第三節 図書室殺人事件、そして
流石に死体を見るのは初めてだった。鏡があったらきっと顔が真っ青だったことだろう。風紀委員としてはここで冷静に対処したいところだったが、無理だった。
「み、みんな落ち着いて、つつ通報、警察と、救急に通報を、お、お願い、あとあ、後、誰か先生も呼ばないと・・・。」
思い返せば、我ながら無様なものである。
一方、私と一緒に悲鳴を聞いて階段を昇ってきた自称探偵の変な名前の男は冷静だった。分かりましたと言うと110番と119番通報を済ませ、図書委員を図書室の机で落ち着かせた。大丈夫と語りかける手は多少震えているが、冷静な対応である。何となく場馴れしているようにも見え、探偵を自称するのも、ほんの少しではあるが、納得した。
発見した図書委員、「御手洗姫子」が落ち着いたと見ると、彼は死体について尋ねた。私もそれを横から聞くことにした。
死体は「白野恭二」という図書委員の一人。放課後、図書室の受付奥にある『管理室』に入ると、「誰も入るな」と言い閉じ篭っていたらしい。木坂先生の件でその事を忘れていて、救急車が去っていったことでようやく落ち着いたので、報告するために声を掛けたが返事が無かったらしい。ドアを開けようとしたが中から鍵がかけられていたので入れない。先生の事故の直後だったので、怒られてもいいから無事を確認したいと思い、職員室で鍵を借りてきて開けて見たらこの様、だったらしい。運が悪いというか何というか、災難すぎて掛ける言葉も無い。ちなみに『管理室』というのはパソコンなどがある部屋で、普段は司書の木坂先生が蔵書購入に使ったり、図書委員のチラシを作ったりするために使用しているらしい。そんな部屋を占拠して問題無いのかと聞くと、普段は休憩室のように使っているだけであり、貸出し自体は受付の別のパソコンで処理出来るので、特に影響は無かったらしい。
そこまで聞くと、彼は現場を見に行きましょうと言い、管理室に向かった。御手洗さんには一先ずゆっくり落ち着く様告げ、図書室の席に座らせると、私もそれに続いて管理室に向かうことにした。
管理室には当然死体がまだ残っていた。椅子に座った状態で、机に突っ伏している。彼はそれを動かさない様にしながら様子を確認し出した。ナイフは首に刺されており、口にはロープが巻かれている。声が出ないようにだろうか。ナイフに関しては至って普通のナイフだ。何処にでも売っていそうな普通のものだが、あまり直視したくない。当分料理する度思い出しそうだ。
突っ伏している机にはパソコンと、その横には窓があった。窓は開いていたが二階だ、飛び降りて逃げたとしたら足でも骨折していそうであるが、死体を見ないようにするためにも外を覗いてみたが、下には特に何も無かった。ここから飛び降りたということはなさそうだ。
「すみません先輩。」と彼が声をかけてきた。何よと死体を見ないようにしながらそちらを向くと、「このパソコンのロックを解除するので見てて貰えますか。」と言ってきた。彼の指差す方には死体の突っ伏していた机があり、その上にはパソコンがあった。それは電源は入っているが画面は暗い状態、恐らくロック画面になっているようだった。私が「私に聞かれても何とも言えないわよ」と返すと、「ロックの解除しかしないので、それを見て証人になって欲しいだけです。」と返された。私を巻き込まないで欲しいが、仕方ないかと渋々了承した。
彼がマウスをクリックすると、いきなりデスクトップが表示された。不用心な。だがパスワード画面は表示されていた。それは何かのファイルを開こうとして表示されているものだった。パスワードは入力待ちの状態で何も押されていない。開こうとしているファイルの名前は「予算管理_bk」だった。何かしらこれ。
そこで図書室横でサイレンが鳴り響いた。時間切れだ。警察が到着したのだ。
図書室は警官達で一杯になった。図書委員への事情聴取や管理室の捜査などが行われた。一部のまだ残っていた教員への質問なども並行実施されているようだ。図書室棟も本館も大騒ぎである。嗅ぎつけた新聞部やら残っていた生徒やらが野次馬としてやって来ては警官に追い出されるという風景が窓から見えた。当然、目撃者である私にも質問された。私は正直警察が嫌いだ。理由は伏せるが、過去に色々あって、あまり信頼していなかった。だが素っ気無い適当な返事をすると疑われることは理解していたので、事実をありのまま説明した。一応納得したのか、その警察官、「伏見杏奈」と名乗る彼女は、分かりましたと言うと私を解放し、次の人に質問しようとした。彼女はその『次の人』の顔を見るや、溜息気味に言った。
「えぇ・・・また君がいるの?何で?」
君、即ち次の人とは、あの探偵気取りの男、鳥栖正誤だった。
「いやぁ、偶然ですよ本当に。」
知り合いなんですか?と尋ねると、その伏見警部は苦い顔をしながら答えた。
「新人の頃の先輩の息子で、事件があるとたまに会うの。しかも色々口出ししてくるから面倒なのよ。」
「でも大体当たってましたよね?その口出し。」
彼がそう言うと彼女は黙った。先程の私もそうだったが、無言は往々にして肯定を示す。
「へぇ・・・。」
正直少し驚いた。妄言か何かか、小説を読んだだけの只の素人としか思っていなかったからだ。彼はそれを見透かしたようにニヤッとして見せた。クソッ、見透かされたようで気分が悪い。
「それより、あの部屋の窓調べました?」
あの部屋の窓とは恐らく管理室の窓だろう。踏み込んだ時に何故か開いていたから私も少し気になっていた。
「いや、まだよ。」
「そうですか。」
「・・・何か掴んだの?なら是非・・・」
「いや、まだ確証は無いので、もう少し調べないと何とも言えないですね。」
「勿体ぶるわね・・・全く。ま、ともあれ、まずは事情聞きましょうか。」
彼は、私も見ていた自身の行動を事細かに説明した。説明には特に嘘は見られなかったので、本当にそうだったかと問われた時は私も肯定した。すると彼女はまぁそうでしょうねと言うと、私と彼はとりあえず今日は帰ってもいいわよと言われた。彼が理由を求めると、彼女は渋々答えた。
警部によると、死亡推定時刻は、死後硬直や体温の低下があまり見られなかった事から今から一時間の間らしい。一時間というと、今が六時なので、五時頃からのアリバイが問題になる。私はというと、何の時間帯も殆ど他の人と会っていた。例えば四時半は職員室で蔵書保管室の鍵を貰いに行こうとして貰えなかったし、その時職員室には他の教諭も居て、木坂先生について尋ねたりしていたので覚えている人は居るだろう。その後は蔵書保管室で彼と出会い、風紀委員室に戻ったら図書委員に呼び出されて図書室に向かったのが約五時。その後は彼と一緒に居たので、私は犯人の可能性ほぼ無しと判断された。彼も同様で、職員室を尋ねた時間が十分程度ズレていたが、行動そのものはさして変わらないし、そもそも動機も無い。そうした点から解放に至ったとの事だが、私は一つ気になる点があった。
「では誰を疑っているんですか?」
「それは言えないわ。」
気になる。だが確かに言えるような質問ではない。愚問だったなと思って諦めようと思った時、彼が口を開いた。
「んー、もし御手洗さんを疑っているなら違う線で調べた方がいいと思いますよ。」
「なんで貴方はそう・・・」その言葉を続けることはなかったが、恐らくは「口出しするの」或いは「考えを読むの」辺りだろうか。苛立ちが彼女から見て取れた。
「第一発見者を疑うのは結構ですが、鍵が掛かった部屋にわざわざ入ってまで第一発見者になる必要無いんじゃないですか?真っ先に疑われるじゃないですか。」
「でも彼女には十七時以前のアリバイが無いわ。貴方達とは別行動だったんでしょう?それにあの部屋、図書室の受付を通らないと入れない配置よ。」
それは尤もである。管理室は受付カウンターの奥に入口がある。例えが適切かどうかは分からないが、小さいレストランの横長のカウンター席の、更にその横に厨房が配置されているような構図になる。カウンターの店員の後ろを通らないと厨房に入れないのと同じように、図書委員の後ろを通らないと入れない。要するに普通の人には入れないというわけだ。
「でも救急車の呼び出しとかで席を外す事はあったはずです。その隙に入った人がいるかもしれませんよ?」
「その辺は抜かりないわ。IDカードの入退室記録で確認済みよ。今日放課後に図書室に一階でも二階でも入ったのは、図書委員の被害者と御手洗さんの二人、それと司書の木坂・・・だっけ?その先生。それと貴方達だけよ。しかも御手洗さんと貴方達以外一回ずつ。貴方達は二回かしら。御手洗さんは四回も出入りしてるわ。貴方達は蔵書保管室の件と今回の事故で一回ずつとしても、御手洗さんは多すぎるわよ。」
というより入館者が少なすぎる。折角の蔵書量なのに勿体無い。
「最初に係で来た時、事故で先輩を呼びに行った時、救急車が来て木坂先生を連れて行った時、管理室の件で職員室に鍵を取りに行った時の四回で計算は合いますよ。もう少し考えましょうよ警部。」
警部は苦々しい顔で舌打ちした。いい性格をしている人のようだ。
「だいたい、それならもっと怪しい人が居るじゃないですか。」
「木坂先生?確かになんで行かないって言ってた図書室に居るのかは怪しいけど、でもあの人は怪我してるじゃない。怪我したのは五時より前、死亡推定時刻は確かにブレるかもしれないけど、怪我した状態で殺人なんて出来ないわよ。」
「勿論そうですね、怪我した状態なら。」
彼は何か言いたげなニヤケ面で言った。殴りたい、この笑顔。
「何が言いたいのかしらぁ・・・?」
「すみません僕が悪かったですなのでその拳を下ろして下さい。」
その目の先には拳を握った警部の姿があった。彼女とは気が合いそうだ。
「で?何が言いたいの?」
「いえ、単にあの怪我と殺人の順序が逆なだけなんじゃないかなって。」
「逆?」
「はい。殺人と怪我の発見順序と発生順序が逆だとしたら、先生にも可能ですよね。」
なるほど。彼はこう言いたいのだろう。木坂先生はまず何らかの方法で管理室に侵入、そして白野を殺害。その後何らかの方法で管理室から抜け出し一階へ。そして一階で何かしていて怪我をした。しかし気になる点がある。私は言った。
「でもそれ、木坂先生が犯人の前提で物事を考えた場合よね。」
無理矢理木坂先生が犯人だと考えた場合にはそうした考えも成り立つだろうが、肝心の部分が幾つも抜けている。
「どうやって管理室への出入りをしたの?幾らでも疑問点が上がるわよね、それ。そもそも木坂先生が何故彼を殺す必要があったの?」
「そ。そこです。ぶっちゃけ管理室への出入りなんて簡単かつ単純な話なんでどうでもいいんですよ。問題は動機。なんで殺す必要があったのか、何故彼は一階で怪我をしていたのか。それが僕も疑問でして。」
「どうでもいいって・・・。」
私が諭そうとすると彼は溜息を吐きながら遮った。
「はぁ・・・。先輩、僕達が管理室に入った時、窓が開いてましたよね。」
「開いてたわね。」
「そこから行き来したんですよ。」
「はぁ?外には何も無かったわよ?」
私が言い返すと彼は更に溜息を吐いた。すみませんねぇ理解出来なくてと思いながら睨みつけていると、その視線を感じ取ったのか、説明を始めた。
「一階の脚立を使ったんですよ。拭いたんでしょうけど、少しだけ新しめの土が付いていました。あれを一階の窓から出して二階の管理室まで伸ばしたんですよ。あの脚立は普通の脚立でした。ロックを外せば二倍に伸びる。二倍に伸びればギリギリ管理室に届くまでには伸びるでしょう。チラ見しただけですけど、一階にはサイズ的にも脚立も人も出し入れ出来る程度の窓がありました。あそこからなら外に出ようとすれば出られると思いますよ。埃が取れているとか形跡が無いか調べてみてください。」
「「・・・」」
私達は言葉を失った。そこまでもう調べていたのかという驚きと、よくそこまで推理出来るなという感心からだった。自称探偵というのは本当も本当だったらしい。彼は続けた。
「その結果次第ですが、今のところ僕は、御手洗さん犯人説より、こちらの方が可能性としては高いと思っています。そもそも、僕が蔵書保管室の鍵を職員室に借りに行った時、確か管理室の鍵はあったと記憶しています。」
「・・・確かに私が蔵書保管室の鍵を探しに行った時もあったわね。他の鍵が大体貸し出されていて、残っている方が珍しかったから目立っていたわ。」
「ね?とすると御手洗さんが嘘を吐いているとは思えないんですよね。」
癪だが一理あるように聞こえた。だがそうすると問題は・・・なるほど。動機を気にする彼の態度にもようやく腑に落ちた。
「木坂先生と白野さんの間に何かあったのかしら。」
私が呟くと、流石にそれには彼は答えられなかった。
「そこは調べてみないと分かりませんね。当てずっぽうでいいなら、一つ思い当たる節はありますね。」
そこまで聞いて、置いてけぼりを食らっていた突然警部が割り込んできた。
「何!?何なの!?教えなさい!!今すぐ!!ナウ!!」
彼女は彼の肩を掴むと揺さぶり始めた。
「わわ、わわわ、分かりました、分かりましたから落ち着いてください。」
揺さぶりが止まった。
「先輩、さっきのパソコンの開きかけのファイル、『予算管理』でしたよね。」
「ええ、『_bk』って付いてたけど。」
「はい。開こうとしていた被害者或いは何者か。つまり予算が本件に関係している可能性はあると思うんですね。それでふと思ったんです。蔵書保管室への行き来が去年あたりから減っている、つまり図書の購入量が減っているって話ありましたよね。これは完全に想像ですけど、購入量は減っているのに全体の図書購入予算は変わっていない、なんて事は無いですよね?」
「調べてみる!!」
警部は話を聞き終えるや否や、凄い勢いで図書室を駆け出して行った。廊下は静かに、と言ってみたが聴こえていないだろう。
「さて。この隙にこのファイルを開いてみましょう。」
彼はシレッと言ってキーボードに触れようとした。
「ちょっと待って。パスワードは分かるの?」
「何となく。察しはついています。一階に落ちていた百科事典、先生が落としたものだと思いますが、並びが変わっていたのに気づいていましたか?」
気付かなかった。だとしても生徒の怠慢なのでは?と思ったが彼の考えは違うようだ。
「先生はあの本を取ろうとして落ちた。脚立のロックが甘かったのはさっき広げたから。なのでこれ自体は事故でしょう。では何故あの本を取ろうとしたのか?もしかするとと思って並びを覚えておきました。これをパスワードとして入力すると、と。」
彼は手際よくキーボードを使い、その覚えていたという文字配列を入力した。するとファイルが開いた。驚いていると「何やってるの!!」と警部が割り込んできた。もう戻って来たのか。早いものだと思っていると、彼女は怒鳴った。「勝手に弄らないでっていつも言っているでしょ!!」
だが彼は意に介さず返答した。
「どうでした?予算」
「貴方の予想は大外れね。予算は一昨年から去年にかけてちゃんと減額されてたわよ。」
「おや、おかしいですね。こちらのファイルでは一昨年も去年も、勿論今年も同じ金額ですが。」
「・・・え?」
警部は慌ててパソコンを覗き込んだ。そして手元にあった、恐らく印刷してきたであろうファイルと比較した。
「・・・額が違ってる・・・。」
「編集前がこのファイルなんでしょう。わざわざbkなんて付けなきゃいいのに。」
これは私にも検討が付いた。
「backupね。」
「ええ。ここからは完全に想像ですけど、先生は去年から予算の一部を着服していたのではないでしょうか?それを誤魔化すために工作して、ファイルを編集した。で、それを白野さんが気付いて、先生の事を脅した。『バラされたくなければ分け前を寄越せ』みたいな感じですかね?それでその話を今日することにしていた。だから先生は『用事がある』と言っていた。白野さんが窓を開けていたのは、誰にもバレないようにしたいからとでも言って先生が開けさせておいたんでしょう。で・・・殺された。」
それを聞いて私は呆れたように言った。
「そうだとしたらバカな話ねぇ。生徒が調べて分かるレベルの偽装なら、会計がちゃんと調べればすぐバレたでしょうに。」
「ええ。何れはバレていたでしょう。だからこそ解せない。」
「何が?」私が尋ねると彼は答えた。
「これが本当に動機かどうかですよ。あまりに衝動的すぎる。それに、先生はそんなすぐバレるような着服して何に注ぎ込んでいたのかが気になります。」
「それはまぁ、確かに気になるわね。」
「確かに気になる・・・しかし!!」警部はいきなり叫び出した。「そんなことは本人に聞けば分かることよ!!なるほどその線の可能性は高いと見た!!私の直感がそう囁いている!!私は病院に行ってそいつに事情聴取してくる!!あんがと!!」
そういうと彼女は再び勢い良く駆け出して行った。
「あの人の渾名、駆け出しデカっていうらしいですよ。」
彼は半ば呆れたような顔をして言った。なるほど納得だ。
「さて、今の推理が正しいかどうかは置いておいて、この後どうしましょう。」
「帰っていいんじゃない?警部さんもそう言ってたし。」
色々と振り回された疲れが一気に吹き出たのか、体が少々ダルい。とっとと帰って休みたい。私が提案すると彼も同意した。それぞれ荷物をまとめるべく図書室を出た。
外に出たところで突然何かに呼び止められた。
『すみません・・・すみません・・・』
彼の方を向いて指を指した。お前か?のサインだ。彼は首を横に振った。違いますのサインだ。じゃあ誰だ。そう思っていると突然目の前に光が溢れた。
『すみません、探偵さんですか?』
「え?あ?あの、自称ですけど、はい。」
彼が目を隠しながら答えると、光はより一層輝きを増した。
『わぁ、本当ですか!!お願いです!!力を貸して下さい!!このままではマズい事が起きるんです!!』
「わかった、わかりましたから、その光を何とか出来ませんか!?」
彼が叫んだ。私も同感だ。
『分かりました!!ではその時計お借りします!!』
「え?」
有無も言わさぬ勢いで光はそう言うと、彼が腕に付けていた時計に向かって行く。そして光は、時計に吸い込まれるようにして、消えて行った。気付くとその時計は元の形状から少し形を変え、若干ゴツゴツとした意匠が付いていた。そして先程の光の声で時計が喋り出した。
『すみません、緊急事態だったものですから!!』
「あ?え?」
状況が全く飲み込めないまま、時計は話し続けた。
『私、精神生命体ディクターと申します。この事件にはある悪意が関わっているのです!!』
時計が喋ったことで彼はもう思考停止しているようだ。私はすかさずツッコミに回った。
「いや、これは殺人事件なのよ、悪意なきゃ起きないでしょ。」
『あ、それもそうですね、これは失敬。』
時計は申し訳なさそうに言った。申し訳なく思う場所が違うと思う。そう言おうとした時、彼に制止された。
「先輩、今はそういうのいいですから、まずこの人の話聞きましょうよ。・・・で、なんですって?」
冷静を務めていたが、頭を押さえているあたり、この状況に困惑しているのはわかる。黙っていることにした。
『あ、そうでした!!あのですね!!この事件が起きた背景には、私の追っている精神寄生体の犯罪者集団が関わっていまして、このままでは先程の彼女が危険なんです!!ただ私だけでは何とも出来なくて、それで力を貸して欲しいんです!!』
その話を聞いて私と彼は二人して顔を見合わせた。恐らく考えていることは同じだろう。
何を言っているのかサッパリ分からん。