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第27話 壊れかけの多色ボールペン

 それからというもの、学校祭の準備に忙殺される時間が続いた。だからか、幸か不幸か私たちの関係が動くことはなかった。恵一は恵一で約束通り陽平の問題を解決するために動いているようで、放課後になるとすぐにクラス委員の集まりに行き、それが終わると、どこかに駆り立てられるように向かっているのを何回か見た。


 落ち着いてしまえばまるではりぼてを作ったかのように、ぐらつきながらも五角形を維持している。

 でも、所詮ははりぼて。強い風が一瞬吹き付けるだけで、崩れてしまうもの。

 学祭前最後の土曜日。次の金曜日から二日間学祭なので、あと六日となったとき。土曜の午前中だけ行われる土曜講習(授業とはまた別で、模試対策などを行うもの)が終わったあと、残れるメンバーで大道具制作を校庭で行っていた。


 残ったのは、クラス発表の中心メンバー七人と、恵一とあと数名。

 大道具は勝手がわかっているメンバーが作ったほうがいいだろうということで、校庭には私・遥香・茜・陽平・中嶋君が出て作業をすることにして、屋内で作る小道具は、相上君と六井君が指揮を取って他の残ってくれたクラスメイトに手伝ってもらうことにした。


 曇り空広がるなか、グラウンドにブルーシートを敷いてその上でお墓の形にした段ボールに色を付けていく。他にも、壁に血がついた段ボールを並べる予定なので、赤黒い塗料を作ってそれを適当に塗ったりなど。

 七月も半ばとなり、曇りとは言えそれなりに気温は高い。ましてや作業をするとなると結構汗をかいてしまうもので、念のため学校指定のジャージに着替えておいて正解だったと思った。ちょくちょく水分補給のため近くの水飲み場に向かうこともあったけど、中嶋君はジャージを着ているのをいいことに豪快に水を頭からかぶって来た。まあ、本人は結構快適そうだったけど。


「ごめん、僕もちょっと水飲んでくるね」

 色塗りの途中、陽平は私たちにそう断りを入れて、体育館の側にある水飲み場へと向かいだした。

「あ、私も行きます」

 それに合わせるように、遥香もついて行く。


 最初はすぐに帰って来るだろう。そう思っていた。けど、作業に夢中になっている間に二人は戻って来ない。途中だったお墓の一面に色を塗り終わるまで、水飲み場から帰って来なかったんだ。

 さすがに遅い、と思い私はふと視線を体育館のほうへ向ける。

 その視線の先には。


 苦笑いを浮かべながら、頭をタオルで拭いている陽平と、ひたすら謝っている遥香の様子が見えた。陽平がびしょ濡れになっている辺り、きっと遥香が水を暴発させたとかなんだろう。

 ……ただの日常の一コマ、なのかもしれない。けど。

 二人にとってはなんてことないただの出来事かもしれないけど。


 ……茜の件の直後、っていうのもあって、普通には見られなかった。いけない、私情を挟んだら、見えるものも見えなくなる。わかってる。ただの一コマ。

 そう思いたいのに。

 一度深呼吸をして、頬を両手で軽く叩く。


「絵見? どうかした?」

 それを見ていた茜が不思議そうに尋ねる。

「え? ううん、なんでもない」

 今は、我慢。恵一がなんとかするって言っているのだから、我慢。


 多色ボールペン、私は赤色を一番に使い切る。次に黒色、その次は青色で、最後が黄色だ。でも、そんなことはどうでもよくて。

 しばしば、インクを使い切るより先に軸を壊してしまうのは私だけだろうか。


 何が言いたいかというと、学校祭前日、私は授業中にボールペンを落として軸を壊してしまった。それなりに長く使っていたからか、もう限界だったんだろう。

「……ついてないなあ……」

 誰にも聞こえない大きさで一人呟く。まあいいや。今日は二時間目までしか授業はない。あとは全部学校祭の準備に充てられている。この二時間目さえ凌いでしまえば、なんとかなる。それに、あと十分で終わるし。


「えー、じゃあ……今日はここまでにしよう。学祭明けは、教科書三章から再開するからな」

 そして何事も困ったことは起こらず、授業は終わる。

 担任の羽追先生が一旦教壇に上がり「じゃあこれから学校祭の直前準備ということで、教室をお化け屋敷に設営していきます。で、校舎の外に出ていいのは六時間目が終わって帰りのホームルームを済ませてからだから、そこだけ気を付けてください。あと、机とか動かす際、怪我だけはしないようにね。じゃあ、準備、頑張っていこうね」と、学祭とかそういうイベントが好きなのだろうかと思わせるくらい楽しそうに言う。


「えっと、一年三組から机が十個来るんで、それも合わせて設営してくださーい。詳しいレイアウトとかは、俺知らないから高崎とか水江とか及川とかそこらへんの中心メンバーに聞いて進めてー」

 クラス委員である恵一がコールすると同時に、廊下から威勢の良い声が聞こえてくる。


「一年三組、机持ってきましたー」

「はやっ!」

 教室のどこかから、そんな反応が間髪入れずに出てくる。

 ふと意識を外に向ければ、色々な音が聞こえてきて、三々五々に生徒が行ったり来たりを繰り返している。

 そっか、これが、高校の学祭なのかと気づく格好の機会だった。


 気づいたときには、もう目の前に学祭は迫って来ていて、それはすなわち。

 私たちの関係の区切りが近づいてきていることを意味している。今日も含めて、あと三日で恵一は答えを出さないといけない。


「あっ、ちょちょ相川、壁に直接ガムテープは貼るなって、貼るなら下にマスキングテープを敷いてからっ、頼むぜー生徒会に怒られるの俺なんだから」

「あっ、悪い悪い、戸塚」

「窓にも段ボールとか敷き詰めるんじゃねーぞ、防災でそれやるのも駄目だからな。いくら教室のなかを暗くしたくも、それは駄目だからなー」


 教室中に声を掛けて注意をしている、彼にそんな時間はあるのだろうか。

 みんなに優しいのは、確かに美徳だと思う。でも、それは、確実に。

 彼を消耗させているに違いないのに。

 彼は、それを認めようとはしない。その答えが、この間の「遥香が孤立するのが嫌だった」なんだ。


「絵見―? どうかしたー? ボーっとして。私たちは理科室から暗幕もらいに行かないと、行こ?」

 いけない。長い時間教室の光景を眺めてしまった。茜に声を掛けられ我に返り、表情を崩す。

「オッケ―、わかった、行こっか、茜」

 笑い声や明るい空気に包まれている教室を背に、私は茜と一緒にお化け屋敷に使う暗幕を貰いに行った。

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