清く、正しく、美しく
ガタコー、二年A組、
薊、茨、薪、椿、閏の五人は、【箱庭師団】を名乗り、
【倫理委員会】とは別に、【異世界夭逝】の最終回を回避しようと、行動を始めていた。
ここは、都の【伏魔の神殿】。
船頭多くしては難破必至なので、【倫理委員会】の代表者、帝と、【箱庭師団】の代表者、薊は【伏魔の神殿】内部の円卓で向かい合った。
「随分と、下品な連載をしているようですね」
優雅に紅茶を嗜みながら、ガタコーの生徒会長も務める、A組の名実ともに花形、薊が帝に問いかける。
「お前ら、【大災害の夜】を阻止する為に、随分と頑張ってるそうじゃないか」
「当然です。千年周期で、全ての生命が初期化される?そんなの、まだ赤ん坊な命にとっては、あまりにも酷なことではないですか。ですから、【救済の勇者】である私たちは、機密資料の導きに従い、全力でそれを回避するのが使命なのですよ」
悠然とした薊の態度に、帝は心底から、溜息をつく。
「馬鹿か?そんな糞みたいな使命に従う理由が、どこにあるんだ」
「失礼ですね。私は、私たち【箱庭師団】は、この世界を救おうとしているのですよ?その使命を放棄して、【大災害の夜】が訪れるまで、遊んで過ごそう?どう考えても、身勝手で間違っているのは、あなたたち【倫理委員会】です」
毅然と立ち上がった薊は、【天人の御旗】の威光によって守られた【調停の玉座】に、さも当然の如き所作で腰をおろした。
「いいですか?まず、【大災害の夜】を回避する為の大前提。それは、【リーズブル】の【クインハルト家】、【魔女の森】の【ゴディア家】、【ゴヨウ村】の【灯の血脈】、【サンドバンド】の【ヌビドゥー家】、それぞれの血統を辿った先に君臨する、神祖……。十三次元に存在するという最上位意思決定機関、【連載終了会議(ウィークエンドサバト】を構成する一柱、【四天の原神】、【メノウ=エステ】を降臨させることです」
「長い長い長い長い、長いって」
発狂しかける帝を無視して、薊は続ける。
「【メノウ=エステ】の降臨には、【極光の使徒】、【慟哭の英雄】、【不殺の剣聖】、【霧雨の巫女】……。それぞれ、【救済の勇者】から選抜された、四人の優等生が集まる必要があります」
「あ、すげえでかい耳糞が出た」
「いいですか……。次の千年周期を迎える為に、【救済の勇者】の中から、三人の劣等生が選ばれてしまうのです。機密資料によれば、【再生の神樹】を守護する二柱の神々、【創世の連理】に選ばれるのは、あなたたちB組の、司さんと雀さん。それから、【灼熱の門】の奥底、【釜底の悪魔】と契約し、来る千年、その全ての人類悪を一身に背負うのが、帝……。あなたです。【創世の連理】と【釜底の悪魔】に選ばれた劣等生は、たとえ、【異世界夭逝】をクリアできたとしても、現実世界に帰ることはできない。帝さん。そんな結末は、どう考えても不可解ではないですか?【原罪の書】によって定められた【大災害の夜】を回避するには、【メノウ=エステ】を降臨させ、【原罪の書】の内容そのものを改めさせる必要があるのです。私の言っていることが、間違っていますか?」
薊は、自信満々な態度を崩さない。
帝は、円卓に並べられた菓子をつまみながら、
「○ルフォート、ないの?」
「私の話、聞いてましたか?」
「お前、教職、向いてねえな。どんなに正論を並べられようが、つまんねえ奴がするつまんねえ話は、微塵も頭に入ってこねえんだよ」
【脳汁全開購買部】で買った○クターペッパーを呑み干しながら、
帝は続ける。
「既に、C組の【歴史改変考古学部】、D組の【空虚観測天文学部】、E組の【超常現象糾明学会】、そして【校外学習先遣部隊】とは、【一騎当千放送室】で協力態勢をとりつけてある。お前ら【箱庭師団】が【倫理委員会】に吸収合併されてしまえば、万々歳。俺を指示系統の頂点に据えて、【多次元移動教室】を本格稼働させられるんだ」
今度は、薊が溜息をつく番だった。
「ありえませんね。あなたみたいな下品な人が、みなさんの命運を導くなど」
「随分と、自分の手腕に自信があるんだな」
「当然です。私は、ガタコーの生徒会長ですよ?」
【調停の玉座】から立ち上がった薊は、【天人の御旗】を振り仰ぎ、
それから、その威光を一身に受け、穢らわしい蛮族に向き直った。
「【極光の使徒】である私が、清く、正しく、美しく。この連載を大団円に導いて差し上げます。そして」
つかつかと、優雅な足取りで帝に歩み寄り、
爛々と野望に燃える瞳が、睫が触れんばかりの距離。
「その暁には、小学校低学年でも読める段階になるまで、【異世界夭逝】を【原稿添削】してもらいます」
「どんな餓鬼でも、いずれは穢れを知るんだよ。白ポストおばさん、怖すぎっ」
「この【異世界夭逝】の主人公は、司さんなんですよね?そして、メインヒロインは雀さん。だから、あの方々は悠久の時間を共に過ごす、【創世の連理】に選ばれた。不可解なような、大団円なような……。それに比べて、あなたは、なんなんですか?【釜底の悪魔】。そんなものと契約して、残虐な描写ばかり繰り返して。青少年の育成に、悪影響を及ぼすとは考えないのですか?主人公ではないあなたは、もっと出演回数を慎むべきなのです。あなたは、なんなんですか?この世界の、【異世界夭逝】にとって」
「俺は俺だ」
主役でも、脇役でもない。
「この心臓が動く限り、俺は俺であることを諦められないんだよ」
帝は、【調停の玉座】に歩み寄り、
「待ちなさい!そこに近寄るのを許されているのは、【極光の使徒】に選ばれた優等生だけっ」
「雑魚は黙っとけ」
一転、騒然。
【伏魔の神殿】を守護する【白亜の騎士団】、その上位騎士たちが一斉に、帝の周りを取り囲んだ。
「ふがもうがのうさのほのうむが」
「なんて?」
くっちゃくっちゃとチューイングガムを噛みながら、帝はスクールバッグからスプレー缶を取り出し、
【天人の御旗】に向けて、
しゅ〜。
「なんてことを……!!」
真っ赤なスプレーで、描かれたそれは、
「一つの突起に、二つの膨らみ。これ、なんだと思う?」
「あなた、本当に死にますよ」
「これは、【ちんこ】だ」
「ちん……っ」
上位騎士たちの攻撃が、一切に帝に襲いかかる。
が、
【童貞を護るパーカー】の加護によって、かすり傷の一つもつかない。
帝が童貞じゃなかったら、耐えられなかった。
「お前がその気になったら、いつでも【一騎当千放送室】に連絡してくれ。【多次元移動教室】で迎えにきてやるよ」
腹癒せに円卓の椅子を蹴っ飛ばしながら、帝は【伏魔の神殿】をあとにする。
「あなた……。いくらなんでも、ふざけ過ぎですよ!!」
【白亜の騎士団】によって、【倫理委員会】の悪行は【異世界夭逝】の全土に知れ渡り、
生死を問わない、広域指名手配犯に……。
【叛逆の神童】に、帝は指定された。
「薊」
帝は颯爽と振り返り、
「俺はお前とも、セックスしたい」




