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霊的霊式-00

 0.

 

 ――自然科学的発想の限界。

 というものがある。いや、この言い方だと誤解が生じかねないな。より正確に言うのならば、数学を基盤にする自然科学的発想の限界、という事になるのだろうか?

 大雑把に説明すると、物事を原因と結果という単純な線で結んで考察するのが、数学を使った自然科学の主な思考方法だった訳だが、そこには限界があるという話だ。

 例えばフィードバック。A→Bという一方向の流れだけでなく、B→Aという流れも存在し、そして、A⇔Bという相互関係によってその事象が成り立っている場合、これまでの数学的発想では扱いきれなかったりするのだ。

 (その他、要因が多数絡まっていて、その要因を分解してしまうと、全体の性質が消えてしまう場合なんかも、数学を基盤にする理解の仕方では扱えない)

 そして、二十世紀から今日まで、この自然科学の欠点を補う分野として注目をされ続けているのが、『複雑系』と呼ばれる、数学の亜種とも呼べる一分野だ(ただし、数学とは根本的に発想が違うので、数学の亜種とするのも実は違うのかもしれない)。

 コンピューターの誕生によって研究が可能になったこの分野は、もちろん、主にコンピューターを積極的に活用し、シミュレーションワールドを観察する事によって、その“複雑な”事象の有り様を捉える試みなんかを実施していたりする。

 (この分野で発見された現象として有名なのが、カオスや自己相似性。或いは自己組織化現象などだ)

 さて。

 その複雑系で扱っている事象…… その代表的な例の一つに、この人間社会がある。

 集団と個人。個人と個人。集団と集団。

 人間社会は、多因子によって結ばれ、それらは相互作用する事によって、全体を成り立たせているひとつの“系”である。

 だから、集団心理学や社会心理学と、複雑系というものは無視できない関係性を持っていて、そして、その中でも注目すべきなのが、『犯罪心理学』であったりするのだ。

 『犯罪心理学』

 実は、その成り立ちは、『複雑系』のそれと近いものがある。

 はじめ、実は『犯罪』は、原因と結果を単純な線で結ぶ自然科学的発想によって、研究されようとしていた。犯罪者を多数集め、その特性を研究することによって、原因となっている“何か”を突き止めようとしていたのだ。遺伝子要因にそれを求める生来犯罪者説が、その頃の説としては有名だろうか? ところが、これがどうにもうまくいかない。突き詰めていくと、どんな人間を犯罪者と見なすべきなのか、といった根源的な問題も発生し、結局、個々を調査し、その因果関係を解明しようという思考方法では、『犯罪』は理解できないという事が分かってきた。

 例えその人間に犯罪の意志があっても、防犯がしっかりしていれば、犯罪は起きない。その人間は、犯罪を起こす心理は持っている(?)のに、犯罪者ではないのである。或いはその逆に、犯罪の意志がなくても、犯罪を起こしてしまうような場合もある。

 犯罪とは、人間関係がまずあり、そこに社会という環境が加わって、はじめて発生するものなのだ。

 だから、個人を特別視し、それを観察分析したところで『犯罪』は研究できない。犯罪は、もっと複雑な曖昧模糊とした、不確定なものとして捉えなければいけない。そこにはっきりとした結論はない。

 法律がなければ、犯罪はない。という身も蓋もない事を言う人が時々いるが、これも事実は事実である。社会がなければ、犯罪はない。犯罪は社会が創り出すもの。

 土台となっているはずの、それ以前の分野にはなく、その分野によって初めてその性質が誕生する現象を、『創発』と呼ぶ……

 (例えば、リンゴを構成しているのは、間違いなく物質である訳だが、物理学の範疇にリンゴは存在しない。リンゴという“性質”は、生物学の範疇で初めて誕生する。そういった現象を、創発と呼んでいる)

 ……が、“犯罪”は、当に人間社会によって創発されたもの、とそう表現する事が可能だろう。

 因みに、だからなのか、犯罪心理学というのは様々な心理学の分野を統合して成り立っていたりする。有名なプロファイリングなんかも、当然、その一つと見なす事ができる訳だが、勘違いしちゃいけない。

 プロファイリングは、精神分析的な事も行うのだけど、それでも基本は行動主義心理学がベースになっている。そして、行動主義心理学はたくさんある心理学の分野の中で、最も元来の自然科学のそれに近い。

 原因と結果から、人間の性質を推測する手法を根本としている。

 例えば、被験者に淡いピンクの部屋で生活をしてもらう実験を行って、被験者がリラックスをしたなら、淡いピンクには、精神をリラックスさせる効果があるのでは?という推測が立てられる(淡いピンク→人間→リラックス という因果関係を推測できる、という話ですね)。これが行動主義心理学の研究の発想。

 これと同じようにプロファイリングでは、部屋を散らかしている人間は無秩序型に分類され、無秩序型の人間の執る行動パターンはこうなる事が多い、だから、犯行の後の行動は…… と、そんな風な考え方をするのだ。

 因みに、統計がデータの根拠だから、当然、その信頼性は統計学の限界まで、だったりする。

 プロファイリングは、技術でもあり、犯罪心理学の一要素に過ぎない…

 ……と、ちょっとカッコつけた堅い文章で説明してきましたが、僕は心理学…… 特に犯罪心理学を専攻している星はじめという、S大学二年の学生だったりします。

 なんで、こんな話を長々と説明したのかというと、この知識がこれから話すある事件… いや、事件もそうだけど、人かな? その人がやっている研究の説明に必要だからだったりします。

 ……犯罪心理学も、そんな感じで複雑系科学と関わりを持ち、様々な分野を統合する必要があるものだったりするのですが、その人が研究しているものは、それよりももっと範囲が広いのです。各種心理学はもちろん、法律や民俗学なんかの社会科学。人文科学。或いは、生物学、環境学、ナノテクノロジー、電子工学、複雑系、といった自然科学の諸分野。はたまた、興信所… つまり、探偵といった職業までにも協力を求め、統合しなくちゃ研究できない、とんでもないものだったりするんです。

 もちろん、そんな分野というか、そんな大変なものをたった一人で研究できるはずはありません。だから、その人は基本的な知識だけは押さえ、高度な分析や考察は他の専門家を頻繁に頼ったりします。それは、逆を言えば、その人がそれだけ広いネットワークを持っているという事で、そして、その広範囲に拡がった情報網の一つに、僕の通う大学もあったりするのです。

 そうして、それが、僕とその人が関わり合いを持つ切っ掛けにもなったのでした。

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