【】し し か ばぶ【】
「しけむらが、燃えてる」
「村の消防団員は?」
「それが、ですね……」
「昨夜から催されている宴会で、全員泥酔状態なんです」
「なんだって!?」
「くそっ……。なんで俺が配属されてから、こんなことばかりなんだ」
『しけむらに配属された不運な若手 駐在』
「強風の影響で倒木が道を塞ぎ、神椿市との主要な道路は分断されています」
「戌神峠から繋がる戌神トンネルは?老朽化で封鎖されてるとはいえ、緊急事態だ」
「この風ですよ?裏山はもっと悲惨な状況でしょう」
「風強過ぎて、終わったわ……」
「兎に角、逃げ遅れている人がいないか確認して、集落センターに避難させましょう」
「し、しかし」
「風が強過ぎるせいで、家屋への延焼速度がすごいです」
「祟りにぇ……」
「巫女様」
「この村では、自我を出した者から死ぬのです」
「他所からやってきた不届き者が、村の戒律に触れた……。Aho様をはじめとする神々が、それにお怒りなのです」
「井上さん、木谷さん」
「星詠みのみなさんを募って、どうにかして消火活動を」
「駐在さんは?」
「宴会が行われているトメさん(104)宅へ向かって、酔いが浅い人がいないかの確認を……」
「駄目です、駐在さん」
「え?」
「ちょっと、こっちへ」
「な、なんだよ君。高校生?」
「説明している暇はない」
「この火事の主犯は、星詠みの連中だよ」
「消防団員のみんなは、泥酔どころか昏睡状態にさせられてる」
「はあ!?」
「君、悪質な悪戯に構っている時間は……」
「いいから、聞いて」
「行方不明になっていたわためェは、最も火の手が盛んな祭具殿にいる。星詠みが儀式の準備をしていたんだ」
「僕は止めたんだけど、はあちゃまはそれを救いに独断専行してしまった……。はあわたの絆があるから、無理もないけど」
「さっきから、君はなにを言っているんだ」
「もう、今回で444回目だ」
「445回目のループで、僕に託された能力はリミットを迎える」
「これまで、奴に気づかれないように徹底的に自我を殺してきた……。だけど、ここまで来たらもう猶予がない」
「奴、って」
「理解るだろう?その歌声が届く範囲は、既に彼女の領域」
「いつでも、僕たちを葬ることができる……」
「ここで歴史を変えなきゃ、永遠にYAGOOは」
「でゃまれ!!」
「無駄な足掻きですにぇ……。ドドド因子の導きには、誰も逆らえない」
「しけむらのサイコダムには、こんな逸話がある」
「轟々とした水音が、時に少女の悲鳴のように聞こえると……」
「行きましょう、駐在さん」
「え、ええ」
「駄目だ!!」
「それじゃあ、なにも変わらない……。僕たちはまた、あの日からやり直さないといけなくなる」
「それも、次回で終わりだよ?」
「かなたん」
「あ"っ……」
「遅かったにぇ」
「今日は、喉の調子が悪くってさあ」
「ん、んんっ……」
「調整、開始コメ」
「うわああああああああああああああ!!」
【どうした、たそ】
「顔色が酷いぞ」
「え……。あれ?」
「夢、か」
【二回戦目の舞台は、ハワイを周遊するフェリーの上で行うんだと】
「豪華過ぎん?金持ちの遊びかよ」
【どうやら、本選に進んだ128名の中に石油王の息子がいるらしい】
【順当に行けば、俺たちは三回戦目で当たる】
「マジかよ」
「ガチモンの石油王の息子ってことは、ずーはーのライバルじゃん」
【勝ったらその立場、譲ってくれねえかなあ……】
「ま、取り敢えず腹拵えだ。たそ、お前も朝飯はナイススティックでいいよな?」
「二人とも、聞いて!!」
【あん?】
「まさか、まるごとソーセージの方がよかったか……?」
「すぐに日本へ帰ろう」
「そうじゃないと、またみんなが……。うっ」
「たそ、額を見せろ」
【おいおい、これって……】
「以前より、Mの紋章が色濃く出てる」
「それだけ、クソマゾとしての素質に目覚めてきた証だ」
【すぐに、ディザさんに連絡を】
「ああ。俺氏はチェックアウトを済ませてくる」
「なにが……。起ころうとしているの?」
【理解らん】
「だが、雲行きが不穏なのは確かだ」
「ずーはー、星川の件はどうなった」
「な、なにそれ」
【一部のホロリスが、星川の領有権を巡ってにじさんじに裁判を仕掛けたんだよ】
【奴らの主張はこうだ。そもそも、星川はホロメンの一員としてデビューした筈であると】
「意味が理解らないよ!?」
「歪んだ歴史認識……。だがしかし、連中の言い分を真っ向から否定することもできない」
「一期生の六人目辺りのポジションに、星川がいたような気がしないでもないからだ……」
【確かに、金髪多いしな】
「いないよ?絶対にいないよ?」
「この主張が認められた場合、どうなる?」
【星川を中心とする半径200km圏内の排他的経済水域が、そっくりそのままホロライブのものになる】
【にじさんじへの経済的打撃は、想像以上だぜ】
「まずいな……」
「常闇のぺぇがあるのかないのかはっきりしない現状、だるさんも持ち場を離れられない」
「最悪の場合はザンビア・ガーディアンと梅田サイファーが激突し、ありとあらゆるガレリア製の周辺機器が爆発することになる」
【たそ、これ食っとけ】
「もがが、もがががが」
【ドラゴンボールだ】
「夢の内容は、機内でゆっくり聞く」
「場合によっては……。彼に頼ることになるかもな」
「もが?」
【それって、まさか】
「ラオウぱっぱ。あの人なら、おか斗やもんざえもんを片手で握り潰せる」
「わためェさんの居場所を掴んだって本当ですか!?ロボ子さん」
「すぐに、ホロライブ総出で助けに行きましょうっ」
「落ち着いてよ、Aちゃん」
「コトは、そんなに単純じゃないんだからさ……」
「どういうことです?」
「わためェと星街」
「よりどちらにシナジーが強いかで、ホロライブ内部の勢力が真っ二つに分裂……。血で血を洗うシビルウォーが勃発するかも知れない」
「何故、そんなことに」
「私たちは仲間でしょう……!?」
「そうだね。一蓮托生の泥舟に乗った、家族と呼んでもいい」
「なんにも知らないって顔、してるけどさあ……」
「筆頭マネージャーとも言える立場のAちゃんが、わためェの足取りを追えてない筈ないよねぇ?」
「ロボ子さん……」
「まつりすの巣の位置をゼロゲッサーできるのは、貴女の端末を除いて他にない」
「マイクロドローン、でしたっけ?」
「巣に蓄積された情報は、シャチ族の古代文字で高度に暗号化されてる」
「ともあれ、社長の護衛が最優先ですか……」
「そうだね」
「YAGOO……。君には、ここで死なれちゃ困るんだからさ」