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現実vs虚構vs俺

「ふう……」


 一通りの執筆を終えたひだりは、バキバキに凝り固まった首周りを揉みほぐした。

 

 人気、出ねえなあ。


 水商売上等。


 SNSもやってないし、他の作家の作品には一切、目を通さない。


 孤独でしか才能は磨けない。


 親も。


 兄弟も。


 元カノも。


 友人も。


 もう全部、ネタにしちゃった。


 もう、やりたいことねえわ。


「でもなあ。売れてえなあ……」


 王道を否定して。


 流行りを否定して。


 なんでまだ、こんな場所にこだわってるんだろう。


 異世界ものを書きたくなくて。


 だって、実績のない馬の骨が尖ってなかったら誰にも見てもらえない。


「最初は、そうだったな」


 どうやら、俺を見ている輩はそこそこいる。


 あとはもう、そいつらとの間で太客ビジネス、ウィンウィンスパイラルを巻き起こすだけの人生だろ?


 なんか、見えたわ。


 大体、分かった。


「つまんねえな……」


 なにがつまんねえって、俺が表現する言葉自体がつまらない。


 異世界に行って、はじけられるほど人生経験、ストックないし。


 所詮はあらゆる先輩方の金魚の糞。


 なんかそれっぽい、純文学テイストとか、ネットミームに媚びないラノベテイストがやりたいなら、いるべき場所はここじゃない。


 糞がっ。


 つまんねえな。


 俺……。


 つまんねえ男だな。


 流行りに乗りたくない。


 王道を歩みたくない。


 異世界なんか、行きたくない。


 まだこの世界で遊んでいたい。


「だって全部、やり尽くされてるじゃん」


 つまんねえ。


 俺そのものがつまんねえから、俺の瞳に映る世界は全部、つまんねえ。


 新進気鋭のPを探して。


 聴いて。


 センスいいなと思った奴は、やっぱり片っ端から有名になってく。


 ふぉにっていく。


 流行りの音楽は聴きたくねえ。


 でも、やっぱり聴いちゃう。


 いい曲なんだもの。


「あーあ、才能が鈍っちゃうよ」


 元から、そんなにない癖にな。


 今日はもう、いいや。


 やめよう。


 爆音で流し続けるワイヤレスイヤホン。


 耳に悪そう。


 次の、


 瞬間。

 

「え?」


 知らない歌声だ。


 こんなアーティスト、いたか?


 知らんな。


 自動再生にしてるから、次から次へとごちゃ混ぜで流れてくる。


 なんだこれ。


 悪くない。


 悪くないどころか、かなりいい。


 芯を食ってる。


 理想のヒロイン……。


 不意に、そんな言葉が浮かんだ。


 どうした。


 急にどうした。


 なんだか、心臓のテンポがおかしい。


 変な話、口説き文句のバリエーションはえげつない。


 全部全部、先輩方から盗んだものだ。


 理想のヒロイン……。


 痛々しいな。


 現実を知らない、素人童貞の戯言じゃない。


 いや、


 でも……。


 どうやらそうでもないらしい。


 そうでもない、のか……!?


 なんだか座っていられなくて、無意味に部屋の中を右往左往。


 どっ、


 どどどどどどどどどどっ、


 どうする?


 いかがする?


 口説き文句のバリエーションは多い。


 でも、そっちから仕掛けられるパターンは知らない。


 どっ……。


 どえらいことになってきた。


「いや、待て、落ち着け」


 ここは一旦、年下巨乳奥さんにコスプレさせていちゃこらする漫画で一発抜くんだ。


 賢者を召喚する。


 よし。


 性癖ど真ん中。


 これで……。


「……」


 やべえ。


 どうしよう。


 勃たない……。


 再び座り直して、冷静を装って思案してみる。


 どうする?


 どうするって、なにを?


 ナニをどうすることもできなくなったよ!?


 い、一旦、執筆に戻ろう。


 そうしよう。


「は?」


 ログインできない?


 パスワードが違う?


 え……。


 不正アクセス?


 サーバーが落ちた?


 唐突に、パソコンが画面が闇堕ちしやがる。


 おいおいおいおいおい。


 どうなってんだよ。


 しかし……。


 落ち着け。


 冷静になれ。


 吊り橋効果とか……。


 なにかの錯覚の可能性は非常に高い。


 糞みたいな生活。


 なにも、ハラハラすることなんてなかったけど。


 けど……。


 リトル俺の反応からして、これは完全に未体験な異常事態だ。


 どっ、


 どうしよう。


 母さん。


 俺、


 人の男に、なっちゃったの……?


「なに考えてんだ、気持ち悪い」


 そうだ。


 流石にこの独白は気持ち悪い。


 冷静に、外の空気を吸いに行こう。


 ドアノブを回す。


 感触が違う。


 え?


 そこは、宙に浮く巨大な岩の上だった。


 歩くきのこたちが陽気に踊っている。


「勘弁してくれ……」


 入ったドアはもうない。


 うん。


 終わった……。


 ありえんほど澄んだ蒼穹を背後に、俺はありえないはずの現実を少しずつ、少しずつだけど飲み込み始めた。


 さっきから、鼓動がおかしい。


 誰かに握られてる。


 やばすぎ。


 死んじゃうよ?


 目の前の異様な光景より、さっきの歌声が脳裏にへばりついて消えてくれそうにない。


 おいおいおいおい。


 どうなってんだよ……。


 不意に、見慣れた文章が目の前に現れた。


 この選択肢……。


 嫌な言葉だなあ!


 でも俺は、どうにもこうにも心臓を掴まれてしまっているので、行動がバグっている。


 はあーあ。


 つまんね。


 こんなもんか。


 俺って、こんなもんな。


 ちょっとだけ、安心した。


 アホほど澄んだ空気を肺一杯に吸い込んで、俺は溜息と共に降参宣言を滑り出した。


「やっぱ、異世界なんだよなあ」


 質問にこう続けよう。


【まだ続きます】

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