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第十七話:まずは各地の情報収集

 エルトリア国襲来、味方は数刻奮戦するも撃破される。


 そんな敗戦報告が矢継ぎ早に二度続いた。アリアと白の軍団は手始めに、シズキ教勢力圏の東端の町を打撃。返す刀と言うべきか、瞬間移動する刀というべきか、第二攻撃目標を北西の町に選んでこれも叩きのめした。


「初戦は負けか……俺が出向いていれば、結果は変わっていたかもしれないが……」


 東端の町は霧の余波が届ており情報収集が難しい。その一方で北西の町の襲撃に現地からの報告まで気づけなかったのは、ちょっとした事情がある。今、俺の<カワセミ>たちは理由があって情報収集能力を落としてある。その理由は後程。


「知らせを聞くに手遅れのようだが……とにかく情報が欲しいから俺は現地に飛ぶよ。三人、家の守りは任せたよ」

「はい、どうかご武運をシユタ様」


 妻たちにそう伝え、俺は現地に<転移珠>で飛んだ。


――


 東の端の町には百人ほどの戦力しか残っていなかった。小さい町とはいえ千は駐留していたはず。ほとんど全滅させられてしまったらしい。


 先ほどの戦略会議で決定した徹底防戦方針を知らせる前のこと。勇敢にも僧兵たちは防壁を出て戦い、そして散々に叩きのめされてしまったのだ。


 敗残兵たちは命からがら町の防壁にたてこもり、なんとか生き残ることが出来たらしい。たった百人だが防壁を頼みに膠着状態を作り、「次の獲物を探そう」と引き上げたアリアたちから町を守り切った。……悪くない判断だ。


 せっかく防壁があるのに戦力不明な敵にうかつに仕掛けたのはいただけないが、それも初戦の敵戦力調査を兼ねるなら悪くはない。妙なプライドを抱き玉砕を選ばず、要衝を守り抜いたのも実に頼もしい。


「そんな優秀な兵たちを、九百人も死なせてしまったのか……」


 いや、おそらく北西の町でも同様の被害が出ているはず。たった二回戦で二千近くの優秀な手勢を失ってしまった現実に、俺はひどく動揺した。だが、今は感傷に浸っている暇はない。


 情報収集と反撃のときだ。


「君たちの厳しい訓練の日々は良く知っている。その屈強な君たちが、こうも手ひどくやられてしまったということは、敵はそれほど数が多かったのか?」

「いえ、シユタ様。<救世主>様……。敵は我らとほぼ同数、千五百程度の軍勢でした……」

「では敵の戦乙女、アリアとかいう金髪の女が手ごわかった?」

「奴は十人でかかっても手も足も出ませんでしたが、ですがそれは一番の原因ではないのです……」


 そういって俯く兵たちを励まし、なんとか当時の戦況を聞き出したが、どうにもその内容は要領を得ないものだった。


 曰く、

「目の前の敵と槍をぶつけ合っていたら、いつの間にか後ろの戦友が倒されていたのです……」

 曰く、

「アリアとかいう女を何とか抑え込んだのですが、突如左から殴られたように味方が崩されました」

 曰く、

「最初、押して押して押しまくりました。こっちの数の方がやや少ない筈なのに、敵は大して抵抗できずにじりじりと後退して、勝ったと思いました。そして気が付いたらアリアの副官二人が左右から襲ってきたのです」


 百人の戦況報告は当初殆ど断片的なものだった。だが、なんとかこれら三つの証言を引き出し、俺は確信する。


「間違いなく軍略を使っている。頑強なアリアを盾として活かし、こちらの機動力が萎えた所で別働隊で直撃。集団戦闘が未熟なこの<エルトリア>世界では、やりたい放題だろうな……」


 かつて俺がボルドーを粉砕したように、アリアたち白の軍団も軍略を使っていた。ここで感じた違和感は大まかに二つ、それは、


「一つ目。そもそもアリアたちが根拠地とする<トリア>の町の人々だって、この世界の住民だ……。彼女らだけがいきなり集団戦闘の巧者になるのは”不連続で不自然だ”


「二つ目。それに軍略を身に着けているならば、この東端の町を陥落させなかったのは温すぎる。ここは<トリア>の町からシズキ教勢力圏へと食い込む橋頭保。部隊瞬間移動が出来ても、”こちらからの侵攻を防ぐため”に落とさないのはおかしい。


「そして、アリアが口走っていたあの台詞……”お父様は空城の計に気を付けろと言っていた。”これから予測できるのは現場指揮官のアリアの他に、軍略に精通している奴がいるってこと。そいつは何らかのアイテムで不自然な力を身に着けているという事。……そいつがお父様か」


 さらに付け加えるならば、部隊を直接率いているアリア本人はあまり軍略に精通していないようだ。ここを打撃した後の行動がお粗末すぎる。


 確かに兵を数多く失った。だがそれと引き換えにエルトリア国のアキレス腱を見つけた。そんな光明を掴むような初戦だった。


――


 ララの故郷、<魔法使い>の里が襲撃を受けたという知らせが飛び込んできたのは、ちょうど二つ目の町を見回った後だった。


 東端の一つ目の町と同様に、アリアたちが繰り出す軍略になすすべなく倒れた手勢を励まし、なんとか防衛態勢を整えた直後のことである。他の町も防壁の中での防戦を徹底させ、これ以上の被害はひとまず抑えられそうだ。


 そう思っていた直後の急報だった。


「あんな山奥まで攻撃目標にするのか……部隊ごと瞬間移動するんだから、距離的な障害は確かに全くない。超ずるいけれど、うかつだった。……超ずるいけど」


 俺が急行した先のララの故郷の景色は、一面が無残に焼け落ちた里の跡だった。


「こりゃあ……ひどい。防御施設どころか民家まで全滅している。……これじゃあ生存者は、おや?」


 よく目を凝らすと里の跡の端あたりに生存者が集まっている。


 かなりの数だ、というかこれだと里の者ほぼ全員が生き残っている。流石、<魔法使い>たちは一般兵よりも頑強だ。戦闘特化の<魔法使い>部隊を抱えるこの里ならば、なんとかアリアたちに対抗できるかとも思っていたが、想定よりもずっと嬉しい誤算らしい。


「<魔法使い>のみんな! 生き残ってくれていたか!」

「シユタ様! わざわざ足をお運び頂き、感謝の言葉もありません……」

「盟友の危機に駆けつけるのは当然のことです。どうやら本当に危険な場面には……間に合わなかったようですが。生き残りはこれで全員ですか?」


 応対してくれたのは俺の義父、つまりララの父親だった。里の長老一族として、女子供を含めて生き残りをまとめ上げてくれていた。


 いつも恐縮していしまうのだが、<救世主>の俺に対しては丁寧に話してくれる。本当にむずかゆいからもっと婿にはフランクな感じでいいのに。


「いえ、周囲の警戒の為に何人かを里の外に配置しております」

「ならば、かなりの数が襲撃をやり過ごすことが出来たのですか……この里の惨状を前に幸い、と言っていいものか……」

「襲撃してきた白一色の部隊は空を飛べませんでしたからな。奴らが諦めて帰るまで箒にまたがりやり過ごしておりました。その間にすっかり里は燃やされてしまいましたがね……」

「お見事なご判断です。里はまた建て直せばいい。復興の際には必ずご協力をいたします。ただ……この里には戦闘特化の<魔法使い>が少なくとも百は居たはず。彼らではアリアや白の軍団に対抗できませんでしたか?」


 その百人はただの百人ではない。一人当たり十体は魔物を屠る強者だ。しかも、<魔法使い>の戦い方は通常の軍略の埒外にある。単純計算だと、千人程度のアリアたちには十分対抗できたはずだが、やられてしまったのだろうか。


 すると、義父の背後にはその戦闘特化の<魔法使い>の一人が、かつて魔物討伐のために肩を並べたものが、立っているのに気づく。他にもよく見まわすと同じ肩書の者がチラホラ、一様に俯いて無念そうな表情を浮かべている。


 義父もまた、無力な自身を悔やむ様子で答えてくれる。


「シユタ様……我々が死力を尽くせば、奴らの白の軍団をほぼ全滅させることが出来たでしょう」

「”ほぼ”……ですか?」

「正確には一人を残して全員消し炭にすることも出来ました。しかもこちらには十分な余力を残して。ですが、もし最後の最後まで打ち合ったと仮定したら、戦場に立っているのはあの女一人だったでしょう」

「そ、それは何故……?」

「あの女……アリアとか言いましたか、奴には害を与える魔法が一切効かないのです」


 衝撃的な新情報だった。”攻撃魔法完全無効”、それがアリアに与えられていた稀有な才能だった。


 あの爆発的な腕力に加えて、そんなチートな特性を持っているとは何てインチキだ。これでは俺の<意志の力>でダメージを与えることも、ぱぱっと催眠で潰すのも難しそうだ。


「な、な、なんじゃそ……こほん、それは真ですか?」

「間違いありません。里の者に簡単にですが解析させました。奴のあの光り輝く魔力……あれがある限りどんな火力魔法も呪術も、全て弾かれてしまいました。まるでかき消されるかのように、百人での一斉火力魔法も防がれてしまったのです」

「……そうですか……やれやれ、かなり手ごわそうだ。ただ、先ほどのお話では他の白の軍団にはそんな特性は無いのですね?」

「えぇ、それは確認済みです。一斉射撃の大半はアリアめに防がれましたが、それでも余波で何人かの敵を倒してあります」


 なるほど、最悪の事態ではなさそうだ。それなら取り巻きをなんとか蹴散らし、アリアを一人にしてから何十人もで取り囲み打倒すればいい。……そんな都合のいい状況を作られるなら、こんなに苦労はしないけどね……。


 ただ、何も知らないままアリアに仕掛けて無残に振り払われるよりは、今知っておけた方がずっとましだった。


「その時打ち倒した者はどこに? 捕らえることは出来ましたか?」

「いえ、……お恥ずかしながら、魔法に完全な耐性がある相手は初めてでして……、空に逃げ回っているうちに、竜巻とともに消えてしまいました」


 それは残念。捕虜を確保できていれば、尋問や人質で色々役に立っただろう。ってその竜巻魔法やっぱずる過ぎだよ! チートや! チーターや!


 新たに明らかになったアリアの特性。加えて<魔法使い>たちの魔法も頼りにしにくい。敵の特性的にも、この里の防衛的にも。


 状況は決して良くない。だが、だが少しずつ必要な情報のピースは集まってきた。


――


 一羽の<ツバメ>が大空を飛んでいる。長距離飛行が得意なこの一羽は、<トリア>の町を囲う魔法ジャミングの霧を大きく迂回し、なんとか霧の切れ目を見つけ突入する。白い巨大な防壁を越え、町の中央に位置するひと際高い建物へとたどり着いた。


 さて、俺がここまで各地を好き勝手やられていたのは理由がある。


 それは、各地を飛び回って情報収集する俺の<カワセミ>たちの数が、普段よりもずっと少ないからだ。普段ならユキの<諜報魔法>と俺の<カワセミ>を組み合わせれば、シズキ教の勢力圏のほとんどの町をカバー出来る。だけれど、今は大半の監視をユキに任せている。


 こうして余力が生まれた<意志の力>を何に使っているかと言うと、敵地最深部への侵入だ。守りばかりに力を注ぐと、じりじりと手勢が衰え最終的な損害が大きくなる。ここらで一度、決定的な攻めの情報を集めるために。


 <ツバメ>は出発当初五十羽以上の群れで飛ばしていたが、霧に掴まり少しずつ数を減らし、目的地にたどり着けたのはこの一羽だけだった。町で最も高い窓に降り立ち、部屋の中の様子を見渡す。


 <ツバメ>の視界を通してみる景色には、勝利の凱旋を済ませたアリア・エルトリアと、彼女の父親ジルバ・エルトリアの姿が見えた。

せっかく新ヒロインが登場したのに、今回は一瞬しか出てきませんね……。

次回から反撃開始です。

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