【】し だ い に ね む く【】
「エイプリルフールといえば嘘。神代漣子が所有する無数の権能の中には嘘を真実に変換させるものがあるが、正直異能バトルものにおいては特段珍しいギミックではない。やはり神代漣子が稀代の呪術師・妖術師として大成した背景には彼女の特殊な半生に起因するものが大きいだろう」
「ジャパニーズホラーの傑作としてはリングシリーズの山村貞子……。神代漣子の特質はそれに近い。幼き頃より忌み子として蔑まれ、人間に対して深い憎悪の念を抱く彼女は生涯通して親しい誰かを側に置くことはなかった。故に彼女は自らの種を残す為にとある方法に打って出る」
「いずれ冷堂さち江と決闘を行うことになる岩研島。その遥か西方に位置する上子武良島に祀られる神獣・痲多をあろうことか呪殺。その両眼をくり抜き自らの胎盤に植え付け産み堕とすことで一対の怪鳥としたのだ」
「異形の赤子らは三日三晩に渡り泣き喚いた末絶命するが、その悲痛な叫び声を僅かにでも聞いた島民らは精神汚染され苗床に。知らず知らずのうちに神代漣子の傀儡となり、その島民らの一団が九州・四国→本州と進出するに伴い神代漣子の因子も日本国内に広く伝播。人々の魂に近い部分から根絶不可能な穢れとして横たわることになってしまった」
「これが民俗学の第一人者・時任静寂が提唱した怪異伝播説である。民俗学は眉唾なオカルトに勤しむ為のものではない。最初は研究仲間たちに煙たがられた時任静寂だったが、次第に神代漣子が原因と見られる霊障が各地で報告され始める」
「そこで怪異討伐、妖怪駆除の人員として白羽の矢が立ったのが当代随一の格闘家にして傑物。日の沈まぬ大和にこの女ありと言わしめた冷堂さち江であった。冷堂さち江は夫との間に三人の子宝に恵まれそれぞれが武闘家・剣闘士・踊り子として偉大な人物へと成長した」
「対極的な人生を送る神代漣子と冷堂さち江だったが、極めて高度なレベルで時空の歪みを利用した戦闘が行えるという点で唯一無二のライバルであり理解者だったとも言える。さち江に漣子のような術師としての才能はなかったが、彼女はその頑強過ぎる肉体故に時空の断層に巻き込まれても擦り傷で済むような有り様だった」
「漣子は術師故に魂まで殺さねば対象を真に殺したことにはならないことを知っている。自らを貶めた神代家に復讐を試みる漣子だったが、指折りの術師が集結する神代家の前に何度辛酸を嘗めさせられたか知れたものではない」
「しかし、彼女は烈火の如く滾る復讐心を燃やし幾度も挑戦。時空の断層を用いた小技だけでなく、断層を利用して逃げた先の術者をまた別の断層で轢断して殺すという離れ業をも魅せた。その姿に魅入られ神代家を離反する者もいないことはないのだが……。それはまた別の話である」
「岩研島の決戦にて、漣子は日本エリアにおける27不可思議通りのα世界線を統括する時空大神殿に侵入。ほんの一瞬だけ反応が遅れた菩薩(偽名)の隙を突き摂理の祭壇に接近、アリアドネの殉教者ではない漣子を不死無燼システムが弾こうとした刹那にその中枢回路をハッキング」
「骸の試練(精神負荷多重死亡テスト)を脳髄に流し込まれた漣子だったが、予め用意していた自作の問題集で難なくそれを看破。システムの承認を(半ば強引に)得た彼女は日本エリアのみならず今後さち江が死亡するまでに足を伸ばすかも知れない全世界の座標を正確に把握。念には念を入れて火星まで仮定する徹底ぶりであった」
「菩薩及び時空大神殿が管理する27不可思議通りのα世界線+αを完全に把握した漣子は、事前にその全てに送り込んでいた自らの分裂体(痲多を利用して産んだかつての島民のような形)を一斉に起動して仕掛ける。そう。これでさち江がいつ、どんな動きで漣子の呪術・妖術を躱したとしてもそのバタフライエフェクトによって発生するβ世界線の揺らぎを寸分違わず察知」
「特殊な条件下で宿主とは別個の動きをする分裂体がβ世界線におけるさち江に致命の一撃を放ち、それに対処しようとしたさち江の情報をα世界線の漣子にフィードバックして最大出力で仕留めるという算段だった。これは確証ではないが、α、β世界線の間に不自然な意図や揺らぎが発生したタイミングで元々のさち江を殺害すればもう二度とその魂は蘇らないだろう……。と漣子は推理したのではないだろうか」
「時空の歪み、断層については未だに解明されていない点が多い。だが確かに、β世界線はαのバックアップのような役割を果たしているという説もある。この選択はもしかしたら間違いだったのかも知れない……。と誰しもが思うことだがその時点で既に精神が世界の輪郭(時空の断層)へと干渉してしまい、結果的にβ世界線に影響を齎してしまうという仮説には一定の価値があると思う」
「即ち、岩研島の決戦における漣子は先にβ世界線のさち江を叩くことでそのバックアップ、戦闘においては残機とも呼べる存在を潰しておきたかったのではないだろうか。実際ここまでできる異能者は稀だが、生まれ持った才覚のみならず弛まぬ努力と研究により凄まじいまでの戦闘スキルを得た彼女は間違いなく当代最強に相応しい人物であったのだ。神代家の人間に少しでも理解があれば……。と考えずにはいられないところではあるが」
「立ち返ってさち江だが、そのような高度な駆け引きには応じないどころか彼女はα、β世界線の存在についてもぼんやりとしか把握していなかった。さち江は圧倒的なフィジカルによって大気ごと時空の歪みを圧縮、早い話が素手で握り潰してその爆発を相手にぶつけたり、投げつけられた時空の断層を丸めて放り投げ喰らい、胃の中で消化してみせるという埒外の怪物であったのだ」
「瞬時、入念な下準備でβ世界線に送り込んだ分裂体からのフィードバックが途絶えた。時空の断層による干渉が効かないさち江は、自らに触れる断層どころかその周辺の時空情報を麻痺させる程の特異体質を備えていたのだ。謂わば、小細工抜きで殴り合おうぜの精神。これには漣子も驚いた。そして興奮した。神代家を壊滅させてからの彼女は間違いなく最強の術師であり、復讐を目的とした魂の炎も燻っていたからである」
「恵まれて育ったさち江。自らを否定した人間のその頂点に立つ正義のヒーローを前に漣子は決意した。この女を殺さねば真の意味で復讐が果たされたとは言えまい。だが魂どころか目の前の肉体を殺めることすら危うい……。術に対する理解が全くないさち江の特性が却って漣子を追い詰めていたのだ」
「さて……。時任静寂が編纂した書物の中で岩研島の決戦についてはかなり詳細に記述されているが、当時の時空大神殿を知るものでなければ見ることができなかったシーンも多々存在する。彼女らの死闘の余波で神殿のみならず管轄下の時空が大変な目に遭ってしまったが……。それもまた懐かしい思い出である」
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