第六話 ギルドカード
「あんた、親御さんは?」
「いません。祖父に育ててもらいました」
「それは悪い事を聞いたね。……あんたは、そのおじーさんからジョブやカードについて聞いた事は?」
「十五歳でジョブを得られると聞いただけで詳しくは」
「そうかい。あんたは最初、冒険者になるのが夢だって言っていたね。何かなりたいジョブとかあったんじゃないのかい?」
「はい。子供の頃から聞いていた物語に戦士や魔法使いの話があったのでそういうジョブがあれば、なれればいいかなと」
「その事をおじーさんには?」
「言ったことはあります。でも……」
「でも?」
「祖父は、なんにでもなれる、と」
少し間が空いた。
「訓練もしていたって言ってたけど話せる範囲でいい。どんなことをしていたんだい?」
「細かく話すと長くなりますが剣術、武術など武芸全般、魔法、それから役に立つと言われたので狩りや採取、後は関係あるかわかりませんが読み書きに算術、薬学とかですね」
「いつからだい?」
「たぶん、四歳か五歳位からだと思います」
「それらは誰に教わったんだい?」
「祖父です」
「全部?」
「はい」
「一人でかい?」
「はい」
ギルド長は何か考え込むように俯いている。暫く沈黙の時間が続いていたが突然立ち上がり部屋の外へと出て行った。
今この部屋にはミリィさんと二人きりだ。
何か話しかけようかと考えていたらミリィさんが、
「マイルさん!凄いです!」
身を乗り出し凄いキラキラとした目でこちらを見ている。くっ!!その瞳が眩しすぎて直視できない!
「こんなの初めて見ました!とても貴重な体験、ありがとうございました!」
何のことか分からないけど感謝されているらしい。
その勢いに若干引いていると、ギルド長が戻ってきた。元いた椅子に座り直すと俺の二枚のカードを隅にやり四枚のカードをそこに置いた。
「今ギルドにいる連中のカードを借りてきた」
赤が二枚。緑と黄色がそれぞれ一枚だ。その中で赤いカードを二枚、こちらに移動した。
「その二枚とあんたのカード見比べてみな」
そう言われて見比べてみる。さっき色が変わった俺のカードは単体で見ると赤く見えるが他の二枚と比較すると赤黒い?茶色にも見えなくもない様な濃い赤だ。それにこの二枚も色の濃さが違うように見える。
「カードの色はね、覚えたスキルの数やその強さによって色の濃さが変わるんだ。ただし同系統の場合だ。あんたのカード、最初は青かっただろ?だけど今は赤黒い。こういう変化を(上書き)って言われている。まぁ、滅多にみられるもんじゃないけどね。あたしも長い事生きてきたけど二回しか見たことがない」
相当珍しい事らしい。そしてそれぞれのカードを指差しながら、
「先にカードの色についての説明もしておこう。赤カードは攻撃系、黄色カードは防御系、緑カードは回復・支援系のスキルを覚え易い」
俺は隅にある自分のカードを見て、
「あの、青カードは?」
「青はね、なんて言うか括りが難しいんだ。交渉事や商品の目利とか、商人が使う様なスキルが多いから商人系とも呼ばれている」
「それじゃ、俺はこれから攻撃系のスキルを覚えやすくなったって事ですか?」
「残念だけど違う。カードの色って言ったけどこの場合はマスターカードの方だね。」
「マスターカード?」
「ギルドで預かる方のカードだよ。説明されなかったかい?一枚ギルドで預かるって」
「聞きました」
「話を戻すよ。あんたはジョブを得た時、一つはスキルを得た筈だ。スキルもね幾つか階級があるんだけど、さっきの試験中に新しいスキルに目覚めたね?その時に元あるスキルより、より高位の、しかも他系統のスキルを得た時に(上書き)が起きる。ただね、あたしが知ってる限り、あんたの様に職業降ろしを受けたばかりの子がなったなんて、見た事も聞いた事も無い」
前代未聞らしい。ギルド長は続けて、
「最初に得たスキルを初期スキルって言うんだけどね、最低でも中級スキルを覚えるんだよ。だけど今回あんたのカードは何色に変わった?」
「……濃い赤ですね」
「マイル、これがどういう事か分かるかい?」
ギルド長はさっきと同じ質問をしてきた。
「俺の初期スキルが中級だとして試験中に覚えた他系統のスキルが中級より上、カードの色が濃い赤なのでそのまた更に高位のスキルを覚えたと言うことですか?」
「半分正解だ。スキルはね、初級から始まり中級、上級、超級、超上級さらにはまだ上があるが、あんたが今回覚えたのは恐らく超上級。中級で簡単に岩くらいなら粉々に出来る。だからそのスキルは無闇矢鱈に使っていいスキルじゃないんだよ。地形が変わっちまう」
なる程。確かに爺ちゃんは地形を変えた。
なんて考えていたら、扉が勢いよく開けられた。