八月十五日 穴子の箱寿司
酢飯。
砂糖醤油煮の椎茸と実山椒。
穴子。
酢飯。
錦糸卵。
葉山椒。
木箱に入れて、二つ取っ手がついている蓋をして、少し強く押して、完成、と。
今年もきれいで美味しそうだと穴子の箱寿司を自画自賛しながらも、次から次へと手を動かす。
毎年この日に注文があるお得意様がお待ちなのだ。
感慨に耽っている場合ではないのだ。
「「ありがとうございました」」
お寿司屋さんを見送り、いつもは区切られている二部屋を襖を取り外す事で一部屋にした大広間で待ち構えている老若男女親戚一同の元へと運び、大きな机で待機している野菜と鶏肉のお煮しめ、ゴーヤチャンプル、キュウリの酢の物の仲間入りを果たした穴子の箱寿司は、果たして、あっという間になくなってしまった。
あっさりとした穴子、甘めの味付け、ほんの少しだけピリッとした爽やかな辛味、ほろほろと口の中で優しく解ける食感なので、カロリーが気になる人も辛味が苦手な人も硬いものが噛めない人も安心して食べられるので、重宝しているのだ。
「今年もこれで元気に乗り切れるわね」
「いや~。別に食べなくても大丈夫な気がするけどね」
カラオケ、トランプ、テレビゲーム、お喋りを各々好き勝手に、けれど騒々しく始める親戚一同を見つめていた母と子は、片づけをするから全員手伝ってと声を張り上げたのであった。
(2022.8.3)