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第1話「太陽神からの贈り物」


 高天原の政を司る宮殿では、赤い糸で装飾が施された白地の装束に身を包んだ一柱の女神が座していた。


 八百万とも言われる多くの神々において、その名を知らない神はいない。


 その傍には造化三神の一角であるタカミムスビと、その子である思兼命(オモイカネノミコト)が同じように座していた。


「どうやら、来られたようですね!」


 近づいてくる足音が聞こえて、オモイカネが嬉しそうに来客を知らせる。

 客座に現れたのは若く長髪の男の神だった。


天照(アマテラス)様、お待たせしました。タカミムスビ様にオモイカネ様も、お久しぶりです」


 一礼した男神(おがみ)が頭を上げると、背中で結った真っ白な長髪が少し跳ねた。


「天津国玉の子、天若日子(アメノワカヒコ)。待っていましたよ。ささ、もっとこちらに」


 アマテラスはワカヒコを笑顔で迎え入れた。

 薄暗い部屋の光がワカヒコの鍛え上げられた筋肉を際立たせるように陰影をつける。

 四柱が一つの明かりを囲むように近づいて座ると、宮殿の戸がその始まりを告げるかのように静かに閉まっていった。


「それでアマテラス様。私のところへ遣わされた神使の伝令通り、このように着の身着のままで馳せ参じましたが、それほど火急のご用件とは?」


「あなたを呼んだ理由は葦原中津国の件です。最初に遣わした天之菩卑能命(アメノホヒノミコト)との連絡が途絶えて三年も経ちました。彼には大国主神(オオクニヌシ)と会って、我々に彼の地を禅譲してもらうように命じましたが、恐らく国津神に取り込まれてしまったのでしょう……」


「そうでございましたか……。長らく狩りに出かけておりましたので、まさかそのようなことになっていたとは……」


「それでね、八百万の神に集まってもらって、次は誰にお願いしたらいいと思うか、候補を挙げてもらったんだけど……」


 アマテラスは満面の笑みを浮かべて、ワカヒコを呼び出した理由の核心を話し始めた。


「ワカヒコ。アメノホヒに代わって、あなたに葦原中津国を平定してほしいの」


「ええっ! 私のような若輩(じゃくはい)が、ですか!?」


「謙遜しなくてもいいのよ。高天原弓道大会に初出場でいきなり優勝した超神星。それに天津国の女神百万柱に聞いた彼神(かれしん)にしたい男神人気投票で堂々の一位に選ばれたあなたであれば、そのくらい楽勝でしょう?」


「いやいやいや、楽勝どころか超高難易度の任務じゃないですか! 確かに弓ならそれなりに自信ありますけど、人気投票の結果なんてぜんっぜん関係ないですし! ともかく、そんな大役はとても……」


 これでもかと持ち上げるアマテラスに対し、ワカヒコは汗だくになりながら固辞しようとした……のだが、アマテラスも奥の手を用意していた。


「まあまあ、そういわずに。ワカヒコが今回の任務を引き受けてくれたら、特別にこれを譲りましょう」


 アマテラスが差し出した長尺の上質な木箱に収められていたのは、ワカヒコが見たこともない極上の弓だった。


「!? これは……!?」


「かのミナカヌシが遺したという伝説の神弓・天之麻迦古弓(あめのまかこゆみ)天羽々矢(あめのはばや)。いずれもこの世に一具しか無い、大変貴重なものです」


 弓と矢を受け取ったワカヒコはその精巧な出来栄えに驚き、何百年も愛用してきたかのようにしっくりと来る握りの感触に感動すら覚えた。

 つい先ほどまで断るつもりだったのに、弓を手にした瞬間、後ろ向きな気持ちは霧散してしまった。

 アマテラスはワカヒコが高揚する様子を見て満足気にうなずき、説明を続ける。


「天之麻迦古弓は神力(しんりき)が相当強くなければ扱えないゆえ、弓自身が持ち主を選ぶとさえいわれています。実のところ、今までこの弓をうまく扱えた神は皆無だったのだけれど、天津神随一と云われる弓の使い手――あなたならきっと大丈夫でしょう。それに、天羽々矢は破邪の効果を持っていて、どんな悪鬼でも射抜くことができます。強力ゆえ、取り扱いには十分注意するように」


「このような素晴らしい逸品を私に……。アマテラス様、かしこまりました! このワカヒコ、ご期待に添えるようこれから地上に行ってきます!!」


 ワカヒコは喜び勇んで宮殿を後にした。

 その様子を見ていたタカミムスビはアマテラスに語りかけた。


「うまく説得できて何より。さて、ワカヒコはうまく国津神を懐柔できますかな」


「できればワカヒコにはあの弓を使わずに、うまく話をまとめてもらいたいのですが……」


 アマテラスの心配は杞憂に終わるのか。

 次世代の天津国を背負って立つ若き神は、雲の神トヨクモノから授かった雲に乗って葦原中津国へと(くだ)っていった。

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