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幕間:ソーセキ

山なしオチなしの日常回ですので、番外編にしました。

 オイラは猫又。名前はソーセキ。


 なかなか素敵な名前だぜ。素敵なご主人に付けてもらった、素敵な名前。由来を尋ねたら、石ころで歯磨きをする意味らしい。聞かないで置いたほうが良かったかな。


 今日はオイラの一日を簡単に紹介しておこう。ついでにこの、にゃんだったかにゃ、この街の名前……まあいいか。オイラが住んでいる大きな大きな街の紹介もしておこう。


 運がいいときのオイラの一日は、ご主人の腹の上で目覚めるところから始まる。


 そんときのご主人はすっげえ寝苦しそうにしているけど、バッチリ護衛するためには止む負えない犠牲だぜ。運が悪いと前日の晩に部屋を追い出される。オイラのマイルームなのに、性悪な女どもが代わる代わるご主人を独占するんだ。


 今日はたまたま運がいい日だった。


「ん、ぐ、ぐ、ごおうふ……ソーセキ、おはよーぅ」

「シユタの兄貴! おはよう!」

「また腹の上に寝転がっていたのか。これ苦しいからやめてくれって言ったよね」

「でもよおシユタ兄貴。油断しているとあの女どもがまた兄貴を狙いにくるぜ。一昨日だってオイラ奮戦したのに、兄貴を守り切れず追い出されて……オイラ自分が情けねえよ……」

「あー……あれは狙いに来ているわけじゃなくて、いや、ある意味的を射ているのかな……」


 起き抜けにいきなりニヤニヤしながら考え込んじまったのはオイラのご主人、シユタの兄貴だ。人間たちには<救世主>シユタだとか呼ばれている。人間たちもなかなか見る目があるじゃねえか、かなり器のデカいお方だ。


 なんてったってオイラにかかった超絶複雑な呪いをほんの一瞬で解呪しちまったってんだから、その器量も推して知るべし。その時のことはオイラも鮮明に覚えている。


 シユタの兄貴の右手が竜みてえにグゥオアアと唸ったかと思えば、次の瞬間不死鳥みてえにギュピピピと輝き、大地は裂け、海は割れ、星が 開いたような衝撃でオイラのしっぽに厳かに触れた、その次の瞬間! ……オイラにかけられた呪いは綺麗さっぱり無くなっていたんだぜえ……超クール。神話だ。


 当然、シユタ兄貴は戦闘面でも最強だ。ええっと……こっからはちょっとカンペ見させて貰うかな。分量が多すぎて覚えきれないんだけど、何々?


 そう、まず得意は<意志の力>。広い… …広い……読めねえ、兄貴これなんて読むの? 汎用性? ちょっと他にも振り仮名振ってくれよ。……サンキュー。よしと、<意志の力>の広い汎用性を、各種最上級装備・マジックアイテ ム<転移珠>、<鷹の剣>、<墨の衣>、<学習加速の指輪>、<催眠魔法の指輪>、<完全抗魔法の指輪>、<幸運の指輪>、<時間停止・戻しの鈴>、<四次元ズダ袋>、<フェニックスの軍配>、<不老 不死のポーション>……etc,etcで支えている。


 こんなん覚えられるわけにゃいぜ。あの女、猫又に過剰な負荷掛け過ぎだ。


 まぁとにかくメチャメチャ強いってわけだ。最近も一人逆らってきた女をぶっ倒して手下に加えたらしい。強い。


「お、ソーセキどっか行くのか? 朝の猫缶いらない?」

「食べる! 食べたらちょっと野暮用だぜ」

「ふーん? 君も意外と忙しそうだよね」


 そう、猫又は結構忙しい。


 オイラは手早く食事を済ませ、兄貴に一礼してから部屋を飛び出し階段を駆け下りる。


 まずはそのぶっ倒した女を紹介しよう。この大神殿から少し離れた怪しげな建物に奴は居る。兄貴 は”研究”がどうのこうの言っていたが、よく分からん。雰囲気がおどろおどろしい事だけは分かる。


 ちょっとわずかにビビりながら侵入すると、そこにはローブを来た二人の女が居た。


「だからマフユ、ちょっと多めに濃度上げるくらい良いじゃない」

「ダメよララ。そんなに濃くしたらシユタさんの頭の中身が太陽まで飛んで行ってしまうわ。地上に居ながら宇宙旅行達成よ」

「でもあいつ、抗魔法の指輪なんてつけているのよ? それのプロテクトぶち抜いて、魅了効果を叩きこむなら、もう惚れ薬の原液を煮詰めて煮詰めたのを飲ませるしかないって。あいつちょっとエロい格好して迫れば口移し余裕だから。今日決行するわよ。ぼやぼやしているとあの新入り<転移人>に先越されるって」

「うーん……まぁそれで御子が貰えるなら、いっか」


 全然よくないような気がする会話をしているのはララとマフユだぜ。


 どっちも強力でこの世界最強クラスの<魔法使い>。というかこの二人がツートップ。


 どちらかというとララの方が直接ダメージを与える火力魔法を得意としていて、マフユの方は呪術と か攪乱とかが得意らしい。マフユがさっき言った、”最近ぶっ倒した女”なのだが、今ではすっかりここの陣営の一員だ。お互いの担当が住み分け出来ていることもあって、この二人の 仲は割と良い。


 二人に増えたことでヤバさは十倍くらいになっている気がするんだけどにゃ……。


 邪悪な魔女どもに見つかるのが怖くてオイラは慌てて外に飛び出す。このまま捕まると鍋の材料にされる気がするんだ。怖さは収まることを知らず、ドンドン駆けていくと大神殿近くの 公園にたどり着いた。


 そこにはさっきララが言っていた新入りの<転移人>ユイカがベンチに座っている。季節外れで随分厚着だが、これがこの女には大層お気に入りらしい。


「あら、ソーちゃん。奇遇ですね」

「あ、ああ……ユイカもご、ご、ご機嫌いかが?」

「ふふ、とても良いですよ。難しい言葉もお上手なのね」


 ユイカはぶっちゃけると魔法素養が全然ない。<転移人>らしい<転移人>。この世界に最近引っ越してきたが、それ以来一切戦いには出ずにシユタの兄貴の庇護下にある。


 やっていること と言えば書庫の整理とか、兄貴にお茶を入れるとか、たまに夜中兄貴の部屋に侵入してオイラを追い払うとか、そんなことだけだ。なのにオイラがこんなにビビっているのには訳がある 。


「ねぇ、ソーセキさん。鈴木君……じゃなかった、シュウタ君は今日もお元気かしら」

「あ、あ、あ、あ、あ、ああ、はい。オイラが一晩中守っていました、大事なお方だから……」

「そう。あなたとはとても仲良くできそうね」


 目がとんでもなく据わっている。


 百戦錬磨でチョウの一匹位なら倒しきれるオイラが、ちょっとだけビビるくらいに。


 なんかシユタの兄貴と妙に複雑な事情があったらしい。兄貴はあんまりそのことを語りたがらねえが 、きっと生き死にくらいにぶっ飛んだエピソードでもあったんだろう。その修羅場を乗り越えたユイカは、兄貴のことになったら何一つ妥協しねえ。


 以前、ユイカが転移してきたとき、 他の正室たちが兄貴をちょっとからかっているのを見つけた途端、物凄い剣幕でそれを叱っていた。


 その時の兄貴は、オイラが初めて見る情けなさだった。「先生、この子たちはいいの、いじめじゃないの!」「……全部先生に任せて、鈴木君……やっと、やっと、あなたを助けられます。この時を私は、ずっと……」「ちゃうねんて! 先生ストップ! ララ逃げろ!」とユイカのことを羽交い絞めにする兄貴の泣き顔は、オイラの記憶領域にハッキリと焼き付いている。


 その後、七日七晩かけて正室たちと兄貴の長所・短所・欠点・改善点・駄目な所・直すべき所・躾の方針・管理方針を議論した結果、今ではすっかり仲良くなってしまったが。その固い結束を見たときの、嬉しいような不安に震え上がるような兄貴の顔もまた、オイラには忘れられねえ。


 恐らくこのユイカって女が一番ボスなんだ。野生の直感で分かる。


 きょ、きょ、今日兄貴の寝心地をほんの少しだけど邪魔したことがこの女にばれたら、皮を剥がれて楽器の表面加工に使われるかもしれねえぜ……。ここにもオイラの平穏はない。


 と、 なるともう神頼み兄貴頼みしか残されていないかもしれねえ。そう思ってオイラは、公園近くにあるシズキ教の教会を訪れていた。


 そこには金髪の女が二人熱心な礼拝をしていた。一人は目が青くて、一人は目も金色。


「ソーちゃん、いらっしゃい」

「む、やあ猫又の」

「おう……お二人さん」


 ソフィーとアリアだ。大人しそうなこいつらもヤベー奴。


 まずアリアの方とは以前喧嘩になったことがある。オイラが兄貴の膝で「んごにょろにゃん」と幸せに丸まっていた時のことだ。


 兄貴がオイラをなでなでなでなでしていると、アリアは 隣でずーっと大人しそうにしていたのに、ふっと目を暗くしたと思ったら床に半径の五メートルの大穴をブチ空けて八つ当たり、返す刀でオイラに襲い掛かってきた。こわい。兄貴の膝 の上と撫でに異常に執着しているらしい。


 なんとかシユタの兄貴の<意志の力>のおかげで事なきを得たが、


「う、わ、わビビったぁ……こほん、アリア、ソーセキは俺の家族だ。そういう事をするなら赤子たちも任せられないから、出ていってもらう」

「あ"っうううううぅぅぅ、だって、私、私もそんなに撫でてもらったことないです! ずっと我慢してたのに! うううぅ」

「えぇ……あのさ、忠誠心を我慢強さで測ることはしないから。なにかして欲しいことがあったら我慢せずに言いなさい」

「あ……は、はい! では、あの、大変恐縮ですが早速寝室へ……」


 それ以来、しばしばオイラのベストポジションはこの女に奪われ続けている。


 そんくらいちょっと頭がおかしい女なんだが、腕力がとにかく強い。じゃあアリアの方が危険なのかと言うと、実はこのソフィーの方もヤバイ。以前このアリアと信仰方針の差異でガチ で殴り合ったことがあるらしい。


 そのとき例の大神殿は崩壊し、今のは三軒目だとか。


 これは兄貴からの伝聞なんだが、単純な魔力量で見ればアリアの方がずっと有利。でもソフィーは信仰心に支えられた無限に湧き出る魔力と気合で筋力を強化し続け、これと相打ちに持 ち込んだ。


 拳と拳の議論の結果、兄貴が今の二倍妻たちを愛せば問題ないという結論に達し和解に至る。以来二人は大の親友となっている。蛮族かよ。兄貴はこの時も震えていたに違いない。


「ソーちゃんも祈りを捧げていきますか?」

「オ、オイラ、今日はもうシユタの兄貴にちゃんと挨拶したから!」

「よろしい。その行いはきっとあなたを救いますよ」

「はいぃ、ちょっと失礼します……」


 ここに居たら神への供物にされる気がするぜ……。退散だ。


 そんなこんなでシユタの兄貴と正室のちょっとネジぶっ飛んでる女たちとの会話の様子を記録して、オイラは今回の依頼主の元へと到着した。そこには見た目は随分可愛らしいが、腹の底では何を考えているのか分からん性悪女が待ち構えていた。


「おう、ユキ。そろそろこのよく分からんアクセサリを外してくれよ」

「あら、ご苦労様。それはカメラという記録を残すためのアイテムよ。それじゃあ記録を受け取るから見せて頂戴。ここあたりで我が陣営の記録を、伝記に残しておくから」

「……あれ? ……なあユキ。オイラもしかして、気づかないうちに今日一日かけてお前の為に働かされたのか?」

「まさか、シュウタさんの為に、よ」

「ならいいか」

「ふふ、シュウタさんの油断している寝顔、起き抜けの顔。永久保存版にしてしっかりと書庫にしまっておきましょう。ソーセキ、今度はあの人の髪の毛と他の毛も持ってきて頂戴」


 言っていることはよく分からんが、この女もマジでヤベー奴だってことは分かる。シユタの兄貴の陣営編成は、もうちょっと良く考えたほうがいいと思う。


 まあこんな感じでオイラの一日は波乱万丈、結構忙しいのだ。

初の別視点回が猫で番外編に使ってしまいました。

三章を終えて登場人物が乱立してきたので、改めてメインヒロインを紹介するためだけの回です。


明日一日、四章プロット作成に時間を頂きます。

明後日には四章第一話を投稿できそうです。

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