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インフィニティ・ギア  作者: 雨乃時雨
第三部
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第98話 蝶の意味を、声の意味を

『butterfly』という代物。

それは…九条春斗が生まれていない頃まで遡る。

時はインフィニティギアが普及しつつある時代、未だAGなんてものは存在しなかった。

あの頃の研究はギアの事でもちきりだった。

天才科学者及び発明家でもあった九条夏樹、九条克樹を中心としたギアの研究が行われていた。


「お疲れ様です、夏樹博士」


真っ白な研究施設の中で写真を眺めながらレポートに目を配る黒髪でロングヘアーの女性。

この人こそが九条夏樹。

その助手が彼女にコーヒーの差し入れを渡した。


「あぁ、お疲れ様。そっちの進捗は?」

「今のところ不備やその辺りの事は起きていません。インフィニティギアの抑制を進める研究は順調に進んでいます」

「なるほど、流石だね。この調子で頼むよ」

「はい。ところで…克樹さんは?」

「あぁ、彼なら上層部に直談判してるよ」

「…あれですか」

「あぁ」


夏樹の夫である克樹は今、上層部に直談判していた。

何故か。

それは今、夏樹の手元にあるレポートが全てを示している。

『蝶(butterfly)計画』。

それは人知を越えた計画。

それだけ聞くと聞こえはいいが中身を見れば悍ましい計画だとわかる。

道徳、倫理、非人道的な事がずらっと書き並べてある。

…何より最も危険視するべき項目がある。


「…子供を消耗品とする…か」


見えるはずの未来を何もかもを塗りつぶす。

未来ある子供たちの未来を全て壊しつくす。

人類の何もかもを最悪な形で生まれ変わらせる。

そんな禁忌の実験で生まれ、用いられたものこそ…『butterfly』。


「いや、人間の身体を蛹とし新しい人の形として生まれ変わらせるのには恐れ入った。全くもって度し難い」


夏樹の握るマグカップにヒビが入る。

春斗に受け継がれた『特定の対象に対する怒り』は夏樹からの由来。


「…やはり」

「除籍処分だろう。私としても彼女と彼がこの施設にいるのは恐怖でしかない」


butterflyの成分や作成用途もそのレポートに記されている。

まず成分について。

人間の身体に対して毒であるモノ全て。

人の身体の活動を強制的に止める薬品や、人の身体を自壊させる成分などとてもじゃないが人間に投与するには明らかに危険でしかない。

そこで、その危険を抑制するために必要な成分があった。

それが…。


――子供の臓器、体液、血液、何もかもを毒と合わせ、特殊な『卵』と呼ばれる新しい人間の細胞を入れる事である。


そう、butterflyというものは子供の何もかもで出来ている。

身体を成長させるための細胞、発展途上の人体、そして子供には子供用の処置が必要なように、このbutterflyは子供にしか投与できない。

butterflyを投与した後は子供が成長していくとともに中に宿る粒子も成長していき、来るべき日に蛹を破り蝶となる。

とてもじゃないが、こんな実験許されるはずもない。

数多の子供と数多の命が無駄と散ることとなり、実験自体が外道に等しい。

現にこの実験は許諾が得られる前に始まり、子供たちの犠牲が発覚したのは本日。

そして…今の時点での子供たちの犠牲は500を越える。

二人の科学者のせいで罪のない子供が散った。

その事実だけでも除籍処分には十分な理由であり、何よりれっきとした犯罪者。


「…被害者たちは?」

「butterflyを投与された子供たち、そしてその実験の過程で被害を負った老人や30半ばの男女も…ヒビだらけで死んでしまいました」


そもそも、何故butterflyを投与されたものは死ぬのか。

その原因は二つあった。

1つ。新しい身体を生成し、蛹を破り捨てる為には肉体を極限まで弱らせなければならない。成分の中にあった人としての活動を停止させる物が入っていたのは弱らせるためがメインなのである。

2つ。卵の過剰負荷。新しい人の細胞は今を生きる人たちよりも何十倍も良い機能を持っているがゆえに、今の人間に耐えることは不可能に近い。

この二つの理由のせいでbutterflyを投与された人は死ぬ。

身体が極限まで弱り、卵の過剰負荷で身体にヒビが入りバラバラになって塵へとなる。

しかもこんな質の悪い話がある。

子供だけが狙われる理由は薬品の投与できる存在が子供しかいないことだけではない。

塵になりかけた子供たちの遺体を回収し、毒と卵を混ぜれば…またbutterflyが完成するのだ。

故に消耗されるのは…子供の命のみ。

逆にbutterflyは子供の命がある限り永遠に増え続ける。


「酷い話だね」


それこそが――『butterfly』。


「…さて、私たちもそろそろ研究に戻るか」


そこへ。


「はぁはぁ…!!」


九条克樹が走って来た。


「克樹?どうしたんだ?」

「ッ…!!全職員全警備員、この研究所を封鎖体制にしろ!!…桐生の二人が逃げ出した!」

「!!!」

「上層部からの指令だ!今すぐ行え!!」


そうして青葉と椿の親である桐生夫婦はこの実験施設から逃げ出した。

butterflyの薬品と必要な実験機材全てを持って…。


ーーー


『ということがあり、今に至ります』

「…そんなに前からなのか。しかも俺の親と同じ実験施設に」

『はい。それと二人の日記や言動を見る限り…九条夏樹、九条克樹の事を相当憎んでいたかと思われます』

「―――」

『九条春斗?』

「1つ、最悪な考えが浮き出た」

『何でしょうか』

「まさかとは思うが…俺の父さんと母さんを殺したのは」


――あの二人なのか?


春斗は双眸を真っ黒に染めて、motherに問いかける。


『はい、確実かと』

「証拠は…あるのか」

『自宅から二発、弾が打ち出されたと思われる一丁のハンドガンが見つかったことと、貴方が生きていたことを知る情報を仕入れ、九条春斗を殺すもしくは実験のサンプルにするために刺客を送り込んだ形跡があります』

「…」


春斗には思い当たる節しかなかった。

中学生の頃に春斗に対して研究がしたいと必要以上に迫っていた研究機関があった。

あの時はAGが使えるからだけだと思っていたかもしれないが、夏樹と克樹の息子ならAGを使える可能性は十分にあり、何より名前も国籍も右半身を引き裂いた赤子と一致していたから送ってきたと考えられるだろう。


「…アイツらか」

『心当たりが?』

「あぁ、中学の時にな。AGのブレードを使った時からある研究機関に迫られてたんだよ」

『なるほど、可能性はありますね』

「そのログとか証拠になるモノとかはないのか?」

『…ログなどは特に残ってないですね。恐らく口頭で伝えたかと思われます』

「何でその辺しっかりしてんだよ…っと」


雨が降り注ぐ空の下で春斗は病院の屋根のある所に座り込む。


「はぁ…butterfly、ねぇ」

『どうかしましたか?』

「もう一度聞くが、成功は一度もないんだよな?」

『はい』

「なら椿と青葉は何なんだ?椿は…確か適合率が30パーセントくらいみたいなのは見た覚えがあるぞ」

『そうですね。はっきり言うと椿さんと青葉は唯一適合の可能性が出てきた、というだけです』

「適合の可能性?それはバタフライ計画とは違うのか?」

『バタフライ計画の新人類は適合率が100パーセントではないといけないようです』

「何故?」

『椿さんは31%の適合率で自身の身体が塵ではなく、赤い蝶々…つまるところ『赫蝶』へ昇華しました。この時点で失敗とは違う結果が得られています』


ここでふと春斗は椿が記憶を失っていたことを思い出す。


(…何かを失った時点で失敗だろうに)


しかも、この後に赫蝶はどのように運用されたのかを知っている。

軍事や兵器として赫蝶は使用されてしまうことを。


『次に青葉の適合率なのですが、56%でした』

「青葉の翠蝶だよな?俺はそれで戦ったところは見たことがないぞ」

『そうですね、ここが二つ目の違う結果です』

「二つ目の?」

『青葉の持つ翠蝶は赫蝶とは別の力があります。赫蝶の力が…ご存じかと思いますが』


赫蝶は赫蝶同士で有限のエネルギーを製造し、無限にエネルギーを吸収する存在。

果たしてその存在が何故兵器となったのかは不明のままだが、生物の構造としては壊れている。有限のエネルギーに対して、無限の吸収をもつという構造。

生物としてはあり得ない、生きる意志を感じられない生物。


「あぁ、なら翠蝶は?」

『赫蝶とは逆で、無限のエネルギーを作り出し、有限の吸収を持ちます』

「本当に、逆だな」

『ですがデメリットも存在します。赫蝶は宿主や自身のエネルギーを吸収しつくし、絶命させるかもしれませんが…翠蝶の場合有り余ったエネルギーが肉体を内側から破壊しかねないのです』

「内側から?」

『はい。それを抑制するために作られたものがHAG』


ハイ・アーマー・ギア。

それが青葉の翠蝶を抑制するために作られたものだとmotherは話す。


『それに…HAGは青葉専用の拘束具なんです』

「こ、拘束具?」

『行き過ぎたパワーは人を壊します、何気ない行動でも過剰なエネルギーがあれば人体を破壊しかねません。例えばの話です、春斗が近くに転がってきたボールを握り軽い力で投げます、どうなりますか?』

「どうなりますって…そりゃ、軽く投げたんだったら軽くとんでいくだろう」

『青葉はそこが違います。青葉の場合、エネルギーが過剰に宿っていれば軽く投げた瞬間、剛速球が飛んでいきます』

「!!?」

『しかも、その剛速球は肉体を引きちぎるくらいのスピードを放てます。それがどういう意味か分かりますか?』


春斗は理解した。青葉に宿る翠蝶という存在の壊れた部分を。

翠蝶は無限のエネルギーを持つが、それを放出する量が割に合っていない。

元々、春斗の中に宿っていた赫蝶はその吸収量に見合う量のエネルギーを生成し続け、半永久的に吸収させるという手段を取ったが、青葉は違う。

翠蝶を使えばエネルギーがひたすら自分の中にたまり始め、ふとした瞬間に爆発しかねない。それが人体の破壊に繋がるのだろう。

つまり…春斗のような手段がとれない。

一度の使用で無限のエネルギーが貯まれば、青葉の身体は一たまりもない。


「…あぁ」

『HAGは青葉の中に生成されたエネルギーを糧に動く存在です。だからこそ、AGに打ち勝つことが出来ました』

「なるほどな…」


世界最強の兵器が一方的に負けるほどのエネルギーが青葉の中に宿っていると考えるだけで恐怖でしかない。


「…待て、ならハイエンドは?」

『はい?』

「ハイエンドの活動エネルギーは…何で出来てるんだ」

『翠蝶一匹です』

「マジかよ…」


あの小さな緑色の蝶一匹でアレが動き出す。


「なら翠蝶は全部で何体存在するんだ?」

『1万匹丁度です。人間の身体1つで1万匹分いると椿さんの実験でわかりましたから』

「…最悪、1万体のハイエンドが襲いかかってくると?」

『その場合、青葉の身体がありませんが』

「何故だ?」

『椿さんと同じようなものです。蝶を使えば使うほど肉体は原型を維持できなくなりますから』

「それは…翠蝶関係なし?」

『蝶ゆえの機能なのでしょう。butterflyの適合者の人体を蝶にしたり、蝶から人体に戻したり』

「――人体に…戻す…?」


◇◇◇


『どうしました?』

「いや、何でもない。それと大体蝶が何体居れば人間の身体を維持できる?」

『9000匹くらいです』

「分かった。つまるところ、人が一人で蝶が1万から9000匹になるということか」

『その認識で構いません。では次の病院へ向かってください』

「了解」


そうして俺はmotherとの通信を切った。


「…てことは、もう少しなんだな」


右腕を見る。

そこには脈動する赤い光が。


(何故か…まだ椿が俺の中に居る気がする)


椿はまだ死んでねえ。

多分、赫蝶の構造であったエネルギーの生成だろう。

キャッスルでの戦いで椿は力を使い果たした、その分のエネルギーの生成が必要だからこそ、今は会話が出来ない…と信じている。

それよりも…。


「これが…子供たちの成れの果て、か」


アンノウンから瓶を取り出す。

それには『butterfly』と書かれたラベルがついている。

これが存在する限り、子供たちが安心して過ごせるような世界は作れない。

かといって処分できるのかどうかすらも分からず、何処かに隠したところで何の解決にもならない。

…多分、motherに聞いても意味がないと思う。

今、このタイミングでbutterflyの回収ではなく、子供たちの遺体の回収を命じたということは元凶からの何かしらの命令である可能性もあり得る。

butterflyを投与された子供の遺体1つでbutterflyはまた返り咲いてしまう。


「…」


どうすればいいんだ。

もし、このbutterflyを完全にこの世から無くせたら…。


「――あっ」


1つ、思いついた。

…丁度butterflyがある研究所に突撃できるし、丁度いいかもしれないが死ぬかもな。


(いや、死んでいい。死んでいいんだ俺は)


思えば蘇生された身。

存在してはいけない禁忌とも呼べる。もはや人と呼べるのかどうかすら怪しい。

それに蝶が存在するなら人体を戻す事も可能だそうだ。


「なら…やるしかねぇだろ」


これは賭けだ。

俺は化け物で、赫蝶、翠蝶を身に宿し、循環すらもある程度耐えた。

俺の因果と運命をレイズして、この世からbutterflyを完全に消し去る賭けに出る。

俺は…butterflyとかかれた瓶の蓋を開ける。


「ふぅ…」


――グビッ。


その液体を口から食道へと流し込んでいく。

言われた通りだが毒が入っていることが分かる。

口の中に広がる身の毛がよだつ味。

焼かれていく喉。

意識が消えかける程の激痛が身体中に広がっていく。

そして脳内に響き渡る子供たちの…。


――悲鳴。


『いやだ…やだぁ…!』


――悲願。


『たずげでぇぇぇ!!ままぁぁぁぁぁ!!!』


――懇願。


『おにい…ちゃ…ん』


――ゴクッゴクッゴクッ。


その子供たちの…怨嗟をただ飲み込む。

視界のふちが黒く染まり始め、嗚咽感が出始めるが飲み続ける。

あの子供たちが受けた症状に比べたら…こんな痛み、痒くもない。


――ゴクッゴクッゴクッ。


右腕の模様の閃光の光が増していく。

視界の殆どが黒く染まる。


――パキィン!!


「はぁ…はァ…!?」


空になったbutterflyが入った瓶を地面に投げ捨てる。

闇に完全に落ち切る前に自分の身体に喝を入れる。


「グぅ…!!?」


地面に四つん這いになったと同時に水たまりに映る俺の顔。

頬には自壊の時に映っていたヒビが出来上がっていた。

だが…一度自壊を経験した俺にこの程度の痛みが通用すると思うなよ…!!


「よし…行けル…!」


俺は膝に手を添えて立ち上がる。


「子供たちの…犠牲をこれ以上増やさせなイ」


頭に響き続ける子供たちの声を何もかも全てを俺が背負う。

君たちの…仇を。君たちの意思を。

俺は背負う、何もかもを受け入れる。

だから…。


「俺に…力を貸してくれ」

誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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