ちは思う、敵になった春斗の恐ろしさを。
入学当初、彼の評価は『ただAGを動かせる男』だったが…彼自身の戦闘センスや培ってきた能力で『AG学園の生徒会長に次ぐ強さを持つだろう』というところまで昇りつめた。
だが、これは味方としての評価。
敵としては…『最凶』だった。
AG行動隊もAGの修理が終わり、新装備を持ってアンノウンを襲撃したが結果は見るまでもない。
死者は出なかったが一方的な蹂躙が起きた。
「御影先生…」
「何だ」
「これから…私たちはどうすればよろしいのですか…?」
フレヤが言葉を零す。
今の人間側にあるAGはもう二桁程度しかない。対してハイエンド側には獣や人型のハイエンドに加えてアンノウンにアジダハーカも居る。
打つ手はないに等しい。
「降参はもうできない。それは分かっているだろう?」
「…はい」
そう。人間側の降参ボタンは既に破棄されている。
正確にいえば破棄させられただが。
「…それでも私たちは戦うしかない」
「ですが…御影先生。これでどうすれば」
「…」
柊木先生の疑問に御影先生は回答できない。
これ以上生徒を失わない為に、これ以上無駄な犠牲を出さない為には戦ってはいけない。
しかし、戦わなければならない。
そんな考えが交差している中。
――コンコン。
会議室の扉が叩かれた。
「…誰だ」
反対側からは。
「えっと…九条春斗の友達です」
「馬鹿…!要件を言えって言ったろ…?」
「言えるかよ…!?」
「良いから言えって…!」
男の声が三つ聞こえてきた。
「…悪いが作戦会議中だ。無関係者には」
「話を聞いて欲しいんです…!九条…はるちゃんについて!」
「…入れ」
御影先生は渋々扉を開けさせた。
扉が開かれ、そこには…。
「貴方たちは…!」
浅利谷氏、天風那由多、篠原蜂が居た。
専用機持ちは知っている事、この三人は九条春斗の親友とも言えるほどの仲を持つ。
「それで、一般人が何の用だ」
「単刀直入に言わせてください…信じられないかもしれませんけど、はるちゃんは…俺たちに『嘘』をついているかもしれません」
「嘘だと?」
「…アイツが裏切ると思えないんです」
三人の目は確かだった。
過去と専用機持ち以上に関わってきたこの三人だからこそ分かる何かがあるのだろう。
九条春斗が嘘をついていると感じれる何かが。
「かもしれないが、現に九条は私たちを裏切っ」
「はるちゃんが嘘をついているときの癖が出ていたんです!」
「…癖だと?」
「!」
その『癖』という点で葵が眼を見開いた。
「そうか…確かに春斗は…」
「時雨さん?」
「春斗は嘘をついているとき『相手と絶対に眼を合わせない』っていう癖があるんだ」
「眼を合わせないだと?」
御影先生は春斗の癖を聞き、春斗が裏切った際の映像を再度確認する。
『はっきり言おう。俺はお前たち人間に――失望したんだ。』
そこには確かに悲しそうに下を向いて話す九条春斗が映っていた。
それだけじゃない、所々に眼を合わせないように眼を泳がせているところもあった。
「…本当、なのか」
「俺たち三人はそう信じています!はるちゃんは裏切ってないって…!」
「…可能性はあるかもな」
「御影先生。ですが…」
「私にも思い当たる節はある。お前たち三人」
「「「は、はい!」」」
「この情報は誰にも話すなよ。話した際は…」
「わ、分かってます!」
「よろしい」
半ば圧をかけつつ、御影先生はモニターに別の写真と書類を出した。
「これは…?」
「ここは九条が襲撃した病院のうちの1つだ」
その病院はボロボロになっていて、もはや廃墟ともいえる代物だった。
写真は血痕もなく、人が逃げた痕跡もなく、ただ病院だけがボロボロにされていた。
「次にもう一つ」
「…う」
次に映った写真は病院だが先程の病院に比べて徹底的に破壊されており、壁や床には夥しい量の血と人なのか分からない何かがそこら中にまき散らされていた。
「…何故血痕がある病院とない病院がある」
「え?」
「九条が襲撃した病院は全部で36箇所。そのうち7か所のみ後者の写真のようなものになっていたらしい」
「つまり…残りの29か所は」
「血痕はなく、誰も死んでいない可能性があるというだけだ」
所々に疑問点はあるがアンノウンである春斗が襲う病院に共通点はほぼない。
しかし、惨劇が起きる病院と建物が崩壊するだけの病院という二つの差が明確に生まれているのもまた事実。
「確かめる方法さえあれば、どうにかできるのかもな」
「そう…ですよね」
現時点で『嘘をついているかもしれない』という理屈は肯定することはできない。
決定的な証拠もない。
だが、三人の男たちは己と春斗との縁を信じた上でこう話した。
「…」
でもその縁を信じているのは男たちだけではない。
この場にいる専用機持ちや教員も春斗が裏切るとは思っていない。
何かしらの理由があると信じている。何せ、彼は人の為なら自分の命や人生を捨ててまで守ろうとするからだ。
「とにかく、貴様らの意見も取り入れよう。だがこの作戦会議は国家機密に等しい、今すぐに避難エリアに戻るなら不問にしよう」
「ありがとうございます!」
そうして男たちはお辞儀し、彼女たちの前から去った。
「…全く」
「?」
「アイツは…そっくりだ。いや似すぎているあまり本人にしか見えない」
ーーー
「…」
場所は変わり、ボロボロになった病院の中。
そこには医師、看護師たちが全員病院のロビーに集められていた。
ここはつい先ほど春斗が襲撃した病院なのだがやったことは医療施設の壁を破壊したのみ。
医師や看護師は生かし、薬品などの破壊は何一つやっていない。
「…俺からの願いは全員、救急車にて待機していて欲しい」
「な、何故だ?それに何故私たちを生かす」
「アンタらが必要だからだ…ゴホッゲホッ!?」
「…?」
この時の医師や看護師は気が付いていないが、春斗の身体にはbutterflyの兆候が現れていた。
全身をめぐる激痛、張り巡らされたヒビ、そして黒く染まりかける視界。
「…アンタ」
「え?」
「アンタはこの病院の院長か?」
「あ、あぁ…」
「アンタにこれを託す」
そうして春斗が渡したのは簡易的なトランシーバーのようなものだった。
「これで通信はできないが、とある日にこれからブザーが鳴る。このブザーがなったら…IGD学園へ救急車で向かってほしい。ありったけの薬品を持って」
「そ、それは良いが…外には君のようなハイエンドが」
「いない」
「え?」
「その来る日までに俺が何とかする。それに…仮にお前たちがハイエンドに襲われても俺が守る」
そう言い、春斗は顔を覆っていたフェイスシールドを取り外し、院長の前に座った。
院長からすれば彼の行動原理がわからない。だが彼の願いは医師が持つ『人を救う事』
今のIGD学園にはけが人や病人が居るからこその願いかもしれないと院長は思った。
「…分かった、その言葉信じよう」
「本当か?」
「あぁ。だが…君は大丈夫なのか?目付きや顔色で分かる。身体に何か異常が」
「俺のことはいい。とにかくありがとう、それと俺以外のハイエンドがここに来る可能性はある。出来る限り安全地帯で待機していてくれ」
「分かった」
「…ではな」
春斗はフェイスシールドで顔を覆い、病院から出て空へと舞う。
ある程度スピードが乗ってきたところで春斗は…。
「…があぁァァァッ!!!?」
声を上げた。
今の空は春斗だけのもの。
他の誰にもその声は届かない、故に空で春斗は声を上げる。
激痛の声を。
「ぐうぅゥッ…!!ガァァァぁッ!!!」
全身を巡る痛み、脳内を巡る悲鳴。
そのすべてを押し込み、耐える。
(まだ…研究所は残ってんだよ…!)
そのスピードを維持したまま別の医療施設という名の研究所に突っ込む。
――ドゴォォォォォン!!!
壁を突き破り着地する。
「な、何だぁ!?」
「――butterflyを…」
「!?」
「子供たちを…返せぇぇぇぇ!!!」
一心不乱に拳で研究者たちを死ぬ一歩前までズタズタにしながら突き進んでいく。
目の前に居る外道を、敵を許すまいと怒りと激痛を背負って暴れまわる。
「ガぁァァァ!!!」
「ギャアぁァァァっ!?」
「ふぅっ…!ふぅっ…!子供たちは…何処だッ!!」
近くにいた研究員の首を掴み床にたたきつけ問いかける。
「ち、地下だ!地下にいる!だから私は見逃してく」
「死ねぇぇぇぇ!!!」
首を握りしめたまま壁に投げ飛ばす。
「がはっ!?…ゴホッゴホッ!?」
「こどもたち…!」
壁に叩きつけられ、血を吐いた研究員に見向きもせず春斗は地面を叩き壊し、下へと潜る。
その姿はまるで我が子を誘拐された獣のよう。
研究所の床を突き破り、地下に到達する。
そこにも…子供たちが居た。
もうだれ一人も動かない。
「ぬぐぅ…!あぁァァァっ!!!」
咆哮を轟かす春斗。
それを聞きつけた研究員や警備の者が走ってきたが、春斗という獣に見つかったのが運の尽きだった。
「外道共ガァァァァ!!!」
全身から緑色の閃光を漂わせ、ただ敵という敵を潰し、外道という外道をなぎ倒し、わずか10秒でその場にいた者たちは無力化された。
「はぁッ…!!」
息を荒げながら春斗は周囲を見回す。
(何処かに…butterflyが!)
そして、見つけた。
淡い光に反射する瓶を。
その瓶には…『butterfly』と書かれていた。
しかも一本ではなく、そこには計6本の瓶があった。
全ての瓶を抱えた春斗は一本ずつ瓶の蓋をこじ開け、身体の中へ流し込む。
ゴクッ。ゴクッ。ゴクッ。
ゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッ。
「はあッ!?」
6本全ての瓶を飲み切った春斗。
全身を巡る激痛はよりいっそう勢いを増した。
あの自壊以上の激痛が春斗に襲いかかるが…。
「ウウッ!!」
彼は耐えた。
(あと少し…アト少しなんだ…!)
義眼である左目から緑色の閃光を流し、膝をついた自身の足を無理やり立たせて研究所の天井を突き破り、空へ舞う。
「すまん、mother。回収はそっちに任せてもいいか?」
『お任せください。むしろ天井が突き破られたお陰で回収しやすくなりました』
「そうか」
『それと…先程からバイタルサインが不安定ですが、どうかしましたか?』
「軽い息切れだ、気にするな」
『わかりました』
motherとの通信で軽く話しているが、流石の春斗も我慢の限界が近づきつつあった。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




