しあわせなひと
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
車両の中に、女性の金切り声が響き渡った。
その女性とは別に、胸にナイフが突き刺さった女性が一人。
その前に、興奮状態で突っ立ってる女が一人。
女、多いな。
さて、
今回、俺が試す【本懐】は〜?
そうです、【情動】です。
これは、熱さと冷たさ、つまり炎と氷の両方を操る素晴らしい【本懐】である。
氷と炎、両方、使えた方が絶対、強いもんね。
「この女……。この女が悪いのよ!!ちょっと、ちょっとだけ顔がよくて、金がある家庭に産まれたってだけでさあ!!理不尽じゃない……。私だって、私だってっ」
「取り込み中、失礼するぞ〜」
「誰!?」
「なんか車内の冷房、効きすぎじゃね?ちょっと、あったかくしようね〜」
それから、女の上半身は火炎に包まれた。
「あああああああああああああああああああああ!!」
「どしたん。やっぱ涼しい方がよかった?」
優しい俺は、【情動】の力で今度は氷漬けにしてあげる。
「あっ……」
「じゃあもう、両方、繰り返してさ、健康になっちゃおうよ。なんか、そういう健康法ってなかった?知らんけど」
熱い。
冷たい。
熱い。
冷たい。
熱い。
冷たい。
熱い。
冷たい。
ただ、その繰り返しの中を彷徨って、
女は、完全に動かなくなった。
さて、
性癖の開示は済んだ。
「実際は、もっと早く死ぬな……」
遠い目をした帝は、無賃乗車を咎められるのが嫌なので、【発信】と【黒幕】の合わせ技によって、目撃者、全員の記憶を消去した。
「さて、そろそろ、お前らの【火花】を聞かせてくれよ」
駅の改札を抜け、悠々と帝は街並みを闊歩する。
夕焼けが、綺麗だった。




