【】お こ ー げ【】
「全人類兎化計画?」
「バーチャルディーヴァ計画、プレアデス計画に並ぶ、戦後日本における主要な復興プランの一つだ」
「バーチャルディーヴァ計画とは」
「AHOの依代となる少女を安定的に供給するシステム、それを構築しようってものだよ。教団が存続しているところを見るに、なんとか上手くいったみたいだが」
「神椿教団の経営に、王宮が関わっているということですか!?」
「色々と入り組んでるんだよ、ロジックとトリックが……。説明している時間はないから、どうにかして察しろ」
「不知火グループの協力によって、プレアデス計画も軌道に乗りつつある」
「それでは、全人類兎化計画とは」
「呼んで文字の如く、全人類を兎にしてしまおうというプロジェクトだ」
「全人類を、兎に……?」
「国際推し活連合は、2050年までに脱人間社会を実現すると息巻いている。この三つの計画はそもそも、GHQが提案したものが発端なんだが……」
「さまざまな環境問題、社会課題に警鐘を鳴らす目的として、王宮は全人類兎化計画に目をつけたんだ」
「簡単に言えば、国際的な日本の立場を優位にしようという魂胆だよ」
「先進国の中でも、日本は特にBANオーラからの脱却が遅れていますからね」
「BANオーラからの、脱却」
「そう。BANオーラを限りある地球資源と捉え、大事にしていこうという取り組みだな。欧米諸国、特に北欧では当たり前になりつつある概念だ」
「近頃、五月蝿凛局長のBANオーラ規制局が慌ただしいのも、国内におけるBANオーラの放出が行き過ぎているからさ」
「第二次ホロサマなんて起きたら、迎撃戦とは比にならない量のBANオーラが迸りますよ?」
「だから、推進派、反対派問わず偉い人たちがオスバルの元に集まってんだよ……」
「背信者のみならず、杞憂民も少なからずBANオーラを有している。生命エネルギーにも等しいものだからな」
「それをなくしてしまったら、生きていけないのでは」
「その通りだ。だが、人間以外の生命体……。野生動物などは、メン限秘技だなんだと、不用意に大きなBANオーラを撒き散らしたりしない」
「それで、兎なのか」
「いかにも」
「検証によると、全人類が兎に置き換わった場合、年間で消費されるBANオーラが圧倒的に削減されることが理解っている」
「限りある資源を未来の子供たちに繋いでいく為には、ここで手を打たないと手遅れになるのだよ」
「しかし、全人類が兎になったら、その子供たちさえ誕生しないのでは」
「別に、地上に栄えるのが人間である必要はないだろ」
「えぇ……」
「だが、確かにそこがネックでもあるんだ。兎並みの知性では、この計画を遂行することは不可能だとする説もある」
「駄目じゃないですか」
「全人類と言わず、半分だけにして、残りの人類でどうにかすればいいのでは」
「一人でも、金盾級の背信者が残っていたら意味ないんだって……」
「その世代において、BANオーラの総力は決まっていますからね」
「赫の世代におけるキセキ結びのように、背信者たちのBANオーラは共有されている状態にある。だから、全人類を一斉に兎化しない限り、BANオーラからの脱却はあり得ない」
「この計画を主導しているのは」
「野兎同盟だ」
「如何せん、眉唾なトンデモ科学だからな……。ひっそりと協力者を募っているが、進捗は怪しい」
「そもそも、人間を兎にするなんて可能なんですか」
「可能だ。世界樹に実る、黄金のニンジンがあればな」
「それも貴重品だから、調達が大変なんだよ」
「黄金のニンジンに含まれるβカロテンは人体のダブチ粒子に働きかけ、なんやかんやで兎へと突然変異させる効能が報告されている」
「みこだにぇーが振り撒いたサクラカゼ、そこに含まれるダブチ粒子を、ほぼ全ての人類が吸い込んでいますからね」
「その特殊なβカロテンを用いた光線を月面から発射し、全人類を一気に兎化させる……。予定だったんだが」
「ぺこらタワー、崩落しましたね」
「宇宙戦艦と化したあくあマリン号も、なにかしらのアレで燃えた」
「エデンの連邦政府が保有する宇宙艦隊、あれがあれば月面にも行けるのでは」
「協力してくれるかなぁ……」
「それよりも先に、まずはスーパーズッ友条約でしょ」
「待ってください。兎化の成功例があるってことは、既に誰かしらが兎になっているということですよね?」
「そりゃそうだ。ラットでの実験じゃ意味がないからな」
「この計画の、協力者って」
「名取メディカルセンター」
『同刻 神椿市』
「ごめんくだた〜い」
「お寛ぎのところ、申し訳ない」
「はあ」
「なんだか最近、ずっと夜が続いて気が滅入ってしまいますよね」
「ええ、まあ」
「テレビをつけても、暗いニュースばかりでうんざり……。なんだか、人間って大変な生き物です。貴女も、そう思いませんか?」
「あの、私、そういうの間に合ってるんで……」
「そんな貴女に聞いて欲しい!!」
『ガッッッ!!(ドアの隙間に靴を挟む音)』
「そろそろ、兎を始めませんか?」