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第10話 完成された正方形に、

 お昼になり、一旦このモザイクアートの作業は中断となった。明日、また続きをやる時間があるらしい。

 このあとは炊事だそうで、班でカレーを作るらしい。

 まあ、この宿泊研修、まずクラスメイトとの友好を作ろうとしているから、そういう系統のイベントが続くよね、と。


 実習室を出て、ぞろぞろと屋外の炊事場に入る。羽追先生から注意事項を聞いたのち、班ごとに分かれてお昼ご飯を作り始めた。

「よし、恵一、あなたは戦力外ね。お米でもといでて」

 試合開始と同時に交替を命じるサッカーの監督かい。茜は一言目に恵一にそう告げる。


「オッケ―監督、俺はベンチでも温めてるよ」

 ノリいいなあ。……というか、監督というワードが出るあたり、僕と恵一の感性、似てるのか……?

 恵一はすぐさま僕ら四人の輪を離れお米をとぎに向かう。確かに恵一は料理できないからここで切られるのもわかる。あまりにもあっさりだったけど。


「さ、料理がからきしできない恵一を上手いこと片づけたところで……及川さんは得意?」

「……と、得意ではないですけど……」

「できなくはないって感じ?」

「……はい」

「なら……やっぱりこのなかで一番上手なのは陽平か」

「……えっ?」


「ああ、そっか、及川さんは知らないもんね、陽平、お父さんと二人暮らしだから、一通りの家事はこなせちゃうの。陽平の料理、普通に美味しいんだよ?」

「……ふたり、暮らし……?」

 彼女の少し悲しげな瞳が、僕の顔に向く。


「僕の母親、三年前の春に交通事故で亡くなってね。それ以来、二人暮らしなんだ」

「……そ、そうだったんですね……」

 その視線は、僕よりも、どこか遠い場所を見つめているように見えた。


「ごめんね、なんか湿っぽくさせて。僕は何しよっか、茜」

「うーん、じゃあ野菜でも切っててもらおうかなあ」

「了解―」

「じゃあ、及川さんも陽平と一緒で、私と絵見は恵一と一緒に火の準備するから」


 滝野の炊事場は自力で火を起こすシステム。それなりに大変だから、人も時間もかけたほうが逆に効率がいい。

 って、え?

「……え?」

 思考と言葉がシンクロした。

 ……僕と及川さん、二人ですか……? えー……?

 だ、大丈夫かな……。


 結論、それなりに大丈夫でした。

 僕と及川さんが並んで野菜切ったところで、別に何か話題が盛り上がるわけでもなく。ただただ淡々と僕は玉ねぎを切り、及川さんはジャガイモの皮を剥いていた。

 それはそれでシュールな画だと思うけど、僕にとってはまあ、悪くはなかった。


 他の準備が終わった恵一達と合流し、下ごしらえを済ませた野菜を鍋にかける。

「まあ、ここからは陽平に流そうか」

「……体よく僕に任せたね茜」

「まあまあ。専門家に任せるべきところは任せちゃいましょー」


「……別に僕専門家ってわけでもないんだけど」

「でもそう会話しながら余裕できっちり鍋にくっつかない程度に箸を入れている辺りベテラン感漂うよね」

「……そりゃどーもです……」

「さ、とりあえずカレーは陽平に任せちゃって私たちはお皿の準備とかしよっか」


 そう言って茜達は火の元を離れ、木組みのテーブルが並ぶ広場に移動し始めた。

 結局、いつもの家でする料理と同じ感じになってしまった。気にはしないけどね。普段は何も音がしない、調理音しか響かない空間にいるけど、今日は周りもカレーを作っている。それなりにコミュニケーションが生まれているものだから、僕の耳に心地よいざわめき、笑い声が聞こえてくる。


「あれ、高崎、一人でカレー作ってんのか?」

 コトコトと水も入れた鍋におたまを回していると、近くを通りかかった中嶋君に話しかけられた。


「あー、僕が一番うまいから、他の作業やってるねーって、みんなお皿とか準備しに行っちゃった」

「いや……多分このカレーの目的って、『うまいカレーを作ること』ではなくて、『みんなで作って親交を深めよう』ってやつじゃないのか……?」

「僕もそう思うけど、もともと僕らの班、友達同士で組んでるから、もう慣れちゃってると思うんだよね」

「でも、高崎の班って、及川いなかったか?」


「うん、いるよ」

「及川……仲良くやれそう? 悪いけど、話しているとこ見たことないから、馴染めるのかなって少し。ほら、高崎達って良くも悪くも四人でもう完成してるだろ? そこに及川って……外から見ると余り者っぽくなりそうって言うか」


「……僕は、さ。もともと余り者だったのを、恵一に拾ってもらった立場だからさ。だから、及川さんにさえそのつもりがあれば、きっと仲良くなれると思う、よ」

「そっか。まあ、ならいいんじゃないか?」

「中嶋―! ちょっといいかー?」

「おっと、呼び出しだ。悪いな長々と。じゃあ、またな高崎」

「う、うん。またね、中嶋君」


「俺のことは中嶋か、和希でいいよ。その中嶋君って呼び方、くすぐったくて仕方ないんでな」

「お、オッケー、中嶋」

 振り向きざまに叫んだ彼に、そう返事をする。

 ……なんだかんだ、恵一を介さずに新しく友達を作るの、久しぶりな気もするな……。


「そろそろ、いいかな」

 中嶋と話しているうちに、いい時間になった。僕は今までコトコトと煮ていた鍋にカレールーを放り込んだ。

 僕の鼻腔に、心地よいスパイスの香りが流れ始めた。


「うまっ」

 出来上がったカレーを食べて一言目、恵一が呟く。

「また料理上手くなった? 陽平。去年の秋に陽平の家で食べたカレーより断然美味しくなってるんですけど」

「んんっ、ほんとだー」

「……確かに、そうだね」

 茜、絵見も続けて口々に感想を言う。


「……お、おいしい……」

「でしょー? 及川さん」

「別に、茜が作ったわけじゃないだろ」

「そっ、それはそうだけどさあ……」

「べ、別に特別なことはしてないんだけどな……あれだよ、やっぱIHとかよりもおいしく感じるんじゃないかなあ炭火だと」


「そういうことを言えるあたり、陽平は茜より人間ができてるよな」

「んー、美味しいー。何か言った? 恵一」

「……いや、なんでもないです」

 結局、茜の勢いに負けた恵一は水を口に含んでお茶を濁した。


「僕をダシに喧嘩をしないでおくれ……」

 そう言い、僕も右手に持ったスプーンでカレーを一口パクリと頬張る。

 ……確かに、前にみんなが僕の家に来たときに作ったカレーよりは美味しい、かな。

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