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第27話「どこまでも一緒」

 ヤマタノオロチを止めるため、神たちの壮絶な戦いが始まった。


「おらおらあ!! これで、どうだ!!!」


 タヂカラオはオロチの体側面に回り込み、神力を込めた拳をめり込ませていく。

 しかし、山のような圧倒的巨体を誇るオロチの前には、さすがのタヂカラオでも致命傷を与えることはかなわない。

 八つもあるオロチの頭の一つが、長い首を曲げてタヂカラオを標的に捉えた。


「危ない!」


 超高熱の炎弾がタヂカラオとオモイカネを狙って次々と撒き散らされていく。

 タヂカラオはオモイカネを抱えて一目散に軌道上から離脱を図った。

 炎弾は黄泉国から湧き出てきた餓鬼たちを巻き添えにして、あらゆるものを蒸発させていく。

 ヤマタノオロチがタヂカラオたちに気を取られている隙を狙って、彩雲が神弓の弦を引いた。


「穿岩光矢!」


 光の矢は見事にオロチの首を捉え、頭の重さでもげるように落ちていった。


「お嬢ちゃん、すげえぞ!」

「これでやっと一つ! あと七つだ!」


 タヂカラオとオモイカネが彩雲に称賛の声を上げた。

 しかし、歓喜の声は続かない。

 ヤマタノオロチのなくなった首の切れ端から、新たな頭部がにゅるりと生えて出てきたのだ。


「なにい!?」

「再生するなんて、ヤモリの尻尾じゃあるまいし」


 彩雲はオロチの挙動を見て確信する。


(さっきの金色の石を破壊しない限り、この化け物は倒せない)


「彩雲ちゃん! 一緒に戦おっ!」

「わかった、七星ちゃん!」


 彩雲に声をかけたのは七星だった。

 七星は迫る火炎を避けながら、どんどんヤマタノオロチに近づいていく。


「貴方の非道は、七星と北斗星が許さない!」


 七星が口にした北斗星とは、天極に位置する北極星と、これを守護する北斗七星を総称している。

 太陽よりもずっと遠く離れている北斗星は、その星一つ一つが太陽と同等以上の膨大な光熱を放射する巨大な恒星であり、遠い宇宙から地球をずっと照らし続けていた。

 太陽神アマテラス、月の守護神ツクヨミと同じように、北斗星もまたこの地球、葦原中津国を見守ってきたのだ。

 そして七星はミナカヌシが北斗星から清らかな光だけを集めて誕生した神である。



  ◇



 時を同じくして、月の上ではミナカヌシが七星と対峙する穢悪の徒の存在を察知していた。

 ヤマタノオロチが地上に出てきたことで、光を遮っていた黄泉国の全貌が明らかになったからだ。


「ツクヨミよ! 私はどうなっても構わん。ありったけの光を私から吸い取り、我が子……七星に与えてやってくれ!」


 一度は姿が消えるほど消耗していたミナカヌシであったが、七星が母なる北斗星にミナカヌシに光を分け与えてもらえるように頼んだおかげで、月面でうっすらと姿が見えはじめていた。

 しかしミナカヌシはその吸収した光をすべて与えるという。

 親バカぶりが過ぎるミナカヌシに、ツクヨミはため息を吐いた。


「そんなことをすれば、あの子が悲しむだけですよ」


「あの子は神力の殆どを使ってしまっておる! だからこそタカミムスビの終光を再利用するしかなかったのだ。神力がカラの今、実体化したあの穢悪の徒……八頭龍を倒すことはできない!」


「……分かりました。ですが、ミナカヌシ様の力は必要ありませんよ。この月には、これまで太陽や銀河の星たちから吸収した光の力が宿っていますから」


 ツクヨミもまた、抱きしめた七星のぬくもりをはっきりと覚えている。

 ツクヨミは神術を使って、月から神力の源になる特別な白光を七星に送り届けた。

 

 天空から黄泉国に届いた一筋の白光が、七星を照らす。


「――ツクヨミお姉ちゃん! それにお父様、お母様の力を感じる。ありがとうね!」


 神力を取り戻した七星は、八星杖から一振りの刀を引き抜いた。

 新たに与えられた星の光を刃にまとわせ、敵を斬り裂く究極の神技を放つ。


「やあっ!」


 地平線の彼方まで届きそうなほどの刃長で、ヤマタノオロチは一瞬の内に八つの首を跳ね飛ばされた。

 力なく倒れていくヤマタノオロチの胴体から、金色水晶が再び出現する。


「闇の波動を出す前に、あれを撃ち抜く!」


 彩雲が正確に狙いを定めて弦を引き絞った。

 放たれた光の矢が、ついに金色水晶を粉々に砕く。

 甲高い音を響かせながら、水晶は星屑のように地上に降り注いだ。

 七星の一番近くに落ちたオロチの首の一つが、力なく語りかける。


『なぜ、それだけの力を持っていながら人間を……世界を支配しようとしないのだ……!?』


「みんなが支え合えば、支配する必要なんてないんだよ。そんな優しい世界を作ればいいんだから!」


「……その温情は裏切られる。貴様が考えるほど人間は……いつか貴様は必ず後悔するだろう」


 ヤマタノオロチの反論は、そこで途切れた。

 大魔王になりすまし死の世界を司ろうとしていた穢悪の徒は、神々の結束により完全に消滅した。


 すべてが終わり、朝日が昇ろうとしていた。

 戦いを終えた神たちが集まり、健闘を称え合う。


「七星ちゃん、本当にありがとう。七星ちゃんがいなかったら私、絶対に勝てなかった!」


「そんなこと無いよ。ここに居るワカヒコ様だって、イザナギ様やイザナミ様も、みんな無事に戻ってこれたのも、彩雲ちゃんが頑張ろうって決めたからできたことなんだよ」


 七星の褒めちぎりに、彩雲は耳まで赤くした。

 しかし、タヂカラオは首を傾げてずっと考え事をしていたようだ。


「いろいろなことが起こりすぎて、なんか大事なことを忘れている気がする……なんだろうな」


 その答えを教えるように、七星は彩雲に話しかけた。


「彩雲ちゃんは会ったんでしょ? アメノサグメに」


「……うん、会ったよ。けど……その覚悟も合ったはずなのに、なぜか討てなかったんだ。それで私、天の羽羽矢を撃ち落とせばって思って……」


「そうだね、それで正解だったのかも」


 ヤマタノオロチが地上に出てきたとき、アメノサグメの姿は見えなかった。

 黄泉国が崩落したときに岩石に押しつぶされてしまったのか、それとも……。

 だが彩雲はまたいつかどこかでサグメと出会いそうな気がした。


「――彩雲」


 彩雲を呼んだワカヒコは、しゃがんで彩雲と同じ高さに目線を合わせた。

 そして両肩に手を添え、優しげに語りかける。


「よくやったな。私はこれから高天原に向かい、事の次第をアマテラス様に報告してくる。少し戻りが遅くなるかもしれないが、必ず帰る。だから母上の言うことをよく聞いて、家で待っていておくれ」


 高天原でタカミムスビに討たれそうになった時のことを思い出し、一抹の不安がよぎった彩雲だったが、タヂカラオ、そしてオモイカネが彩雲を勇気づける。


「なーに、心配ねえって。俺とオモちゃんが、ばっちりワカヒコの味方してやっから!」


「どっちかといえば、勝手に黄泉国で暴れまくった私達が怒られそうな気がするんですが……」


「ええ!? それは勘弁してくれよ……!」


 ワカヒコは笑顔を見せ、タヂカラオ、オモイカネと一緒に雲に乗って高天原へと向かっていった。

 彩雲と七星は、三柱の雲が見えなくなるまで手を降っていた。

 次にイザナギとイザナミが出立する時が来た。


「さあ、私達も参ろうか」

「ええ。これからは、どこまでも一緒です」


 聞けば、黄泉国の近くにあるという「根の国」を訪ねるという。

 国土創造の偉大なる二柱は、七星と彩雲の労をねぎらい、そして礼を言って旅立っていった。

 残った幼き二柱は太陽がよく見える海岸線まで歩いてきた。

 そこでぽつりと彩雲がつぶやく。


「やっぱりお父様のこと、心配になってきちゃった」


「大丈夫だよ。今度は七星がちゃーんと見ているから。それより、彩雲ちゃんの願いが叶ったら、何でもしてもらえるって約束だったよね!」


「う、うん。私ができることだったら……何でもいいよ?」


「じゃあねえ……」


 七星は誰にも聞こえないように、彩雲の耳に近づいて小声で耳打ちした。

 そのお願いは彩雲の予想から外れたようで、彩雲はとびっきりの笑顔を返す。

 ちょうど地平線の向こう、朝日が二柱を祝福するように顔をのぞかせた。

 そして幼い二柱はゆっくりと歩き出す。

 その右手と左手を固く結ばせて。

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