聖女募集!時給金貨1枚〜
光教団の苦肉の策・・
聖女死すべしの続編。
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@短編98
「ついにここまで落ちたか、ははは」
王都の掲示板に貼られたポスターを見て私、光教の神官であるリァイアスは空笑いをしましたよ。
ポスターにはデカデカと、太字の赤に黒の縁取りの目立つ文字で・・
『君もならないか・聖女募集! 時給金貨1枚〜能力により金貨10枚も夢でない!』
たわけが!!なんだこの募集ポスターはっ!!人足募集のポスターの方が何倍もまともだわ!!
「誰だ?私が山の神殿でなんちゃって聖女の相手をしている間に・・何を考えてるんだ」
私は暗部の仕事も出来るんですよ・・・殺してやろうか、その発案者・・
せめてコピーライトをもう少し上品にするとか出来なかったのか・・
私だったらそうだな・・・
『世界の光に・あなたの力を人々に 聖女様を〜・・ ああ、いいもう今更。
憤りを何とか押さえ込み、王都の本部に行くと大神官ククリス様はいつの間にやら引退されていた。
酷い頭痛が続いたそうで、御年70歳の高齢ですからね。心穏やかに過ごしていただきたいです。
頭痛!!そりゃそうだ!私だって引退というか転職したい。
私も胃がね。聖女が次々やらかしてくれる事象・・・
王家や高位貴族の嫡男様や、その婚約者であるこれまた高位貴族や王女様方に対する無礼非礼悪行そして暗殺未遂・・・これらを謝り倒しているんだ・・・そして賠償金とか。
まあ賠償金は、聖女を責任持って幽閉し、この世に出さないことでチャラにしていただいているが、こいつらの生活費は光教団の財布から出ているわけだ。
このなんちゃって聖女(と私は呼んでいる)は、今5人。
どいつもこいつも『りんねてんせい』という戯言を言って死のうとする。
この世界に『りんねてんせい』という言葉は無い。まず単語が無いのだ。
意味は『死んで生まれ変わる』とかいう事らしいが、そもそもそんな教えはこの世界のどの宗教にも無い。
生を大事にしない、人生をすぐ見切る者に、神は恩恵など与えない。暗黒に沈み、そこから二度と出られない。
どの宗教も一貫してこの教えだ。
聖女たちに言って訊かせると、どいつもこいつも驚愕して狂乱し、最後には落胆して廃人のように何もやる気が無くなる。
ただ食っちゃ寝、トイレにもいかない事もある・・生きてるだけの汚物だ。
食わせてやってるんだから、聖女の能力を磨けと言っても返事すらしない。5人分の食費が結構痛い。
そして先日、遂に頭にきたので、植物のタネと鍬を手渡して、『これを育てて食え』と言って置いてきた。
食事を作る使用人も一緒に山を降りてきたから、自分たちで何とかするだろう。食物の作り方の本も置いてきているから、普通なら大丈夫だろう。親切に一年分の備蓄食料は置いてきたからな。
私がいないからって、逃げる事は出来ないさ。神殿がある山そのものに結界が張ってあるからな。
聖女を幽閉すると、王家や高位貴族の方々と約束したから。賠償金チャラ。
もう光教はダメだ・・
1200年の歴史ある宗教でしたが、最近のなんちゃって聖女のご乱行で地に落ちました。
暗部という殺伐とした世界を離れ、高い志を持って入信し、神官として職務を全うして来ましたが・・・
今私は神官の服を着ています。
そのとおり!!光教神官のですっ!!ああ、道ゆく人がジロジロ見て、こそっと笑っている・・・
くそう・・・皆殺しにしてやろうか・・
ああ、いけないいけない。
こういう殺伐とした仕事が嫌で、暗部を抜けたというのに。
数日後・・
執務室で雑務をこなしている所に、見習い神官がやってきた。
「失礼します!リャイアス様、聖女希望の方が来ました!」
「ああそう。面会室に行ってもらってください」
あのポスターを見て応募する奴がいたことに驚きだわ。
ん・・?
見習い神官が私を呼ぶってどういう事だ・・募集を掛けた当人は何処に行ったんだ?
私が採用担当なのか?
まさか、私に丸投げか?ははは、もういい。面談してやるわ。
良さげだったら私直々に教育して・・・
面会室に入るとそこに居たのは・・・
「リャイアスゥ!!きゃあーー!!」
どすーー!!
何かが私に体当たりしてきた、というか抱きついてきた。
何と素早い・・昔『暗部』を生業としてきた私でさえ目視出来ないとは?
腕の中にいるのは・・面接予定の聖女のようだ。
「やったやった!!超激ムズルートでしか会えないリャイアスが、まさに目の前に。眼福でござる至高でござるぅ〜、はぁぁ、良い匂いがする〜〜」
ぎゅうぎゅうしがみ付き、私の胸に顔をすりすり、いやぐりぐり押し付けてくる。
なんだこいつ・・
「あの」
「あたしは王子とか騎士とかすぐに落ちるような軽い相手はそそられないのよねぇ〜〜。激ツン、ツンのツンのリャイアス、そして最高に激甘になるあなたが一番!このルートが続編で出来た時から狙ってたのぉ!会えてうれしぃ〜〜〜!!」
あ。
今までの聖女に通ずるものを感じた。
まあとにかく、聖女の能力を調べるか・・・
私は小娘を体からベリッと引き剥がし、椅子を指さした。
「席について下さい」
「うん、まだ攻略出来てないから激ツン〜。ふふ〜」
何を言ってるんです?
小娘はとててと軽快に歩き、席に着いた。顔はもう満面の笑顔だ。
『さあ来い!』てな表情だ。
名前はミラ・クルー。14歳。女性。王都の外れの街出身。両親は既に無く、老婆に育てられる。
その老婆も最近亡くなり、職を探していた。勉強した事が無いのに、魔法がちょっと使える。
怪我をしていた人の怪我を治した。薬草の知識が何故かある・・・
今までのなんちゃって聖女と同じ程度の力を持っているな。
ちゃんと勉強と修行をしたらモノになりそうだ。ちゃんと勉強と修行をすれば、な。
今14歳か。
なんちゃって聖女の平均年齢が16〜18歳だった。
この年齢から仕込めばイケるかも。下らない攻略とかフラグとかルート・・・
あ。言ってたわ、ルートって。あちゃ〜〜・・・
「ちゃんと修行と勉強をするなら雇います。修行中も賃金と寝起きする部屋を用意するので安心なさい」
「ちゃんとしますっ!頑張りますっ!!」
「・・修行中は仮雇用となるので、1週間で金貨1枚となります」
「はーい!頑張っちゃいますよぉ〜〜!!」
うぅむ・・いい返事だが、果たしてモノになるのか・・・
1週間で住む所付き金貨1枚は破格の待遇だ。
大人の男でも、週休2日で7時間勤務の人足の駄賃が1週間で銀貨85枚(銀貨100枚で金貨1枚)だからな。
時給金貨1枚はまだまだ先の話、本当の聖女になってからである。
まあそんなわけで・・ミラは採用されたのだった。
あれから3年。
私が直々に修行と勉強を仕込んだお陰で、ミラは正しく聖女となって信者の崇拝を受けるまでになった。
慰問して祈り、悩みを聞いて慰める。
怪我や病に苦しむ人に祝福を与え、痛みを和らげる。
笑顔で人々を癒し、元気付ける。
神殿であの愛らしい声で教えを解き、人々は感銘を受けて拝礼をする・・
その神殿の荘厳な空気に、毎度の事ながら私は胸が一杯になるのだった。
そして再び慰問先に向かう。
元気いっぱいなミラと、私は共に各地を行脚した・・・
可愛い私のミラ。
『リャイアスさま!』とニカッと笑って名を呼ばれると、つい顔が緩んで笑顔になってしまう。
素晴らしい聖女に成長した弟子ミラ。
おきゃんだけれど、真面目で頑張り屋で・・修行も文句を垂れつつも一生懸命で。
私とふたり、一緒に色々な場所に赴いた。
山あり谷あり、秘境みたいな場所にもふたりで歩いて・・
夜宿屋で、野宿のテントで、教本を読み、魔法を教え、色々な話をした。
本当に、本当に可愛い。素直で勉強熱心で、辛い時もなけなしの笑顔で・・
私の大事なミラ。
私だけの、大切なミラ・・・
ある日。
何処かの王家の嫡男に見染められ、召上げる話が持ち上がった。
光教にとってそれは喜ばしい事だった。
もちろん、ミラにとっても。
・・・私はそれに反対する道理は・・無い。
「私はまだまだ修行の身です!世界のみなさんの元へ、祈りを届けるのが私の使命です!小さな村、辺境の街、私はこれからも頑張るつもりです。だって、世界のみなさんが私を待ってくれているんですもの!」
にこっと笑い、断ったのだ。
私は・・・愚かにも・・喜んでしまったのだ。
「リャイアスさま!」
あの面接から5年。
すっかり美しく成長したミラが、私の傍に立つ。
見た目は美しい聖女なのに、話出せばいつもの元気なミラ、ちっとも上品で無い、5年前と変わらない庶民的なミラのままだ。
この間も高位貴族のボンボンに求婚されていたが、やはり断っていた。
「あたし(慰問先では私と言っている。猫被りめ)じゃあお貴族様の奥方なんてできませんし、いやです〜。めんどくさそうだもん〜」
「ははは」
「あたしはリャイアスさまのお傍がいいんです〜〜、うふふ〜〜」
ニヨニヨ笑って私の腕にしがみ付いてくる。
こらこら、胸を押し付けるんじゃありません。
今では正しく聖女となり、時給金貨1枚以上の価値と働きをするようになったミラ。
なのに・・
寝ている私の部屋に突進し、
「朝ですよー!リャイアスさまーー!とぉーー!!」
びょ〜〜んと飛んで、寝ている私に飛び付いてくる。
押しつぶされ、私の目覚めは『ぐえ』と蛙を潰したような声で始まるのだ。
まあこれは14歳の頃から続いている朝の儀式?なわけだが・・
ミラは最近私の身の回りの世話を焼くようになっている。
部屋の掃除から始まり、料理を作ったりとか。
・・下着を洗ったりとか。まったく・・恥ずかしいぞ。
「花嫁修行も同時にしていこうと!!うふふ〜〜〜」
そしてニカッと笑うのだ。
うん、いつお嫁さんになってもいいように修行するのは良い事だな。
私はその練習台という事だな。
暫く後の事。
びょ〜〜〜んとミラが飛んで、寝床の私に飛び付いてきた。
朝では無い。夜中に、だ。
そして布団の中に潜り込んできて、私にしがみ付く。
「なんだ?寒いのか?それとも夢見が悪かったのか?」
何と無く抱き寄せる。
「なかなかあたしに言ってくれないので、あたしから言いにきました〜〜むふふ〜〜」
ああ、これはいかんな。
先に言わせたら、これから先の人生私が色々不利になる。
「黙れ」
「んがんぐ」
ミラの口を右手で塞ぐ。
「お前が可愛い、愛おしい。お前を愛している」
「むふふ〜〜!!嬉しいですぅ〜〜〜リャイアスさまーー!あなたに相応しい聖女になりたくて頑張りました!これからも一緒にいて下さいね!」
「ああ。一緒にいてくれ、可愛いミラ」
「むふふ〜〜〜、強硬手段を取ってしまいましたが、結果これでよし!です〜〜・・はぁ・・激甘最高・・」
実は・・光教の神官は結婚が出来ない。
なので私はミラを諦めていたのだ。
だがそれを覆してみせよう。
・・まずは大神官になるか。
ミラを抱きしめながら、私は決意したのだった。
リャイアスさん、乙女ゲーの続編では攻略対象でした〜。