【】ふ え ら む【】
『しけむら 天界学園分校』
「まさか、こんなところに天界学園の分校があったなんて……」
「まあ、本校から熊形県までさほどの距離はないしな」
「現在の国家元首である虎畑ロペスは以前、この分校に通っていた時期があるらしい」
「そうなんですか?」
「しかし、とんでもない問題児でな……」
「多くのゴーレムが犠牲になったと聞いている」
「ゴーレムて」
「だが、在学中にサッカーの才能を見出されたロペスはみるみるうちに覚醒」
「十二年連続バロンドール受賞という快挙を成し遂げたんだ」
「確か、天界学園ってサッカーの名門でしたよね?」
「ああ」
「神戸の魔界学校と、さいたまの天界学園は東西の両雄としてよく知られている」
「特に、スターテンドのぺぇぺぇスタジアムで行われる王族の御前試合では、毎年決勝でぶつかる定番カード」
「好敵手なんですね」
「そして、これも五億年前の大戦が前身だとされているんだ」
「そ、そうか」
「天界と、魔界……」
「第二次ホロサマが、五億年前から仕組まれたものだとすれば」
「警部?」
「憶測だよ、憶測」
「だが、あらゆる可能性を捨ててはいけない」
「KFPが無力化されれば、全米だけではなく、全欧と全豪も纏めて一緒に爆発すると言われている」
「全欧と、全豪まで……!?」
「そろそろ、議会そのものが動き出す頃合いかもな」
「ハコ太郎とその飼い主が、既に来日しているという噂もありますが」
「ムーラを中心としたエリア15の精鋭たちが、脱法ニンジンの栽培と密輸に関わっているのは間違いない」
「しかも、ムーラは野兎同盟のやべぇ人として知られています」
「ロペスと直接の協力関係があるとすれば、かなり厄介……」
「それだけじゃない」
「本間警視以上の大空警察上層部も、野兎同盟に取り込まれていると考えた方がいい」
「健屋氏の自宅での一件からすれば、当然ですよ」
「恐らくだが、ムーラや本間警視はロペスから、兎化を免れるなんらかの方法を教わっているのだろう」
「そ、それってつまり」
「全人類が兎化した世界を好き勝手にできる特権を得た、ってワケだ」
「そんな話、他の連中が黙っている筈ありませんよ」
「フィリピン、ミャンマー、ベトナム……」
「そして、インドネシア」
「ぺこらんど共和国を含むUSEYANの加盟国たちが、エリア15という暗号を用いて脱法ニンジンを融通」
「ムーラの指揮により、世界中の野兎たちがぺこらタワーを建築」
「兎化アンプルの強化版、兎化光線が実用化され次第、全人類兎化計画を決行に移す」
「あ、あれ」
「思ったより、危機が目の前にありますね」
「しかも、王宮や政府高官を含め、権力者たちはみんなロペスの味方についちまってる」
「黄金のニンジンは世界樹でしか育たないのでは」
「それなんだが」
「俺たちが言う世界樹ってのは、要するに富士山」
「つまり、世界中の富士山を超える山々は全部、もっと大きな世界樹なんだよ」
「ぶっとび〜!!」
「かつて、世界樹は現在の命の泉がある場所に生えていたらしい」
「琵琶湖の位置に」
「だが、暇を持て余した伝説の巨人だいだ・ら・ぼっち!の一人遊びによって、静岡と山梨の県境まで移動させられたんだ」
「なんですかその、きらら系みたいなポップな名前の巨人は」
「伝説の巨人だいだ・ら・ぼっち!の逸話は、昔話としては割と有名だぞ」
「マナの源泉である世界樹の跡地として、命の泉には聖水が湧くようになった」
「ちなみに、命の泉の水が全て蒸発した場合、ドドドタウンの住民は飲み水がなくなって息絶えるらしい」
「水源そこだけなの……!?」
「世界中の山々が世界樹なら、黄金のニンジンを大量に栽培することもできなくはない」
「勿論、相当な労力が必要だが」
「野兎同盟は、既にそれを可能にするレベルの協力体制を築いている、ってことですね」
「どうする?」
「俺たちもロペスに寝返って、兎化した世界を気ままに散歩するという選択肢もあるが……」
「じょ、冗談はよしてくださいよ」
「ロペスは星川だけじゃない、どうでしょうさんやユウシアさんも手にかけています」
「その落とし前をつけて貰わない以上、奴の好き勝手にさせるワケにはいきませんよ」
「そうだな、その通りだ」
「奴がどんな野望を持っていようが勝手だが、ルールを守って貰わないと困る」
「KFPは各地のぺこらタワーを破壊して回っています」
「いずれ、ムーラたちとKFPが激突することになるんじゃ……」
「既に、KFPのぺこらんど共和国への再度派遣が決定しているらしい」
「えぇ!?」
「そんな情報、どこから」
「忘れたのか?」
「オスバルは、希代の失言王」
「直接の明言がなくとも、答弁の節々から察することは可能だ」
「しかも、オスバルは話を盛りがち」
「それだけ、情報が漏れやすいということ」
「盛りまくりの、漏れまくりだ」
「兎化光線を実用化させるなんて、こよラボの技術力が必要不可欠な筈です」
「間違いなく、結社が手を貸しているな」
「鳥獣族の中でも屈指の戦闘力を誇る鷹族」
「最強の海獣族との呼び声も高いシャチ族」
「十二年連続でノーベル賞を受賞したダブチ=マクドナルド博士を排出したコヨーテ族」
「幕末の倒幕運動を一気に加速させたとされる風真隊、そしてそれを率いる風真一族」
「そして、スーパーズッ友条約締結という歴史的瞬間において、ロペスと固い握手を交わしたエデンの元帥……」
「こ、これは」
「ああ」
「一歩間違えば、俺たちのケツも無事では済まされないだろう」