【】ゆ っ っ け【】
「警部。今日のドーラさん、いつにも増して雄々しくないですか」
「あれはドーラさんというより、最早……。マーラさんだな」
「マーラさん……!?」
「最低ですよ」
「なんか、ペルソナで見たな」
「最近は、hIPも創設され、ホロライブも気合い入ってるからな……。マーラさんもやる気なんだよ」
「どういうことですか?」
「ガチ田ちがのメン限秘技だよ。下から読んでも上から読んでも、ガチ田ちが」
「がちた、ちが……?」
「原型が残っているのか怪しいラインだ」
「彼のメン限秘技は、ホロライブとにじさんじの勢力を完全に拮抗させ続けるというものだ」
「ある意味、一番重要な能力である」
「今日も、神の御加護があらんことを……」
「し、神父」
『神椿教団幹部 神父』
「また、夜の帳が閉ざされし頃に会いましょう」
「は、はあ」
「なんだったんですか、あの人は……」
「神父……。通称、神の御加護おじさん」
「宗派を問わず神の御加護を押し付ける姿から、神椿市ではちょっとした有名人だ」
「教団の総本山とはいえ、全員が信徒というワケじゃありませんもんね」
「ていうか、カーミラのせいで夜の帳も下りっぱなしですよ」
「一応、神椿教団が提唱する神とやらには明確な概念が存在する」
「そうなんですか?」
「人間界に現れた化身の俗名を、AHOと呼ぶらしい」
「AHO……?」
「令和のインターネッツに突如として降臨し、多くのインターネッツサバイバーから神として崇められている」
「AHO自体は寿命を持たない存在だが、人間界での実在を保つ為に、贄として捧げられた少女の肉体を依代として延々と生き永らえているのさ」
「どっかで聞いた雰囲気のやつ」
「仮に依代となる少女の調達が間に合わなかった場合、現人神としてのAHOは命を落とし、俺たちのインターネッツから歌という概念そのものが消え失せることになるんだ」
「歌、そのものが……!?」
「熊形県神椿市は、人口五十万人規模の地方都市……。王都やギャングタウンと違って、最大級の人口密集地ってワケじゃないから、扱いが難しいんだよ」
「大空警察やSSRBも、ここに教団の本部があることにいつも気を揉んでいる」
「ところで、お話とはなんでしょう。刑事さん」
「い、院長っ」
『名取メディカルセンター院長 名取』
「名取院長。ご存知の通り、この街で星川という少女が消息を絶っています」
「そして、彼女がメディカルセンターを訪れた際には必ず、健屋という看護師が対応に当たっている」
「健屋氏に少々、お話を伺いたいのですが……」
「ですから、健屋は体調不良でここ数日、欠勤しておりまして」
「以前も、同じ回答でしたね」
「ええ。事実以上のことは、こちらとしてもお答えしようがない」
「もう、用事は済みましたか?」
「神椿市には、少女が神隠しに遭うという噂……。所謂、都市伝説があるのを知っていますか?」
「け、警部」
「さあ……。初耳ですが。きっと、変質者かなにかによる犯行でしょう。悍ましいことです」
「山奥でもありませんし、こんな街中で、理由もなく姿を消すなんて有り得ませんからね」
「人を隠すなら人の中、という考え方もありますが」
「それなら、王都の方が適任でしょう。わざわざ、地方の都市を選ぶ必要はない」
「では……。そろそろお引き取りを」
「お時間を取らせてしまって、申し訳ない」
「警部……」
「ちょっと、攻め過ぎですよ」
「こっちで勝手に健屋氏の居所を探って、逆凸してもいいんだけどな」
「仮になにもなかった場合、我々の立場が危うい」
「星川が持っているとされる、空白のBL本……。描いた内容が現実になるとすれば、当然、あらゆる連中が欲しがるだろう」
「大空警察も、その一員なのでは」
「馬鹿言うな、俺たちは市民たちの安全をだな……」
「よ、お前ら。暇か?」
「ほ」
「本間警視……!!」
「どうして、ここに」
「別にいいだろ?やっぱ、刑事は足で稼がないとな!!つって」
「星川なぁ……。俺の娘も、丁度彼女と同い年くらいなんだよ」
「そうなんですか」
「そんな小娘がいきなり消えたとなりゃあ、それは心配で堪らないだろうなぁ……。一刻も早く、俺たちが捜し出してやらないとな」
「それは、もちろんですが……」
「教団関係者の動きが活発になってること、理解ってるよな?」
「はい」
「連中が掲げる、新世界……。いや、深脊界の神様とやらに、AHOも含まれているらしい」
「古参使徒に、ですか……!?」
「その名称も、別に一般的じゃない。下手に口に出すんじゃねえぞ、お前ら」
「ま、俺も知ってることしか知らねぇよ。俺より偉い奴なんて、腐るほど転がってるんだからな……」
「お互い、命は大事にしようぜ」
「……」
「……」
「警視がここに来ていること、知ってましたか?」
「知らなんだ」
「神椿教団が唱える理想郷、深脊界……」
「その名の通り、それはもう素晴らしい新世界なんだろうな」
「そのモデルケースとして、神椿市を選んだ」
「警部」
「ああ……」
「この街は、どこかおかしい」