表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/1713

旅立ちの日に

 ここは、【虚言街ゴーストタウン】。


 廃墟の一室。


 ねずみは豪勢なソファにどっかと腰をおろし、からすはネオン煌めく室内を几帳面に掃除していた。


 そして、つかさ


「ここは……」


「ここは【虚言師ゲームチェンジャー】の本拠地、【虚言街】だよ。で、私たちはまとめて【虚言輪廻アカシックレコード】という組織です」


「こ、固有名詞っ」


「まあ、平たく言えば【文学的同素体ライフライン】と対になる存在だね。奴らが横軸、私たちが縦軸に人類の歴史を支えている、って説明すれば分かりやすいかな」


「いいえ、全く」


「おい、烏」


 煙草に十本、同時に火をつけた鼠が豪勢に煙を吐く。


「俺たちは……。ごえっほ、えっほ」


「ごめん。この人、肺が終わってるから」


「はあ」


「いいか、新入り。俺たちの役目は……。えーっほ、えっほ」


「で。司、君は今日から【虚言輪廻】の一員として、この世界に関わってもらうよ」


「強制ですか」


「強制です」


 俺が。


 俺は……。


「あの」


「なに?」


「帝、は」


「彼は、【文学的同素体】の一員になったよ」


「そうですか……」


「気になるんだね。恋人?」


「それ以上です」


「なるほど。じゃあ家族だ」


 俺は。


 家族の、


 心を、殺した。


「泣いてるの?」


「泣いてる、みたいです」


「帝の心が死んだ時、司の心も死んだんだね」


「はい」


「そうして、二つの心が一つになった」


「……」


「君たちは、互いが互いの【勇者ファーストペンギン】だったんだよ」


「俺は、あいつを」


「過去は戻ってこない。でも、なかったことにもできない。その為に、私たち【虚言輪廻】と、【文学的同素体】の両方があるんだ」


「はあ」


 それから、烏は説明した。


 自分が世界の脇役だという勘違いを捨て、


 いつか、自分が必ず死ぬということ気づくこと。


 それが、【文学的同素体】の一員になる為の第一条件。


 そして、


 自分が世界の主役だという勘違いを捨て、


 既に、自分が死んでいるということに気づくこと。


 それが、【虚言輪廻】の一員になる為の第一条件。


「この女は偉そうに、俺に説教を垂れようするがな。この【虚言輪廻】とやらを創設したのは、他でもない中学時代のこいつなんだ」


「そ。私ね、あの頃、自分がいつか死んじゃうことが堪らなく、怖かったんだ。でも、そんな日々の中で、鼠と出会った。鼠は亡霊だったんだ」


「亡霊だったんですか」


「亡霊だったらしい」


「でもね、肉体はいつか滅びる。だったら、私たちそのものも亡霊と変わらないじゃない?そう思ってから、私は思春期の危機を一つ、脱したんだ」


「はあ」


「司。君にはこれから、【虚言師】として働いてもらうからね。いいかな?」


「でも……」


「でもじゃない。これは強制で、義務なんだ。宇宙の法律とでも言えばいいかな」


「宇宙の」


「君が、歴史を変えるんじゃない」


 いつか、帝に言われた気がする。


 お前は、いつか歴史を変えるかもな。


 俺、自身も……。


 ずっと、そう思ってた。


 自分だけは特別だと。


「司は特別だよ」


「……」


「帝も特別で、みんな、特別なんだ」


 そうだ。


 俺は、そんな簡単なことにも気づいていなかった。


 馬鹿だった。


「私たちは、【虚言師】。いいかな、司」


「はい」


「君が産まれた瞬間に、人類は転換期を迎えたんだよ」


 遥か広大な銀河の、ただ一点。


 その心臓が、その鼓動の一つ一つが、


 他でもない、人類の歴史を紡いでいく。


「俺は、そんな」


「君は、特別だ」


「俺は、帝を傷つけた」


「だったら。罪を負ったなら、罰を受けるのが当然なんじゃない?」


「罰」


「罪を償い、恩を返していくことが」


「恩」


「司と帝はさ、お互いに【最初の心臓】だったんだよ。世界を知る為の、他人を知る為の一人目だった、ってだけ。初めてってのは、誰にでもあるからね」


「でも、俺は帝を殺しかけた。そんなことで、言い訳できることじゃ」


「だから、これから取り返すんやろがい!君の心は、既に帝の心と一つなんだ。君がまた心の法律に違反すれば、帝の心も死ぬってことをいい加減に自覚しなよ」


「はい……」


「司が【虚言輪廻】の一員として果たすべき義務。それは……」


「それは」


「幸せになるんだ」


 幸せ。


 ずっと、縁が遠かった言葉。


「俺に、できますか」


「できるできないじゃない。やるんだよ」


「俺が」


「歴史を変えるんじゃない」


「俺、自身が」


「歴史なんだ」


「俺には及ばんが、な」


 屑の先輩、鼠は大仰に踏ん反り返っている。


「こいつは無視してもらって……。司にはこれから、【原罪の書】を読んで、体内に【物語因子トロイメライ】を取り込んでもらうね。勉強だね〜。世の中、勉強しない奴から順番に死ぬからね。マジで」


「【原罪の書】……」


「そして、【虚言師】になった君は、人類の敵である【救人キュート】を殲滅するんだ。一匹残らず、ね」


 帝。


 この世界のどこかで、生きているんだな。


 よかった。


 本当に、よかった。


 それだけでいい。


 俺は、取り返しのつかないことをした。


 だから、もう傷つかないでくれ。


 幸せに、なってくれ。


「あ、そうそう。これだけは言っとく。君たちさあ、親友関係に気持ちよくなりすぎ。それ、割と普通だから」


「そうなんですか」


「そういうの、なんていうか知ってる?」


「知りません」


「司は、帝と違って目上の人に礼儀正しいね……。で、そうそう」


 世界と関わる為の、【最初の心臓】。


 それを喰らい合った、宿命の好敵手ライバル


「それは、互い依存することなく、互いの仲間に囲まれて、独りではなく、一人で。この先の未来を、大海原を、どこまでもどこまでも、真っ直ぐに進んでいくことができる。そんな関係」


「それ、って」


 そう。


 それが、


「それこそが、【平行線ペンギンハイウェイ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ