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第二話:戦利品山分けと転生珠

 洞窟を抜けた先には、宝箱と金銀財宝がうず高く積まれていた。


 今まで倒した魔王幹部の戦利品とは質も量も桁違いである。


 かつて目にした上級装備とは格が違う最上級装備の数々。重厚な年季を感じさせ、妖しい雰囲気を帯びているアンティーク群。どろりとした不思議な色をたたえているポーションの並び。それに加えて金貨や銀貨が大量に、財宝庫に詰め込まれていた。


 沢山の対侵入者トラップに引っかかり、ボロボロになりながら全ての宝を集めきったボルドーが勝ちどきを上げている。欲が大きすぎると苦労ばかり稼いでしまうものだ。お疲れさま。


「これほどの金貨は見たことがねえ! お前たち、早速金額を数えろ! 全部でどれくらいになる?」

「「はっ、ボルドー様!」」

「大儲けだ、大儲け! はっはっはっはー!」


 野蛮な奇声、もとい叫び声をあげるボルドーの隣で、いそいそと手下たちが金貨を数え始めた。大量の金貨、銀貨が十枚ずつ柱を作り、ザクザクと並べられていく。


 ふーむ……あの執着っぷりを見るに、どうやらボルドーは現金狙いのようだな。流石リアリストな豪族の息子。風変りな特殊効果のある装備品などには興味がない、即物的な性格らしい。


 実は、一部のマジックアイテムには一品で金貨数十枚に相当する価値のものもある。はずだが、魔法の素養が乏しいボルドーは気付けない。それにしても、こちらが頼んでもいないのに自分が狙っている宝を宣言するとは、戦利品山分け駆け引きのし甲斐がない奴だ……。


 ボルドーの心の底を見通していると、そこで俺は宝の中に非常に”見覚えがあるもの”を見つけた。


「……これ、十円玉か?」

「じゅうえんだま? シユタ様その硬貨は一体?」


 隣に控えていたソフィーが不思議そうな顔でこちらを見つめている。


 無理もない。元居た世界の日本ではありふれた通貨であるが、こちらの世界では一度も見たことが無いものだ。この世界の住民であるソフィーが知っているわけがない。


 よくよく見ると十円玉のそばには五百円玉なんかも揃っている。ざっと見た所それぞれ十枚ほどあるようで、元居た世界ならそこそこの金だ。この世界では全く使い道がないのが残念なところだが……。


 しかし、俺には一つ閃いたことがあった。こいつの価値を”敢えて高く喧伝”することで、この戦利品山分けを有利に運ぶのだ。


「ああ、ソフィー! これは俺が元居た世界の最高の高額硬貨だよ! 五百円玉だ!」

「こちらはごひゃくえんだま、なのですね。こちらの方が大きくまるで白金のようです」

「うん、凄いな! ざっと見て十枚はある! もの凄い大金だ!」


 俺はあえて洞窟全体に響き渡る大きな声を張り上げる。まるでこの五百円玉がどんな宝よりも価値のあるものであるかのように。


 その声をリアリストで拝金主義のボルドーが聞き逃すはずがなかったのである。いつもの冷淡な態度はどこに行ったのか、ボルドーは高揚した表情で話しかけてきた。


「おい<転移人>、その硬貨はそんなに価値のあるものなのか?」

「ああボルドー、これは俺が元居た世界で一番価値が高い硬貨なんだ。普通はなかなか簡単に見ることは出来ないよ。懐かしいなあ」

「……!」

「見ろよ、まるで銀や白金のような美しい色合いで、しかも大ぶりの完全な円形状、精巧な細工だろう。間違いなく俺の世界の五百円玉だよ」

「確かに……これ程精巧な作りの硬貨は見たことがないな……」


 ボルドーはしっかりと食いついてくれたようだ。別の世界の硬貨なんて、実は全く価値が無いことに気付かないらしい。ボルドーのウキウキした表情をみて、俺は笑いをこらえきれずに続ける。


「これ一枚で大きな豪邸が建つほどの価値だ。それが十枚もあるってことは凄いな。魔王の奴は俺の世界から少しずつこいつを集めていたのかもしれない」

「ほほう、なるほどな……ふーむ……豪邸が十軒か……よし、この五百円玉とやらは全部俺がいただくぜ! それと金貨や銀貨も、いくらかは俺が受け取ってもいいだろう?」

「ちょっと待ってくれよボルドー」


 世界に二つとない財宝群と五百円玉十枚を天秤にかけて、物凄い勢いで五百円玉を確保しに行ったボルドー……無知というのはこれほどまでに判断を誤らせるものか。少し哀れになってしまう。


 しかし、俺は形だけでも交渉にのってやることにした。花を持たせて実は貰う、そのためにはある程度花束を盛り上げてやらないとな。ボルドーの言うことを通し過ぎると、逆に怪しまれたり、他の部隊の反感を買って山分けが紛糾したりするかもしれない。


「ボルドーたちが参戦したおかげで味方が増えたのは確かだよ。だけど、魔王の取り巻きを倒したのは<魔法使い>たちで、魔王本人を討伐できたのは俺とソフィーのおかげだろう?」

「そうよボルドー! シユタが居なかったら魔王は仕留めきれなかったでしょ!?」


 すると、思わぬところから援護の声が上がった。<魔法使い>のララ、――先ほどの戦いで火力魔法を撃ち続けてくれていた<魔法使い>たちの一人だ。


 ララは編み込んだ茶髪が艶やかな美しい少女。ソフィーほどではないが年齢に不相応に豊かなスタイルをしている。<魔法使い>らしい真っ黒いローブが良く似合っている。


 口は余り良くないが魔法の実力は確かで、とある事情で俺の側にいつもいる子だ。俺の転移から今まで、ソフィーと一緒にいくつもの戦いを潜り抜けてきた腐れ縁である。結構な生意気娘で、まさかこいつが俺の肩を持つとは意外だった。


「結局ボルドーの部隊は全然役に立たなかったじゃない! 魔王を倒したのはシユタとソフィーのおかげよ!」

「ぐぅ、ぬぬ……そうは言っても俺の部隊は壊滅してしまったんだぞ! 建て直しの費用を考えると、今回の遠征が赤字になっちまう!」

「でも……!」

「まあ、待てよララ」


 ほー……なるほど、ボルドーがあれほど現金に拘っていたのはこういう理屈だったのか。


 こいつは今回の討伐遠征に巨費を投じていて、戦利品山分けで利益を出すつもりだったのだろう。投資と利益回収、という見方をすれば魔王討伐も事業活動の一つともいえるだろう。


 実際、部隊の損耗を抑えることが出来ていればかなり割のいい投資のはずだ。そういうことなら……、


「わかったよボルドー、そっちの五百円玉十枚は全部お前の分け前ってことでいいだろう」

「おお、<転移人>! なかなか話が分かるじゃねえか!」

「ただ、さらに金貨・銀貨もって言うのは欲張り過ぎだよ。ここはこれ十枚だけで満足して、残りは他の部隊や<魔法使い>たちに渡してくれ」

「ぐっ……ふーむ、まあ、そうだな、それくらいはいいだろう……こいつが十枚あれば豪邸十軒、十分に釣りがくるか……」


 だいぶ渋っていたが最終的にボルドーは承諾した。


 「「おお」」と他の部隊からも歓声が上がる。ボルドーの取り分が多すぎるということは、他の部隊の分が減るということだ。それを防いで上手く交渉を纏めたおかげで、周りの部隊からの好感度を稼ぐことに成功した。


 さらに、肝心なこの場の主導権を握ることもできた。ボルドー、交渉って言うのはこういう風にやるんだよ。初手で自分の欲しいものを欲しいと言うのが正しいとは限らない。


「それじゃあ、ボルドーの第一隊は五百円玉硬貨十枚、<魔法使い>たちには金貨五十枚に加えてこの<魔法使い>専用の最上級ローブを二着、第二隊は金貨五十枚と最上級装備の……」


 こうして場の主導権を握った俺は次々に論功行賞を続けていく。


 一般的な討伐クエストの報奨金に比べて遥かに高額な配布。不満は一切上がらない様子だ。ボルドーのおかげで山分けのメインは現金、装備品などはおまけという雰囲気を出すこともできている。


「あの、シユタ様……そんなに奮発してしまって大丈夫でしょうか? 残りの金貨は余り残っていませんよ」

「そうよシユタ! 私はこんなに貰っちゃって満足だけど、MVPのアンタはどうするの? 無欲なの? そんなに要らないなら残りも貰ってもいいわよ?」


 心底不思議そうに問いかけてくるソフィーと、欲が見え見え隠れしているララ。


 まあ、もちろんこれほど奮発している理由はあるわけで。俺が欲しいのは現金ではなく、代えがたい財宝たちである。俺は周りに聞こえないように二人に耳打ちをする。


「まあ、聞いてくれよ。当然、MVPとしては一番欲しいものを頂く。俺が欲しいのはソフィーが言ってた至宝さ。きっと金に換えられないくらいに凄い代物だぜ?」

「でもあれは単なる予言で……毎回当たるものではありませんよ?」

「えっ、そうなの? ソフィーの予言っていつもバッチリ当たるじゃん。魔王の見た目も言い当ててたし」

「うーん、確かにシユタ様の転移以来、最近は良く当たりますね。でも予言は当たるときは当たる、外れるときは外れるといった具合で……」


 ……そんな天気予報みたいな感じなの? マジ? 俺はついつい奮発しすぎてしまった金貨たちが、もう十枚ほどしか残っていないことに気付き涙目になってしまう。


「ま、まあ、ほら最上級装備とかアンティークはまだまだあったし、それを売ればかなりの金額になるだろう」

「あ! それなら最高の杖があったら私に頂戴よ!」

「……君は少しくらい遠慮しろよ、ララ。……それじゃあ気を取り直して。みんな、残りの金貨と他の宝は俺とソフィーが頂くよ。俺達が魔王を倒したようなものなんだし文句ないだろう?」


 一番文句を言ってきそうなボルドーの頭は五百円玉(笑)の優先配分で抑えた。他の部隊も望外の利益に目が眩んでほとんどこちらに気が向いていない。


 特に<魔法使い>たちは、積年の夢だったらしいローブを入手できて感謝のまなざしを向けてきている。聞くところによると、彼らの祖先が編み上げた大切な品を魔王に略奪されていたらしい。悲願の奪還ってわけだ。


「反対意見は……ないみたいだね。それじゃあ山分けも終わったことだし、この辺で一旦解散するか。みんなお疲れさま。町に戻ったら揃って討伐の報告をすることにしよう」

「「おーっ!」」


――


 と、こうして戦利品の山分けはひと段落した。


 皆が解散した後、俺は残りの最上級装備たちやアンティーク、ポーションの数々を整理しておくことにした。実は予め確認していたのだが<不老不死のポーション>や<時間停止・戻しの鈴>、<繋がりの二枚鏡>などぱっと見ただけで凄まじい品々が揃っている。


 正直、これだけでも金貨全部をばら撒いたってお釣りがくる。交渉大成功ってわけだ。実はソフィーやララのためにこっそり残しておいたものもある。


「二人には今までも大分世話になったからな……はいソフィー、この<深淵ルーンの杖>を媒介にすれば魔法の詠唱がかなり速くなるはずだよ。君の補助魔法に役立ててくれ。いつもありがとう」

「ありがとうございます、シユタ様!」

「ちょっとシユタ! 私には! 私には!」

「はいはい。ララにはこれ、<大雷樹の杖>。こいつなら魔法威力が最大限まで引き出せるだろう」

「ぅやったー!」

「じゃあ俺は剣を代えようかな。せっかく慣れ親しんだ上級装備だけど、さらにランクが上のこの<鷹の……、ん?」


 そこにそれはあった。


 こぶし大で黒色の不思議な珠。財宝の一つのはずだが、他の装備・財宝群に比べて小さく今まで目立っていなかった。表面に全く凹凸はなく、手触りもツルツルしているのに、ツヤ消しをしているかのように光が反射しない。


 恐る恐る手に取って、良く見えるように顔を近づけてみる。明らかに魔力の波動が特殊、一体どんなアーティファクトだろうか。


「これは一体なんだ……? ソフィー、わかるかい?」

「いえ、私もこれは見たことがありません。ただ、不思議な気配を放っていますね……おそらく非常に希少なアンティークと考えます」

「うーむ? ……お、これ説明書か?」


 珠をひっくり返すとにメモ帳サイズの紙が張り付けてあった。親切……早速、読んでみることにしよう。


<転移珠:転移マジックアイテム>

使用者:未登録

自動転移モード:オン

現在の転移者数:一人

・これは第二、第三の異世界に自由に転移できるアイテムです。

・今の『強さ』のままに、何度でもノーリスクで行き来することが出来ます。

・使用者を登録するとこで永遠にその者のみにアクセス権を限定できます。

・転移する際に装備品、所持品を持ち込むことが出来ます。質量に制限はありません。

・転移時は肉体が完全に健康な状態で再構成されます。

・転移元から任意の人物をこちらに呼び寄せることができます。

etc、etc…


「な、なんてこった……!これがソフィーの予言にあった至宝……?!」


 もちろん俺は間髪入れずに自分を使用者に登録した。


 そして、元の世界から大量に仕入れてきたのはもちろん、五百円玉だ。

キーアイテムを出すのに二話もかかってしまいました。さくさく進めるようにします。

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