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探偵倶楽部のかくしごと  作者: 明山昇
第一話 未知との遭遇
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第六節 探偵倶楽部のかくしごと

 翌日。

 朝食中、新聞を見た父は言いました。

「昨日学校で殺人事件があったんだって?大丈夫だったか?」

 登校中、生徒達が歩きながら話しています。

「昨日、図書室の木坂先生が白野先輩を殺したんだって。」

「えー、こわーい。」

 始業前、教師が授業前にこう言いました。

「えー、知っていると思うが、昨日図書室で事件があった。詳しい事は学校でも調査中なので、あまり校外でその話はしないように。」


「そこじゃなくない!?いやそこも重要だけど!!ですけれども!!もっとなんかこう・・・物理的に大きい話あったじゃないですか!?」

 放課後。

 僕は蔵書保管室で一人叫びました。

 不思議な事に新聞にもニュースにも、誰の話からも、病院で起きた一件や空から舞い降りたドラゴン、現れたロボット、そんな話は欠片も出てきませんでした。

『私が記憶を改竄しておきましたからね。その手の話は出てきませんよ。』

 そう言ったのは手元の時計、ディクターでした。

「どういうことです?」

『宇宙統一法に基づくと、宇宙連合の加盟星で無い星の方々には、私達のような宇宙警察の活動をお見せすることが原則として出来ないのです。その為、鳥栖さんのような関係者以外の記憶は、病院の施設修復と合わせて加工させて頂きました。皆さんが図書室で殺人事件が起きた事しか覚えていないのはそのためです。』

 宇宙統一法だの、宇宙連合だの、よく分からない単語が出てきますが、おおよそは理解出来ました。要するに関係者外秘ということでしょう。その辺りの事情は理解は出来ます。

「なるほど、じゃあ僕も口にしない方がいいって事ですね。」

『そうですね。すみませんが本件は伏せておいて下さい。』

「わかりました。・・・ところで、いつから僕が関係者になったんでしょうか?」

『え?』

「僕はこんな事になるとは思ってませんでしたよ!!ただの事件の手伝いくらいなら百歩譲って良しとしますが、宇宙人、精神生命体、おまけにドラゴンだのロボットだの!!非現実的な事象に巻き込まれるのはゴメンです!!とっとと出てって下さい!!」

『そんな!!今更困ります!!』


「そうよ。それに、そんな面白そうな話に乗らないなんて、どうかと思うわ。」


「そんな無責任な・・・。え?」

 僕は一瞬誰の言葉か分からず戸惑いました。しかし声に聞き覚えがあります。まさかと思って振り返るとそこには、宝野先輩が腰に手を当てて立っていました。

「このままこの宇宙人達を放っておくと、また事件が起きるだけじゃないの?それを止めるのも探偵の仕事じゃないのかしら?」

 僕は何と返そうか迷いました。「それは警察の仕事です」も有りですし、「そうは言ってもやりたく無いものはやりたく無い」も有りだとは思います。ですがそれ以前の問題として、一点、どうしても気になる事がありました。

「先輩・・・昨日何があったか覚えているんですか?」

「ええ。なーんか他の人と話が合わないんだけど、私ははっきり覚えているわよ。貴方の時計が変形するところとか。」


 話が違う。

 ディクターの方を見ると彼も困惑していました。

「どーなってるんです?彼女も関係者扱いなんですか?」

 僕は小声で聞きました。

『分かりません・・・。彼女は記憶処理の対象でした・・・。消えていないはずがないのですが・・・。』

「考えられる要因は?」

『稀に効かない特異体質の人も居るとどこかで耳にしたことはありますが・・・。後は・・・そのぅ・・・。』

 ディクターの声が少しずつ小さくなっていきます。

「ちょっと、何話してるの。」

 先輩が割り込んできました。どうしましょう。何て言えばいいんでしょう。

 思考を巡らせていきましたが、何も思い浮かびません。先輩は特異体質ですね、なんて言った日には殺されてしまうかもしれません。


 ・・・殺されてしまう?


 何故僕はそのような思考に至ったのでしょうか。ふと疑問が湧きました。

 そもそも先輩は風紀委員です。悪口を言ったからといって手を出していたら、逆に風紀が乱れてしまいます。今の所、彼女が風紀委員長に抜擢されてから、そのような話も聞いたことがありません。

 でも僕は今彼女が手を出す前提で思考していました。何故でしょう。病院まで引きずられたから?病院で蹴られたから?恐らくそれが原因です。ですがそれだけではありません。

 そう考えて行くと、彼女の行動の節々に段々と、風紀委員としての「宝野有栖」と今僕が知る「宝野有栖」の間に相違点が見受けられました。


 何故彼女は現場の調査を認めてくれたのでしょうか。警察に任せればいいだけの話です。僕を信用出来る程の信頼関係はまだありませんでした。

 その前。「真相」という僕の発した言葉に憂いのある表情を見せたのは何故でしょう。

 その後。ディクターと遭遇した後、病院へ行くことを促したのは何故でしょう。彼女は好奇心旺盛だったから?いえ、彼女はその時笑みこそ浮かべていましたが、焦りのようなものも感じさせてていました。

 そもそもディクターと遭遇してそこまで驚いていなかったように感じるのは僕だけでしょうか。未知との遭遇に微妙に冷静に対応していたように思えるのは?


「・・・ディクター、特異体質以外に考えられる要因、さっき言いかけていたのは何ですか?」

 先輩の問いかけを一旦無視して、彼に囁くと、彼は小声で答えました。

「・・・・・・例えば、ですけれど、既に他の精神生命体と接触していた場合、その精神生命体が記憶消去を妨害する、何てことは有り得ます。」


 どうしたの?と声をかける先輩に対し、様々な可能性を模索した後、僕は口を開きました。

「・・・いえ、何でも。ところで先輩。」

「ん?何?」


 僕は意を決して、彼女に問いました。

「貴方、何かを隠していませんか?具体的に直球で言いますけど、ディクターのような宇宙人との遭遇を既にしていたりいませんか?」


 仮説でしかありません。何の根拠もありません。それでも僕にはその可能性が高いと思えました。記憶消去が効かなかった事に対するアンサー。ディクターにそれほど驚かなかった事など、前述の思考から類推される要因としては、これが最も高い可能性であると僕は確信した事を告げました。


 すると彼女は一瞬驚いた表情を見せましたが、次の瞬間に笑みを浮かべました。

「・・・証拠がないわね。」

「これから見つけます。そして、貴方が何故、何を隠しているかも、明らかにしてみせます。」

「何故?誰だって隠し事なんて幾らでもするじゃない。貴方が私に拘る理由が知りたいわ。」

「気になるからですよ。それ以上でもそれ以下でもない。・・・僕は、宇宙人のような度を過ぎた非日常的な出来事は極力避けたいとは思っています。手に負えないからです。ですが、身の回りの気になることは解消したい。ただそれだけです。それに。」

「それに?」

「真実を探る・・・それが探偵の仕事ですから。」


 本当はそれだけではありません。

 もう一つ、彼女を疑う理由、彼女の隠し事を暴きたい理由が僕にはありました。


 それは「栃岡遺跡の大秘宝」に纏わる話です。


 十年前、この地に見つかった超古代遺跡の秘宝。それを盗んだ犯人、怪盗R。

 結局誰かは特定出来ず、その責任を取って父は退職。そのまま今では半ば迷宮入りとなっているこの事件を僕は解き明かしたいと思っていました。栃岡高校に入学したのも、秘宝がこの高校に一時置かれた事があるというのが理由でした。

 父が持っていたその怪盗Rの容疑者リストを、一度覗き見た事があります。そこには何名かの候補の中に「宝野累」の名があったのを思い出したのです。

 宝野。

 警察を信用せず、真相という言葉に反応する”宝野”有栖。

 大秘宝を盗んだとされる”宝野”累。

 これは偶然の一致でしょうか。

 僕にはそうとは思えませんでした。


 ただ、それを口にする事はしませんでした。した所で警戒されるだけです。

 結果、場には沈黙が流れました。



「・・・ふぅ。」

 彼女が沈黙を破るかのように溜息を吐きながら話し始めました。

「そうね。昨日もそんな事言っていたものね。」

 言葉の紡ぎ方には躊躇い、どこまで言っていいものかと気を配るような素振りが見受けられます。

「・・・認めてあげる。私には隠し事がある。でも、それが何かは教えない。精神何ちゃらだかに関わる話かどうかも肯定も否定もしない。ちゃんとした証拠を持ってくるまではね。」

 そう言うと彼女は一瞬思考した後、こう言いました。

「そうね・・・。私がここに来たのには、昨日の出来事の他に、昨日言い忘れていた事が一つあったからなの。それは、クラブ活動は顧問の先生もだけど、メンバーが三名以上必要って事。兼任でもいいから、二名は集めないとダメって事ね。」

「え。」

 予想だにしない方向に話が飛んだことと、その内容に思わず絶句しました。法律は調べても校則までは読んでいなかったのです。そうだったのか・・・となるとメンバー集めが必要になる・・・僕は頭を抱えようとした時、彼女は思いがけない言葉を続けました。

「そこで。私がメンバーに入ってあげる。幸い、私はどこにも入部してなかったからちょうどいいわ。ただし、一年限り。仮メンバーとして一年所属してあげる。その間に、私が何を隠しているのか、証拠も揃えて見事的中出来たら、そのままメンバーとして残ってあげる。」

「・・・それは僕に対する挑戦って事ですか。」

「そう捉えて貰っていいわ。どう?面白いと思わない?」

 面白くはありませんし、売られた喧嘩は買わない主義でもありますが、どうもそうは言っていられないようです。それに僕にとっては破格の条件です。というより先輩自身がむしろ不利になる条件です。

「・・・何か企んでませんか?」

「いいえ、何も。ただ、その方が面白いと思っただけよ。お互いに、ね。」

 彼女が何を考えているのかは分かりません。ですが、どの道今はそれに乗るしかなさそうです。

 僕は黙って彼女の顔を見据え、そして、分かりました、とだけ答えました。



『あのぅ、結局手伝って貰えるんでしょうか・・・。』

 ディクターが不安げに尋ねてきました。そう言えば彼の事をすっかり忘れていました。

「ええ、いいですよ。今となっては、手伝う理由も出来ましたし。」

 そう言うと彼女は手をパチンと叩いて笑顔で言った。

「そうね。これでめでたしめでたし、と。じゃあ、今日は私は風紀委員室に居るから、何か事件があったら声を掛けてね。メンバー集めも忘れないようにね。」

 はい、と答えると、僕達はそれぞれの仕事に戻って行きました。


『ところで、あの、・・・貴方のお名前は?』

 ディクターが尋ねて来ました。そう言えば今まで聞かれていなかったし、言うタイミングもありませんでした。

 まずこの人との付き合いは、地球の礼儀というものを教える事から始めなければならないようです。

 私は溜息を吐きながら言いました。

「僕の名前はですね・・・。」



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 場所は変わり。

 影は一つ。だが声は二つ。

 誰かと誰かが話している。

「鳥栖正誤。変な名前でしょう?」

『鳥栖・・・聞いた事はあるな。十年前・・・あの事件の刑事だったか。』

「へぇ。またあの事件の関係者ね。十年経ってようやく進展かしら?」

『そうだろう。偶然とは思えん。』

「・・・だとすると、あの刑事も欠片を追って来たのかしら?」

『そこは分からん。そこは貴公()に任せる。我は奴らの方で手一杯だ。』

「分かったわ。探ってみる。」

 そう言ってその影は何処へとも無く消えていった。

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