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その日

 2021年、1月1日。


 深夜、11時32分。


 その日、


 俺とつかさは、海岸沿いの神社に来ていた。


 やっぱ俺って、グレてるな。


 しかも、なんか真っ当にグレてる。


 絶妙にださいな……。


「パチンコ屋しか空いてねえな」


「まあな。元日はパチンコか初詣って、相場が決まってるっしょ!」


「家でおせち食べたい……」


「駄目〜。もっと、二人きりでいようよ……」


「早く卒業してくれ。人生から」


 その日、


 当然、季節柄、寒かった。


 神社。


 神聖な場所。


 なにを、お祈りしろって?


 別に、やりたいことも願いたいこともねえわ。


みかど、なんて願ったんだ」


「世界平和」


「かー!!それでこそ優等生っ」


「お前は」


「宝籤、一等。百億円」


「どの宝籤だよ」


 作法って、どうだっけ。


 二礼、二拍手、一礼だっけ。


 存在自体が不浄な俺たちが、いくら神に祈ってもな……。


「香苗さん、いるといいな」


「いる訳ねえだろ」


「なんでだよ!推しだろ!?もっと夢を持てよ〜」


「境内で騒ぐな」


 祈って。


 鳥居を抜けて。


 不浄な世界へ、再ログイン。


「今年さー。学園祭、なにやるんだろうな」


「知らね」


「おまっ、帝、実行委員だろ?」


「あんなのは真面目ぶってる陽キャがはしゃいでるだけだ」


「自分のことなのに……」


 祭りとか。


 青春だとか。


 くだらない。


 暑苦しいったらありゃしない。


 俺は、もっと大人になりたい。


 でも、まだ大人になりたくない。


 まあ、いっか。


 俺たちはまだ、学生なんだ。


 そして、


 その時。


 一筋の悲鳴が、夜空を劈いた。


「え……」


「なんだ」


 俺たちは、駆け出す。


 声がする方へ。


 俄に、


 俄に、細胞が震え始める。


 女の、女性の悲鳴だった。


 冬の夜。


 空気は冷たい。


 それ以上に、張り詰めた冷たさが心臓を掴む。


 足が震える。


 もたれそうになる。


 先を行く、司。


 そして、


 路上。


 そこには、


 そこには……。


 全身、黒尽くめの男が、誰かに覆いかぶさっていた。


 明らかに、路上で行うべき行為ではない。


「ま、待て」


 小声で、司に伝える。


「助けないと」


「待てって……」


「待ってらんねえだろっ」


 ああ……。


 嫌だ。


 嫌だ。


 嫌だ。


 嫌だよっ。


 こんなことになるなら、家の炬燵で。


 あったかい実家で、おせちをつまんでいたかった。


 嫌だ。


 嫌だ。


 嫌なんだ。


「け……。警察っ。警察だ!!」


 俺は、必死で声を絞り出した。


 実際に、通報なんてできていない。


 誰か……。


 人家。


 人家の明かり。


 誰か気づいてくれ。


 お願いします。


 神様……。


 願いが通じたのか、明かりのついた窓から一人の中年女性が顔を出した。


 迷惑そうな顔。


 でも、とても助かる。


 暴漢は、舌打ちを残して去っていった。


 横顔が見えた。


 変わらない。


 大して、年恰好が俺たちと変わらない。


「大丈夫ですか」


 大丈夫なはずない。


 でも、他に言葉がない。


 いや……。


 よかった。


 事前だ。


 事後じゃない。


 間に合った。


 いや、間に合ってはない。


 でも、最悪の事態には至らずに済んだ。


 女性に、いや、少女に。


 大して、俺たちと年恰好が変わらなかった。


 震える肩に、俺は上着を貸す。


 それから俄に騒動になり、警察がきて、説明した。


 少女は、保護された。


 警察の方々に説明している途中、ずっと足が震えていた。


 当然だ。


 こんな場面に出会したら、誰だってそうなる。


「司……」


 司は、震えていなかった。

 

 ただ、少女が乗ったパトカーが走り去るのを見詰めていた。


「か、神も仏も、いないな」


 精一杯のギャグなつもりだった。


 こいつのセンスは、分からん。


 なに考えてるのか、分からん。


 それが楽しいはずだった。


 俺は、泣きそうだ。


 ちびりそうだ。


 実際、少しちびった。


 正常な反応だと思う。


 司は、動かなかった。


 表情が、死んでいる。


 なにかを考えている。


 目が据わっている。


「なんで」


 いつもと、まるで変わらない口調だった。


「なんで、あんなことができるんだろうな」


 ああ……。


 そうだな。


 あんなことをする奴は、極悪非道だ。


 人間じゃない。


 人間じゃない……。


 俺は、人間だ。


 司。


「おい、司」


「ん……。なんだよ、どしたん」


「大丈夫、か」


「ああ、俺は平気だよ」


「最悪、だな」


「ああ」


「帰ろう……」


「ああ」


 もうこれ以上、俺も喋りたくない。


 吐きそうだ。


 正常な反応だと思う。


 冷たい。


 空気。


 肺が痛い。


「なあ、帝」


 司。


 なんだよ。


「俺、お前がいてくれてよかったよ」


 ちょっとだけ、感情が揺れているのが見えた。


 こいつにしては、珍しい反応。


「ああ……。そうだな」


 つまらない返ししかできない。


 歩いた。


 夜道を歩いた。


 考えた。


 考えたくない。


 それでも、考えた。


 なあ。


 司


 お前……。


 俺がいなかったら、どうするつもりだったんだ?

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