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ぎょさしゃん

 言わずと知れたことだが、つかさたちを各地の戦場に運んでいるのは御者のヤッサンである。


「えーっと、読者諸君……。じゃないや、君達もなんとなく察し始めただろうけど、四つの鍵の攻略は思ったよりも急展開で進んでいるらしいね。そこで!!各地の見どころをふいにしない為にも、君たち三人にはこれから別行動をしてもらうよ。ってことで頼もしい助っ人をよんでありますっ」


 相変わらず、みかどすずめのテンションをガン無視したモョエモンが仕切り始める。


「まずはこちら、君たちをこれまでも運んでくれたヤッサン。三兄弟の頼れる長男!!王道を征くならやっぱりヤッサンだよね〜。ってことで、このゲームの主人公である司はヤッサンで決まりっ。意義なしっ」


 司はヤッサンの馬車に乗せられることが決まった。


「待てって、なんで勝手に別行動なんか……」


「はい、次は帝キュンの振り分けね」


 司の抗弁は二秒で掻き消され、淡々とモョエモンのゲスト紹介は続いていく。


「こちら、ヤッサン三兄弟の次男、ユッサンだよ〜。ヤッサンやヨッサンに比べれば個性が薄いと思われがちだけど、実は一番蘊蓄があって通好みな御者さんなんだよね。ってことで、なんかいつも斜に構えててつまらなそうな帝はユッサンの馬車に乗ってね」


「御者界隈の評判なんて知らないんだが……」


 帝の冷静な文句も虚しく、最後は雀。


「で、ネガティブ発言多めでこの旅の雰囲気を暗ーくさせてる張本人、雀は三兄弟の末っ子で一番の元気っ子、ヨッサンに決定だよ〜。元気が良すぎて三人の中だと一番お尻への負荷が大きいだろうけど、なんかのアトラクションだと思って頑張って!」


「こんな状況で、どうやって明るくしろって……」


 雀の言うことももっともだが、理不尽なゲームマスターは聞く耳を持たない。


「ってな感じで振り分けてはみたけど、結局、君たちの旅の先々に僕とクレアさんは現れるからね。不思議な力で現れるからね。そこはほら……。お約束的なアレってことで、一つ宜しく」


「宜しくお願いしますね」


 穏やかだが、有無を言わさぬ口調でクレアが追撃してくる。


「それはそうと、セーブしますか」


「待ってクレアさん、僕からももうちょっと喋りたいことがっ」


「セーブ、しますか?」


 いや、ちょっと前にもセーブしたじゃん……。


 という生徒たちの雰囲気は無視して、こうなった聖女を治める手立ては大人しくセーブする他はない。


「まあ、君たちの目的地は飽くまでも灼熱の門!!その為にはポートビス海峡を渡ることが不可欠だから、最終的にはそこで落ち合うことになるだろうね」


「セーブ」


「ってことで、あとは各々頑張ってっ」


 奇妙な明るさだけを押し付けられて、司たちは不満を駄弁る暇もなくそれぞれの馬車に押し込まれた。


 仲間たちへの弔いもそこそこにして。


【はい】


 セーブ完了。


 2021/09/01/00:00















 












 ロードしますか?


【はい】























 19××年、8月某日。


 くびき村。


 かけいちゃんは、村の女学生の中で飛び抜けて成績が良かった。


 そして、家柄も。


 いつも都会風な服を着て、私たち村民が知らないようなことを沢山知っていた。


「私には、悪魔が視えるんです」


「え?」


 私がそう言うと、かしわさんは素っ頓狂な声をあげた。


 それはそうだろう。自分で、随分と荒唐無稽なことを言っていると思う。


すずりさんには、悪魔が視えるの?」


「はい……。視えるんです」


 柏さんと私は、二人とも文学を嗜んでいた。


 だから、柏さんも私の与太話をなにかのたとえとして受け止めてくれたんだと思う。


「その悪魔は、一体どんな姿をしているんだい?」


「人に、とてもよく似ているんです」


「へえ、それじゃあ人間と見分けがつかない」


「そうなんです。だから、とっても厄介なんです」


 柏さんが、兵士として村を発った。


 そして、数年ぶりに帰ってきた。


「待っていました……。ずっと」


「僕もだよ硯さん。貴女の存在が、僕をこの世に留めてくれた」


 その日、私たちは初夜を過ごした。


 柏さんのいないこの数年間、村では特に大きな異変はなかった。


 いや、物理的にはあった。村内を流れるいびき川が氾濫して、農地や民家に甚大なる被害を齎したのだ。


 そういえば最近、筧ちゃんを見ていないな……。


「人の世界は、なんで物騒なんだろうね」


 紅潮したままの頬で、そう言って柏さんは声を弾ませた。


「人の行いも怖い……。この世で戦争ほど、理不尽で恐ろしいものはないよ」


 それから、彼は逞しい腕で私を抱き寄せて。


「でも、だからこそこうして、かけがいのないものの大切さに気付けるのかも知れない」


 私たちは、幸せだった。


 きっと、誰が見たって明らかに。


「そうでなくても、あの川の氾濫。人的被害が出なかっただけで、あれが毎年のように続くとなると……」


「怖いですね」


「ああ。人の世の、なんと住み難いことか」


 そう、人の世は住み難い。それでも、どうにかこうにか生き抜いていかねばならない。


「そういえば、こんな話を知っているかな?」


 柏さんは、いつも私の知らない世界の話を教えてくれる。


「鼾川の氾濫を治める為に、村から人柱が出たって話」


「ヒトバシラ?」 

 

 ひとばしら……。


 人柱。


 人の柱。


 生きた贄。


「まったく、笑っちゃうよね」


 実際、柏さんは笑った。


「僕たちが言うのもなんだけど、小説の読みすぎだって。でも、そんな噂が立つのも理由があってさ、村の……。誰だったかな。どこかの育ちのいいお嬢様が、厄介者を排除できるから一石二鳥ってんで、その鼾川を鎮める為の人柱に出されたって話。恐ろしいよねえ……。どうすればそんな悪魔的な発想の作り話が思いつくのか、僕にはてんで検討がつかないよ」


 柏さんは、いつもより饒舌だった。


 恐ろしいというより、楽しそうな表情をしていた。


「そうですね……」


 愛しい人の腕に抱かれながら、私はどうしようもなく、耳を塞いで叫び出したくなるような思いに襲われた。


 ああ……。


 まただ。


 やっぱりだ。


 また、悪魔が嗤っている。

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