第三話 マイル試験開始!
訓練場はギルド横の倉庫の一画にあった。外からの出入りも可能でギルド側からの出入りも出来る作りのようだ。
大人百人が入っても余裕のありそうな広い空間に今いるのは俺、ミリィさん、ギルド長、そして訓練場の真ん中で腕組みしてこちらを目を細めて見ている人が試験官だろうか。全部で四人だけだ。
壁際には訓練用の木剣や木槍、その他色々な武器がある。先程まで訓練をしていたのだろう、まだ熱気の残る空気を感じているとギルド長が男の方へ歩いて行った。
「こいつがあんたの試験をするルーイだ。試験の内容はこいつから聞きな」
ルーイと呼ばれた男は俺よりも背が頭二つほど高い。体つきはやけに細く、やや褐色の肌と深緑色の髪と癖の強い髪型のせいか枝のない細い木の様だ。
「俺はルーイ。ばーさんが連れてきたって事はそう言う事だろ。まぁーちゃっちゃと始めてちゃっちゃと終わらせようか」
そう言うなり自分の周りに円を描いた。
「試験内容は簡単だ。俺に攻撃を与え、この円から一歩でも出す事ができれば合格。俺からは手を出さない。武器使用可、金的目潰しなんでもありだ。制限時間はあの砂が落ちきるまで」
そう言って奥を指差した。壁にはめ込む様に設置された巨大な砂時計がある。
「準備が出来たら声かけてくれ」
「いえっ、いつでもいけます」
「ふーん。おい、ばーさん!」
「わかってるよ!それでは、開始!!」
大きな砂時計がひっくり返された。
ーーーマイル。狩りの基本はのぉ、よく観察する事じゃ!ーーー
爺ちゃんの言葉を思い出す。周りの状況を確認し、相手をじっくり観察する。
俺は少し間合いを取りつつも正面に立ち様子を見た。普段なら相手の正面に立ち観察するなんて馬鹿な事はしないけど、向こうからは手を出さないと言っていたので問題ないだろう。
観察対象であるルーイさんはポケットに手を突っ込んだままこちらを見ている。
円から出せれば試験合格、と一見簡単そうに見えるが裏を返せば、それだけの自信と何らかの手段があるはずだ。
周りのを見渡すと訓練用の武器置き場の中に弓を見つけた。矢の方は先が潰れていたが相手に軽く当てるだけなので問題ない。手は出さないと言ってはいたが遠距離からの攻撃手段は必要だ。
俺は早速弓を放つ。何でもありだと言っていたので遠慮は要らないだろう。
ごく至近距離といっていい距離から放たれた矢は狙い違わずルーイさんの胸へと吸い込まれる様に飛び、瞬間、
ーーーイイィーーーンーーー
と甲高い音と共にルーイさんの身体が全身を包むように淡く光った。
「ほらほらどうした!」
俺は続け様に矢を射った。狙いを変え全身くまなく当てにいったが全てルーイさんに当たる寸前、淡い光に阻まれた。
「いいねいいね!」
きっとあの光が自信の源だ。
ーーーいいかマイル。同じ魔獣でも妙な手応えの奴がおるじゃろう。そういう奴はな、押して押して押しまくるんじゃ!ーーー
弓矢を手放し刃引きされた片手剣に変え、腕、足、胴、腰、肩、首、頭、前から横から後ろから全身ありとあらゆる場所を連続して斬り付ける。
ーーーイイィーーーンーーー
連撃も、当てる側から淡い光に阻まれる。俺はすぐに距離を取った。
恐らくどれだけ速く切り付けても全て塞がれるだろう。そしてもう一つ分かった事がある。手応えがないのだ。手に伝わる衝撃が全く無い。
「若いねぇ〜。がんばれがんばれ!」
ーーーそれでも駄目なら、ドカンと一発じゃ!ーーー
片手剣から両手剣に替え、振り上げたままルーイさんへと掛けより、思い切り振り下ろす。
ーーーイイィーーーンーーー
斬撃による風圧で土埃が舞う。中型魔獣なら一撃で葬れる威力はあったはずだ。土埃が晴れてルーイさんが見えた。まるで何事もなかったように涼しい顔をしている。
「ん〜いいね、いいね、実にいい!体力あって、力もある、頭の回転も早そうだ!だからこそもったいねぇー!いいか?よく聞け!……普通に攻撃したんじゃ俺にはとどかねぇ。よく考えてみろ」
今までの試験を振り返る。あの淡い光によって、恐らくルーイさんには打撃や斬撃は効かない。考えろって事はその他の攻撃手段を考えろってことか。
俺は右の掌をルーイさんへと向けた。
【火種】
掌からチロチロと吹けば消えそうな火がでる。その火に自分の中の力を薪がわりにくべるよう意識して大きくする。
「ま、魔法!?」
拳大に大きくなった【火種】を握りしめ大きく振りかぶり……投げつける!!!
「火球だとぉっっ!?!」