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探偵倶楽部のかくしごと  作者: 明山昇
第一話 未知との遭遇
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第二節 図書室の事故、あるいは

 ハクションと蔵書保管室にくしゃみの音が響き渡りました。去年から出入りが少なかったのと、先程の先輩と戸の閉め方が乱暴だったせいでしょう。あれのせいで僕が入った時以上に埃が舞っており、鼻がムズムズして仕方ありません。僕は換気のため窓を開けました。窓を開けると部活動をする生徒達の声が入ってくるので、避けたいところではありましたがこの際仕方ありません。我慢する事にしました。

 窓を開け終えると僕は読書を再開しました。読んでいた本のタイトルは「栃岡遺跡の大秘宝」。ここ栃岡市には超古代遺跡があり、その秘宝が見つかったと十年前話題になりました。なりましたといっても、僕の小さい頃の話なので、大分記憶は薄れているのですが。これはそれに纏わる事件を纏めた本で、所謂陰謀論めいた内容も込み込みで書かれたものです。ただ興味深いのは、この本の一節。「秘宝は一時的に栃岡高校に置かれ、そこから都心の研究所に運ばれる予定だったが、突如出現したRを名乗る怪盗により盗まれた」という部分です。後者が事実である事は、元刑事である父から聞いて知っていました。何せこの事件が切っ掛けで父は退職することになったのですから。だが前者については、予想はしていましたが、事実かどうかは知りませんでした。しかし事実だとすれば、

「入学した甲斐はありそうですね。」

 誰も居ない部屋で僕は一人呟きました。


 直後、窓の外から、部活のランニングの音とは別に、ドタドタという音が聞こえてきました。なんだろうと外をチラ見すると、先程僕を幽霊扱いした先輩が血相を変えて図書室棟に向かうのが見えました。その横には女性の姿が一名、片手に救急手当用のバッグを抱えています。これはどうも只事では無さそうです。僕は本にしおりを挟むと、部屋の鍵を外から閉めて、図書室棟に向かう事にしました。その時の僕が、「もしこれが僕の予想通りだとすれば少々面白い事になりそうだ」等と不謹慎な期待していたことは否定しません。


 図書室棟は我が校が誇る県下屈指の蔵書量な訳ですが、それらが校外の人間に公開されている訳ではありません。入室する際は一階入口と二階の本館との連絡通路の先にあるドアで、学生証か社員証によるIDカードのセキュリティチェックを受ける必要があります。チェックを受けずに通る事は出来ず、無理にドアを抉じ開けようとすると、同じ図書室棟にある記録室に記録されて、普段は校門の警備をしている警備員に通報が入る仕組みだと聞いた事があります。何でも、図書室で仕組みを実験して、今後本館や部室棟にも導入するのだとか。ただ所詮は公立校ですから、予算を付けるのが大変なのだ、等と会計担当の教師と生徒会役員がボヤいていたのを聞いた事がありました。僕は校内の人間ですから、学生証を翳して一階から堂々と入室しました。


 一階に入るとすぐに先程の彼女、風紀委員の宝野先輩の姿が見えました。何故か一人です。その近くの本棚から落ちたと思われる蔵書が無雑作に山積みになっています。その近くには脚立がありました。折りたたんだり広げたり出来る形式の普通の脚立です。どちらかというと、DIY用のそれに見え、明らかに場違いですが、これは元々図書室で使われているものであることは知っていました。他にも使えるからと安くて大きいものを購入したらこれになったと聞いたことがあります。どうもこの学校は予算を掛ける所を間違っているような気もしますが、一旦置いておきます。

「どうしたんですか?」

 僕は彼女に声をかけましたが、直後に大凡の状況は理解出来ました。遠目では見えませんでしたが、彼女の横に、先程職員室で会った木坂先生が蹲っていたのです。しかも頭から血を流して。血を流す先生、傍に脚立、そして散らばった蔵書。

「・・・落ちたんですか?」僕が尋ねると、宝野先輩が答えました。

「分からないわ。ただ、幸い軽傷みたい。頭に本が当たって、それで血が出ているみたいね。とりあえず救急車呼んで貰ったから、それまで応急処置をと思って。全く、保健の先生、今日に限ってて用事で帰っちゃうなんて・・・。」

 なるほど、先程の図書委員の人は救急車を呼ぶ方に回ったのか。勝手に得心していと、彼女が尋ねて来ました。

「・・・それよりあんた、何でここに居るの?」

「窓から見えたんですよ、皆さんの只事では無さそうな様子が。それで何が起きたのかなとちょっと見に。」

「あぁそう、ふーん。野次馬って事ね。」

 彼女はまぁどうでもいいやという感じでまた手当に戻りました。頭に包帯を巻いて応急処置とするようですが、一人ではやり辛そうです。頭の怪我ですから、動かさないようにした方が良いのは間違いありません。手伝いましょうか?と声を掛けたその時、思い掛けない

「いや・・・それには及ばないよ・・・。」

 それは蹲っていた木坂先生からでした。

「大丈夫ですか!?」

 僕と彼女の両方が声を掛けると、木坂先生は弱々しげではありますがにこりとして答えます。

「大丈夫大丈夫、ちょっと本を整理しようとしてたら本が落ちちゃってね・・・。それを拾おうと脚立を降りていたら自分も落ちちゃって。それでその落ちた本に頭を打ってこの様だよ。全くドジったもんだね・・・。」

「血が出ています。それに頭を打ったなら後遺症等も考えられます。ちゃんと検査して貰った方が良いですよ。」

「そうかい?だが大丈夫だよ。ピンピンしてる。病院なんて行かなくても問題ないさ。」

「しかし・・・。」

 彼女の言う事は最もです。その言い分に対し、何故先生は拒否に近い反応を示すのか。僕は少し疑問に思い、ちょっと意地が悪いかもしれませんが、カマを掛けてみることにしました。

「彼女の言う通りです。それに、さっき通報してもらったそうなので、もうじき到着しますから、心配ありません。安静にしていて下さい。」

「通報!?」

 先生は急に驚いた様子を見せました。僕は心の中でしたり顔をしましたが、表に出ないよう気をつけて答えました。

「ええ、病院に。救急車ですよ。先程図書委員の子にお願いしたそうです。そうですよね?先輩。」

「え、ええ。」

 彼女は先生の反応に少し困惑した様子を浮かべながら答えました。

「あ、ああ、そ、そうだよね。すまない、ありがとう。・・・何か混乱しているようだし、お言葉に甘えようかな。」

「そうした方がいいです。少しここでゆっくり寝ていて下さい。」

 僕はそう言うと、彼女に目配せしました。彼女と僕は少し先生と距離を置いて小声で話し始めました。

「何よ。」

「あの反応、どう思います?」

「どうって・・・通報って言葉に反応してた事?」

「ええ。過剰反応だと思いませんか?」

「そう?先生の言う通り、頭打って混乱してただけなんじゃないの?」

「本当にそう思っていますか?」

 彼女は真顔になると沈黙しました。沈黙は肯定とよく言われます。

「・・・何か根拠でもあるの?」

「根拠とまでは言えませんが、気になることが二点あります。一つは勿論、あの「通報」という言葉に対する反応です。通報と聞いて何かを恐れたものの、先が病院と知ると安心しているように見えませんでした?通報と聞いて思い浮かべるのは恐らく普通は二種類。病院か警察です。先生は警察に通報されたと一瞬勘違いをして、それに対し焦ったのではないでしょうか。」

「まぁ、そこは私も気になってた。」

 しかし僕にはもう一つ疑問がありました。

「もう一つ疑問なのは、そもそも先生が此処に居た事そのものです。さっき蔵書保管室でお会いした際、貴方は「先生は図書委員に「今日は行けない」と言っていた」と仰ってましたよね。でも先生はこうして図書室に居る。怪しいと思いませんか?」

「・・・そう言えばそうね。なんでかしら・・・?」

「気になりますよね。というわけで、この辺調べてもいいですか?」

「いいけど、なんで貴方はそんなに気になるの?」

 彼女は不思議そうに尋ねてきました。僕は「ここはキメるところだ」と思ったので、心持ち格好を付けつつ答えました。

「真実を探る・・・それが探偵の仕事ですから。」

「ふーん。」

 滑ったようです。僕は一気に恥ずかしくなりました。

「そもそも、貴方探偵なの?そういう資格あるの?」

 そうだ、そこから説明していなかった。気付いた僕はひとまずコホンと咳払いをし、気を取り直すことにしました。

「・・・いえ、資格ってわけじゃないんで自称ですが、ほら、クラブ活動の話、したじゃないですか。僕が作ろうとしているのが探偵クラブなんですよ。」

「探偵クラブねぇ。浮気でも調査するの?」

 冷ややかな目線を感じる。

「い、いえ、どちらかと言うと探偵小説的な方ですよ。様々な事件・事故の真相に推理で迫る!!というのをコンセプトに活動しようとしてまして。」

 事実ではありますが、自分で言ってても少し恥ずかしくなります。現実的な人なら「夢見すぎ」と返してきそうな言葉を吐いてしまったことに、若干赤面しましたが、彼女の反応は予想外なものでした。

「真相、か。」

 その言葉を聞いた彼女は妙な面持ちで考え込みました。何か思うところがあったのでしょうか。

「・・・分かったわ。別に私が権利持っているわけではないけど、自由に調べていいわよ。図書委員にも話しておく。私が見ておくからってね。」

「あ、ありがとうございます。」

 感謝の言葉を述べたものの、その時僕は、彼女の態度、特に真相と言った時の反応が気になって仕方ありませんでした。ただ、どうも昔何かあったタイプの反応だったので、深く突っ込むと気分を害する恐れがあります。気には留めておくとして、まずは眼前の事故の方に集中することにしました。


 そんな会話が終わった直後、救急車が到着しました。先生は最後まで大丈夫と言いつつ、すぐ近くの病院に運ばれて行きました。一階には風紀委員の彼女が僕の見張りで居るだけで、他には誰も居ない状況。丁度いいタイミングです。僕はちゃっちゃと気になる点を見てしまう事にしました。懐から手袋を出すと、身につけ変に指紋が付かないように準備しました。横で彼女が「用意いいわね」と言ってきたので「まぁそういうクラブですから」と答えて返し、現場に集中することにしました。

 僕はまず脚立の様子を見ました。足元に少しだけ何かが付いています。土のように見えます。それと折りたたみ式によくあるロックを掛ける部分が締まりきっていないように見えました。急いで掛けたように見えます。脚立に登るとそのせいか少しグラグラします。これで落ちてしまったのでしょうか。

 さて次に気になったのは落ちた本。見た感じこれを取ろうとして、本を落としてしまい、そのまま自分も落ちたようです。本棚を見ると最上段に空きがありましたので、そこにあったのでしょう。それはよりによって百科事典。五冊毎に一つの箱に入った、十五冊組のものでした。これが頭に命中しなかったのは幸いという感じでしょうか。少々不思議なのは、本の並びが入れ替わっている事です。誰か借りた方が手を抜いて適当に返したのでしょうか。頭を打ったという本には少量の血が付いていましたが、本当にこの程度で済んだのは幸いといったところでしょう。角など、打ちどころが悪ければ死んでいたかもしれません。

「ふーむ。」

 他に見るべき箇所は無いかと思案しながら周りを見渡していると、二階から突然「キャァァァァァァァァァァ!!!!」という悲鳴が聞こえてきました。嫌な予感がします。僕と彼女は二階への階段を昇ると、そこには先程窓の外から見えていた図書委員の方が居ました。どうやら彼女が声の主のようです。

「どうしたの!?」と先輩が声を掛けると、彼女らは恐る恐る受付の先の部屋を指差しました。そこには首元をナイフで刺された男の姿がありました。急いで脈を確認すると、既に事切れていました。

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