第九話 岩兎?
「あとお前。なんで俺がこの場所を選んだかわかるか?」
「えっと〜、綺麗だから?」
ルーイさんは湖を指差しわなわな震えている。
「馬鹿野郎!!俺最初に言ったよな!あっち向けて打てって!」
「あっ……」
森側に向けて打った為、木が砕けた余波でえらいことになっている。
「お前のそのスキルが放出系だったら大惨事だぞ!」
「すいませんでした……って、放出系って何ですか?」
「放出系ってのはな、名前のまんまだ。そのままの威力が放出される。お前のそのスキルは今のところ触れた対象にのみ発動しているが今でもなかなかの大惨事だ。手前の木が砕けた余波でこの結果だろ?もし放出系だったらここら辺一帯、恐らく街の方まで粉々に吹き飛ぶだろう。そう思わせるだけの威力がそのスキルにはある。とりあえず木やそれなりに大きい岩にそれを使えば、いつでもこの大惨事を作れると覚えておけ」
確かに爺ちゃんが使った時も凄かった。
対象のみ発動か。まだわからないけど色々試してみよう。
その後俺はきちんと湖の方へ向かってスキルを知る訓練を行った。
結果、やはり型通り構えないと発動どころか、発動準備すら出来ない。ただ直感だけど発動準備は構えなくてもいずれ出来るような気がする。
スキルの発動は拳の正面が当たった場所のみだった。甲の部分や張り手でも試したけどどれも不発だった。こっちは駄目だ。拳を打つ前提なんだろう。
「今日はこんなもんか。野営するにしろ帰るにしろ、ぼちぼち決めなきゃならねぇがどうする?」
「それでは依頼をこなしながら帰りたいと思います」
「わかった。お前狩りの経験は?」
「あります!岩兎は好物なのでよく狩ってました」
「そうか、それじゃ奴等の生息地はどんなところか分かるか?」
「はい。岩場や崖など擬態しやすい場所、または背の高い草の生茂る場所です」
「正解だ。それじゃ少し回り道になるが奴等のいそうな場所がある。そっちによってから帰るか」
「はい!」
来た道を逸れ、道なき道を進む。湖の恩恵か、規模は小さいけど色々な種類の薬草の群生地があった。薬草依頼、種類が書いて無かったけど一通り採っておけば大丈夫なはず。岩兎を狩ったら帰り際寄らせてもらおう。
「そろそろ着くぞ。以前ここら辺で岩兎の目撃情報があった。でも奴等、音に敏感だから……」
「大丈夫ですよ」
茂みをガサガサ音を立て進み俺は鞄から弓矢を取り出す。
「お前、それ……」
少し先に開けた場所があり、ごろごろとした岩が沢山ある。確かに岩兎が巣を作りそうな場所だ。
右の大きめな岩は間違いなく雄の岩兎だ。遠目からでも分かった。俺はそこへ聞こえるように、
「ピュイッ」
口笛を吹いた。すると、
「きゅっ?」
っと鳴きながら大きな岩が動いた。
「がっ、岩石兎ぃ!?おっ、おい!そいつはっ……」
俺はこちらを向いた岩兎の眉間に矢を射った。眉間というか両耳を覆っている岩の間に隙間があるのだ。真っ直ぐ飛んだ矢がーーストンーーと音を立て、そこに刺さると、岩兎は一瞬体を震わせ音を立てて崩れ落ち、中から丸々太った兎が出てきた。
「ここの住処は荒らされてないのか、かなりの大物ですよ!」
「……」
ルーイさんは黙ったままこちらを見ている。サポートはしてくれるって言っていたのでその場ですぐ血抜きをして放置した。
少し離れた場所に岩の小山が出来ている。岩兎は一妻多夫で、雌を守る様にその周りを雄が固める。この辺りは天敵がいないのか、こんなでかい岩山は初めて見た。
「ピュイッ」
「きゅっ?」
ーーストンーー
ここまで多いともはや作業だ。余計に一羽多く仕留め手早く終わらせた。
ルーイさんのところへ戻ると最初に仕留めた岩兎を逆さまにして血抜きしていた。ありがたい。
ルーイさんは手に持った岩兎を両手で目線の位置に掲げ、
「マイル、こいつが何かわかるか?」
「はい!岩兎です!美味しそうですね」
「確かに美味そうだ。って、違う!!」
「えっ!?」
「こいつは岩兎じゃねぇ!岩石兎だ!!」
「岩石兎?」
ルーイさんは説明してくれた。岩石兎は岩兎の上位種で、依頼可能階級はC級からになり、本来ならば中級への昇格試験で受ける内容らしい。
「本来なら複数での、しかも何日もかけて探し回ってやっと見つけられるかなんだぞ?」
「そんなに珍しいんですか?」
「はぁ……だから昇級試験になるんだろ。こいつらは岩を纏って擬態するだろ。岩兎と岩石兎じゃ硬さがまるで違うんだ。強力なスキルだと中身を潰しちまうし、軽すぎると中身に辿り着けない。何よりこいつら自身がスキル持ちだから更に厄介なんだ」
スキルを持っているという言葉に少し興味を持ち俺はまだ擬態している近くの岩石兎に【鑑定】をかけた。
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名前 なし
年齢 六歳
種族 岩石兎
ジョブ なし
スキル 岩纏 纏硬化 飛礫
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「本当だ。岩石兎はスキルを三つも持ってますね」
他の個体も年齢以外変わらなかった。擬態自体がスキルの効果の様だ。
「……お前、ちょっと待て。本当だってのはどういう意味だ?どうしてこいつがスキルを三つも持っているって分かるんだ?」