第二話 item
第二話 item
「…おっさん。あんた本当にさっきの放送信じてんのか?」
「信じるも何もさっき私がビルを崩壊させたのを見ていなかったのかい 少年?それと私はおっさんじゃないお兄さんだ。まだ28なんだよ?」
確かに俺の目の前であのビルは崩壊した、それもあのおっさんの声がしてからすぐに。
そもそもこんな状況じゃ何が起こっても不思議じゃないか…
「ねぇ、おっさん。さっきから言ってるitemって何? さっきのも関係してるんでしょ?」
「お兄さんだと言ったろ? いかにも。さっきのは私の能力「Back to the Future」によるものさ。」
能力? itemってやらのことらしいな。もうちょっと探ってみるか。
「そのダサい名前って自分でつけたの?」
「ダサいだなんて失礼だな。かっこいいだろう?私は気に入っているんだが。自分の能力について書かれた紙が落ちてあったはずだが…ないのかい?名前と能力の内容が書かれていたよ?」
辺りを見回してみるも該当する紙はどこにもない。説明が本当なら俺にも能力があるはずなんだが。自衛の手段は必要らしいな
「さぁ、早く勝負しようか。もう待ちくたびれちゃったよ!!」
言いながら男は走り出し、手を伸ばしながら翔に突っ込んでくる。
間一髪で翔は男との激突をかわしたが、男の手が触れた木はバキバキと音を立てて倒れていった。
「なんだ…これ?」
「素晴らしいだろう。そうだ!名前を言ってなかったね。私の名前は更井理だ。よろしくね。
せっかくだからこの木を使って能力の説明をしてあげよう。」
男が倒れた木に手をかざすとテレビの逆再生のように散らばった破片が1か所に集まりまとまっていった。十秒もすると元通り立っていた状態の木になった。
「驚いたかな?他にもこんなことができるんだよ?」
男がさっき触れたのとは反対の手で木に触れると、その瞬間ミキミキ メキメキときしみ始め、再び音を立てて崩れていった。
「私の能力Back to the Futureは触れた物体を過去の状態と未来の状態いずれかにすることができる!!! すごいだろう?」
翔は驚きを隠せないがしかし、できるだけ冷静に対処しようと努める
「おっさんの願いって何なの?そのすごい能力で優勝して、何がしたいの?」
「おっさんじゃないと言ったよな?次言ったら殺すけど良いよね?
私の願いはねぇこの能力で人を殺しまくることさ。いわば殺戮だよ。だから優勝するためにもまずは君を殺す。仕方ないよね。しかし、自殺を考えていた矢先にこんな能力を授かるなんて私はなんて神に愛されているんだろう!!」
言いながらずり落ちた眼鏡の位置を直す。興奮しているのか呂律が回っておらずはっきりと言っていることがうまく聞き取れない。
あのおっさんにもう話は通じないらしい。とんだ危険思想の持主だったようだ。やられる前にやるしかないが俺のitemとやらは何なんだ? そもそもあるのか?
「じゃあ再び始めようか!!」
「来るな!!」言いながら向かってきた更井めがけてその場に落ちていたビルの破片をなげつける。
バカか?そんなもの効くはずないだろ?あぁ俺はもうすぐこのいかれた男に殺されてしぬのか?
思えばろくな人生じゃなかったな。さよなら現世。よろしく来世。
しかし翔が自己嫌悪と人生を振り返りながらも更井は近づいてくるのをやめない。翔が投げたビルの破片にあたっても致命傷になりえないと考えているのかよけるそぶりも見せない。
瞬間
「ぐあぁぁぁっぁ!!!!!痛い痛い痛い痛いあぁ!?えぇ!?」
瞬間更井の方からあふれ出る大量の血液。おびただしいほどの量のそれはあたり一面を赤に染めていった。
「これがっ 君のぉ!!!!!痛い痛い痛い痛い!!!!」
更井の石が直撃した左肩と腕は消し飛び、まるで無理に引きちぎって腕が取れてしまった人形のようだった。
この場で一番困惑していたのは翔だった。自分はビルの破片を投げただけ。それがなぜあそこまで…
翔は野球部に所属していたわけでもハンマー投げを愛好していたわけでもない。ただの一般的な身体能力を持った高校生であるはず。だからこそ助かった喜びよりもあの一撃の謎に対する困惑のほうが翔の中では勝っていた。
しかし、この状況を全て説明することができるある一つの可能性が翔の脳裏に浮かんでいた。
それは…
「これが、俺の、item…。」