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第一話:スリー討伐

第二章再開します。

 <スリー>の両腕が弾け飛んだ。


 俺――<救世主>シユタの<意志の力>で生み出した鉄杭が、五百メートルほど離れた奴に直撃した。


 元魔王軍第三位にして、現魔王残党軍筆頭<スリー>。その強力な魔物の四肢は、あっさりとバラバラにされてしまったのである。


 しかも奴の取り巻きはほぼ全滅している。シズキ教の精鋭僧兵たちはその凄まじい士気の高さと、信仰心に支えられた恐れ知らず振りで瞬く間に魔物たちを殲滅した。


 その戦いぶりは戦術も何もあったものじゃない。平地に奴らを誘い出した後は、我が軍はひたすらに前進し、踏みつぶす。


 平攻め・力押しと呼ばれる類の戦い方だ。こちらの戦力が上回っている場合、ごちゃごちゃした奇策を弄するよりも、敵としてはこちらの方が対処に困るのだ。


 いや、厳密に表現するならばただの力押とは少し違う。敵からしたらもっと始末が悪いだろう。


 数の上ではこちらの戦力が多いが、それに加え”損耗が殆ど無い”。即死以外の兵隊はどんなに深い傷を負って倒れても、「きらり」と緑色の風が一陣吹くとすぐに立ち上がる。

 たちどころに傷が治ってしまっているのだ。二度、三度と立ち上がった僧兵は、強烈な死の痛みを受けたことなど全く意に介さず、その使命を胸に槍をふるい続ける。


 結果、ただでさえ優位なのに、こちらの戦力は減らずどんどん戦況はこちらに傾いていく。


 これがソフィーの回復魔法、その威力は戦略レベルだ。


「シズキ教徒のみなさん! 今こそ神に信仰心を示す時、日々の修行の成果を存分に発揮し、悪魔を打ち倒しなさい!」


 迷える民を導くその姿は、まるで神話をモチーフにした絵画のように神々しい。<深淵ルーンの杖>をしかと握りしめ、煌めく金髪をたなびかせるソフィーは、まさに神の寵愛を注がれた代行者の姿だった。


 <布教者>としてたくさんの経験を積み、彼女の扇動の力、カリスマ性は至高に達している。よく通る声はこの広い戦場の隅々にまで響き渡り、美しくうら若き乙女に激励された兵たちは残り少ない魔物へ我先にと殺到する。


 残された魔物の数はもう両手で数えられる程度しか存在しない。


 もはやここまでと思ったのだろう。<スリー>は最後の力を振り絞って<蝿>の大群を呼び出した。凄まじい速さと威力で飛び回る<蝿>に、俺はあの魔王との決戦を思い出す。


 その<蝿>たちが僧兵たちに一斉に襲い掛かる――ことはなかった。呼び出された先から次々に爆撃される<蝿>、爆発の余波で<スリー>もボロボロになっている。


 それを成したのはララの火力魔法である。これでもまだ連射力を優先して威力を手加減しているが、本気で長時間魔力を貯めればこれまた戦略レベルの兵器になる。


 かつての魔王との戦いから、ララもまた大きくレベルアップしていた。<大雷樹の杖>の魔法威力ブーストに加え、俺が彼女に与えた大量の秘術群が、ララを史上最強の<魔法使い>に押し上げたのだ。


「それじゃあ魔王の二番煎じじゃない。もっと面白い術式はないのかしら?」


 不敵に笑うララの横顔が可愛らしくも頼もしい。その向上心と才能に支えられ、ララはこれからもっと頼りがいのある存在に成長していくだろう。いずれは、俺が元居た世界の空母群や弾道ミサイル基地を一人で叩き潰せるほどに。


 俺と堅い信頼関係で結ばれたララを連れ、向こうの世界を”武力で制圧する”日もそう遠くないと確信できる頼もしさだった。


 そして三人娘のもう一人。


 主に諜報担当のユキは既に勝利を確信しているらしく、今は手持ち無沙汰の様子で側に仕えている。


「勝ちましたね、シュウタさん。あなたの本陣を動かすまでもないようです」

「ん、そうだね。お疲れユキ。奴らを平地に誘い出した手際、見事だった」

「まぁ、……今回もあなたに褒めてもらうために頑張りました。すぐに望みが叶うなんて私は幸せ者です」

「あとで<エレナ>に戻ったら、もっとじっくり褒めてあげるよ。さて、君の言う通りもうこちらの勝ちは動かないだろう。ソフィーとララを下がらせろ。俺の<意志の力>と最上級装備品で完全に守っているとはいえ、<スリー>の最期の抵抗で万が一にも傷物にするわけにはいかない」

「はい、すぐに伝えます」


 そう言ってユキは素早く伝令を出す。即座に了承したソフィー、ララは戦列を部下に任せて馳せ参じて来た。彼女たちの「どうだ」と言わんばかりの可愛らしい笑顔が実に眩しい。


 ユキもそうだったが、まるで心底主人に褒められたい忠犬のような集まり方だ。ふよん、と二人の豊かなスタイルに両腕を包まれる。実は戦果よりもその感触の方が俺は欲しいんだよね。もっと強く抱きつきなさい! 感触がダイレクトに伝わるように!


とか考えている邪な心に気付かないのか、屈託ない笑顔で二人は顔を近づけてくる。


「どーよシユタ! 私ったらやっぱり天才じゃないかしら? 凄い? そんなに凄いと思うならたっぷり褒めてもいいけど?」

「シユタ様……私、上手くできたでしょうか? ご期待に沿えましたか……?」


 思い思いに戦果を示してくる二人の頭を、俺は丹念に撫でまわすのだった。


「よくやってくれた二人とも。これで<エルトリア>に居る組織的な魔物は全滅だ。今日勝てたのは、いや、転移してからここまで来られたのは君たちのおかげだ。本当にありがとう」


 ララは照れくさそうに口元を緩めたまま顔を背け、ソフィーは感激の反動でひくひくとしながらフリーズしている。


 ちょっと台詞が芝居がかり過ぎか。……でも本心なんだって。


 と、そこでユキが呼び出しの伝令を出してきた。二人を安全な場所に残し、俺はユキの呼び出し先――つまり<スリー>が一人切りで魔力の波動を飛ばし、首を落とされるのに抵抗している場所へ向かう。


 向かった先には僧兵たちが敵大将を逃がさないように取り囲み、しかし首を獲ろうと近づくと跳ね飛ばされる景色があった。


 ユキが敢えて周りに喧伝するように大きな声で話しかけてくる。


「<救世主>シユタ様! 悪魔めにこのように抵抗され、我らにはどうすることも出来ません。どうか、どうか寛大な心で我らをお救い下さい」


 先ほどの俺よりも数倍芝居がかった台詞を述べながら頭を下げる。<スリー>にトドメを刺すだけなら他にどうとでもなるはずなのに、なんと気が利く賢い女だ。


 これで信者たちの信仰心は一層うなぎのぼり、しかも最後に<スリー>を打倒したのは俺であると世界に示すことが出来る。


 続けるユキの口調は普段と違って仰々しい。もちろん俺達の間柄だと普段はもっとフランクなんだが、信者たちの手前厳かに俺の立場を持ち上げてくれる。ユキがその美しい黒髪を下げ、かしずきながら上奏した。


「どうか、<救世主>様。そのお力をもって悪魔をお祓い下さい」

「うん、ご苦労だったユキ。あとで褒美を取らす。皆の者もよく戦った! その忠心によって、皆の魂は死後も永遠に救われるだろう!」

「「おぉ……!」」


 何一つ根拠のない救いの言葉を述べる俺。感謝の念が募り過ぎて、自らその場にひれ伏す信者たち。

 それを横目で見て、最前列で心底楽しそうに嘲笑するユキ。こらこら本性漏れてるぞ。気持ちは大いに分かるが我が家に戻るまでは我慢しなさい。


 その芝居のおかしさに、自分でも笑ってしまいそうになり、慌てて兵たちに背を向け<スリー>へと向き直る。奴に手をかざして<意志の力>を発動させながら俺は決め台詞をキメた。


「神罰、執行」


 天に生み出された三十メートルもの<光の剣>が降り注ぎ、<スリー>の体を蒸発させた。


――


 我が家に四人で帰ると、早速ララがケラケラと笑い始めた。


「これで魔物の組織は全滅かあ。いやー、<スリー>倒すのは楽勝だったけどさあ、帰りの道中笑いを堪えるの大変だったわよー! シユタにあんな決め台詞出されると、もー、笑いが止まらなくなっちゃうって。あの決め顔、笑い過ぎてお腹熱くてジンジンする~」


 そう言ってしきりに下腹を撫でるララ。笑い過ぎだこの小娘。


「……そんなに笑うことないだろララ。どうしてもああいうのは必要なことなんだよ」

「……神罰、執行!w」

「やーめーろーよー」


 決めポーズをビシッと固め、光の剣を振り下ろす真似をするララ。……そんなポーズしてた? してたっけ? そこまで派手じゃ無かったよね? ピースの手の甲を顔に近づけて、指の間から睨みつけたりしてないよね?


 そのからかいに恥ずかしくなった俺は、無理矢理この無礼者の両腕を押さえつけて黙らせようとする。押し倒されながらもララは楽しそうに笑い続ける。


「だってー、私らと一緒にいるときとギャップが凄いんだもの……うぷぷ」

「うう、とほおろろろろろ……<救世主>も楽じゃあないな……あ”ーなんだか自分のやったこと思い出すと吐き気と寒気が」


 そう、<エルトリア>世界をシズキ教一色で染め上げるという考えは、基本的に最高なのだが唯一欠点がある。


 信仰心獲得のためには、もうずーーーーっとこんな中二病みたいな振る舞いを続けなければいけないのだ。信者の前で完璧にして最強のシユタ様、で居続けなければいけないのである。二十四時間三百六十五日休み無し残業代無し、ブラック過ぎるわ!


 勢いに乗ったララが続ける。これも、先ほどの俺の口調を真似して実に仰々しく。


「ユキ……褒美をとらすわ。……くふふ、今日のシユタのことをしっかり記録しましょう。教典は書き換えられないけれど、伝記の方は書き放題なんでしょ?」

「ええ、任せてララ。ええとまず、この世界最強にして最高、最も崇拝するべき対象の神=<救世主>シユタ様は今日も大変ご機嫌麗しく、憎むべき悪魔の前に舞い降りたのでした。その一挙一動と威光に人々は目を奪われ、感服し、自然とひれ伏したのです。悪魔めはその偉大にして強大な威光に縛られ、震えあがり、一歩も動けない様子。そこで厳格にして慈愛あふれるシユタ様は、悪魔めを苦しみから解き放たんと、厳かに一言『神罰、執行』(←やだ超カッコイイ)と。すると天高く飛来した光の波動が、」

「やーめーろーよー」


 悪い笑顔でスラスラと筆を走らせ、俺の黒歴史を記録するユキ。


「んー、そこはもう二つくらい修飾語を増やしましょう。特盛で。あら……最高と至高で高がダブってしまった。なるほど……この店ではライス(量多し)と最高の一句だけで十分なんだな……まいったな」


 とか謎の指示を飛ばすララ。


 こんな感じで二人の悪い魔女にいじめられて突っ伏している俺に、ソフィーがぱたぱたと心配そうに寄り添ってきた。可愛い。天使。ソフィー天使。おっぱい大きい。ララ悪魔。ユキ悪魔。オレオボエタ。


「もう、ララ、ユキ? その辺にしておかないとシユタ様が可哀想でしょ?」

「ソフィー! 俺の味方をしてくれるのはもう君だけだ! おーいおいおいおい……しくしく」

「よしよし、私の胸の中で沢山泣いてください、シユタ様。もう、だめよララ?」

「はいはい、分かったって。ほどほどにしておくわよ。でもまあ、信者の前で気疲れしているシユタも気分転換が必要みたいだしさ、」


 からかいオーラ全開だったララが、ふわりと慈しむ様子に変わった。何もソフィーだけに限った話ではない。女の子は誰でも、聖母になれる。


「私たちと居る時くらい、自然体で居させてあげましょう?」


 悪友ララはそう言って優しく微笑むのだった。

一日開けてしまいましたが、おかげで少し書き溜めることが出来ました。

毎日投稿を目指して頑張ります。


この章でも、内政:戦闘:搾取:ハーレム:ざまあ、が全部少しはあるように進めていきます。

もし第一章でこんなエピソード増やして欲しかったな、という要望があればご連絡ください。

取りあえずこの章では、男の夢なエピソードを増し増しで行く予定です。

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