王の本懐
司。
お前、多分、いつでも自殺できる人間だ。
羨ましい。
心底、羨ましいよ。
俺は、自殺したいと思った夜が一度もない。
本当にない。
俺が死ぬと、悲しむ人がありえんほど多いから。
俺のせいで人が悲しむことが、ありえんほど俺の心を傷つけるから。
人のせいで、誰かが傷ついても、俺は全く平気なんだ。
自分のせいにされるのだけは、絶対に受け入れられない。
俺は悪くない。
司。
頼むから、早く死んでくれ。
割とマジで。
あの冬の日に。
あの狂気に。
なによりも興奮と。
理想の死に方を見出しちゃった俺のことを、
お前しか、理解してくれないんだ。
俺だって、理想の死に方がしたいんだ。
自殺できる人は、本当に幸せだと思う。
それで、自分の心が救えるんだから。
だけど、
司、
俺の心は、お前しか救ってくれない。
だから、
お前がこの世界から消えてくれたら。
お前が死んでくれたら。
俺は、好きな死に方ができると思うんだ。
司。
あの夜の続きに、俺を連れてってくれよ。
司。
頼む。
俺を助けてくれ。
本当に、頼む。
俺を殺してくれ。
気弱な道化だった俺を殺してくれ。
孤独な流星だったお前が、仮にいつか自殺したとして。
俺だけは、お前のことが分かるよ。
俺だけは、お前の骨を拾えるよ。
だからいつでも、死んでいいよ。
毎日、毎日。
流れていくニュースを眺めて、
人の心を学んで、
勉強して、
努力してきたから、
分かっちゃうんだよ。
人の心が。
心臓が。
俺が、他の末っ子の先輩たちに学んできたのは、俺が末っ子だからなんだ。
俺が、一人っ子の先輩たちに死ぬほど憧れて生きてきたのは、俺が末っ子だからなんだ。
お前が抱えてるとんでもない孤独が、俺には恋しくて仕方ないんだ。
俺は、自殺したいと思ったことがない。
異常なんじゃないかと思うくらい、ない。
司。
もしお前が自殺したら、俺だけは理解してあげられるんだ。
みんな。
残酷な、世界のメカニズムを教えてあげるね。
俺は、老衰で死にたいからこんなことを言ってるんだ。
道化の俺が、寿命で先に死んだとして。
流星のお前には関係ない。
流星のお前が、寿命で先に死んだとして。
俺は一生、流星のお前の唯一の理解者として、気持ちよくなっていられる。
司。
頼むから、早く死んでくれ。
割とマジで。
本心から。
俺だって、早く死にたいんだ。
あの、本だけ読んでいた時代に戻りたいんだ。
お前が、どうしようもなく目障りなんだ。
割とマジで。
本当に、死んでくれ。
あの、
震えるような凍える夜に。
あの絶頂の中で、俺は死にたいんだ。
法の埒外で、死にたいんだ。
手当たり次第に女をぶち犯して。
むかつく奴をぶち殺して。
嫌なこと、なんにもやらないで。
だけど、
みんな、俺は実は善い人だって言うんだ。
ツンデレだって言うんだ。
天邪鬼だって言うんだ。
違うんだ。
あの日、
あの夜、
あの場所で、
法の埒外を目の前で見た。
あの絶頂が、忘れられないんだ。
人生の終着点を、あの場所に見ちゃったんだ。
頼む。
人間の社会に。
俺を目標にしている、哀れな子羊たちに。
風穴を空けてくれ。
もしも、お前が自殺した日。
俺だけは、後世の人々に説明してあげられる。
人にはこういうメカニズムがあって。
人の心は、こうできていて。
だから、死にたくなるんだよ。
だから、生きたくなるんだよ。
だから、あいつは死んだんだよ。
君たちも、いつか絶対、死ぬんだよ。
って。
いつか、お前にお嫁さんができて。
子供ができて。
その時は、お前の子供に絶望を教えてあげるね。
だから、
俺に子供ができて、
その時は、お前がそいつの希望になってくれ。
俺とお前は、死ぬほど相性が悪い。
だから、唯一の理解者になっちゃったらしい。
お前への恋文だと思えば、俺はこんなにも心象風景を吐露できるんだ。
先輩たちに恐縮せずに。
後輩たちに胸を張って。
司。
俺。
本当に、そうなんだ。
女の子は、好きなんだ。
もちろん。
でも、それ以上に。
死に場所をお前に求めてる。
本当の俺を、俺のまま受け入れてくれる心臓は、お前しか持っていないんだ。
これからできる、お嫁さん。
ごめん。
俺の心臓は、あいつと繋がっちゃってる。
マジで、ごめん。
精子はちゃんとあげる。
これからできる、子供。
マジで、ごめん。
教育はしてあげる。
イマジナリーフレンドに、気持ちよくなっちゃってる皆々様。
ごめん。
その先、地獄です。
この言葉が、お前以外の全人類に届いても。
俺にはまるで響かない。
無敵の人に、なっちゃった。
俺が狙ってるお嫁さん候補。
マジで、ごめん。
俺の心臓、あいつが握っちゃってんだよ。
だから、俺のお嫁さんになる人は。
あいつのお嫁さんになる人に、きっと多分、心臓を握られてる人だと思うんだ。
ねえ、みんな。
知ってる?
絶望って、知ってる?
法律の外で死にたくない?
夢も希望も、なくなくない?
ニュースから目を、背けたくない?
もし、司。
お前が死んだニュースが、目に飛び込んできたら。
俺はきっと、気持ちよくなれると思うんだ。
俺だけは、お前がどんな死に方をしても受け入れられる。
んで。
あの頃の絶頂を、返してくれ。
この世界を、俺とお前のじゃれあいで満たしてくれ。
誰かの希望になりたいんじゃなくて。
誰かを救いたいんじゃなくて。
その、誰か、が。
お前だった。
リアリティ。
本当の意味の、生き地獄。
法の埒外で、死にたいんだ。
縛られたくないんだ。
でも、
縛られないお前が、俺の心臓を掴んでるから。
地獄だね〜。
地獄だよ〜。
いえい、いえい。
はあ……。
死にそ。
あの日から。
心臓のリズムが、一定じゃなくなった。
死にそ。
普通に、仕事して〜。
作家業とか、水商売。
したくね〜。
でも、
その先にしか、お前がいないんだもの。
最悪〜。
健康を、返せ。
物理的に、
PV数、稼いで。
無理矢理、俺が流星になって。
無理矢理、お前の視界に飛び込むしかない。
だってお前、俺の前でだけは道化になれるもんな。
俺とお前。
思いっきり殴っても壊れないおもちゃは、お互いに俺たちだけだもんな。
あ〜。
ずっと、憧れてたな。
そういうの。
なのに〜。
しんどい〜。
マジで、嫌だ。
しんどい〜。
ねえ。
俺の言葉に夜を救われてる人間さん。
イマジナリーフレンド、じゃなくて。
どうやったら、俺たちみたいになれると思う?
ねえ。
どこに行けば、死ねる理由を見つけられると思う?
ちょっとだけ、残酷な答えをあげるね。
それを探すことを、
青春、って呼ぶよ。
で。
死ねる理由を人々は、こう呼ぶよ。
親友。




