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第33話 たどり着いたひとつの答え

 そして、とうとう迎えた学校祭当日。学校祭期間は制服で登校しなくてもいいというルールがあるそうで、朝から校舎はお祭りムードが漂っていた。俺は別に私服を着る理由もないので制服で来たけども。でもお化け屋敷をする俺達のクラスにとって私服登校可は結構大きいようで、何人かの生徒、教室内で驚かせる役をする人はもう私服で来ていた。


 あまりクラス発表の準備に関われなかったし、今日明日も仕事が入っているので、きっと俺がお化け屋敷の運営を手伝うことはないのかなと思うと、少し寂しくも思える。

 適当な場所でスマホをいじっていると、今登校してきたであろう絵見に話しかけられる。


「おはよ……恵一」

 座っている俺と、それを見下ろしている絵見。その構図は、何かしら含みを持っているように感じて、しかし自分の今の精神状況だからか、それを嫌う気力すら残っていない。


「ああ、おはよう……絵見」

「大丈夫? ちゃんと寝てる? ……なんか、顔色良くないけど」

「……まあ、ちゃんと寝てるかと言われたら、答えはいいえだけども……大丈夫、明日までは持つから、さ」

 自嘲するようにそう言うと、絵見は少し声色を低くして、


「……あなたが潰れたら本末転倒よ。そこだけは気を付けて」

 と注意されてしまう。はは、体の心配されちゃったよ……。

 事実、ここ二、三日はベッドに入っても寝られない、ってことが続いている。体は疲れているはずなのに、眠ることを受け付けないというか。

 罪悪感が眠らせることを許さないというか。

 ……今は心配してくれている絵見も、俺の秘密知ったら昔みたいな凍りつくような視線で見てくるんだろうな……。


「じゃあ、学祭楽しもう? 恵一」

「お、おう……」

 絵見は俺の側を離れ、昨日俺が長い間身を置いた荷物置き場に向かう。と。


「き、きゃっ!」

 その荷物置き場の方から、女子生徒の悲鳴が聞こえてきた。

 何かあったのだろうか、と俺は様子を見に行くと。


 四方を暗幕で仕切られた空間のなかには、クラスメイトのカバンの海に沈みかけている及川と、彼女の手を取って支えようとしている陽平の姿があった。

 そして、それを俺と荷物を置きに来た絵見が目撃するという、なんとも言えない状況になっている。


「あっ、こ、これは、その……及川さんが転びかけたのを支えようとしただけで」

「は、はいっ、私がよろけちゃったのが原因で」

 当事者二人が求められてもないのに言い訳をしてくれる。

 いや、別にいい。そういう事故は起きてしまう。それをああだこうだ言う資格は俺にはない。


 でも。……及川。……なんで頬の色が赤く染まってるんだよ。それじゃあ、まるで。

 ……陽平に矢印が向いているんじゃないのかって思っちゃうじゃないか。


「そ、そうか……気をつけろよ」

 俺はそう言い、のれんのようになっている荷物置き場の出入り口を出て、頭を片手で抱える。

 ……及川って、もしかしなくても、陽平のこと、好きなんじゃ……?


 だって、昨日「大切な友達」って表現したうえに、陽平との約束を守るために幽霊になっているって言っていた。……そんなの、並大抵な好意じゃ、わざわざ幽霊になってまで守ろうなんてしないだろ。なんでそれを昨日のうちに考えなかった俺。


 一度浮かんだ疑念は、俺の胃をキリキリと痛ませるのには十分すぎる力を持っていた。

 やばい。このままじゃ、全員共倒れだ。

 茜との約束は無理だとしても、俺等の関係を滅茶苦茶にするわけにはいかない。どうにかしないと……。どうにか。


 学校祭初日は学内のみで行われる。一般公開は明日の二日目のみ。初日はクラ対予選とクラス発表、あと有志の発表。二日目はクラ対決勝とクラス発表に後夜祭だ。勿論開閉会式もある。

 陽平や茜が奔走して準備していたという開会式は、なかなかに盛り上がる設計だった。まず出だしに生徒会長を一般生徒と一緒に整列させてそこにスポットライトを当て話させるというスタートはつかみとしては驚くものがあるし、まあ、あと生徒会長の話も面白かった。それに有志発表のデモンストレーションをしてもらったのも、火付けとしては効果があったようで、参加者がエレキギターをかき鳴らした瞬間体育館のボルテージは一気に加速したと思う。


 ステージ向かって右手の脇に立っている陽平や茜といった開閉会式担当の実行委員はホッと胸を撫で下ろしているような、そんな印象を受けた。

 盛り上がった開会式が終わると、すぐにクラス発表とクラ対予選が並行して始まる。クラ対の会場となる第一体育館は開会式が終わると同時に委員たちがせっせと設営を行っている。一年七組は最後から二番目の発表なので、まだそんなに気にする必要はない。


 教室に戻ると、中嶋が一言、

「じゃあ、最初にシフトが入っている人は、準備しちゃってー。一応、最初には俺と相上と六井が入るから、何かあったらその三人に言ってくれー」

「りょーかい」


 教室内は早くも本番ムードに入っていて、各々ポジションについて支度を整えているようだ。

 ……さて、俺は生徒会の発表の手伝いに行かなきゃだから……。

 一人蚊帳の外、っていう表現はおかしいかもしれないけど、俺は何も言わずに教室を出て外で屋台を開くという生徒会の運営の手伝いに向かった。


 あんなに忙しそうにしている生徒会のどこに屋台をする暇があるのか、って思うけど、どうやら生徒会に所属している人はスーパーな人が多く揃っているみたいで、学校祭の管理もすれば自分達も発表をしてしまうようだ。例年。演劇やったり、今年みたいに屋台を開いたり、はたまた学校内を装飾してしまったり。クラス委員と生徒会役員が共同で行う発表の準備を進めていくうちに、それなりにそれぞれの距離は縮まっていくもので、屋台の運営シフトに入っている役員二名と俺を除いたクラス委員四名は仲良さそうに屋台で焼きそばを作って売っていた。


 毎年生徒会の発表は話題を集めるみたいで、今年はガチで作った美味しい焼きそばが、テーマらしい。その宣伝文句に誘われたか、開店直後から生徒会屋台には人が集まり、列を作っていた。

「ひとつですね、五百円でーす」

 そこで、俺は売り子の仕事をこなしていた。お金をもらって焼きそばを渡す、簡単な仕事。


 今の俺にはもってこいだったかもしれない。機械的にやっていれば、他のことを考えていてもできるのだから。

「ふたつですね、千円でーす」

 案の定、三十分くらい捌いているうちに完全に慣れてしまい、頭のなかで俺等五人の関係性について思考を巡らせていた。


 ……陽平は、恋ができない。茜は陽平のその秘密を知ってしまい、陽平に友達でいて欲しいと言われた。絵見は茜が「振られた」ことは知っているも、陽平の秘密は知らない。及川は三年前に事故で亡くなっていて……恐らくは陽平のことが好き、なんだろう。


 何をどうやったら、こんな複雑な関係が出来上がるんだ? ……いや、陽平の問題を取り除けば解決することは多い。茜と及川、陽平の三角関係がまず普通の三角関係になる。そのほうが健全だ。……もう、この際及川が幽霊であることは一旦置いておく。それは最後に考えないと頭がこんがらがってしまいそうだ。


 そう、陽平の問題さえどうにかなれば、局面は大分スッキリする。

 けど、それを調べる過程で、及川の過去を知ってしまった。それに引っ張られた俺は、陽平の問題を解決することを、半ば諦めてしまった。あまりにも衝撃が強すぎて。


 今もまだ、陽平が恋をできない理由がわからない。茜との約束の回答期限は、明日だ。

 ……どうすれば、いいのかな……。

 陽平と及川は仲が良かった、そんななか二人は事故に遭って及川は亡くなった。その直後に陽平の母親も亡くなった……え?


 事実を列挙すると、俺はある理由が浮かんできた。

 陽平が恋できないのは、大切な人が目の前からいなくなるのが怖いから。

 母親が大切な人であることは言うまでもないだろう。そして、及川は──


「どうやら私が生きているときに会ったことのある人には私の姿は見えないらしいので……」


 じゃあどうして小学校からの知り合いである陽平に及川は見えているんだ。それは。


「知り合っていた、とかそんなレベルじゃないです。……大切な、友達と言っても過言ではありませんでした」

「放課後の一時間とか、それくらいしか話す機会はありませんでした。でも、当時私の趣味についてあそこまで話が合う人はいなくて」

「素の私でいられる、好きなことについて思い切り話せる陽平君……高崎君の存在は、大きかったんです」

「……私のカバンについてる、キーホルダー、……あれ、私が死ぬ直前に高崎君が一緒に遊びに行ったときにゲームセンターで取ってくれたものなんです。きっと高崎君は覚えていないと思いますが」


 冗談が過ぎるよ、神様。

 もし、陽平も及川のことをそれくらい、大切に思っていたならば。

 ……陽平は、及川と母親という大切な人二人を続けざまに亡くしたから、恋ができなくなった、っていうのか?

 だとするなら。そうだとするなら。


「……全部、何もかも……俺のせいじゃねぇかよ……」

 口をついた言葉は、色にするなら真っ黒で。

 ……茜、わかったよ。理由。でも。


 茜には、話せない内容になっちゃったよ。


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