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欲望の結果

「未央、あの時のこと覚えてたんだな。今思えば考えなしだったと思ってる。でもまさか、()()なるとは思ってなかったんだ……」

 私の記憶を肯定した大樹はうつむいて、ぐしゃりと空っぽのジュースのパックを握り締めた。



 大樹はあの夢のような出来事以来、異常なほどにモテるようになった。

 今までは見向きもしてくれなかったクラスのアイドルも積極的に話しかけてくるし、読者モデルをしている先輩が声をかけてくれたり、美人の先生が頬を赤らめたりもするようにもなっていた。


 そのくせ、おかしなことに誰も大樹に対してひがみの感情を持たないのだ。

 大樹は誰からも尊敬されており、男女問わず優しさを与えられていて。


 間違いなく、大樹はライトノベルに出てくるような、ハーレムの能力を手に入れていたのだろう。

 だけど、それは“大樹”である時のことだけ。



 怪人が出没すれば、女神テッラとの契約通り、怪人退治に向かわなければならない。

 本来ならば、ハーレムなんて能力を付けなくてもヒーローとしての人気はそれなりに出たかもしれないのに……高望みをしたせいで大樹はおかしな力を押し付けられてしまったのだろう。


 大樹が手に入れたチート能力、それは……ゴキブリの力だった。

 以後、名前を出すのもはばかられるのでGとしよう。



 昆虫だとしても、バッタライダ―のようにカッコ良ければいい。

 だけど、恐らく英語名であるコックローチから名づけられたクローチマンは……カッコイイというよりむしろ嫌悪感を抱かせてくる存在だった。


 リアルすぎるマスクに、ふよふよと動く長すぎる触角、そして黒光りする体躯。

 スピードを出す時は四つん這い……いや、六つん這いスタイルで、クローチマン研究者によると一度に動かすのは細かい毛の生えた六本ある足の内三本だけで、走るスピードも人間の十倍。つまりはGと同じらしい。


 ……そんなところにまでリアルを追求する必要はないと思う。



 そんなわけで、変身した大樹は正義のヒーローのはずなのに、ハーレム能力を望んだせいで人々から嫌われる存在へと成り下がってしまったのだ。



「不潔だ、不潔だって皆言うけどさ……不潔じゃないんだよ! 俺は汚いとこ行かないし、本物のほうも抗菌タンパク質ってのが身体を綺麗にしてくれてるらしいし、海外じゃペットにしてる人もいるし、食べる人もいるくらいなんだよ!」


 少しでも好かれようと、大樹は大樹なりに調べたのだろう。

 知りたくもなかった知識を必死に語ってくる。


「いや、綺麗なのは自分の中だけだってば。身体の周りは病原菌だらけだから。アレルギー起こす人もいるくらいなんだからね」

 冷静にツッコミを入れると、大樹は膝を抱えてしょげてしまった。


「洗剤で死ぬのも不潔だからじゃなくて、油分が無くなって呼吸できなくなってるってだけなのに……」

 小声で反論してくるが、結局自分でも好かれることがないということが、わかっているのだろう。


「まぁ、仕方ないよ。諦めて受け入れな」



「あのさ、一つ聞きたいんだけど……やっぱり、あの姿はキモイ……?」

 小声で尋ねてくる大樹に“うん、そうだね”とは言いづらい。

 だって、どんなにアホでも自業自得でも、大樹はこの地球を怪人の手から守ってくれているからだ。


「キモイというか、なんというか……独特な感情を抱かせてくるよね。ダンゴムシ怪人との戦いのときとか特にそう思ったよ」


「……アレは、俺のほうが衝撃だったわ」

 大樹はぞわぞわと身体を震わせる。


 ダンゴムシ怪人と戦った時、クローチマンは最大のピンチを迎え、首筋くびすじを噛まれたのだ。

 そのせいで体液が飛び、集合フェロモンが発生したのだろう。

 仲間のGが続々と現れてダンゴムシ怪人に群がり、あっという間にダンゴムシ怪人はやられてしまった。



「そんなに落ち込まなくてもさ、ほら! ある意味最強のチートだよ、あの生物は。核戦争後でも生きられるらしいし。天敵は足が速くて、食べてくるアシダカグモくらいなんじゃない?」

 元気づけようと気休めを言い、あははと苦笑すると、大樹はきらきらした目でこっちを見つめてきた。



「何、その目は?」

 たじたじとしてしまって、その視線のわけを尋ねると、大樹は期待をするような表情を浮かべていく。


「そんなに詳しいなんて、もしかして……嫌いじゃなかったりする?」


「ああ、ええと……」

 もごもごと口ごもる。

 詳しいのは、嫌いだから詳しくなってしまったってだけなんだ。

 敵を退治するには、敵の習性を調べなきゃと思ってただけ……ごめんね、大樹。

 本当に、ごめん。


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