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零れてしまった思い出、ひとつ。

 彼と私の出会いは、桜が散り始めるゴールデンウィークも明けた五月半ばの頃だった。

「ねぇ、何読んでるの?」

 ブランコに腰かけて本を読んでいる同じクラスの男の子に、そう声を掛けた。


「え……? えっと……」

 私は空いている隣のブランコに座り、片手に本を閉じた彼に微笑みかける。

「……ぱ、パスコードシリーズの……一番新しい……」

 彼が答えを言い切るよりも先に、私は反応を口にする。


「えっ、君も読んでるの? パスコードシリーズっ」

 あまりの反応に乗っていたブランコがキィと音を鳴らしたほどだった。

 パスコードシリーズとは、赤い鳥文庫が発売している児童向けミステリー小説で、かなりの巻数が発売されていた。その最新刊を読んでいる、ということは今までのも全部読んでいるに違いない、そう思ったんだ。


「……う、うん。全部、読んでる、よ……近くの図書館にこの間入ったばっかりで、ついこの間まで借りられていたのが昨日返ってたから、それで……」

 あれ、表表紙についているバーコード、見覚えがあるなあと思い見てみると。


「それ、私だよ」

「……え?」

「だから、昨日図書館にそれ返したの、私だよ」

「……そうなの?」

 彼は、キョトンと虚を突かれたような顔をする。


「じゃ、じゃあ三月に出た一個前の巻を真っ先に借りたのも」

「それも私」

「十二月のも」

「それも私」


「……いつも発売日すぐに貸出履歴が残ってるけどそれも全部」

「大体私」

「…………」

「…………」

「ふふっ、あははは」


 しばしの間、揺れるブランコが軋む音だけが響いたけど、すぐに彼がおかしさをこらえきれなくなったようで、ドッジボールもできないような小さな公園に彼の笑い声が響いた。

「なんか、面白いね、こういうの」

 今までの硬い表情から一転、にこやかな笑みを浮かべる隣の男の子は、軽い調子で続けた。


「そっか、いっつも先越されているなあって思ってたけど、君だったんだね……そっかそっか……あ、そうだ、ねえ、君の名前は?」

 乗っていたブランコを下りて、そっと私の方に近づいた彼はそう尋ねた。

「あ、そうだったね、まだ自己紹介してなかった。私の名前はね──」


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