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深淵の魔導書  作者: 下弦・祭祀
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002 絶望

―私が生まれた。

 父も母も姉も皆が祝福してくれた。

 私の誕生を喜んでくれた。

  14年も前のことだが―。

 今日がその、節目の時だと。



 

 テーブルには自作の誕生日ケーキが一つ。

「お誕生日おめでとう。私。」

 一人で祝う自分の誕生日。

 この小さな家には、自分一人しか住んでいないからだ。

 そして、またあそこへ行くんだと―。

「明日は、アリアヴァローに行って本借りよ。」

 


 ライナは広大な館内を歩いて回る。

 本の配置は長年通うことで慣れている。

 魔導書のコーナーだ。

 教科書だったり、魔術の本が並んでいる。

 その中に、まるでライナを待っていたかのような雰囲気を放つ魔導書があった。

「―…これは?」

 本棚から抜き出すと、図書館印は施されていない。

「鍵もかかってるし‥」

 金色の巨大な鍵がついている。


「14歳初の本を借ります。」

 司書、ロズワイセに宣言する。

「こんな、鍵のかかった本は初めて見たね。」

「え?でも前知らない本はないって…」

「ここに鍵のかかった本は、なかったはずだけど。」

 この本の鍵を探してこの本を読めばすごいことが分かるかもしれない。

「ロズさん!この本頂戴!」

 勢いで言ってしまい一瞬焦る。

「別に構わないが気を付けるんだぞ。」

 その鍵のかかった本を手に駆け出す。

 ―鍵を探すために。



 家に着き、親に誕生日の手紙を書いていないことに気が付く。

「今年は、祝福の年だし、自分から会いに行くか。」

 鍵のかかった本をテーブルに置いて故郷である『フレストラ』という地区に向かう。

「あと少し!」

 街道を駆ける銀髪の少女。

 そろそろ民家が見え始める頃だろう。

 三年ぶりの故郷。

 父は、母は、元気だろうか。

 隣人の、サバラ君とリドルおじさんは元気だろうか。

 オレンジ色の民家の屋根が見え始める。

 ―。

 ―。

 ―。 

 ―。

 ―否、それは屋根ではない。




「―炎だ。」


 

 燃えていた。

 家々が。自宅が。地区長邸が。

 爛々と揺らめく炎。

 ―一体何が。

 走って自宅のドアを蹴り破る。

「お父さん!お母さん!」

 この地区には有能な魔法使いが何人もいる。

 ―なのに何故。

 




 炎が切り裂かれて赤い光線が飛んでくる。

「魔法⁉」

 直前でよける。

 向かいの燃え盛る家が壊れる、崩れる。

「お父さん⁉」

 お父さんーテオルが口から血を垂らして絶命していた。

 父ーテオルはこの地区最強の魔法使いだ。

 母ールランはどこにいるのだろう。

 二階から金色の光線が床を突き破り一階に貫通する。

「お母さん⁉」

 半壊した階段を駆け上がる。

 そこには―。







 魔法杖を構える母と、黒い人がいた。

「ライナ⁉なんでこんな時に…」

 母の首に輝く何かがある。

 ―鍵だ。

 おそらく、あの本を開けるためのカギだろう。

 だが、今はそれどころではない。

 明らかに敵はあの黒一色の人だ。

「お母さん!そいつは?」

「ッ!こいつは…」

 話そうとした途端、黒い人が魔法を繰り出す。

 母の魔法杖が宙を舞う。

 ー武装解除された。

 それは、無防備を意味する。

「お母さん⁉」

 黒い人の魔法が母の心臓を貫通する。

 時間差で血が舞う。

「お母さん!!」

 血塗られた床に母は倒れる。

 今も流血する心臓。

「あなたは・・・なんなの。」

 黒い人は応答せず、魔法杖を向ける。

「やめて!」

 目をつむってしまった。

 閃光が二階を包み込む。

「馬鹿ね…無駄手間。」

「お姉ちゃん!」

 あまりにも衝撃の再開だった。

「余所見すると死ぬかもよ。」

 黒い人は、倒れて動かない。

 姉ーフィロルが漆黒の覆面をはがす。

「そんな…」

 それは絶命したサバラ君だった。

「村での裏切りか。」

 私はその場に崩れ落ちる。

「大丈夫?」

「おねぇちゃん・・・・」

 泣いた。ただ泣いた。

 姉は、燃える他の家を見渡す。

「ここもダメか‥」

「あの黒い人なんなの?」

「帝都連合。」

 帝都。この『エルアール』の首都だ。

「国会が裏で糸を引く組織。」

 母の首から血で染まった鍵をとる。

「なにそれ。」

「本の鍵。」

 あの本は何なのか。

「戻ろう。私、おねぇちゃんと住む。」

「あっそう。じゃぁ戻ろっか。」

 自宅へ―。

 街道の静寂。

 小鳥はまた、静寂を保つ。

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