ルール説明
「つまり、既にこの世界の雛形は決まってるってことだな?」
手持ちのカードを一枚伏せ、操は会話のターンを終わらせた。
帝のドロー。
「ああ。リーズブルの王族、クインハルト家。そして貴族のゴディア家。ゴヨウ村の灯の一族。サンドバンドのププヤ朝。魔女の森と、その館。ポートビス海峡の幽霊船。金色の花園。悪夢の楽園。戒めの里。禁忌の町。そして、灼熱の門。あらゆる伏線が既にこの世界には用意されている」
「ま、待て待て。初見の固有名詞がいくらなんでも多すぎる」
「はにゃ〜?」
「絶対、そのリアクションではないだろ」
「つまり、お前の反論を無効化し、破壊する」
「それ、一日に一回とか制限あるか?」
「ない」
「強すぎる……。環境変わるぞっ」
「更に、デーモンの小野の召喚を召喚」
「なんて?」
「ダイレクトアタック」
「ライフで受ける!」
「さあ……。どうなる」
「トリガーは……。来たぜ、マイフェイバリットカード、【死ね】!」
「カウンターリリック発動、【俺の宣告】。お前の存在を無効化し、破壊する」
「ぐわああああああああああああああああああああ!!」
「で」
「ああ」
「ネタバレ資料通り進めば、最終的にこの世界には【大災害の夜】とやらが訪れて、滅びる」
「ざっくりしてるな……」
「回避する術は、ない」
「絶望すぎる」
「だが、【釜底の悪魔】と契約した俺には考えがある」
「また出たよ、知らない固有名詞」
「灼熱の門のその先で、俺は奴と出会った。いや、そもそもこの世界そのものが俺の心象風景なんだよ」
「本当かっ」
「だから、先代のゲームマスターはぶち殺した」
「お前の言うことが本当なら、そいつの存在すらもお前の想像……。空想?の、一部ってことになるが」
「ああ。だから、この世界で俺の意に反して動き回れるのはお前らだけだ」
「他の……。他のクラスメイト、他の連中は、どうした。どうするつもりだ」
「乗りが悪そうだから死んでもらう」
「基準が独善的すぎるっ」
「待っている時間はないんだよ」
俺は、
俺はようやく、俺の心臓と歩んでくれる人を見つけたんだ。
ここで、死ぬ訳にはいかない。
賢しらぶって、命を捨てる訳にはいかないんだ。
だからこそ、命懸けでいく。
ぶっちぎってやる。
俺の心を救う物語を、なにもしないまま諦めようとしたあの日の俺を。
「だから、つい先日まで、この世界が向かう先はバッドエンドしかなかったんだ」
希望が潰える物語。
その先を想像しようとしない、怠惰な物語。
心臓を知らない物語。
今は、違う。
「これは、俺が生き残る為でもあるんだ」
他人に心臓を預けてはいけない。
命の価値を低く見積もってはいけない。
諦めたらそこで、試合終了だ。
だから、諦める時は死ぬ時でいいんだ。
現状、俺は生きている。
希望を捨てても、四肢が動く。
心臓が動く。
心が動く。
夢を諦めて、なにもしないまま朽ちようとする日々。
それを、生き地獄という。
俺は、楽しく、笑って、楽に生きたいんだ。
だから、この世界を楽園に変える為に。
他でもない、自分自身の為に。
この世界のバッドエンドを、覆す。
そして、
現実世界に、地獄を描く。
「この世界では、俺がルールだ」
「そんな台詞、生身の人間が言ってるの、初めて聞いたぞっ」
「だから、ルール説明をしよう」
「なんじゃ」
「俺と、お前と、錦、篝、それと委員長」
クラス委員長の薺。
「歴史は変わらない。死んだ人間は戻ってこないし、失われた心臓は、永遠に消え去る。だが……。それらは全て、悠久の流れの中に吸い込まれるんだよ」
「へえ、初耳」
「俺たちが、人になる前、精子と卵子だった、更にその前。人類の爆誕する、もっと前。ビッグバンより以前……。そう考えていけば、俺たちが存在すること、そのものがフィクションなんだ」
「壮大だな」
「歴史認識の話じゃない。心の問題だ。心象風景の問題なんだ。人の死を。戦争を。犯罪を。あらゆる理不尽を、それでも人類は受け止め、消化し、そして昇華して、不可逆的な時の流れに身を任せてきた。未来永劫、それは変わらない。いいか?これは綺麗事でも、素晴らしき善人のありがたいお言葉でもない。俺たち自身がメカニズムになって、そして、俺たち自身が世界になる為に必要な義務なんだ。全ては、義務だ。最低限の義務を果たして死んでいくのが、大人ってやつさ」
そうだ。
そして、幸せになるのも、義務なんだ。
俺たちが産まれ。
俺たちが存在していることそのもの。
それが幸福の形なのだ。
もし、
それが理解できない奴は。
大至急、
首、括ろうね〜。
「で、お前たちにも大至急、【霊言師】として【文学的同素体】の一員になってもらいたい」
「暗記事項が多いなあ!」
「できるだろ。お前は学年で一番、頭がいい」
「錦と篝にはきついだろ」
「大丈夫だ。奴らは馬鹿だが、馬鹿ゆえに根性がある」
元気と根性がない馬鹿に、需要はない。
かつての俺がそうだったように。
なあ、親友。
俺たちはいつだって、この世界に憧れて。
信じて生きてきた。
なぜだろう。
思い出した景色は、旅立つ日の綺麗な空。
抱き締めて……。
死ぬには、まだこの先を生き抜かないとな。
「現実世界にも、この世界にも、あらゆる伏線が張り巡らされている」
「ああ」
「ここにいる馬鹿どもで、その全てをぶっちぎってやるんだ」
「あ、こいつは相手の効果の対象にならないから破壊されない」
「許せね〜」
「許せ」
「で。取り敢えずはお前たちにも全員、【原罪の書】を読んで体内に【物語因子】を取り込んでもらいたい」
「健康被害が出た場合には、どこに問い合わせたらいいですか」
「適応できない雑魚は、死にましょ〜」
「最低すぎるっ」
「それが、基本的な淘汰のメカニズムだ。大丈夫、雑魚の骨はまた別の雑魚が拾ってくれる。あ、このモンスターも効果の対象にならないから破壊されない」
「いや、これは対象に取る効果じゃないからそのまま墓地へ送る」
「許せね〜」
「許せ」
親友。
馬鹿な俺でも、ようやく理解したよ。
人と、人との繋がりは。
縦軸から、やがて横軸へ。
そしてまた、縦軸へと戻る。
親に、家族に守られて育って。
友達や、仲間の存在を知って。
そこで、共に歩んでくれる心臓を見つけて。
灼熱の日々を生き抜いて。
それから、また穏やかな縦軸へと。
親友。
本気で殺し合った日々が、俺の心を土俵際まで追い詰めた。
何度も、何度も。
過去を後悔した。
出会わなければよかったと。
空想の中で、幸せになろうとした。
でも、無理だ。
心臓を知ったから。
絶望を知って。
反面、未来への希望も見えてきた。
あの日……。
俺たちの【大災害の夜】は、あの日だった。
生き抜いたよ。
地獄の淵から、俺は生き延びたよ。
だから、
地上を、地獄で真っ赤に染めたいんだ。
未来への希望。
宝物みたいな子供たちに、
空想の地獄、じゃなく、本当の地獄を知ってもらいたいんだ。
心の血を流して。
流して、
流して、
流して、
流し切ったその先でしか、血は交わらない。
血が交わらなければ、俺たちは存在すらしていない。
縦軸と、横軸が交わる瞬間、爆発的な特異点が生まれる。
お前が、道化に熱量をもらってあの日々を生き抜いたように。
俺が、流星への憧れを糧にあの日々を駆け抜けたように。
それぞれの、縦軸へと、
それから、次の横軸へと。
地獄を見せようよ。
俺は、先生になって。
ストレイシープたちを、灼熱の釜底まで導く。
青春の爆心地へと。
そして、
そうして育てた子供たちに、死ぬまで世話してもらうんだ。
親友。
お前は、自殺できる人間なんだろうな。
それが、排他的な考えなんだと思ってた。
でも、違った。
人の幸せを。
人の死に様を。
人の世界観を。
勝手に、決めちゃいけない。
俺は、ただひたすらに死にたくないから。
この心臓で長生きしたいから。
俺は、自殺を選ぶ人間の心に、どうやっても、絶対に、共感できない。
共感できないからこそ、理解できる。
共感できないことをする人間は、非道で、鬼畜で、心のない人間なんだと思ってた。
そんな奴、人間じゃないと思ってた。
違った。
心のない人間なんて、いない。
人の心の在り方を、勝手に決めるな。
本能から、理性へ。
子供から、大人へ。
俺たちが守るべきは、好き嫌いなんて曖昧な基準じゃない。
ルールだ。
法律だ。
自分が守り、自分を守る為の掟。
ただ、それだけだ。
目に見える肉体だけが、全てだと思うな。
絶対に死んで欲しくない、かけがいのない命。
それが、目の前で。
たとえば明日、お前が死んでしまうかも知れない。
俺の心臓を握っているお前が。
そうしたら、俺の心は木っ端微塵になってしまう。
極限の、恐怖。
違った。
俺の心臓は、俺でしか導けない。
お前が死んでも、俺は生きていけるよ。
その言葉が、非道なものだと思ってた。
違った。
お前がいないと、生きていけない。
そう思うことが、
原子力の爆弾より、
陵辱より、
ジェノサイドより、
もっともっと、非人道的な。
人類が生み出した究極の暴力であることを、俺は知らなかった。
明日、生きても、お前は必ず、いつか死ぬんだ。
だから、
俺が自分で生きたいと思わなきゃ、モョエモンが安心して未来に帰れないんだ。
命は。
いつか必ず、失われる。
だからこそ、尊いんだ。
美しいんだ。
かけがえがないんだ。
どんな死も、フィクションじゃなくて。
肉体が死んでも、心は死なない。
俺たちはもう、【文学的同素体】だ。
不死の肉体、ではなく。
不死の心を、未来へ繋ぐ為。
次の世代へ、バトンを渡す為。
自分の心を救う物語くらい、自分の力で描き切ってみせろ。
めっちゃ、めっちゃ頑張って。
尊敬されて。
嫌なこと全部、次の世代にぶん投げるんだ。
ぶん投げられたら、また次の世代にぶん投げてもろて。
それ、俺たちもやられてきたことだから、
俺たちはみんな悪人で。
だからこそ、みんな悪くない。
笑って死のうぜ。
子供の頃。
テレビに出てるきらきらした有名人たちと比べて、同世代の癖に俺の親たちは負け組だと思ってた。
違った。
魂のレベルが違いすぎた。
恥ずかしすぎて、死にそう。
初めての、友達。
付き合いじゃなくて、
体だけじゃなくて、
心を開いた、本当の。
お前は、道化に。
俺は、流星に心を救われてきたから。
だから、交わったんだ。
だから、世界が終わったんだ。
だから、世界が始まったんだ。
心臓は、あげられないよ。
自分の心臓は、自分でしか守れない。
だから、心をあげるよ。
お前が死んでも、お前の心は死なない。
俺が死んでも、俺の心は死なない。
俺たちは、心臓で繋がっちゃいけない。
心で、繋がるんだ。
その為の力を、【原罪の書】は与えてくれる。
一度、宿った【物語因子】は、肉体が朽ちても消えることがない。
俺、心を預けられる心臓を見つけたんだ。
ていうか、俺を見つけてくれた。
地獄に、仏だった。
心臓のリズムが、一定になった。
この、一年間……。
設定的には、あれだけど。
本当の地獄を、生きてこられたのは。
ここまで、俺が頑張れるのは。
お前のお陰じゃなかった。
その人の、お陰だった。
どうにか、なった。
助かった。
命が助かって、本当によかった。
親友。
俺は。
俺は……。
お前がときたま、法律に違反したことをやっているのが、堪らなく怖かったんだ。
それを指摘したら、お前の心を壊してしまいそうで。
なんで、他の誰も注意しないんだよ。
そう、思ってた。
違った。
お前が知らないことを、俺が知っていただけなんだよ。
俺が、それを教えてやればよかっただけなんだよ。
俺は、社会の一員なんてださい存在じゃない。
ずっと、俺はそう思いたかったんだよ。
違った。
法律は、守ろう。
俺は、死にたくないんだ。
この広い世界の歩き方なんて、俺も分からん。
だから、明文化されたルールを守ろう。
なにをすればいいか分からなくて、指先が震える時、俺たちが頼るべきは、誰か、の言葉じゃない。
ルールだ。
法律だ。
大丈夫。
ルール違反者を裁く為のルールも、またあるから。
誰にどんな罪があって。
それにはどんな罰が相応しいのか。
それを、自分で考える必要はないんだ。
大丈夫。
お前が法律に違反したことをしたら、俺を含め、社会のみんなが警察に通報してくれるから。
教えてくれるから。
渡る世間って、意外と優しいから。
ひたすら、
ひたすら武装して。
目に映る敵、全員ぶち殺して。
そういう力がないと。
そういう武力がないと。
そういう暴力がないと。
この、残酷な世界な生き抜いていけないんだ。
違った。
ルールを守る以外に、自分の心臓を守る手段はない。
法律を守る以外に、危険を回避して生きる術はない。
ルールを守っていても、ルールの埒外にいる奴に殺されてしまうじゃないか。
違った。
自らがルールの外に出れば、ルールの外に出た者たちに出会うのは必然だった。
当たり前の、話だった。
馬鹿だった。
ただ単純に、馬鹿だった。
要するに、共感ってのは。
あ、この人は私と同じことを考えてる。
同じ未来を見てる。
だから、同じ船に乗っちゃお〜。
独り法師は、寂しいもんね。
そういうことなんだ。
だが、
もし、王である俺の考えに共感してる奴がいるなら、
覚悟しろ。
もし、
共感できない心臓が、物理的にすぐ隣に現れたら。
お前は初めて、この世界の全てが幻想だったことを知る。
幻想を知ることで、現実の歩き方を知る。
共感できない者たちが、どうしたら同じ世界で生きていられる?
ルールだ。
法律だ。
理性によって獲得した、明文化された掟に従って生きればいい。
俺がいつか人を殺したら、しっかり、この社会に裁いてもらうね。
お前がいなくても、大丈夫。
お前も、社会に裁いてもらえる。
みんな、みんな、おんなじさ。
脳の構造って、
同じ人類という種族だし、
みんな、みんな、おんなじ悩みを抱えて生きてきたらしい。
時代は違っても、先祖たちも、
みんな、みんな。
それ、沢山の本を読んできたから分かる。
勉強は大事、って話。
ルールはルール。
お前はお前で、
俺は俺。
現実を知れば、その裏にある幻想が視えてくる。
ああ……。
俺は、ようやく、やっと。
自分の言葉を綴れるようになったよ。
この心臓で。
きっと、後輩たちよ。
お前たちも、いずれこうなる。
こういう、擦り切れたおっさんになる。
だから安心して、生きておいで。
まあ、超絶、理詰めで考えれば分かることで。
仮に、百歳まで生きるとして。
一年、三百六十五日。
一週間、月火水木金土日。
一日は、二十四時間あって。
どんなスケジュール表で生きてるかなんて、みんなばらばらで。
ばらばらなんだけど、一人で生きてはいけないし、みんなでいた方が楽しいから、大枠のスケジュール表、ってのがこの社会にはある。
その中で、趣味を楽しんだり、仕事に勤しんだり、仲間と遊んだり、それぞれの時間の使い方がある。
だから、
大きな未来に進む為には、大きな船が必要で。
別の、大きな船に乗っている誰かを、無理矢理こちらに連れてこようとすれば。
溺死、確定。
ってだけで。
理詰めで考えれば、分かることで。
そして、
いつか、大きな船が進んでいって。
その船は、両方が大きな海を泳いでいって。
平行線のまま。
ずっと、ずっと、平行線のまま。
気づけば、ついてくる船が沢山あって。
いつの間にか、
平行線のまま、
同じ世界に、存在してる。
船に乗り込む前は、分からなかったことだ。
おい。
自殺したくない人向けのマニュアルを、必死に読み込んでいるそこのお前。
偉い。
そして、そのマニュアルが最初から必要ない心臓があるのを知った時。
その時、お前は本物になる。
その時は、お前の出番だ。
「おい、帝。お前のターンだぞ」
ああ……。
降参しなくて、本当によかった。
俺は、弱い。
だけど、昔の俺より、格段に強い。
生きてきたから。
生きてきたからだ。
この体で、生き抜いてきたからだ。
あの日から、姉さんが怖い。
昔から怖かったけど、本当に怖い。
殺されるんじゃないか、と思う。
これまでは、姉さんの投げたボールを、俺はことごとくホームランにしていた。
今は、できない。
もう、俺にボールを投げるのは姉さんだけじゃないからだ。
あの日。
俺は強烈なデッドボールを食らって、負傷した。
俺たちは、悪くない。
悪いのはあの、犯罪者だ。
でも。
休養が必要になった。
深い深い、傷だった。
選手生命が、絶たれるかと思った。
死にたくないと、強く思った。
立ち直れたのは、お前じゃなくて、それから出会った、あいつのお陰で。
要するに俺は、父親になりたいんだ。
守りたい、
って感情を、初めて知った。
だから俺は、姉さんに守られている訳にいかなくなった。
今まで、俺が弱いのは姉さんのせいだった。
だって姉さん、強すぎるんだもん。
いつも、不機嫌だし。
でも、
俺が笑うと、いつも姉さんも笑顔になった。
それで、心の全てが満たされた。
俺、お前にも笑っていて欲しい。
だが、
あの日、
俺はボールを、打ち返せなかった。
言葉が、間違っていたかも。
でも、言葉で人は死なないから。
お前も、悪くないんだよ。
ボールを、初めて投げてみた相手が、俺だっただけなんだよ。
俺は、
はじまりのまちを抜け出したくて、
先に、キャッチャーミットを構えたのは、俺なんだよ。
先に、声をかけたのは俺なんだよ。
理屈でいく。
理屈で説明できないことは、誰にも説明できません。
あの日、俺は傷ついた。
死ぬかと思った。
でも、死なんかった。
それは世界が優しいからで。
悪意だけを信じきっていた俺は、拍子抜けした。
先輩たちの真似事をするのは、気恥ずかしくて、
自意識に蓋をしていたけど。
少年漫画を理解できるくらいには、大人になったんだよ。
俺も、お前も。
お前が悪いとか、悪くないとか。
関係なしに。
俺の体を。
俺の命を。
俺の心臓を、傷つけるなら。
姉さんは命を捨ててでも、お前をぶち殺すと思う。
俺のせいじゃない。
俺、一番にお利口さんだから。
間違ったら、全部、姉さんが叱って、教えてくれるし。
俺は悪くない。
悪いことってのは、法律に違反することで。
法律に違反することをしたら、社会のみんなが裁いてくれるから。
それが、悪い人だから。
もし俺がなにかしらの法律に違反することをしたら、その時に初めて、俺は、悪い人になれる。
人のせいにすることを、悪いことなんだと思ってた。
違う違う。
俺の優しい心が傷つくのは、全部お前らのせいなんだ。
親友。
お前のせいなんだよ。
だって。
俺よりちょっとだけ、大人でないといけなかった姉さんは、大人の世界に夢を見ていたんだよ。
俺は、
姉さんより先に、酒も、煙草も、セックスも、なにもかも、経験することは許されないんだよ。
だから、ひたすら予習をしてきたんだよ。
お前が親同伴で大人の世界に先乗りしてる時。
俺は、大人の世界をひたすら勉強していた。
テレビで。
ネットで。
文献で。
本心を曝け出すのが怖かった。
でも、
俺程度の道化は、みんな見抜いてくれるらしいよ。
よかった。
本当に、よかった。
世界は、敵じゃなかった。
むしろ、
みんなが味方すぎて。
物足り、ない。
俺は、父親になりたいんだ。
守りたい人を見つけたから。
で。
せめて、親として子供に説明できることとして。
食生活を見直して、生活リズムを整えて。
夜には出歩かないで。
防災訓練をちゃんとやって。
交通ルールを守って。
そうすれば、どうにかなるぜ。
そう、説明してあげられると思う。
この世界のルールを。
でも、
もし、自分の子供が死にたがった時、
俺にはそれを教えられない。
俺は、心の底から、本心から。
死んでしまいたいと、思ったことが一度もない。
だって、
俺が死んだら、姉さんが悲しむから。
俺が笑うと、姉さんが笑うから。
姉さんが笑うと、俺も幸せになるから。
俺は、幸せに生きたいから。
お前が、最初のボールを、俺に投げてくれたのはさ。
俺が、はじまりのまちを抜け出すのに、一緒に行く相手にお前を選んだのはさ。
お前の孤独の裏にある自由を、俺が見たいと思ったからなんだ。
俺の抑圧の裏にあるぬくもりを、お前が欲していたからなんだ。
でも、
俺は悪くない。
この物語の加害者はお前で。
被害者は俺だ。
俺は、お前に心を踏み躙られた。
慎重に赤信号を渡ろうとしてる俺の前を、猛スピードでお前は信号無視をして、交通ルールを守った車に轢かれて死んだ。
どう考えても、悪いのはお前。
ルールを守っていないのは、お前。
で。
姉さんは大人の世界に夢を見ていた。
その夢の正体そのものが、お前。
流星だ。
で。
姉さんは俺に、早く独り立ちしてもらいたくて。
楽しく、俺が笑って生きていけるような生き方を示してくれた。
それが道化だ。
少年漫画的な、人生の送り方だ。
俺は、バラエティタレントになりたいんだよ。
お前、芸術家になりたいんだな。
俺は、レベルが百になるまでゆっくりゆっくり、地道に努力を重ねていたいんだよ。
お前は全てをぶっちぎって、早くあの流星群の仲間に加わりたいんだな。
ようやく、分かった。
この世界の、全ての悪。
全部全部、お前が悪かったんだな。
お前みたいな馬鹿が、スピード違反の車を運転するんだな。
本当に、死んで欲しい。
俺には、守りたい人ができたから。
常識は壊してもいいけど、
ルールを守れない奴には、心の底から死んで欲しい。
俺の言っていることがひどいことなら、検証可能なようにここに書き残しておくから。
本当にマジで、早く死んでくれ。
ルールを守らない流星は、ただの暴走プリウスなんだよ。
俺は、姉さんやお嫁さんや自分の子供や子供たちのことを、守りたいんだよ。
それが、嫌だってんなら。
お前が、まだ俺にボールを投げるつもりなら。
法律を守れ。
お前が自死を選んでもいい。
だが、法律を守れ。
お前が生きていても、死んでいても、その全てを後世の人々に説明する自信があるから。
いつでも好きなタイミングで死んでいい。
でも、法律は守れ。
正しい道でしか、お前が焦がれる流星群には辿り着けないんだよ。
なんで、こんなことを説明するんだよ。
馬鹿かよ。
死ねよ。
勉強しろよ。
でも、
俺じゃ絶対に勝てない姉さんに、お前がもしも勝てるって言うなら。
証明して見せろ。
俺はこの場所で、ずっと道化をやってんだよ。
売れない道化を。
やらかし道化を。
素人童貞を。
んで。
姉さんがすげえって思えるような人間に、もしもお前がなったってんなら。
その時は初めて、
俺は人生で初めて、
姉さんに恩を返せたってことになるんじゃないのか?
正直、
少年漫画的な生き方をしてる先輩たちに、めちゃめちゃ共感してたけど。
親友とかいねえし。
って、思ってたけど。
できたし。
あの日から、俺はずっと苦しんでる。
でも、俺はただ、お前の船に同乗していただけで。
ルール違反をしたのはお前で。
俺は悪くない。
検証可能なように、ここに文章を残しておくね。
なんもかも、人のせいにするのはよくないって思ってた。
でも、そうじゃねえ。
なにかが俺のせいになるのは、俺がルール違反をした時だけだ。
親友。
お前はルール違反をしたんだよ。
もし。
自分の子供が、死にたいと言った時。
教えてやれる自信がなかった。
今なら、分かる。
いいんじゃない?
いつか、人って死ぬんだから。
必ず、絶対、み〜んな。
親も、子供も、全員、まとめて。
だったらせめて、死ぬ前に。
死ぬ以外のこと、全部やってから死ねば。
でも、
人の道を外れたことは、しちゃ駄目だよ。
そのラインは、教えてあげるね。
以上。
これでいい。
なので、
俺の心が血を流すのは、
親友。
全部、お前のせいなんだ。
毎日、毎日。
俺が、堅気の仕事をしないのは。
親友。
お前が、俺と、世界の入り口だからなんだよ。
お前がなにか行動を起こせば。
それが波紋となって俺に降りかかる。
そして俺は、それを全部、打ち返す。
死にたくないから。
降りかかる火の粉は、全部、払う。
これ。
もしかして。
人生の夏、ってやつなんじゃない?
秋、まだですか?
本当に、八月三十一日までに連載、終わりますか?
しんどいんですけど。
親友。
俺はようやく、自分の夢に歩き出したってのに。
お前を除いたスケジュール表が作れないんですけど。
死ぬんですけど。
やばいんですけど。
先輩たちが。
一体、どんなモチベーションで作品を作ったんだろ。
あんま注目してもらえんかったら、嫌じゃね?
ずっと思ってた。
こういうことね。
死にかけてるのね。
実家から一歩も出ないまま、世界のど真ん中に放り出されるってことなのね。
親友。
お前のせいよ?
しんどいよ?
俺は、
可愛いものが大好きで。
猫とか犬とか子供とか女の子とか、めっちゃ大好きで。
そんな俺も可愛いし。
でも、
多分、お前は美しい系が大好きで。
性癖が真逆だから、女の取り合いにも発展しないし。
意味分からんし。
しんどいし。
俺が、好きな女の子の配信を見て癒される夜。
お前は全然、全く違うところで、なんか変なことしてるだろうし。
しんど〜。
死にたくな〜い。
でも。
俺は燃料で、
お前は車だ。
燃料、ずっと抱えてるの、きつかったんですけど。
お前も、性能があほほど高い車を持ってるのに、燃料が足りなかったんだな。
あの日から、生活リズムがいかれてるんですけど。
当然、なんですけど。
社会に参加してなかったから、なんですけど。
でも、
社会に参加したら、お前、いるじゃん。
嫌なんですけど。
しんどいんですけど。
お前と、一本の線で繋がっていた時。
この場所で、世界を巻き込んで殴り合っていなかったあの頃。
もうあの頃には、戻れないらしい。
んで。
俺は、俺の国が作りたいんだ。
もう、後世の人々に全てを託してしまいたい。
なんもしたくない。
マジで。
心臓、痛い。
病院行けって話だけど。
原因がお前なのは、分かってんだ〜。
親友。
大人、みんなに好かれるお前と。
子供、みんなに好かれる俺。
俺とお前が喧嘩すると。
全人類を巻き込んじゃうらしい。
喧嘩童貞のお前と、
負け戦なら百戦錬磨な俺が殴り合ったら、
世界、滅びる。
地獄すぎ〜。
ほんと、死んで〜。
な、
な、
な、
なんだか、
こういう組み合わせで、やってる芸人さんとか、ユニットとか、
見抜けるようになっちゃったよ……。
ガチ、死んで〜。
心象風景が違いすぎて。
こっちはバット構えてるのに、お前がサッカーボールを蹴ってくるから。
ルール、守れよ!!
守れねえ奴は、死ね!!
生きる価値なし。
こんなこと言うの、嫌だった。
でも、今はルールを覚えちゃったから。
一緒に、無知を共有していたお前とは、死ぬまで運命共同体らしい。
ほんと、しんどい。
死んで〜。
くたばりあそばせ。
お前……。
司。
俺、お前としばらく会ってないのに。
空想上のお前と、ここまで会話できるんだけど。
どうなってるんですか。
俺の結婚はさ。
みんなに、祝福されると思うんだ。
俺、俺にベクトルを向けてくれる人にはとことん、優しいから。
野菜生活だから。
そういう相手を、俺も選んでるからさ。
でもさ、
お前は、なに?
俺の結婚式まで、お前が生きてるビジョンは少しも見えないぞ。
しんどすぎ〜。
助からねえ〜。
んで、
どうすりゃ、いい。
お前のベクトルを全部、吸収できるようないかれた女、早く現れろよ。
いや、
そうしたら、その女も巻き込んだ戦争が始まるだけなんだろ?
俺とお前に子供ができたら。
そいつらも全部、巻き込んで、【大災害の夜】が再演されちゃうんだろ?
笑えね〜。
死ぬんだけど。
ぎっちぎち、なんだけど。
俺は、アスリートなんだよ。
お前は、アーティストなんだよ。
やってることが真逆なんだよ。
やってることが真逆なのに、たまたま同じ舞台に立っちゃったんだよ。
なんなん、お前。
本当に、なに。
意味が分からない。
お前の意味の分からなさが、たとえば、全世界中に轟いたとして。
お前が、本当の流星になったとして。
結局、
誰も、意味が分からんままだと思う。
道化には。
でもきっと、流星群に入りたい人の希望にはなるだろう。
知らんけど。
つまり俺は、
姉さんを救いたいんだ。
守られてる、俺にはできない。
だから、お前がやるしかないんだよ。
それだけやって、あとは死んでくれればいいんだよ。
でも、
人からもらった命を、使用途中で捨てちゃうのはもったいないんだよ。
それまでは、ボロ雑巾になるまで働けよ。
あのおじさん、なんで自殺したの?
って子供に言われたら、
役目を果たしたんだよ。
って、答えるね。
俺は早く、楽になりたいんだ。
後輩たちに全部をぶん投げたいんだよ。
割とマジで。
なんなん、お前。
みんなの道化を頑張りたかったのに。
そのみんなって奴が、お前から影響を受けてボールを投げてくるから。
結局、お前が死のうが生きようが、お前からのボールを生涯、打ち続けるだけの人生なんだが。
死ぬんだが。
だが、打率が上がってきたんだが。
早く、シーズンオフに入りたいんだけど、
俺、
エッセンシャルワーカーじゃない人たち、割と心底、見下してるから。
屑だと思ってるから。
だからこそ、自分に適性があるんだけど。
俺は、姉さんの前では絶対に、いい子でなくちゃいけなくて。
でも、ちょっとだけ俺より大人な姉さんも、まだまだ全然、子供で。
だから、醜い大人の世界で姉さんが傷ついてる時は、俺は道化としての最大出力で誤魔化しにいくんだよ。
事件だとか。
事故だとか。
パンデミックだとか。
そういうの全部、取り敢えず、画面の向こう側だけのことにして。
まあ、しゃあない。
そういうこともある。
でも、可愛い俺が生きてるから別にいいでしょ?
そういうことにしたんだよ。
だから、俺が傷つくことは絶対に、あっちゃいけないんだ。
お前は、物事の善意を視るけど、
それじゃ俺の商売、あがったりなんだよ!!
割とマジで。
世界って、
善意と、
思いやりと、
優しさと、
恩返しだけで回ってて。
でも、それだけじゃつまんねえから。
戦争、したいよね。
ぶち殺したいよね。
心を伸び伸びとさせて、殺し合いたいよね。
心臓を軽くしたいよね。
俺が言葉を吐き出す度、お前の観測者があほほど増えていって。
あとは、頼む。
って、言いたいんだけど。
寝ても覚めても、心象風景、大戦争。
たのち〜。
昔から、夢想がすごかったから。
夢想が、無双状態だから。
基本的に怠惰なので、
怒られるようなこと、したい。
それくらいじゃないと、姉さんの立場がないし。
ふ〜。
ストレス。
そのストレス、ぜ〜んぶ。
お前にぶつけるね。
死にたくね〜。
だから、ぶち殺して〜。
あ〜。
やだ〜。
しんど〜。
俺に、お前が寂しそうに見えるのは、
俺が姉さんと一緒に見てきた、いくつもの楽しいものをお前が知らないからなんだよ。
お前に、俺が窮屈そうに見えるのは、
俺が受けてきた姉さんのぬくもりを、お前が知らないからなんだよ。
同じような場所。
同じような年齢。
同じような世界を生きてきて。
見てきた綺麗なもの、
楽しいもの、
面白いもの、
好きなものが、全部が全部、真逆だからなんだよ。
俺が、あの中で死にたい、と思う心象風景の、その真逆にお前がぶっちぎってるからなんだよ。
だから、
お前の心象風景に触れる度に、
ああ、
俺が選ばなかった道を、こいつは歩いてきたんだな。
俺が花火を見上げる時、
お前は、流星群を見上げていたんだな。
俺たちが心象風景をぶつけあえれば、
それは、世界を変えるかもな。
そう、思っちゃったんだよ。
でも、そんな自分のエゴの為に、お前を縛りつけちゃいけないんだ。
それは、人道に反してる。
幸せ、ってのは。
とんでもない絶頂を一晩のうちに経験すること、じゃなくて。
当たり前の毎日が、ずっと続いていくことなんだよ。
子供の頃は、それが嫌だったよね。
春だった頃は。
でもさ。
このまま四季が巡って。
秋に、
冬に、
なる頃には。
また、春がくるんじゃないの?
まだ夏なのに、
あの心象風景に、
もう一度の春に、行きたいとは思わないの?
っていう、
凡人めいたことを、俺は無限に吐き出せる。
努力してきたから。
流星になりたくて。
撃ち落としたくて。
家の中に飾っておきたくて。
その為のマグマを、ありえんくらい大量に秘めてるから。
打ち返せるボールがないと、ホームラン、打てないじゃん。
でも、今はあほほどのボールの数。
厄介にもほどがある。
帰りてえ〜。
あの心象風景の中に。
でも、現状、そうもいかないから。
全部、吐き出してぶっちぎるしかない。
N尾先生が言ってたけど、
キャラクターに喋らせれば、めっちゃ書ける、みたいな。
それ〜。
昔、
物語は、心を穏やかにしてくれるものだった。
実際、そうだった。
しかし、
どうだ?
まさかそれが、地獄への入り口だったとは。
まさに、【原罪の書】。
やってられね〜。
やべえ〜。
やばすぎ。
要するに。
俺が流星に憧れるのはさ、
姉さんが知らない、俺だけが知ってる面白いものが視たかったからなんだ。
姉さんが検閲済みのものじゃなくて。
姉さんと一緒に見るものじゃなくて。
早く大人になりたくて。
自分も、流星になりたくて。
で、大人になった。
ガチの流星、横にいた。
ぶつかってきた。
死にかけた。
デッドボールの日々。
やばすぎ。
痛すぎ。
しんどすぎ。
だが、
俺の唯一の美徳は、
諦めないこと。
何度でも立ち上がる。
心臓、痛いけど。
まだ、死んじゃいない。
物理的に、餓鬼どもから時間を奪う。
その時間が、なにかしらの価値になる。
心象風景になる。
心になる。
まあ、
それ、
地獄への入り口なんだけど。
それが、【物語因子】の答えだ。
うお〜。
もっと、
もっとだ。
「もっと、残酷なのをくれ」




