卒業
校門に『卒業式』の立て看板。
横に佇んで制服姿の彼女が一人。
「言わなきゃ……もう、今日しか……」
一人、また一人と卒業証書を手にして背中。その影を見るたび怯え、安堵し――その繰り返し。
中に混じって男女の影。繋いだ手と手に悪い脈を覚えた――その時。
「よう」背後から馴染みの声。「顔も見せないから心配したよ」
「先輩!」弾かれたように彼女は振り向き――そして見る。
詰め襟の下、第二ボタンは――そこにない。
「……ッ!」
息を詰めて彼女が俯く。肩が震える。
「あのッ……ごめ……!」
踵を返しかけた彼女の手首に――温もり。
「勘違いするなよ」背後、掴んだ彼女の手を優しくほどいて――硬い感触。「君に取っておいたんだ――第二ボタンは」