勇者も英雄も、もう飽きた
都の地盤をめくれば、地下帝国、【ディンガドゥンガ】が広がっている。
かつて、【ヴルム大陸】に栄えた帝国民の生き残りが、どうにかこうにか落ち延びて築いたのが、この地底の楽園なのだ。
「なんの用だ」
【ディンガドゥンガ】内、最大の休憩所(意味深)、【無間彳亍闘技場】の一室、
楔と、帝は向かい合った。
C組は、【慟哭の英雄】である楔、【不殺の剣聖】である剣、【霧雨の巫女】である漁と、
奇跡のように、優等生揃いなのである。
そして、三人まとめて、【歴史改変考古学部】。
【異世界夭逝】攻略を、歴史考証から試みる勢力だ。
「お前らも、機密資料、読んだだろ?そして、そこに記された大団円までの道筋は、一つじゃない」
そのうちの一つが、【箱庭師団】……。
薊たちがこだわっていた、【メノウ=エステ】を降臨させる選択肢。
それ以外にも、【大災害の夜】を回避する為の方策は、
ある。
「【十二原獣】、その全てを討伐する選択肢だ」
【慟哭の英雄】、楔は煌々とネオンに照らされた室内で、高級そうなソファにどっかと腰をおろし、
「【怪鼠ハンプティバンクシィ】、【幻牛モーモモーム】、【黒虎コズラウォイエ】、【桃兎ピピンクニット】、【絶馬バクソースーホ】、【闇羊ホッフェンホーフ】、【奇猿ヌポポシンク】、【炎鶏ヤッチャンバルカ】、【銀狼キバトギンガ】、【巨猪ギガンティックノシシ】を討伐し、そして、【ヴルム大陸】に渡り、【灼熱の門】より遥か極北に位置する【不帰の雪原】、そのどこかに存在するとされる難関迷宮、【死穢の回廊】を突破し、そこで【蛇蝎の逆鱗】を入手、それを【玉響の神社】に祀ってある御神体、【白蛇ペーペニステ】に与え、進化を遂げた姿こそが、【異世界夭逝】における魔王の一角……。最上位意思決定機関、【連載終了会議】を構成する一柱、【神竜コクド=ヴリギア】だ」
「怠い怠い怠い怠い、怠いって」
帝は発狂しかけながら、どうにか楔を遮った。
「なに?モ○ハン?モ○ハンごっこしたいの?新作、出るから、そっちやれよ」
「お前ら、【倫理委員会】の悪行は知っている。千年に一人の悪童。劣等生さえも超越した、【救済の勇者】の突然変異体……。【叛逆の神童】にお前が指定されたこともな」
「なんなの?千年に一人?じゃあ俺は、橋○環奈と同じ土俵に立ったってことでいいのかな?」
「不可解を回避したいのは、みんな同じなんだ」
憂いを帯びた瞳の楔は、立ち上がり、雑然とした【ディンガドゥンガ】の街並みを眺める。
「俺たち、【歴史改変考古学部】は、俺たちなりのやり方でやらせてもらう」
「駄目です」
「なにを言ってる?」
「俺は、【神竜コクド=ヴリギア(笑)】にも、【メノウ=エステ(笑)】にも興味がねえんだよ。【大災害の夜】を阻止しようなんて、最初から考えちゃいない」
当然、今度は楔が頭を抱える番だ。
「この世界には……。【英雄の眠る丘】という遺跡がある。理解るか?英雄だ。【異世界夭逝】の歴史書を紐解けば、それは戦乱の歴史だ。多くの英雄が命を落とし、大罪人の悪名とともに、数限りない命を救ってきたんだ」
そして、楔は振り返って、
使い古された、名台詞。
「一を殺せば罪人だが、百を殺せば英雄になる」
「そして、お前は【慟哭の英雄】」
「そうらしいな」
「かっけえ〜!!」
帝は、【脳汁全開購買部】で買ったス○ッカーズをスクールバッグから取り出し、
盛大に滓を零しながら、ばりぼりとそれを貪り始めた。
「平民に、英雄の在り方は理解らない」
「やべ。屁、出た……。くっせ!!」
「日本は、平和な国だからな……。お前も俺も、平和ぼけしてたんだよ。この世界にきて、ようやく理解った。奪わなくては、護れない。専守防衛には無理があるんだよ」
「お前、童貞だろ」
「は?」
「女のうなじ、嗅いだことないんちゃうん」
帝は颯爽と立ち上がり、室内の冷蔵庫で冷やしておいたウィルキンソ○を取り出し、
一気に、呑み干した。
「かあ〜!!やっぱ、これだよ。炭酸。嫌なことがあったらこれでげえええええええええええええええええええ」
「汚ねえ……」
「山手線、全部、言おうと思ったけど無理だったわ。そもそも俺が、山手線を覚えてない」
それから、スクールバッグの底の方でぺしゃんこになったビ○グマックを取り出し、
喰らう。
「ほへいほうふへひひほんへひ」
「吞み込め」
「別に俺も、拗らせ素人矯正道場をやりたい訳じゃないんだよ。だがな、お前のような若人が、狭小な世界観であーだこーだ賢しらぶってるのを見ると、なんかこう……。興奮してくるんだよな」
「どういうことだ……」
「一人と付き合えば拗らせだが、百人と付き合えば覇王になれる」
怪訝、極まりない楔を無視して、帝は続ける。
「俺もさ、勇者だの英雄だの、そんなものに憧れていた時期は、あった。でもさ、つまんねえんだよ、結局。一生、女といちゃいちゃしながら過ごした方が絶対にアド。超、楽しい」
「論点がずれてるな……。どうやってこの【異世界夭逝】を攻略するか、重要なのはそこだ。いや、とち狂ったお前らは、その前提条件さえも共有してないんだったか?」
「うるせえっ」
やおらどっこい立ち上がった帝は、流れるような重心移動で間合いを詰め、
喰いかけのビ○グマックを、楔のお口に無理矢理、ぶち込んだ。
「ほがもがもがもがもっ」
「そんなことより、セックスだ!!」
次の瞬間、
【無間彳亍闘技場】、この至る所に配置されていた【黒服の諜報員】たちが、一斉に帝を取り囲み、
銃口を向ける。
【極光の使徒】、薊における【白亜の騎士団】……。
【黒服の諜報員】たちは、【慟哭の英雄】を守護する特務部隊だ。
「いいのか?そのまま撃てば、お前らの楔も穴だらけだぜ」
「お前……。いくらなんでも、ふざけ過ぎだぞっ」
「折角、ラブホ○ルで二人きりだったのに……。こんな男たちを大量に侍らせてるとか、あんたこそどういうつもりよ!!」
楔を人質にしたまま、じりじりと、帝は【黒服の諜報員】たちに近寄っていき、
数十秒間の、近接格闘。
二十数名の【黒服の諜報員】を戦闘不能にし、その拳銃から全ての弾薬を放棄、
それから、
「俺が、なんでお前みたいな糞餓鬼の相手をしてやってるか、だって?」
放心状態の楔を力尽くで立たせ、
ベッドに、押し倒した。
【無間彳亍闘技場】の、正しい使い方、
しよか。
「DKにも、穴はあるんだよな……」




