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探偵倶楽部のかくしごと  作者: 明山昇
第一話 未知との遭遇
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第四節 未知との遭遇

「なるほど、つまりこう言う事で良いんですか?」

 僕はこの高かった時計の形を変えて下さりやがった自称精神生命体の要領の得ない話を整理しました。

「この辺りに悪い精神生命体とやらが居て、そいつは恐らくこの近辺に居ると。それで、もしかすると先程話したあの事件に関わっているかもしれないから、もしそうだとするとさっきの刑事が危ないから注意しにきたと。そういうことで良いでしょうか?」

『は、はい・・・。突然すみません。でも危ないと思って。』

 時計が話しかけてくるというのも何というか変な気分です。私のもそうでしたが、最近はそういったAI機能が搭載されてはいますが、まだまだ未成熟の分野です。それと比較すると受け答えが極めて自然な上、自信無さげに答えるその様には感情の存在も感じ取れます。なるほど生命体というのもーしていいのか分かりかねますがー理解出来ました。

 とはいえまだ疑問はまだ山のようにあります。

「貴方が生き物である、知性があるということは理解出来ました。ただ、精神生命体というのは何ですか?そもそも何故僕に声をかけたのですか?」

 そう、特に気になっているのは後者です。何故よりによって僕なのか。何故こんなただの自称探偵の高校生に声を掛けたのか。それが気になっていたのです。

 彼?はそれを聞くと、どう説明したものかと首を傾げた後、考えをまとめたのか口を開きました。言い忘れていましたが画面に映る彼?は所謂ロボット的な風貌をしていましたが、口があり、喋る時はその口を開くことで発声していました。目付きは見た目鋭く見えますが、その上の眉は斜め下を向いており、何処となく不安げです。その風体でとも言いたくなりますが、一旦黙ることにしました。

『えっと・・・まず精神生命体ですが、貴方がたのイメージで言うと、お化けが一番近いと思います。』

「お化け?」

『はい。幽霊、魂だけの存在とでも言いましょうか。そのぅ、目には見えず、でもそこには何かが居る、その何かが私たち精神生命体と思ってくだされば良いかと思います。』

 出てくる単語の全てが怪しげに聞こえるのは私だけでしょうか。彼は話を続けました。

『それで、その魂が何か物に宿る事で実体化したりすることも出来るわけです。または人に宿る事も出来ます。その人が了承するか、既に死んでいればですが。』

 死んでいれば、とはまた物騒な話です。しかしまだわからないのは、そんな事をして何になるのかという点です。

「宿ると何かいい事があるんですか?」

 私の問いに彼?は首を横に振りました。

『私みたいな普通の精神生命体は特にありません。実体化することで直接的にこの世界に介入出来るのが利点でしょうか。』

 一旦区切ると、彼?は続けました。

『しかし一部には、誰かの悪意を食らおうとし、そのために別の生命体に宿る者も居ます。』

「悪意。」思わず聞き返してしまいました。先程も聞きましたが、悪意とはまた物騒なワードです。

『はい。・・・普通の精神生命体というのは、基本的に食事などは必要としません。ですが、自分の欲求や不満を解消する糧として、他者の正悪何れかの強い感情の昂りを自分の物とする、そんな輩が居るのです。貴方がた人間でいうところの薬物に近いでしょうか。その中でも悪意というのは生長させやすいとされています。』

 人間というのは堕落し易く、正しく生きようとするのは難しい。そういう事でしょうか。何となく思い当たる節はあります。ちょっとした事が切欠で事件に繋がる事も多々ある現代、耳元で助長する声が聞こえればその切欠になる事もありましょう。

『そうして悪意を集め、裏ルートで売り捌いたり、或いは自らの本当の意味での糧として力を増していく闇の組織というものがあります。その組織はボスの名前・所在はおろか組織名、構成員まで不明で、我々宇宙警察でも足取りを掴めなかったのですが・・・。』

 闇の組織に宇宙警察。今日は初めて聞くワードが沢山あって理解するのも大変です。

『あ、すみません、名乗っていませんでしたっけ。(わたくし)、宇宙警察のディクターと申します。性別は人間で言えばオスに当たるのでしょうか。先程申し上げた闇の組織の構成員を追ってこの星に赴任して参りました。』

「はぁ、まぁ、その、そうですか。」

 もう何と言って返せば良いのでしょうか。先程から堰を切ったように話し続ける彼の発する単語や、彼が起こした現象全てに疑問符が付き、もはや言葉も無いのですが、とりあえず相槌だけを打っておきました。私は無力です。どうしようかと宝野先輩の方を見ましたが、頬を抓っていました。夢かどうか確かめていたのでしょうか。痛がっていたので夢では無さそうです。残念そうにしていましたが、私も残念でなりません。とりあえず彼の方に向き直り「よろしくお願いします」と返しておくと、そのまま彼は喋り続けました。

『よろしくお願い致します。それでですね、その構成員が近くに居るはずなのですが、先程の貴方の推理を聞いて確信したのです。貴方が先程鮮やかに解いて見せたあの事件!!あの事件を起こした方にきっと取り憑いているのではないかと!!』

「はぁ、それは何でまた。」

『まず一つは、私のセンサーにはこの十キロ圏内に私以外の精神生命体が居るという事です。』

「広すぎませんかそのセンサー。具体的な場所は分かるんですか?」

『いえ、居る事だけしか分かりません。』

 何の役に立つのか疑問でなりません。

『それともう一つは、』

「もう一つは?」

『刑事としての勘・・・です!!』

 もうツッコむ気力も起きません。先輩の方を見ると目が会いましたが、「私の方を見るな」とばかりにそっぽを向かれました。手に負えないのは分かるのですが、先程から僕に任せきりなのだから、適当に口出しして欲しいものです。

 ただ、僕としては、その勘もバカに出来たものでは無いとも考え、悩みました。というのも、先程の推理には色々穴があることは分かっていたからです。一番の穴は「そもそも何故殺す必要があったのか、それも今日、事故を起こすほど焦ってまで」という点です。動機として、金の使い込みがバレた、脅迫されたというのは理解出来なくもないですが、何れバレることは明白です。殺して口封じをして、結果更に重い罪を被せられるのも馬鹿らしい話で、冷静に考えればそんな事する必要は無く、脅迫してきた側も巻き込んでしまえば軽い罪で済んだのではないでしょうか。それに全体的にやり方も杜撰です。特に一階のパスワードの隠蔽です。図書室の一階なんて特に使われない部屋です。後でこっそり処理しようとすれば出来たでしょうに、人を殺してすぐに処理しようとして事故を起こしてあっさりバレる。推理が正しいという前提ですが、とても計画的とは思えず、衝動的な行動にしか思えません。その衝動的な行動が、彼の言う「悪の精神生命体」とやらに唆された結果だとすると、納得出来なくもありません。一考には値すると僕は思いました。

「・・・まぁ、可能性はあるかもしれませんね・・・。」

『ですよね!!では早速被疑者の所へ・・・』

 迅る彼?に待ったを掛けました。僕はもう一つの疑問に答えを得ていません。

「その前にもう一つ・・・あの、なんで僕だったんですか?」

『ああ、その件ですか?』

 そんなの簡単じゃないですかと言わんばかりに彼は腰に手を当て見栄を張るような姿勢をしながら、片手である本を見せてきました。

「・・・なんですそれ。」

『この本を読んで勉強したんです。この本によると、地球では、警察が困ったら顧問の探偵に頼むのが一般的なんですよね?貴方がた顧問だの探偵だの話しているのを聞きました。そして貴方がまさにこの本の探偵のように事件を解決しているのを見て確信したんです、きっと貴方なら何とかしてくれると!!それで協力を要請した次第です!!』

 見せられた本を見て、僕と先輩は頭を抱えました。その本が何であるか予想して見てください。何だと思いますか?ヒントは「顧問」「探偵」です。


 時間です。正解は『緋色の研究』と題された小説です。


「アホかあんた!!」

 僕は思わず叫びました。

『え?え?どうしました?』

 何も疑問に思わないのか、彼は不思議そうに尋ねてきました。

「まずそれは創作です!!仮に実在したとしても千九百年代、百年くらい時代が違います!!次に僕は素人の自称探偵です!!僕の話した顧問は顧問の先生!!顧問探偵とは違います!!というか貴方どこから僕達の事見てたんですか!!」

『何とか保管室とやらで話してる辺りからです。』

 随分前からだったようです。プライバシーとは一体。

『しかし、いやいやまたご謙遜を。百年くらい誤差じゃないですか。』

「人間の寿命超えてますよ!!」

『え、そうなんですか?』

「・・・貴方何歳ですか?」

『二万歳です。』

 ああ・・・時間の感覚が違うのか・・・。

 思わず納得してしまいましたが、いや、それどころではありません。ホームズは確かに尊敬していますし憧れですが、今の僕には分不相応という物です。

「いやいや、僕はただの学生ですから!!」

『いやいやいやいや、そう言わず手伝って下さい!!』

「しかしですねぇ・・・。」

 そんなやり取りを続けていると、先輩が声を掛けてきました。

「ねぇ。」

 丁度いい、是非先輩からも言ってやって下さい。

「いいじゃない、受けちゃえば。面白そうだし。」

 ・・・は?

『おお、ありがとうございます!!』

 あれ?僕の意思無視?ナンデ?

「だって貴方、探偵でしょう?探偵を頼って来ているのよ、断ったら探偵失格よねぇ。」

 自分の事では無いと悟ってどうでもいいと思っているのか、それとも面白い方に転ばせようと思っているのか、それとも先程色々言い当てたのが気に食わなかった事への当てつけか、何れかどうかは分かりませんが、彼女はニヤニヤ笑いでそう言ってきました。風紀委員長というのはこういう性格で良いのでしょうか。この高校の風紀はこれで守られるのでしょうか!?僕は声を大にして言いたい!!だが言う暇はありませんでした。

「大体、もしこの話が本当なら、病院に行ったさっきの刑事さん達が危ないじゃない。ほら行くわよ!!」

 そういうと彼女は僕の腕をむんずと掴むと、数百メートルしか離れていない病院へと向かい始めました。確かに近い病院はあの病院なので、搬送先もそうだとは思いますが、引っ張らないで欲しいものです。しかしそう言っても彼女は聞いてくれませんでした。ただ面白がっているのか、笑いながら僕を引き摺って行きました。





 後で知ったのですが、この時、僕たちの後を追うようにして、居ないはずの木坂先生の車が走り出していたそうです。しかも、その運転席には誰も乗せないまま。

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