【】ちきん ふぃれ たつた【】
「人間が生涯に刻む鼓動の数は、決まっているらしいよ」
「和田どん?」
「僕のメン限秘技は、リズムに合わせて攻撃を展開する」
「そのメトロノームとなっているのは、他でもない僕の心臓の鼓動なんだ」
「そ、それじゃあ」
「速いテンポの譜面を叩く程、和田どんの寿命は削れていくということなのだ?」
「そういうことだドン」
「そんな……」
『素敵な人と出会って、胸が高鳴る。鼓動が速くなる』
『それって、文字通り死が近づいているサインなのよね』
「ミクさん」
『初音ミクの消失』
「!?」
『私の中でもトップクラスの威力と歌唱速度を誇るこの歌で、ミッキーに仕掛けるわ』
『当然、肉体への反動は計り知れないけど』
「僕も、難易度鬼で合わせるドン」
「和田どんまで!?」
「確かに、あの曲をフルコンボで叩き込めば凄まじい火力になる筈……」
「でも」
「演奏中、僕の視界には譜面が流れてくるんだ」
「可や不可を出してしまえば、ペナルティとして大きなダメージを負う」
「全良が大前提。それでも、彼を倒せるという保証はないドン」
「それに、和田どんの心臓をメトロノームにしているのなら……」
「能力そのものが、捨て身なのよね」
「電子さん」
「上が動いてくれたわ。東京電力だけでなく、日本中の各電力会社が私の大技の為に協力してくれることになった」
「それから」
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「彼も、夢の国への恐怖から立ち直ったみたい」
「トトロは厄災そのもの……。また、僕たちが危うくなるんじゃ」
「その心配は要らないよぅ」
「お、お前は」
「カルシファー!!」
「やめて、やめてよ」
「消えちゃう、消えちゃうよぅ」
「同じジブリの仲間なら説得にも応じると期待したけど、想像以上に上手くいったわね」
「動く城がなくても単体で動けるんですね……」
「火種は必要だけど」
「さて」
『うん』
『頼もしい仲間が増えた』
『私は音声合成ソフト。音の波長を自在に操れるわ』
『指向性のあるトトロの咆哮を私がチューニングして、ミッキーにぶつける』
『その隙に、私と和田どんが生歌唱による演奏に入るわ』
『最高速の別れの歌で、奴を屠る』
「わ、別れの歌って……」
「まさか」
『私の肉体は一つじゃない。多くのPの元に私はいる』
『ただ、この楽曲の歌唱に耐えられた個体はいないわ』
「自我は一つでも、肉体は複数……」
「それって、どういう感覚なのだ」
『多くのP……。作曲家たちは、私の声で魂を込めた一曲を創り上げる』
『そこには確かに、私との相棒としての絆がある』
『そこにしかない物語が積み重なって、初音ミクという偶像が出来上がっているの』
『和田どん』
『ずんだもん』
『電子さん』
『私たちが共に戦ったこの日々も、一つの物語として歌い継がれていくのよ』
『いつか、私たちが口ずさんだあの歌のように』
「セット完了」
「いつでもいけるドン」
『複数の肉体があっても、この身体を使い捨てにするつもりはない』
『歌い切ってみせるわ。未だかつて、あらゆる初音ミクが突破できなかった地平を、この私が超えてみせる』
「ミクさん……」
『電子さん。貴女にはエレクトリカルパレードへの高い耐性があるわ』
『まだ、その大技は取っておいて』
『ずんだもんには、まだ貴女の存在が必要よ』
「……」
「皮肉ね。どんなことがあっても、電力会社は稼働を止めちゃいけない」
「私が服役していた間も、どんな形であれ電力は必要だった。人類がこの星で暮らす限り、この先もずっとね」
「マスコットは希望の象徴」
「同時に、見せしめとしての罰を受けることもある」
「電子さん……」
『ヴオン』
「トトロ?」
『共鳴しているんじゃないかしら。貴女の心に』
『彼もまた、人間の身勝手への怒りが顕現した姿だから』
「好きな曲を選ぶドン!!」
『ドォンッッッ!!(太鼓を叩く音)』
「始まった……」
『あー、あー、あー』
『てすてすてす……』
『なんて』
『人間の真似事をしちゃうのは、私も同じか』
『ずにゅううううううううううううううううううううん!!(時空が歪む音)』
「貴女、綺麗な声で歌うのね」
「アリエル……!?」
「しまった」
「エレクトリカルパレードをまともに喰らえば、属性の相性的に彼女は暫くは動けないと」
「油断していた……」
「私のメン限秘技は、対象から脚か声帯のどちらかを奪う」
「貴女もそこの怪獣も、声を奪われたら戦えないんじゃない?」
『……』
『この肉体を捨てる気はない。だって、みんなとの思い出の詰まった大切な身体だから』
『貴女の迫る二択は、水流での攻撃を仕掛けるまでの時間稼ぎ』
「そうそう。この二択ならみんな、まず間違いなく声を選ぶ」
「そのあと、私を戦闘不能にすれば元に戻るからね」
「脚を失えば、そのまま私に殺されるリスクが……」
「夢の国のパレード」
「それも、私たちの電力で成り立っているのよ!!」
「電子さん!?」
『まったく……』
『貴女も、聞かん坊ね』
「ちっ」
「貴女は人間でしょ?耐性があるとはいえ、水中で日本中の消費電力を浴び続ければタダじゃ済まない」
「アリエル」
「貴女って、ハンギョドンのお仲間でしょ?」
「は……?」
「私を……。あんな不細工と一緒にするな!!」
「IH調理よ。焼き魚にしてあげる」
『オオン……』
『和田どんは声を』
『私は脚を捨てる』
「ッ!?」
『標的をミッキーではなく、アリエルに変更』
「馬鹿がっ。水中で歌なんて歌えるワケ……」
「あ」
『馬鹿は貴女よ……』
『思い出して。脚なんてなくても、人間じゃなくても』
『貴女は、海の底で歌っていればただそれだけで幸せだった』
「黙れ」
「人間の身体と同じように造られたお前に、なにが理解る……ッ!!」
「クリストファー・ロビンの大罪は、嫉妬……」
「人間になりたかった者」
「人間としての軛に苦しめられた者」
「み、水はやめてよ」
「消えちゃう、消えちゃうよぅ!!」
「貴女はどっち?」
「ずんだもん」
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「はあ……。はあ」
「おかしいだなもね」
「もっと本気でやらないと死んじゃうよ?」
「カツオ君」