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第七話:救世主の日常

今回でやっとソフィーが再登場。

今まで築き上げてきたものを改めて紹介します。

 ララと陸戦兵器への魔法処理の打ち合わせを終えた後、俺は自宅――つまり復興した大神殿に戻ってきた。


 今日は俺の日常を紹介するとしよう。


 <転移珠>を使えば一瞬で最上階の居室に戻れるのだが、わざわざ玄関から入っていく理由は一つ。下々の者たちの様子を確認するためだ。これも<救世主>たる俺の義務の一つである。


 大神殿の一階で礼拝している大量のシズキ教徒たちへ手を振る。敬虔な彼らは俺に直接話しかけるのが恐れ多いらしく、次々に頭を下げてお互いで囁き合っている。


「おぉ……! シユタ様じゃ。<救世主>シユタ様がお帰りじゃ……!」

「本当によかった……ご不在のようでとても不安だったの……また例の異教徒たちのような野蛮人が襲ってきたらと思うと、毎日不安で不安で眠れなかったわ……」

「大丈夫だ、教典にもしっかり記されているだろう。俺達がこうやって日頃の義務と礼拝を欠かさない限り、訪れる危機からきっとお救い下さる」


 リア教が完全に壊滅し、彼らの心を乱すものが何一つなくなった今、人々の信仰心は決して崩れないレベルまで凝り固まっていた。


 これのレベルまで来たら、もはや強引な布教は必要ない。俺の威厳と実力をちょっと示してやるだけで、シズキ教への信仰は勝手に伝播、そして”世襲”していく。


 よしよし、今日も天気模様は快晴だ。満足な笑みを浮かべながら俺は荘厳な階段を上る。


 二階で直立不動の警護をしている僧兵たちに、軽くねぎらいの言葉をかける。過度に親し気な交流は禁物だが、これくらいは良いだろう。

 事実全僧兵が感激し、最大限まで姿勢を正して目に光るものを浮かべている。彼らの纏う雰囲気をチェックしてみたが、なるほど十分に厳しい訓練を積んでいるらしい。そのうち指揮官を抜擢すれば、俺がこまごまとした前線に出る必要もなくなる。


 二階を通り過ぎ、三階の<巫女の間>に至ると、十数人の<巫女>たちが一斉に駆け寄ってきた。何人かは生まれたばかりの子を大切そうに抱えている。奥の方にはあと少しで出産予定の<巫女>たちも数多く暮らしている。


 そのうち一人が代表して帰宅への挨拶をしてきた。代表役は持ち回りだ。かつて<巫女の間>を設立した当初は、いくらかの序列が<巫女>のなかにも会ったらしいけれど、現在は厳しく言い含めて序列を完全に排除している。


「シユタ様、お帰りなさいませ!」

「やぁ、みんなただいま。しばらく留守にしていて済まなかったね」

「いいえ! 我々はいつまでもシユタ様のお帰りをお待ちしております。今日のお食事と湯あみはお済でしょうか?」

「ん、風呂は入ったけど食事はまだ。あとで食べに来るから準備をお願い。先に四階に顔を出してくるよ、また戻ってくる」

「はい……! いってらっしゃいませ!」


 そういって<巫女>代表が下げた頭をなでなでしていると、三階に備えられた厨房にナナの姿が見えた。


 先日、こちらの<エルトリア>にナナを連れてきて、とりあえずは<巫女>の一員として働いてもらっている。俺の役に立つ仕事だと知って、大変意欲がある様子だ。


 ちなみに服装は以前着ていたあっちの世界の制服ではなく、<巫女>のユニフォームに着替えている。スタイルがすこぶるいいナナに、そのピッチリとしたユニフォームは良く似合っている。けれど学校の制服の方も好みなんだよね……時々着替えるように伝えておこう。


 そんな感じでちょいと邪な心を抱きながら、ナナの厨房での働きっぷりを眺める。


 うーん、皮むきとかみじん切りはかなりの腕に上達しているけれど、食材の数を数えるのにかなり苦労しているらしいな。この階層の住民の数は千人規模と非常に多く、一食分の為に用意する食材量も莫大だ。


 それでも一生懸命指を折りながら数を数え、周りの<巫女>たちの足を引っ張らないように頑張っている。周囲との人間関係も良好な様子だ。


 励ましの意味も込めて、俺はちょっとだけナナに声をかけることにした。頑張りの褒美としてパチリパチリと頭と尻を撫でてやる。


「やあ、ナナ。頑張っているようだね。ここに初めて来たときよりも、随分料理の腕を上げたなあ」

「あっ……シュウタ様……! あぅ、はい! ナナ一生懸命シュウタ様のために頑張ります! 頑張っています!」

「うんうん、ナナの献身はずっと見ているから安心してくれ。ん? なんだか懐かしい香りだな……今日の献立は?」

「は、はい。今日のスープはお味噌汁です! シュウタ様に和食を召し上がっていただきたくて。この前、時々和食も食べたいっておっしゃっていたから、ナナが提案しました! えーっと……あれ? その……主菜の方は、すみません……ちょっと忘れてしまって……あぅ、ぱちぱちきもちいいれふ……」

「おぉ、ナナが提案してくれたんだ! 嬉しいなありがとう。後で食べに来るのを楽しみにしているよ。ほら、ご褒美に追加のパチパチ~」

「あっ……お"っ……あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」


 よしよし、この分なら<荷物持ち>なんかさせずに、このまま<巫女>として活躍してもらった方が良さそうだ。ナナ、昇進!


 そんな感じで一通り立ち話を楽しんだ後、俺は四階へ向かう。もちろんナナ一人を贔屓していると勘違いされないように、しっかりと他の娘もねぎらった後に。


――


 四階の居室にはソフィーが居た。


 俺と自らの子を抱えながら、部屋の四方に飾られている絵画を穏やかな目で楽しんでいる。全て<モトイタセカイ>から頂き、この<エルトリア>に輸入してきた至高の品々だ。


 それでも、子を慈しみながら幸せそうに椅子に腰かけるソフィーの姿に比べれば、どんな絵画でも引き立て役になってしまう。出会った頃よりも少しだけ大人びた美しい碧眼のまなざしが、実に絵になる。


「ただいま帰ったよ、ソフィー。あ、そのままで大丈夫」

「お帰りなさいシユタ様。ほら、お父様におかえりは~?」

「ははは、まだ喋るのは早いだろう」

「いいえ、きっとすぐですよ。なんといっても父君の血筋が良いですから」


 そんな風にべた褒めしてくるソフィーの言葉がなんともむずかゆい。正直、俺に似るよりもソフィーにしっかり似てほしいものだ。顔の造形はソフィーの方が何億倍も優秀だし、頭の良さも性格も、彼女の遺伝子ならば何の文句もない。


 そして今見る限りだと、少なくとも見た目に関しては俺の願いは叶っているようだ。


「ありがとう……また絵を見ていたのかい?」

「ええ、シユタ様が持ってきてくれたこの絵画、というものはとても素晴らしいですね。見ていて大変心が落ち着きます」

「そりゃあ良かった。結構数は集まってきたけれど、ソフィーはどの絵が好き? もし同じ作者のものがあったら宝物庫から持ってくるよ」


 ソフィーのためなら、どんな絵画でも何枚だってもってこよう。


「そうですね……うーん、この二人が祈りをささげている絵でしょうか。夕日が少し寂し気で、でも人々の営みが今までもこれからもずっと続いていくような……不思議な絵。この瞬間しか切り取っていないのに、たくさんの時間を表現しています」

「ミレーだね。うん、俺も大好きだよ。他にもあるかい?」

「他にはこの、じっとこちらを見つめている女性の絵。この青色がとっても素敵……。あ! あと、こっちの水晶をもった人の絵も素敵です」

「フェルメール。それにダ・ヴィンチ。やっぱりソフィーはとってもいい感受性を持っているね。この<エルトリア>でそんなにこれに感動してくれる人は、まだまだ少ないだろう……あ、ちなみに水晶持っている人は俺の同業者なんだぜ」

「まぁ、ではこの方も<転移人>なのでしょうか?」


 いや、そっちの肩書じゃなくて……まあ、いっか。今言ったようにこの世界での美術の発展はまだまだ始まったばかりだ。有望な人員を集めて、日夜制作作業に取り組ませているがその進捗はとてもゆっくりしている。


 それでも俺が下手に手を加えて歪な発展をするよりはずっといい。美術に関しては、流れに任せるままにしてしまう方針に決めている。


「ただ……ミレーか……」


 ソフィーの好みの絵をどんどん見せてあげたいけれど、彼女が挙げた作者の作品は売りに出されることが殆ど無い。現代アートに比べて歴史的価値、希少価値が大きいため各美術館で保護されている。今見せているのも、かなり強度な催眠を使ってなんとか入手したものだ。


 ソフィーに見せるのもそうだし、俺だってもっとガボガボ大量に手に入れて楽しみたい。


――そう考えた俺は、数週間後<モトイタセカイ>の各地有名美術館を、規模の上から順に五十か所ほど訪れていた。


 そして人の居ない時間帯を狙って、……魔法でこっそり侵入していただき? まさか、そんなまどろっこしいことはしない。そもそも証拠が残るかもしれないだろう。


 最強のマジックアイテム、<転移珠>は転移時の所持品質量を制限しないのだ。


 目的地に降り立った次の瞬間、美術館の建物全部から始まり、そこに展示されている全ての作品群、地下に大切に保管されている展示すらされていない傑作群をまるごと<エルトリア>に持ち帰った。

 おまけに爆発で木っ端みじんになったかに見せかけるために、ちょっとした爆薬の置き土産付きだ。現地の捜査機関はありもしない証拠を一生懸命探すことになるだろう。ご苦労様です。


 もちろん予め、鷹宮家の運営を任せているユキの母、アキに一報を入れておくのを忘れない。


『あら、シュウタさん。お久しぶりですね』

「ご無沙汰しております、アキさん。いきなりの本題で恐縮ですが、僕の手に入れた情報筋では今後しばらく美術品の価値が高騰する見込みです。詳細は不明ですが、とりあえず在庫の売却は一切を止めて下さい。また、市場に流通している品を極力仕入れるようにしてください。具体的な内容はメールで」

『まぁ……! わかりました。全ておっしゃる通りにしておきます。……あの、今度はいつ鷹宮に来られますか? 美味しいお食事とお酒を用意しておきますので……』


 こうして<エルトリア>へとごっそりと文化の結晶を持ち帰り、しかも美術品運用でもがっつり儲けさせてもらった俺は笑いが止まらない……と、思っていたが一つだけ盲点があった。残業である。


 美術品最大の敵である経年劣化から守るために、<時間停止の鈴>を鳴らして作品一つ一つに保管魔法をかけなければならないのだ。五十か所も一気に持ってきたのは……初撃の奇襲で警戒を許さないという狙いがあったけれど、ちょっと欲張り過ぎたか。


 冷暖房の効果が残っているまでがタイムリミット、それ以降は各作品がどんな劣化を見せても文句は言えない。


「うおおおおああああ! 数が多すぎる魔力が尽きるあああああああ!」


 今までの戦いでも、ここまで魔力がすっからかんになったのは初めてだった。本当にギリギリだった……。


「げっ、マジかよ……ちゃんと展示されているのに、地下の保管室の方にももう一枚あるじゃん。これ地下室の方が本物っぽいな……。表に出ているモナちゃんって偽物だったのか……」


 なんやかんや様々な衝撃を受けつつ、美術品の大量『搾取』は幕を閉じた。

既に十分繁栄していますが、まだまだたっぷり力を蓄えていく予定です。

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