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第17話 見下ろす白線と、越えていた片足

 家に帰ると、脱力したように部屋のベッドに倒れ込んだ。

「茜―、晩ご飯はー?」

「食べてきたからいらなーい」


 リビングからお母さんのそんな声がする。さっきまで遥香とおやつを食べていたっていうのもあるけど、色々あり過ぎて食欲なんて湧かなかった。

 結局、あれから遥香は陽平が送っていった。私のことも送ろうとしてくれたけど、今陽平の近くにいると、感情の歯止めが効かなくなる気がしたから断った。


 横向きに寝つつ、枕を抱いてスマホの画面とにらめっこをする。

 開いているのは、中学の卒業式後に四人で遊んだときの写真。大通公園にあるさっぽろテレビ塔をバックに並んで撮った、思い出の写真。まだ合格発表が終わっていない頃だったから、私の表情は少し硬い。陽平や恵一、絵見は底抜けに楽しそうな笑みを浮かべているけどね。


 でも、正直受かるとは思っていなかったから。試験の出来に自信はなかったし、内申点もいいわけでもなかった。

 だから、皆と、陽平と同じ高校には進学できないかもしれないって、思っていたんだ。

 写真を閉じて、絵見とのトーク画面を開く。そして、なんとなく受話器のボタンをそっとタップした。


「もしもし、何? 茜」

「絵見……? ちょっと、話したくなっちゃって……」

「まーた、茜のお悩みタイムかな」

 キュッとキャスター付きの椅子が回る音が聞こえる。きっと勉強中だったんだろう。


「最近はなかったなーって思っていたら、来ましたねやっぱり。で、何かあったの?」

 昔にも、こうして私は不安になると絵見に電話をかけることがしばしばあった。中三のときには志望校悩んだ時にだったり、模試の結果悪かったりとか。


「あのさ、絵見。……友達と恋人の境界線って……何、なのかな……」

「…………」

「絵見?」

「それ、私に聞く?」

「…………」


「まあ、まさか陽平に聞くわけにはいかないだろうし、恵一に話せないならそうなるよね。で、その様子だと陽平と何かあった? 言いたくないなら無理には聞かないけどさ」

「私と、というよりかは……遥香と」

「ふーん、遥香と、ねえ……。嫉妬?」


 絵見は、そういう私の誤魔化したい感情をズバッと言い当てる。クールな性格ゆえの癖なのかもしれない。

「そう、だよ……多分」

「それで慌てて私に電話して相談しようとした、か。……知っているとは思うけど、私だって答えは分からないし、なんなら茜の方が経験はあるからね。……恋愛マスターでは、ないんだからね」


「恋愛マスターって。何それ、ふふっ」

「境界線、ね……」

 すると、電話の向こう側でスタスタと足音がしだして、ドアが開く音が聞こえた。


「外、出たの?」

「そりゃあね。こんな話、恥ずかしくて家の中じゃできないよ」

「なんか、ごめんね」

「いいよいいよ。何年の付き合いだと思ってるの?」

「……十年です」


「うん。いや、ちょうど気分転換で夜風に当たりたかったから、全然。で……境界線、か……うーん、そうだな……茜は、手繋いだとか、キスしたとか、エッチしたとか、そういう具体的な行動としての境界を聞いているわけではないんだよね?」

「そ、そうだよ」


 ほ、ほんと真っすぐに言葉選ぶなあ……絵見は。思春期入り口の中学生じゃあないから過剰に反応はしないけど、若干顔の熱が上がったような気がする。

「哲学だよね、私数学とか理科の方が好きだからあまりそういうのって本当、行動で区切った方がわかりやすいって思っちゃっている節があるからさ。少しは少女漫画とか読んだほうがいいのかな……。で、答えだけど……そうだね……」

 トントンと、階段の手すりでも叩いたような音を挟み、絵見は続けた。


「その人の一部になりたい、って思うようになったら、それはもう一線を越えたってことなんじゃないかな」

「一部に、なりたい……」

「生活のどこかに常に関わりを持っていたいとか、相手が幸せだと思うことに自分が入るようになりたいとか。そういうことを思うようになったら、それはもう恋なんじゃないかなあって、思うよ」


 なら。絵見の言う通りなのだとしたら。

 彼の隣に居続けたいと願った私の気持ちも、やっぱり、恋なのだろうか。


「……ありがと、絵見。ちょっと、スッキリした」

「そう? ならよかった」

「うん。じゃあ、また、明日ね」

「また明日、バイバイ」

「……じゃあね」


 電話が切れると同時に、スマホを握っていた右手をバタンとベッドに落とす。

「やっぱり……そうなんだよね」

 私。

「陽平のこと、好き、なんだね……」


 焦りの感情の理由は、これだ。気づいていた、気づいていたけど気づかないふりをしていたこの感情の名前は、やっぱり。

 恋、なんだ。

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