【】や き そ ば【】
「助手席、失礼するよ……。ンナータ」
「ナカタソ」
「別に、これといって用事はないよ。五億年前の昔話をしにきただけさ」
「存外、貴様も暇なのだな」
「これだけの時間が経てば、地球も人類も滅んでいると思っていたけど、案外タフなもんだよね……。クソマゾなんだ、どいつもこいつも」
「たとえ銀河系が爆発したとしても、王族は滅びない。王族とはそういうものだ」
「そうなんだ……」
「ナカタソ、貴様が被っていた妙な帽子はどうした」
「ベリアルのことかい?今頃はもう、ギャングタウンに着いてるんじゃないかな。アクターンとの戦闘中に、天使族による封印が完全に解けたんだよ」
「封印?それは既に、シオッコが解除している筈だろう」
「五億年前のホロサマで、大天使はベリアルを一際入念に封じ込めたんだ……。なんせ、彼はあのラグナロクの火蓋を切って落とした大罪人だからね」
「随分と、血気盛んな輩なのだな」
「何故か、ベリアルはやたらと血の狂宴を開きたがるんだ……。頭は完全にトリガーハッピーだし、こっちとしてはいい迷惑だよ」
「ちなみに、僕がどうしてここまで詳しいかっていうと、堕天使として天界と魔界を行き来できるからです。全く以て不服だけど……」
「魔界とやらは、もんざえもんがいる地獄とは違うのか?」
「違うよ。なんなら、天界と天国も全くの別物」
「厳密に言えば、霊界と冥界も別物だし、精霊と妖精も別物だ」
「ややこしいのだな……」
「世の中には、二種類の人間がいる。白黒はっきりさせないと安眠できないタイプと、グレーゾーンで安定してないと安眠できないタイプ」
「ベリアルはきっと、夜な夜な血の狂宴を開かないと安眠できないタチだったんだよ」
「傍迷惑な話だ」
「とはいえ、彼は当たり判定が異様にでかいから、自身の戦績は芳しくなかったみたいだけど……」
「だが、第二次ホロサマを求める声はベリアルだけではないぞ」
「まあね……。ベリアルに精神を侵蝕されてたせいもあるけど、僕も別に、ホロサマの勃発に吝かではない」
「何故なのだ?」
「逆に訊くけど、ホロサマを観たくない人間がいるかい……?」
「貴様は天使だろ……。一応」
「昔の偉い人はこう説いた。十三話全てが水着回で構成されたアニメがあったら、それは間違いなく神アニメだと」
「五億年前も、スターテンドでの大戦で世界の終末が訪れると散々、喧伝されていたが……。結局、そんなものはやってこなかったな」
「当然さ。終末論者も厭世主義者も、終末は独りで勝手に楽しめばいい。己の命の終わりというね」
「しゅつまつ……。週末?週末、独り……。うっ、頭がッ」
「五億年も霊体で彷徨っていた貴様なら、週末もクソもないだろう……」
「姫様は、まだ到着しないのか!?」
「会食を引き延ばすのも、そろそろ限界ですよ……」
「しょうがないっすねぇ……。麺屋ぼたんの厨房、ちょっと借りるっすよ」
「オスバル……?」
「よお、アクターン。随分と久しぶりな気がするな。はっはァ!!」
「ベリアル……。シオッコ、貴方が魔族を復活させた弊害が、こうして如実に現れていますよ」
「おいおい。人を指差して弊害呼ばわりとは、寂しいこと言ってくれるじゃねえか、ブラザー」
「貴方は魔族でしょう……。そして、私は貴方のブラザーではない」
「むぅ!?こっちに別部隊だ、撃たれてるッ!!」
「撃たれてない撃たれてない」
「五億年前も、彼は全種族みなブラザーと謳っていたじゃなイカ……」
「当然さ。天使族でも魔族でも人間族でも……。家族とは、年がら年中喧嘩しているもんだろう?ファミリー」
「ブラザーより範囲の広い概念に変えてきたッ」
「そもそも……。オスバル、私に魔族復活を唆したのは、他でもない君だろう?」
「人のせいにしないで欲しいなぁ……。誘ったのはこっちだけど、乗ったのはそっちっすよ?」
「つーか、なんでシオッコが第一次ホロサマを知ってんだ?」
「記憶を継承しているからですよ……。彼も一応、王族なので」
「はあ、はあ……。頼まれていたもの、全部買ってきました」
「どんちゃんッ」
「兎族の末裔か……。道理で、俊敏なワケです」
「嫌そうな反応だね?アクターン」
「歴史上、どの時代を鑑みても、兎族は決して表舞台に顔を出さない……。常に立場を変動させ、体制とは反対方向に舵を切る」
「レジスタンスが優勢と見ればSSSにつき、SSSに風が吹けばレジスタンスを味方する、ということかい」
「そういうことです」
「そんな兎族にとっては、速さこそが命。ぺこーらの元でこき使われるどんちゃんについたあだ名が、電光石火のパシられ屋」
「普通に可哀想」
「オスバルさぁん……。この材料で一体、なにを作るつもりなんです?」
「究極の愉悦……。それを体現する、地球最強のグルメっすよ」
「アクターン、食材に天使の恩寵をかけてくれないっすか?」
「何故、私がそんなことを……」
「だって、ほら……。みんな、君のことが大好きだろう?天使族に逆らえば締まっていく天使の輪が、このギャングタウンの雑踏の中で、誰一人として発動していない」
「た、確かに」
「みんな、大天使のこと好き過ぎ……!?」
「殆ど、天使族の復活が認知されてないだけじゃなイカな……」
「はっはァ!!お湯を入れ終わったぜ、ファミリー」
「よし、これで準備完了っすね」
「アクターンさぁん……。ここはいっちょ、やっちゃってくださいよぉ〜」
「まったく……。そこまで言うなら仕方ないですね」
「スゥ〜……」
「美味しくな〜れ、萌え萌えきゅ〜ん!!」
『しゅわわぁ〜(天使の恩寵が迸る音)』
「こちら、メインディッシュの……。カレーメシでございます」