天敵
だが、己の心臓に向けられた【殺意】を【魅力】に変換するには、それなりに技術と体力を要する。
これまで俺は、ありとあらゆる手段で【殺意】の奔流を躱してきた。
まずは、【遊戯】。
言葉遊びを弄し、巧みに【殺意】の到達を遅らせる。
これにより、処理し損なった【殺意】による負傷を防ぐことができる。
更に、【失踪】。
これは、俺に対して一方的に【殺意】を向けてくる、
そんな、雑魚にしか通用しない【本懐】。
勘違いするな。
俺は、【運命の心臓】と繋がることで強くなったが、
その、【運命の心臓】から発せられる【殺意】だけは、
いかなる【本懐】、【火花】を用いても、軽減することが叶わない。
つまり、僅かな【殺意】の対応を誤れば、
俺は、
死ぬ。
毎秒、天国と地獄が切り替わるような、極限状態。
その環境を一年ほど、死に物狂いで生き抜いた俺は、【霊言師】として、【文学的同素体】として、
そして、【弩級】を冠するほどの実力を得た。
「あんたも、【性的魅力】に頼るやり方じゃ、【魅力】が頭打ちになってきた訳だ」
霈先生から距離をとり、俺は一先ず、心理戦に誘う。
「なに?そんな下手な挑発に、私が乗るとでも思ってるのかな」
しぐ……。
霈先生は、動かない。
標的の周囲には、大量のJKが肉壁として配置されている。
厄介だ……。
所詮はJK、俺の【修繕】や【情動】で屠るのは容易い。
だが、しかし、
あの画風のJKを残虐な殺し方をしたら、【信者】からのバッシングに遭いかねない。
そもそも、普通に俺も【信者】だ。
そう……。
それこそが、【霊言師】同士の【豪華絢爛】、その難解な部分である。
非難されても仕方がないような極悪人なら、俺の【本懐】と【火花】で野菜炒めにしてやる。
だが、
この段階の、【超人界隈】を生き抜いてきた【弩級】同士の顔合わせとなると、
互いが互いの【信者】を率い、飛び抜けた【魅力】と【魅力】のぶつかり合いが発生することになる。
その余波は、もはや俺たちだけの手には負えなくなるだろう。
「この【豪華絢爛】の利点。それは、俺を下回る段階の男は、もうあんたに近寄れなくなることだ」
「そりゃどうも。余計なお世話だけど」
「まあ、俺も同じく、【先生】と呼ばれるような立ち位置なんだよ。だから教えてやる。なぜ、冒険を冒してでも、あんたを巻き込んだ茶番を書く気になったのか」
「なぜ」
「心の法律が、あるんだ」
「それは、まさか」
「そう」
それは、誰でも知ってる。
小学校、低学年でも理解できる。
「頑張ってる奴がいたら、応援するのさ!!」
俺はJK軍団との睨み合いを放棄し、全力疾走で下駄箱へ向かった。
廊下は、走っちゃいけません。
「どこへ?私の【天蓋】から逃れられるとでも?」
「ママー」
「ママー」
考えろ。
考えるんだ……。
自我が失われているとはいえ、相手はJK。
流行りものには、弱いはずだ。
いつか、どっかの国の大統領が言っていた。
「可愛いは、おっさんが作っています」
その通り、だと思う。
「なっ」
先回りしていた一匹のJKに足を掴まれ、俺はグラウンドのゴールポストに叩きつけられる。
「ママー」
「ん〜、よくできまちたねえ、可愛いねえ。新衣装、描いてあげようねえ」
「糞……っ!!」
息が、できねえ。
あまりの激痛。
一斉に群がる、JK軍団。
殺られる。
「口ほどにもなかったね」
「JK、は」
「ん?」
「自分たちが、流行を作っていると、そう、思っている」
「実際、そうでしょ。JKこそが、時代の代弁者なんだ」
それは、違う。
「認めるよ……。俺はもう、老害だ。最近の流行りが理解らない、おっさんなんだ。設定的には、まだ高校二年生だけど」
「そういう可哀想なお友達は一生、電脳老人会の檻の中に飼われていればいいのさ」
「だがな」
俺の使える、道具。
それは、
さっき、予期せず霈の【煉獄】まで持ってきてしまった、
バナナ。
「流行が追えない年にまでなって、ようやく、気づいたよ」
「なにをっ」
「既に俺は、流行を手掛ける側にいたんだ」
俺はバナナの束を高らかに掲げ、
叫んだ。
「お前ら……。次世代の流行に乗りたくはないか!?」
瞬間、
全てのJKの動きが、止まる。
「韓国で一番、流行ってるやつなんだけどさ。この中にこれ、知らない奴おるう!?」
俄に、JKたちがそわそわし始め、各々が端末を取り出し、
戦闘を放棄してしまった。
「なっ……。娘たち!?なにをしているのっ」
「なあ、霈先生。あんたにも、親のことなんか聞きたくない、そんな尖ったJK時代があったはずだ」
「いや、現在進行形でJKですけど」
「まあ、それは兎も角」
「おい」
「勝手に、育つもんなんだよ。JKってのはな。だから、俺たち老人にできることは、強制ではなく、後衛なのさ。時代の主役は、もう俺たちじゃない」
「でも、実際にJK時代を経験した私と違って、君にJKの心を掴む流行なんか……」
「これは、【おじさんのバナナ】だ」
「!?」
帝は高らかに掲げたそれを、グラウンドの真ん中に放り投げた。
JKたちに、緊張が走る。
「さあ!みんな、流行に乗り遅れなくはないだろう?むしろ、時代を牽引するのは私だ!それくらいの意気込みじゃなきゃ、たかしくんのハートはゲッチュできないぞっ」
「馬鹿な……。そんな糞みたいな誘導に、私の娘たちが引っかかる訳がっ」
「ちなみにそれ、ス○バの新作」
瞬間、
一斉に、JKたちが【おじさんのバナナ】に群がっていく。
「あり、えない」
「ママとして、認めたくない現実はあるよね。でもさ……。目を開いて、よく見てご覧よ。結局、みんな、【おじさんのバナナ】が大好きなんだよね。栄養は豊富だし、経験充分なおじさんの方が、色々と安心だもんね」
「この、糞野郎……」
霈先生が指を鳴らすと、JKたちが一斉に影となり、
姿を消した。
「降参、ってことでいいのかな?」
「こんな不快な【非公認二次創作】……。私の【信者】が、君を殺しにいくかもね」
「安心しろ。俺はもう、【運命の心臓】から投げられる【殺意】以上に命懸けなものはないと、悟っちまったからな」
「まあ、それなりに楽しい【豪華絢爛】だったよ。ああ……。最後に、一つだけ」
「なんすか」
「最後まで、警戒は解かない方がいい」
次の、瞬間、
校舎の裏に潜んでいた、
身長、3mはあろうかという巨大なJKが、恐ろしい速度で帝に駆け寄り、
その心臓を、ぶち抜いた。
「がっ、はあ」
「私のJK【渾】は他の【弩級】にも傷をつけた……。不意の君をぶち抜くくらい、訳ないさ」
その日、
帝は、死んだ。




