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第十三話:新メンバー歓迎お茶会

今回はユキ加入のリザルト画面のようなお話です。

 <エレナ>の町の近く、少し小高い丘には一本の大きい木が立ち、若い草原が広がっている。


 ユキの歓迎会のため、俺達はその木陰へと集まった。ソフィーとララに加え、ユキを含めた美女三人とのお茶会は実に華やかなものになる、


 はずなんだけどなあ……。


 いきなり物凄い険悪な雰囲気である。色々と首輪契約の更新が完了し、ユキは農奴から俺の従者にクラスチェンジした。この首輪がついている場合、持ち主と離れることは出来ないので必然的にユキは俺のパーティに加わることになるのだ。


 何卒ソフィー、ララとも仲を深めていただく必要がある。大丈夫大丈夫、ソフィーはいい子だしララはちょっと口が悪いけど根は話せる奴だ。というわけで、早速俺、ユキ、ソフィー、ララでパーティの顔合わせをしてみたんだが、


 ……戦争が始まってしまった。


 と言うのは比喩だけれど、それほど激しい舌戦になってしまったのだ。

 ユキの紹介は時期尚早だったか、いやユキの参加は隠せば隠すほど状況は悪くなった気もするし、かといって建前上ではユキは俺の奴隷扱いになってるから、ずっと離れているわけにはいかないし。


 この戦争状態突入はやむを得ない、そう、コラテラルダメージと言えるんじゃないかなあと俺は思う。三人は違うみたいだね。困った。


 ユキの加入を紹介した瞬間、まずはソフィーが金切り声を上げて反対した。びしっとユキを指差し、まるで恐ろしい予言が下ったかのようなポーズで非難を始める。流石<巫女>、堂に入っている。


 振り下ろした腕に連動した豊かな胸部に思わず目がつられる。うーんソフィーさんの言うことなんでも従いたくなっちゃう。


「シユタ様! この女はシユタ様に大変失礼なことを言い放ったじゃありませんか!」

「あー、うん。それはさっきしっかり和解できたから大丈夫なわけだよ」

「和解!? そんなもの必要ありませんし、納得できません! 今はなんだかおとなしくしていますが、以前のこの女の嫌な態度! いずれシユタ様の害となるに決まっています!」

「あー、うん。問題ないよこれからはちゃんと一緒に仲良くできるって約束したから。ソフィーも仲良くしてほしいんだけれど……」

「いや! そんなの!」


 いや! ってソフィーちゃん。なんでそんな幼児退行しちゃったの? いつもは救世主シユタこと俺の言うこと、なんでも率先して聞いてくれるのに。今日に限ってそんな……。ぷいっと横を向いて話が通じなくなる<巫女>さん。


 おお、怒りソフィーは時々あるけれど、むくれソフィーはレアリティ高い。☆5! 確率0.1%!


 とか考えていたら、ララが片目をひくひくさせながら後を継いで話し始めた。……弾劾し始めた、の方が正しいか。


 ララが怒るときの癖なのか、魔力が微妙に漏れ出して髪を揺らめかせている。いつもはくりっとしてて可愛らしいララの茶色の瞳が、今は何故か赤く光って見える。おいおい魔女か。こわい。


「えーっと、ユキさんとか言ったっけ。あら、この子首輪がついているじゃない。おやおやシユタさん、その指に描いているのは所有権の印じゃない。あれ? あれあれ? まさかアンタがこの子の所有者じゃないでしょうね?」

「あー、うん。そのまさかだよ」

「はぁー? だわ。どういうこと? 確かこの女はあの強欲婆さんの所有でしょ? まさか、アンタこの女を大枚はたいて買い付けたってこと? いくら払ったの?」

「あー、うん。金貨……三十枚です。その、貯金ほとんどなくなっちゃった……かも」

「へえ、随分奇特な趣味をお持ちなのね。 こんな貧相な体の女を下心で手に入れて。 アンタはそんなに女に困ってたんだ。パーティメンバーに若い女の子二人もいて、それでも他から別の女を連れてきたってわけ?」

「あー、いや。そんな女に困ってるとかそういうアレじゃあなくて」

「シュウタ君、ちょっといいかしら」


 今まで俺の隣にしゃんと姿勢よく座り、一言もしゃべらずにじっと聞いていたユキが口を開いた。


 座れば牡丹ってこういうことを言うんだろう、こいつの育ちの良さが垣間見える。この女、性格は悪いけれど外面は抜群なんだよなあ。


「ララさん……でよろしかったかしら。シュウタ君はそんな下心だけで私を買ったわけじゃないわ。ちゃんと才能をしっかり褒めてくれたの、<意志の力>だって火をつけるくらいまで成長したのよ。二回に一回は確実に着火して見せます。ほら」

「……何にもつかないけど?」

「こほん……修行中なの。シュウタ君がとても熱心に教えてくれるから大丈夫」


 どんまいユキ。初対面で舐められないようにしたんだろうけれど、二回に一回はちょっと盛り過ぎた。君まだ十パーセントも成功していないだろうに。


 ま、<転移人>なのに魔法を使える時点で、才能が凄いだろうってことは俺も認めているけれどね。


「あー、うん。そういう感じでユキの魔法の手ほどきをしてあげているんだよ。出身世界が同じよしみでね」

「……怪しい。絶対なにか裏があるでしょう」

「へへっ、そんなものないですよぉララさん」


 鋭い奴。ララはこちらの真意を見通そうと、睨みつけてくる。ないよ、全然ないよ下心。これっぽっちもない。私は潔白です!


 ララの剣幕に反論も許されず、ふるふると首を振るだけの俺の代わりに、ユキがまた話し始めた。……例のぞくりとした魔性の色気とともに。


「確かにシュウタ君は下心が無さすぎるかもしれないわ。もう少し、自分のしたいことをはっきりと言ってくれたら……。私、奴隷として、従者としてどんな要望にでも確実に応えられます」

「は、はぁ?! 何やらしいこと言ってんの!? ちょっとソフィー! むくれてないで何とか言いなさい、やばいって!」

「この世界のことはまだよく分からないけど……。あなたたちは『首輪』もないんだし、ただのお友達なんでしょう?主人の要求に色々応えるのは奴隷の仕事です」

「……へぇそうやって男を誑かして生きてきたってわけ? 随分汚れた体をしてそうじゃない」

「ふっ、確かに。私の体が汚れているかどうか、健康どうか、奴隷としてはチェックしてもらう必要があるわね。シュウタ君、あなたが主人なのですからあとで協力してくださいね」

「な、な、お、おう」


 確かに、ユキは男に指一本触れさせていなかったらしいけれど。……チェックって何をですか? どこまでですか? と言いたかったが、ぐいぐい身を寄せてくるユキに対して、女性への免疫が薄い俺はドギマギするしかなかった。


 なんでこいつは、こんなにいきなり好意的なんだよ。ちょっと農奴(二十時間労働)に堕ちたところを助け出して、一から十まで魔法を手ほどきしてやっているだけじゃないか。……たしかに好意を持たれてもおかしくはないか。


 それにしてもソフィーとララの表情がこわい。ここはこのパーティのリーダーとしてビシッと宣言してしなくてはならない。


「まあ、聞けユキを受け入れるのはどうしても必要なんだ。俺の目的を達成するためには」

「目的って、魔王を倒したばかりじゃない。これ以外に何があるって言うのよ?」


 俺は少し不敵に、にやりと笑って宣言した。


「それはもちろん、世界征服さ」


――


 アハハハとララは堪え切れないように笑い続けている。


 無理もない。世界征服なんて子供が言いそうなこと、真剣な表情で宣言したのだ。魔王を倒したのだからそれになり替わる、なんて安直な考えだと思われたのかもしれない。


 一通り笑い終えたララが、それでもにやにやしながら言ってくる。


「シユタ、確かにアンタの力なら町の長くらいにはなれるかもしれないけれど、世界征服なんて無理よ。世界ってとーっても広いのよ? 大体何のために?」

「まあ聞けララ、いや三人とも。これはやりたくてやるんじゃない。必要なことなんだ。それを理解してもらうためにも、まずはこの世界のことをユキに説明するよ」


 かくかくしかじか、と言わんばかりに、俺はこの世界<エルトリア>の情勢を掻い摘んでユキに説明した。まあ、ほとんどはララやソフィーからの受け売り、二人にとっては少し退屈かもしれないが我慢してもらう。


「と、いうわけで俺は魔王を打倒し、魔王の幹部もかなりの数を片付けた。こいつら少しは残って潜伏しているが、残った奴は辺境担当。下から数えたほうが早い奴も多いってわけだ。あとはまあ、それなりに楽勝だろう。把握できたかい? ユキ」

「なるほど、ありがとうございますシュウタ君……大体わかりました」

「それで改めて聞くけれど、この世界は平和になると思うかい?」

「だからぁ、なるに決まってるでしょう? 魔王をぶっ倒したのよ? これで平和にならない方がおかしいでしょう」


 ララが当然のことだ、と言わんばかりに口を挟んでくる。ソフィーも今回ばかりは俺の言っていることがおかしいと頷いている。普段は従順なソフィーでこれだから、この世界の住民にとってみればそれほど奇妙なことを俺は言っているのだろう。


 隣で深く考えているユキにも意見を求めてみる。


「それじゃあ、ユキはどう思う?」

「………………まず間違いなく、大きな争いが起こるでしょうね」

「だろうな」

「それぞれの町の発展度合いや権力の集中具合にもよるけれど、さっき教えてもらった人口と距離感なら二十年以内には確実に大乱になる」


 そう断言するユキに、俺はこくりと頷く。


 ソフィーとララはまだ全く理解できていないようだ。俺達が言っていることは完全にあり得ないことで、この世の中はどんどんいい方向に向かって言っていると考えている。


 俺はこの一カ月の間、つまりは魔王を打倒しそれが世界に知れ渡り、ついでにユキが馬小屋に繋がれている間、各地の情報収集に努めていた。この町<エレナ>の動向だけではなく、その隣町から辺境のまだ魔王幹部がくすぶっている町までできるだけ広くだ。


 <カワセミ>に情報収集能力を与え、UAVのように飛び回らせれば容易なことである。


 その結果わかったこととしては、魔王討伐に人々はいまだ浮かれ、今のところは権力などの組織構造は特に変わっていないということだった。だが、と俺はソフィーとララに説明を続ける


「だが、必ず争いは起こる」

「シユタ様……それは魔王が再び立ち上がるということでしょうか?」

「いや、魔王は完全に打倒したし、それはない。次の争いは魔王対人間じゃない。人間対人間さ」


 意表をつかれたようにソフィーとララは目を見張っている。ユキだけは当然だ、とばかりに頷いている。少し俺の言いたいことを察したらしい二人の様子をみて、俺は後を続ける。


「魔王が健在ならば人々は共通の敵を憎み結束し、互いに争い合うことは少なかった。だが、その圧政者が居なくなったらどうなるか、少し考えれば簡単なことだ。


「まず、魔王に抑圧されていた生活が改善し、富の余裕が生まれるとそれぞれの町が独自に発展を始める。生活に余剰が生まれると、それは全体に満遍なくいきわたることなく、武力や権力を持つものに集中し始める。


「これで、町長と言うものが幾つも林立することになる。次は町と町の間の関係だ。鉄の採れる町、取れない町、……と言う風に町長の力関係は必ず強弱が発生する。すると町が町を支配し、町の集合体の国というものが生まれる


「国が生まれると次は国と国、その次は複数の国と複数の国の争いだ。それは何十万対何十万という凄まじい大乱になり、人々は荒廃する。魔王に疲弊させられたこの世界でそんなことになると、悪くすると人間が絶滅するかもしれない」


 と、ここで少し話を切り、俺は自分の動機を説明した。


「俺はこの世界がそれなりに好きだ。ソフィーも、ララのことも好きだ。他の人々にも<転移者>の俺を受け入れてくれて感謝もしている。だから大乱が起きるのは忍びないんだよ。そうなって人々が大きく不幸になるくらいなら、俺一人が支配者になって、緩やかに統制する方がずっとましだ。絶滅よりもだいぶましだ」

「「……なるほど」」

「だからユキの加入は不可欠だ。さっきみたいに、この世界の住民では考え付かないことを、認識の差を埋めることが出来る人材だ。俺でもできることだけれど、こういう重要なことはどうしてもダブルチェックが要る。一人だと見落としが出てくるんだよ」

「……シユタ様……、私は、私がお役に立てることはもうないのでしょうか?」


 ソフィーが心配そうにこちらを見つめている。ララが少しうな垂れたまま、居心地悪そうにしている。やれやれ、そう言うことか。こいつらは自分が不要になると勘違いしているのだ。


「もちろんソフィー、ララ、君たちが抜けるのも困る。世界を征服するには一人の力では絶対無理。今は少しでも、俺を支持してくれる信頼できる仲間がいる。それも二人のように実力があって歴戦のね。そういった集団が幾つも生まれ、力比べをして成り上がっていく。この世界<エルトリア>は、これからそういう時代になるんだよ」


 そう言うとソフィーもララも、そしてユキもなんとか納得してくれたのだった。


 ちなみに俺がユキを引き入れた理由。それも最大の理由が実はもう一つあるのだが、そのことはまだソフィーとララには伏せておくことにした。

毎日更新、AM11:00には投稿を目指します。

もし間に合えばAM7:00くらいに投稿します。

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