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四月一日 苺寿司





 苺農園を経営している男の幼馴染から苺狩りに来ないかと初めて誘われた私は、彼の意図を正確に汲み取って、女の幼馴染を誘う事にした。

 私は知っているのだ。

 彼が彼女に好意を抱いている事を。

 そして、未だに告白できていない事を。

 相談された事など一度もないが、見ていれば分かる。


 よしよし。

 いっちょ、恋のキューピッドになってやるか。


 ほくそ笑んで、なるべく彼と彼女を二人きりになれるようにしながら、ビニールハウスをはしごして、違う種類の苺を思い切り堪能して今、私と彼と彼女は苺寿司を作っていた。


 苺酢で淡い赤色に染まった酢飯に、四等分に切った果肉が比較的硬い白苺を軽く混ぜ合わせ、四角四面に広げたとろろ昆布とちりめんじゃこの下半分に乗せて、酢飯の真ん中に真紅の苺を丸ごと一個ずつ並べて行き、上手に丸めて行く。

 均等に切り分けて行けば、和洋折衷可愛さ満点の苺寿司のお目見えである。


 時にすっきりして、時に濃厚な苺の甘酸っぱさと、とろろ昆布のとろみのある独特の酸っぱさと、ちりめんじゃこの塩気と、ご飯の甘みが見事に調和している。


 美味しい美味しいと感動していたが、口には出さなかった。

 苺も苺を育てた上げた彼も誉める役目は彼女なのだ。

 私はお呼びでない。

 ただ無言で食べ続ければいいのだ。

 

「美味しい。か?」

「え、ああ、まあまあ」


 おいおい何で私に話しかける。

 もじもじするなよな。もっと堂々としてろよ。

 直接注意するわけにもいかずに睨みを利かせれば、睨み返された。

 何だおい。


「なら俺と付き合ってくれ!」

「あんた」

「な、何だよ?」


 呆れて呆れて、溜息すら出ない。

 いくら恥ずかしくたって、本人の目をきちんと見て言わなければならないだろうこんな大事な事は。


 言えば、だからそうしていると言われて、目が点になった。


「は?」

「だから。俺は。ずっと。おまえが、好きで。けど。苺農園を軌道に乗せるまではって。決めてて。最近、ようやく、赤字から脱せられたから。誘ったんだけどよ。まだ早かったかなって。もう何年か黒字を出してからって。臆病風に吹かれそうになって。で。苺寿司を気に入ってくれたなら。告白しようって」

「は?だって、あんた、彼女が好きでしょうが?」


 私が彼女を見れば、彼女は呆れた顔を向けてきた。


 え?


「はあ。本当に気づいてなかったんだ」

「う。え。だ。え?気づいてたの?」

「気づくでしょ。あんなに熱い視線を向けてたのに」

「で。どうなんだよ。答えは?」

「え?えー」


 いやいやいやいやいや。

 ちょっと待ってよ。

 頭がめちゃくちゃ混乱しているんだから。


「えー。えー。えーっと」


 二人してそんな目で見ないでよ。

 身体中に穴が開くってば。


「えー。えー。えー。と。とりあえず」

「「とりあえず?」」

「と、友達からで?」


 すでに友達なのに何を言っているんだろうか。

 思いながら、箸を伸ばして苺寿司を頬張った。

 

 う、うん。まあ、まずは、やっぱり、友達からだな。


「えーと。一応聞くけど、エイプリルフールって事は?」

「「ないから!!」」

「あ、はい。すみません、ほんと」












(2022.8.8)



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